上 下
78 / 103
★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番11★ ふたりのイメージイラストあり

しおりを挟む
 五月の終わりの土曜日。
 玄関に入るなり、俺は琳太郎の身体を壁に押し付け唇を重ねた。
 本当なら、ここに閉じ込めて毎日抱き潰したいのに、琳太郎がベータだ、という事実は俺の本能を阻む。
 だから部屋の中まで我慢できず、玄関で口づけることは多かった。
 最初の頃、琳太郎はわずかな抵抗を見せたが、今では自分から俺の首に腕を絡め舌を出してくるようになった。
 
「ちは……や……」

 キスの合間に名前を呼ばれ、俺の気持ちは昂っていく。
 今日の琳太郎は、少し様子がおかしいが、今はそれを気にする余裕はなかった。
 早く抱きたい。
 早く中を味わいたい。
 けれど準備が必要だし、琳太郎の様子がおかしい理由、聞きださないと。
 
「もっと、ほし……」

 うっとりとした顔で言われ、俺は琳太郎の股の間に足を入れ、膝で刺激しながら口づけた。
 出された舌を絡ませ、開いた唇の隙間から唾液を流せば琳太郎は喉を鳴らしてそれを飲み込んでいく。
 琳太郎は自分から積極的に求めることはないが、一度スイッチが入れば淫らに俺を求めだす。
 その姿は本当に愛おしい。
 けれどさすがにこのまま玄関でヤるわけにもいかず、名残惜しさを感じながら琳太郎から離れた。




 琳太郎をリビングのソファーに座らせココアを飲ませる。
 琳太郎は苦しげな顔をして俺に尋ねた。

「何でお前、俺の首噛むの?」

 あぁ、そうか。琳太郎は、俺が首を噛む理由を誰かに聞かされたのか。
 何故も何もないだろうに。
 それはアルファに刻まれた本能だ。
 たとえおかしくなったとしても、俺はアルファで、番を噛むのは当たり前の行為だ。

「だって、俺にそんなことしたって、番にはなれないのになんでって思って」

 そう言って、琳太郎は押し黙る。
 ちりちりと肌を焼くような感覚に、顔をしかめた。
 琳太郎に何を吹き込んだのか。
 考えると怒りを覚える。

「琳太郎」

 俺は琳太郎の腕を掴み、その身体を引き寄せた。
 そして、その後頭部に手を回し、顔を近づける。
 不安げな、苦しげな顔に心が痛む。
 琳太郎を不安にさせるやつは気に入らない。

「俺がお前を選んだ。言っただろ? お前は俺の番だ」

「に、偽物だって最初に言ったのはお前だろ? 俺はそもそもベータだし、お前の『運命』にはなれないんだから」

「琳太郎」

「な、なんだよ」

「お前は、俺の『番』だ。そう、俺が決めたんだからな」

「だって、お前が卒業までの期間限定って言ったんだろ? それすぎたら俺は……」

 不安な顔が俺の心に穴をあける。
 誰が琳太郎を不安にさせている?
 誰が琳太郎を傷つける?
 ――そうさせているのは自分だ。
 強引にこんな関係にしたのは俺だし、卒業までと言ったのも俺自身だ。
 卒業したら、解放したいと思っていたのは事実だ。
 ずっとこんな関係を続けていられないだろうと、そして琳太郎がそれを望むとも思ってはいなかった。
 けれど俺は……琳太郎を手離せるだろうか?
 俺は琳太郎の名を呼び、不安の顔を見せる彼に口づけた。

「ん……」

 口を離しそして、目を見て俺は言った。

「卒業まで、お前は俺の『番』だ。だから首に噛み付くのは当たり前だろう? 何の問題がある」

 俺の物だ。
 その思いは日々強くなっていく。
 ――オメガじゃないのに、俺は、琳太郎を手離せなくなっていく。

「だからそれまでお前は俺の『番』だ。それに嘘はない。何の問題があるんだ?」

 琳太郎の顔から不安の色は消えない。
 むしろ強くなっているように感じる。
 誰だ、琳太郎に何か言ったやつがいる?

「お前、何を言われた?」

「……え……」

「お前、誰かに何か言われたんじゃないのか? お前が自分でその傷に気が付くとは思えないし」

 その誰かの存在は、俺を苛立たせる。
 なぜ俺の邪魔をする?
 気に入らない。
 たぶん、バイト先のあいつだろう。
 なぜあいつは琳太郎に手を出すんだ。
 琳太郎は――オメガじゃないのに。
 矛盾した想いにまた、俺の胸が痛む。
 ――オメガじゃない琳太郎を俺はなぜ、番にしようとしている?
 そんな疑問、今更抱いて何になる。
 俺は、琳太郎を選んだんだ。
 その事実を捻じ曲げるつもりは、もはやない。

「何を吹き込まれたのか知らないが、俺がお前を選んだんだ。それをお前は疑うのか?」

「ちは……」

 震える琳太郎の唇をなぞり、俺は彼に告げる。
 わからないなら、わからせればいい。
 開発された琳太郎の身体は、もう俺なしではいられないだろうから。

「わからせてやるよ、琳太郎。俺がどれだけお前の事を想っているのか」

 今日は土曜日だ。
 だから朝まで抱いても、問題はないだろう。
 身体に、心に俺を刻み付けて、余計なことなど考えられなくしてやればいいんだから。


ーーーーーーーーー
※電子版表紙絵より
イラスト BEEBAR




しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

愛おしい君 溺愛のアルファたち

山吹レイ
BL
 後天性オメガの瀧本倫(たきもと りん)には三人のアルファの番がいる。  普通のサラリーマンの西将之(にし まさゆき)  天才プログラマーの小玉亮(こだま りょう)  モデル兼俳優の渋川大河(しぶかわ たいが)  皆は倫を甘やかし、溺愛し、夜ごと可愛がってくれる。  そんな甘くもほろ苦い恋の話。  三人のアルファ×後天性オメガ  更新は不定期です。  更新時、誤字脱字等の加筆修正が入る場合があります。    完結しました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...