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★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番04

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 その日の夜。
 俺はひとり部屋でソファーに寝転がり、部屋を薄暗くして今日の出来事を考えていた。
 琳太郎にはああいったものの。
 頭の中は宮田藍で埋め尽くされている。
 あいつだって俺が欲しいだろうに。
 親に買い与えられた三LDKのマンションは、ひとりでは持て余す。
 何の為にこんな広い部屋にしたのか。
 それは、オメガを囲うためだ。
 その為の部屋は用意してある。
 なのに。
 拒絶される?
 運命なのに?
 そんな事許される?
 決められた運命を捻じ曲げることなんてできるだろうか?
 俺は天井に手を伸ばす。
 そうだ、運命から逃げられるはずがない。
 なのになぜ、あいつは俺を拒絶した?
 なぜそんなことが可能なんだ。
 考えれば考えるほどわからなくなる。
 せっかく見つけたと言うのに。
 俺は伸ばした手をぎゅっと握りしめ、それを見つめる。
 この手に掴めないなんてことあるだろうか。
 番が拒むことなど誰が想像できるだろうか?
 欲しいのに。
 この部屋に閉じ込めてその首に噛み付けば、いくら本人が嫌がろうと、その契約は成立する。
 そうしてしまえ、と本能が訴える。
 俺は掲げた手をおろし、その手を額にあてる。
 気が狂いそうだ。
 理性は、それは犯罪であると訴える。
 確かにそうだ。
 無理やり連れてくるのは誘拐だろう。
 そんなことさすがにできない。
 してはいけない、と思うくらいの良心はある。
 だが、現実問題、アルファがオメガを連れ去る事件はたびたび起きている、らしい。
 あまり表には出ないが……
 アルファはオメガを囲うもの。
 という風潮は強く、事件かしにくいらしい。
 俺も同じことをするのだろうか?
 それをやれと訴える自分と、それを拒絶する自分。
 ――アルファなら、オメガを従属させるなど当たり前だろう。
 何を迷うことがある。
 早く連れ去って犯してしまえばいいじゃないか。

『なんか駄目そうなら言えよ。まあ、俺じゃあ何の役にも立たねえだろうけど、話し相手位はできるし』

 そう言った、琳太郎の顔が頭をよぎる。
 駄目そう?
 何をもって駄目だと言うんだろうか。
 今の状態? 状況?
 運命に拒絶されるなど、こんなみじめな状況、あるだろうか?
 その時、スマホが震えた気がした。
 テーブル上に置いてあるスマホに手を伸ばし、ロックを解除すると、琳太郎の名前が表示されていた。
 
『お前明日も歩き? なら一緒に大学いかね?』

 そんなことで誘ってくるなんて珍しい。
 心配に思っての事だろうか。
 高校の時だって、わざわざそんな約束、してこなかったのに。

『お前、何時に駅着くんだ?』

 俺は大学の最寄駅近くのマンション住まいで、琳太郎は電車通学だ。
 そうなると駅で待ち合わせだろう。
 
『八時十五分くらい! 乗り遅れなければ』

『わかった。じゃあ、その時間に。コンビニ前でいいか?』

『あぁ。じゃあ明日な! おやすみ、千早』

『おやすみ』

 そこで俺はスマホを閉じ、テーブルの上に戻す。
 もし、俺が、宮田を連れ去ったら?
 ……琳太郎は何を思うだろうか。
 俺の中で、本能と理性がせめぎ合う。
 もう一度。
 もう一度あいつを捕まえて……でも琳太郎がいては彼に話しかけられないだろう。
 琳太郎がいない隙を狙わなければ。
 ただ運命の番が欲しかっただけなのに、なぜ、こんなに心が重くなる?



 翌日。
 ソファーで寝てしまい、身体が痛い。
 朝食を軽く食べ、シャワーを浴びて着替える。
 大学用の、パンダの絵が描いてあるトートバッグを肩に掛け、俺は部屋を出た。
 天気は晴れ。
 予報によると二十度を超えるらしい。
 なので俺は黒のTシャツの上に黒と紺のボーダーパーカーを着てきた。
 日中暑くなるとはいえ、朝と夕方はそれほどではないのが常だ。
 駅へ向かう道は人通りが多い。
 俺は人の波を縫い、駅前へと向かった。
 沢山の人々が行き交う駅東口に着き、約束のコンビニ前へと向かう。
 まだ気温はさほど高くなく、上着を羽織った人は多かった。
 コンビニ前に付き視線を巡らすと、紺色のTシャツにチェックのシャツを羽織った琳太郎が近付いてくる。
 彼は俺に気が付くと、笑顔で手を振った。

「おはよう、千早」

「ああ。おはよう。珍しいな、一緒に登校しようなんて」

 俺が言うと、琳太郎は視線をそらし、苦笑して頬を掻く。

「いやほら、気になってさ……でも、大丈夫そうならよかった」

 ホッとした様子で、琳太郎は笑う。
 大丈夫。
 何が大丈夫だろうか。
 俺はずっと考えてるというのに。
 どうすれば、運命を捕まえられる?
 どうすれば、お前を傷つけず彼を連れ去ることができる?
 わからない。
 探しても探してもその答えは見つからない。
 
「大丈夫なら、どれだけいいか」

 俺は琳太郎から視線を反らし、地面を見つめて呟く。
 大丈夫なわけ無いだろう。
 運命が、この手から逃げようとしてるのに、冷静でいられるわけがない。

「え、なんか言った?」

 琳太郎の、訝しむような声が聞こえてくるが、俺は自分の思考に囚われていた。
 宮田藍。
 琳太郎の友人。
 俺の運命の番。
 ……この出会いが逆なら、こんなにも悩むことはなかったかもしれないのに。
 お前と最初に知り合ったのが琳太郎ではなく俺だったら……
 なぜ、こうなったんだ。
 運命ならば、なぜ、最初に俺が出会わなかった?
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