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64 七月十八日晴れ

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 七月十八日の朝は、腹立たしいほどに晴れていた。
 今日は世間的には海の日らしいが、俺は講義がある。
 今週は、前期の講義が終わる週だ。
 そして今日、千早に久しぶりに会う日。
 あれから結局、一度も連絡取ってない。
 何を言えばいいのかわからず、今日会えるのだからと耐えていた。
 ……なんで耐えよう、と思ったのは謎だけど、この間苦しくなったことを考えると、俺の気持ち的に決着をつけないと話なんてできないからかもしれない。
 家を出ると、スマホが鳴る。
 メッセージの相手は千早だった。
 名前を見るだけで、俺はそわそわしてしまう。

『おはよう、琳太郎』

 こんなあいさつ、今までしてきたっけ?
 答えは否だ。
 俺は家の前で立ちどまり、返事を返す。

『おはよう、千早』

 なんだよ、これ、なんでこんな普通の事に俺、緊張してるんだ?
 すぐに既読が付き、返事が返ってくる。

『こんなに晴れたのは、久しぶりだな』

 その言葉を見て、俺は空を見上げる。
 真っ青な空に、遥かに入道雲が見える。
 むかつくくらいの青い空と、高い気温。

『そうだけど、太陽出てると余計に暑いんだよ』

 と、俺は軽口を返す。
 
『そうだな。でもこれから晴れが続くらしいぜ?』

 それは迷惑な。
 いや、でも夏だから当たり前なんだけど。
 晴れて暑いのと、雨で暑いの、どっちがいいだろうか?
 ……どっちも嫌だ。

『千早』

『何』

『今日、バイトの後、いつもの場所な!』

 そう返して、俺はスマホをしまう。
 やべえ、早く行かねえと遅刻する。
 俺は慌てて通りを走り出した。



 落ち着かない気持ちで講義を受け、課題やら試験範囲やらを伝えられ。
 一日が終わる。
 バイトが終われば千早に会える。
 同じ大学に通っていけど、学部違うとほんとに会わないんだよな。
 お昼だって食堂の他、カフェテリアや中庭などいくつか食べる場所がある。
 だから約束を取り付けない限り会うことはない。
 ミスらないか内心どぎまぎしながら、バイトをどうにかこなし、そして、閉店時間を迎える。
 二十一時三十分。
 片づけを終えバイト先を出た俺は、スマホを開く。
 千早からのメッセージが来ていた。

『お疲れ様』

『コンビニにいるから』

 そのメッセージを見て、俺は早足で通路を通りぬけた。
 月曜日でも、酔った会社員や学生たちの姿が目立つ。
 週末よりは少ないけれど。
 楽しそうに笑いながら通り過ぎていく彼らを横目に、俺は約束の場所を目指す。
 コンビニ前に、黒いTシャツにグレーのベストを羽織った背の高い人影を見つける。
 あちらもこちらに気が付き、視線が絡む。
 時間が止まったような気がした。
 辺りの騒がしさなんて遠くに聞こえ、通り過ぎていく人影など視界に映らなくなる。
 世界にふたりきり。
 そんなわけはないのに。
 でも、俺には周りの人の姿を認識できなかった。
 まっすぐに千早を見つめそして、俺は走り出す。
 千早も駆けだしてそして、勢いよく走る俺を腕を拡げて受け止めた。

「琳太郎……」

 抱き着きそして、その胸に顔を埋める。
 千早の匂いがする。
 千早の感触がする。
 本物の千早がここにいる。
 夢じゃ……ねえよな?
 本物の、千早。
 そうだ現実の千早だ。
 この間みたいな恐怖はなかった。
 俺は俺の答えを出したから……俺はちゃんと顔をあげられる。
 俺は千早にしがみ付いたまま顔を上げて彼の顔を見る。

「千早」

 確かに目の前にいる。
 いざ目の前にすると、何を言えばいいのかわからなくなる
 千早は俺の肩に手を置くと、

「家に行こう。ここじゃ、落ち着かないだろう」

 と言い、手に持っていたスポドリのペットボトルを俺に差し出す。

「あ……ありがとう」

 そうだ、ここ、外だった。
 俺はペットボトルを受け取り、慌てて千早から離れる。
 やべえ恥ずかしい。
 俺は俯き、受け取ったペットボトルのふたを開ける。

「琳太郎」

 スポドリを飲んでいると名を呼ばれ、俺はペットボトルから口を離し彼を顔を見る。
 千早は俺に手を差出し、

「行こう」

 と言った。
 ペットボトルの蓋を閉め、そして俺は、差し出された手をそっと握った。
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