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52 ふたりでベッドで

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 広い寝室。
 淡いクリーム色のカーテンに、同色のカバーリング。
 ダブルベッドかな。
 なんで千早も瀬名さんも、ベッド大きいんだろう?
 ……あ、瀬名さん、セフレがいるって言っていたっけ。
 だからか。
 ひとりそう納得し、俺はベッド横の台に漫画を置き、ベッドボードにあるライトを点け、天井の灯りを消した。
 持ってきた充電器をベッドボードのコンセントにさし、スマホを充電する。
 静かなのには耐えられないので、音を小さくして音楽をかけつつ、俺は漫画を読み進めた。



 持ってきた漫画を読みつくし、時間を確認する。
 二十三時十二分。
 いつもならまだ寝る時間ではないけど、漫画を読み尽くしたしな……
 大きく欠伸をし、俺は音楽を止めライトを消した。
 静かな部屋。
 知らない匂い。
 落ち着く要素がほぼない。
 眠い、とは思う。けれど、眠れる気がしない。
 いつもなら、俺、この時間てまだ千早と……
 考えると、身体の奥に熱がたまっていく。
 やべえ、これ。
 後孔が、もの欲しそうにひくついているのがわかり、俺はどうしたらいいかわからず唇を噛んだ。
 こうなってくるともうどうにもできなくなってしまう。
 ペニスは徐々に硬くなり始め、息も荒くなっていく。
 やばい、これ。なんとかしないと。
 吐く息が熱い。
 ここは人の家の、人のベッドだ。
 落ち着け、俺。
 たまらず俺は、がばっと起き上がる。
 千早によって慣らされた身体は、すぐに快楽を求めようとしてしまう。
 水、飲もう。
 俺はふらふらと立ち上がり、ドアへと向かった。
 ドアをそっと開くと、リビングはオレンジ色の淡い光に包まれていた。
 ここからちょうど、瀬名さんが寝転がるソファーが見える。
 背中しか見えないけど、寝てる、のか?
 どうしよう。寝てるならやめた方がいいか?
 酔ったとか言っていたしな……そうは見えなかったけど。
 
 
「眠れないの」

 ソファーから声が聞こえる。
 あれ、起きてる?
 ソファーに寝転がる瀬名さんは、寝返りをしこちらを向く。
 目は確かに開いている。
 
「あ……いいえ、あの……まあ、そんなところです」

 眠れないのは事実だ。
 でも理由が理由なので何も言えない。
 
「み、水、飲もうと思って」

「なんだー、てっきり一緒に寝ようって言い出すのかと思って期待したのに」

 普段なら否定するところだけど、俺は口を閉ざしたまま視線を反らす。

「あれ? 否定しないの?」

「いや……その……」

 一緒に寝たいわけじゃない。
 と思う。
 さっきは否定できたのに、今の俺の心は揺れている。
 
「落ち着かないなら、一緒に寝てもいいのにー」

 いつものふざけた口調で言っているけれど、本気なのか?

「だ、だ、大丈夫ですからおやすみなさい」

 早口で言い、俺は扉を閉めた。
 やべえ、すげードキドキしてる。
 ってなんでだよ。
 俺は首を振り、ベッドへと戻る。
 あ、水、飲もうと思ったのに。
 でも今更キッチンに行く気持ちにはなれず、俺は布団にもぐった。
 身体はまだ熱いし、後孔の奥は疼いている。
 やべえ、これ。
 どうしたらいい。
 そのとき。
 扉が開く音がし、俺は驚き布団を剥いでそちらを見た。
 天井に、オレンジ色の明かりが灯り、瀬名さんがこちらに近づいてくるのがわかる。
 手には、マグカップを持っているようだ。

「ほら、水、持ってきたよ」

「あ、ありがとうございます」

 礼を言いつつ、俺は上半身を起こす。
 瀬名さんは俺にマグカップを渡すと、そのままベッドに腰かけた。

「本当に、大丈夫なの?」

 言葉と共に、俺の頭に手を伸ばしてくる。
 手が一瞬触れ、思わず声を上げて俺はその手から逃げてしまう。

「あ……」

 やばい。
 まずい。
 出た声は明らかに変な……色めいた声だった。
 変に思われなかっただろうか?
 そう思い、俺はマグカップに口をつけながらおそるおそる瀬名さんを見る。
 彼は手を引き、不思議そうな顔をして俺を見ている。
 ……気が付かれて、ない?
 いいや、そんなことあるか?
 この人、セフレが何人もいるんだよな。
 経験豊富なはずだし、あの声で何も気が付かないとかある?
 わかんねえ……
 でも、瀬名さん、気が付いてる様子は全くないしな。
 俺は水を一気に飲みこみ、空になったカップを瀬名さんに押し付ける。

「ありがとうございます、俺は、大丈夫ですから」

 そう言った俺の声はわずかに上ずっていて、明らかにおかしい。
 それでも今、俺はこの人にそばにいて欲しくはなかった。
 絶対に、欲しくなってしまう。
 それだけこの身体は、欲望に忠実だ。

「眠れるまで、そばにいようか?」

「い、いや、良いです大丈夫です」

「そう? 大丈夫そうにはあまり見えないけど」

 冷たい水を飲み、少しは落ち着いた。
 けれど、疼きは治まっていない。
 
「お願いですから、あの、そばにいられると、あの……きついです」

「震えてるみたいだけど?」

 違う。そうじゃない。
 いつもは察しがいいのに、何で今は通じないんだ?
 わかんねえ、この人、本当に。

「拒絶されるとしたくなるものだよねえ」

 え、ちょっと待て。何だって?
 瀬名さんは、ベッド横に台にカップを置き、一度立ち上がると毛布をめくって俺の隣に横たわる。
 そして、大きく欠伸をした。
 何してんのちょっと。

「せ、せ、瀬名……さん?」

 驚き彼を見下ろすと、瀬名さんは俺の腕を掴み引き寄せた。
 そのため、瀬名さんに身体を抱きしめられる形になってしまう。

「ちょ……」

「ほら、寝よう。寝ないと大きくなれないから」

「今更大きくなりたくね……ないですよ」

「そうなの? 僕はあと一センチ欲しいかなあ。そうしたら百八十になるから」

「わかりましたから離してください」

「やだ」

「なんでだよ」

「離したらどっかいっちゃいそうだから」

 なんだよそれ。
 もがくけれど、瀬名さんの方が力が強く離してはもらえなさそうだ。

「あんな不安な顔されたら、放っておけなくなるんだよ。ほら、寝よう」

 そんな不安な顔していたか?
 なんか違わねえかな……
 もういいや。たぶん俺、この人には勝てない。
 俺は諦め、大きく息を吐き瀬名さんの顔をちらり、と見る。
 いつの間にか眼鏡を外したらしく、素顔の瀬名さんの顔がすぐ目の前にある。
 すでに目を閉じ、寝入ろうとしているようだ。
 さりげにモデルみたいな綺麗な顔してるよな、この人。
 って、何まじまじ見てんだ俺。
 やべえ、なんか恥ずかしい。
 俺は何とか寝返りをし、瀬名さんに背を向ける。
 顔見てたらまた変な気持ちになりそうだ。
 あ……これ、落ち着いたは落ち着いた……かな?
 後孔はまだ、変な感じするけど……そこまでじゃねえし。
 寝よう。
 これなら眠れそうな気がする。
 俺は欠伸をし、目を閉じた。
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