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41 枕に

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 朝、気がつくと千早に抱きしめられていた。
 重い身体を動かし時間を確認しようとするが、スマホは、リビングに置いたままだと気がつく。
 あー……辛っ。
 腰も痛いし、腹もおかしな感じがする。 
 ああ、そうか。
 中に出されたんだっけ?
 何度も……
 俺にはわからない、アルファとオメガの匂い。
 その匂いに、こんなにも狂うものなのか?
 こわっ……
 でも、俺、普段宮田と一緒にいるけど千早も宮田も、俺から匂いがするなんて言ったことないよな……
 俺が宮田の部屋に行ったから匂いがついたのか?
 そんなことでつくのかよ……
 宮田に会うなら、うちに呼ぶか……あ、でもうち、遠いしな……
 本当に厄介だ。
 
「……りん、たろう……?」

 寝ぼけた声が俺を呼ぶ。
 千早が、うっすらと目を開けて俺を見ている。

「あ、おはよ」

 千早は俺の顔を見つめ、ぎゅうっ、と腕に力を込めてくる。
 おい、待て、苦しいっての。

「千早、何すんだよ」

「俺……ごめん、昨日……何した?」

 ちょっと待て。
 そう呟いた千早は、青白い顔をしているように見える。
 ……覚えて、ないのか?
 
「えーと、俺からその……宮田の匂いがするって言って、その後……」

 そこで俺は押し黙る。
 散々犯された、なんて言いにくい。
 俺の様子から察したらしい千早は、俺の頭を抱きしめ、

「ごめん」

 と呟く。
 
「匂いであんなになるとは思わなかった」

「俺、本当に、あいつの部屋行っただけなんだぜ。なのになんで……」

「部屋に行ったからだろ。だから、わずかに匂いがついたんだろうな」

 そんなんでつくのかよ……
 あれか?
 友達の家行ったらその家の匂いがなんとなく服につくみたいなやつか?

「なあ、今も、匂いするのか?」

 不安に思いながら尋ねると、千早は否定した。

「いいや、今はしない。お前自身からは何の匂いもしないしな。だから、匂いがつくと目立つんだろう」

 そういうことかよ。
 匂いがしない、か。
 なんでだろう、わかりきってることなのに、なぜかもやもやする。
 千早たちが「匂い」の話をするたび、俺はベータだと思い知らされてしまう。
 どうあがいたって、俺はオメガになんてなれないんだから。
 ……そんなの、考えても仕方ないのにな。
 その事実が今の俺にはとても重くのしかかる。 

「とりあえず、俺はシャワー浴びたい」

 中に出されたやつ、少しでも掻きださねえと辛い。
 すると、千早は俺を抱きしめる腕の力を緩めると、俺の額に口づけた。

「本当に、ごめん。俺は……」

「今度強引なことやったら、俺、しばらくここ近付かねえからな」

 すると千早はばつが悪そうな顔をして、小さく頷いた。



 風呂にはひとりで入ると主張した。
 自分でやるからいいとも言った。
 なのに。
 千早は責任を感じているのかなんなのか分かんねえけど、一緒に入ると言い張った。
 絶対、中を綺麗にされるだけじゃあ済まないと思ったので、俺としてはひとりで入りたかったのに。
 嫌な予感は的中する。

「おま、え……なか、こりこり触るんじゃ、ねえよ……!」

「ちゃんと出さないと、辛いだろ? だから俺は」

「だからって、そんなところ触るのは……あぁ!」

 わかってはいた。
 わかってはいたけれど、拒絶しきれず受け入れた俺も俺なんだが、結局一回イかされ、俺は風呂を出て朝食を食べた後、ソファーの上でふて寝していた。
 まったく。
 ただでさえ身体が怠いってのに。
 腰も痛いのに。
 もう今日は動きたくねえよ。
 ソファーで目を閉じうとうとしていると、遠慮がちに名を呼ばれた。

「……琳太郎?」

 俺は返事をせず、仰向けから横に向きを変える。
 
「琳太郎、怒ってるのか?」

 戸惑う声に、俺は目を閉じたまま頷いた。

「嫌だって言ったじゃねえか。なのにお前全く……」

 風呂での出来事を思い出し、俺の顔は熱くなる。

「……ごめん、俺、どうしたらいい」

 どうしたらいい。って言われると、俺としても困るんだけど。
 俺は目を開け、声がする方を見た。
 ソファーの横に座り、千早は俺の顔を困り顔で覗き込んでいる。
 あ、本気で困ってるのか、こいつ。

「機嫌とるとか、俺、わかんないから」

 これ、本気で言って……るな、うん。機嫌の取り方ねえ……
 そんなことを言われても、俺は千早に何かをしてほしいわけじゃない。
 
「俺はもう疲れたの。怠いの。身体きついの。だからもう今日は勘弁してほしい」

「それは……ごめん」

 こんな困っている千早を見るのは初めてかもしれない。
 そう思うとちょっと面白いかも。
 
「俺にはオメガの匂いとか分かんねえし、でも昨日みたいなのは御免だよ」

「あぁ、わかってる……もう、あんな風にはならないから」

 千早がオメガの……宮田の匂いに惑うのは、本能的なものだから仕方ないのだろう、ってことはわかる。
 でも、そう毎回あんな扱いされたら俺の身体がもたない。
 叶うなら、千早が運命に抗い、匂いに惑わされなくなるといいのに。
 
「千早」

「何」

 俺は上半身をお越し、ソファーの開いた部分をぽんぽん、と叩く。

「……え?」

「いいから、ここ座れよ」

 千早がソファーに腰かけたのを確認し、俺はその膝を枕に寝転がる。

「ちょ……琳太郎?」

「俺、このまま寝るから、枕になってて」

「え、あ、え?」

 戸惑う千早の声をよそに、俺は目を閉じる。
 疲れた。
 怠い。
 眠い。

「琳太郎、それだと俺、動けない……」

 困った様子で呟くが、今、俺は動きたくもない。
 俺は千早を枕にして、そのまま眠りに落ちていった。
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