30 / 103
30 新しい朝
しおりを挟む
朝、目が覚めると、隣に千早はいなかった。
辺りを見回し、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいることに気が付く。
とうに朝を迎えているらしい。
スマホで時間を確認すると八時を過ぎていた。
身体が重い。
心も、軽くなったとは言えない。
偽物の番。
わかってはいても、心のどこかでずっと引っかかっている。
自分としては、俺が偽物になることで丸く収まるならそれでいいとか思っていたけれど。
偽物と言う割に、愛してやるとか言われて。
わけわかんねぇ。
あと三年もこの関係は続くのか……? そう思うと、心がずしり、と重くなる。
……逃げるとか無理だしな。
そもそも大学一緒だし、そんなこと俺ができるわけがない。
千早に開発された身体はあいつを求めるし、でも心はずっと揺らいでいる。
そもそも身代わりと言われて喜ぶかって言われたら喜ぶわけねぇしな。
あの日、俺が千早を止めた事から、この歪んだ関係は始まった。
あー、考えてたら訳わかんなくなってきた。
どうしたって俺は、今の状況から脱する方法なんてないだろうしそれに、もし俺が千早から離れようとしたらあいつ、どうかなっちゃいそうな気がする。
宮田は別に悪くねぇし。
そもそも運命の番だからといって、それで縛ろうとするのは良くないと思うし。
まあ、その結果、巻き込まれて今に至る俺がいるわけだけど。
俺はどうしたいんだ。
そう思い、俺はうなじに触れる。
千早に噛まれた傷痕。
番だから当たり前とか言われたけど、俺には重い。
……お前が運命を選ぶなら、俺はどうなるんだ……?
あー、なんなんだこの感情。訳わかんねーし、腹減ってきた。
俺はガバっと起き上がり、痛む腰をさすりつつなんとか服を着て、寝室を出た。
寝室をでるとすぐ、リビングがあるが、そこに千早の姿はなかった。
カーテンが開かれたリビングに差し込む太陽が眩しい。
テレビは消えているし、オーディオもついていない。
テーブルも綺麗に片付いている。
あいつ、どこに行ったんだ?
このリビングを挟んで向こう側にもう一部屋あり、そこが千早の勉強部屋になっている。
俺がここで課題をやる際は、その部屋を使っている。
その部屋にいるんだろうか?
そう思い、勉強部屋へと向かおうとすると、声がかかった。
「琳太郎」
驚き、声がした方を向く。
カウンターキッチンの向こうに、千早が立っていた。
あれ、さっきはいなかったような気がするんだけど……あれ?
不思議に思うけれど、単に奥の方にいて見えなかっただけかもしれない。
リビングから、キッチンの奥は見えないし。
「あ、千早」
俺は、リビングにあるソファーまで歩き、彼の方を向く。
「おはよう、琳太郎、朝食は?」
微笑みながら言い、千早は瞬間湯沸かしポットを手にした。
「おはよう……うん、腹減った」
そう答えると同時に、腹が鳴る。
「ちょっと待ってろ。あっためるから」
「あ、うん」
頷き俺は、ソファーに腰かけてテレビをつけた。
無音て苦手だ。
何か音が流れていないと落ち着かないので、人の家とはいえついテレビを点けてしまう。
やっているのはワイドショーだった。
それはそうか。
そう言う時間だもんな。
殺人事件、交通事故、芸能人の噂話。
こんな時間にテレビなんて見ないのでなんとなく新鮮な気持ちにはなるが……正直興味はなかった。
「琳太郎」
いつの間に現れたのか、頭上から声がかかったかと思うと、後ろから抱きしめられた。
「おわぁっ!」
千早から香るのは、たぶんシャンプーの匂いだけ。
俺にはアルファの匂いはわからない。
千早が、俺の耳元に唇を寄せて、囁くように言った。
「お前が、いなくなったらどうしようかと思った」
「……はい?」
想定外の事を言われ、俺は思わず間抜けな声を出す。
「朝起きたら、お前がいないんじゃないかって」
「あんだけヤっといて、お前より早く起きるとか無理に決まってるだろうが」
「……それもそうか」
おかげで俺はまだ、腰が痛い。
「琳太郎」
「何だよ」
「悪かったって、思ってるよ」
「……は?」
振り返りたいけれど、ソファーに身体を押さえつけられてしまい、全く身動きが取れやしない。
悪かった? 何を?
「無理やり、ここに連れてきたこととか……」
なぜか千早の声が消え入り、最後の方は全然聞こえない。
って、こんな耳元で言われてるのになんでだよ?
「……とか、の内容が重要じゃねえのか、それ?」
「無理やり、抱いたこととか……ごめん……琳太郎」
今さらそんなこと謝られても。
どうしたらいいかわからず、俺は戸惑いそして、千早の腕に触れる。
こういう空気、苦手だ。
何言えばいい、俺?
頭の中で色んな言葉がぐるぐるとまわる。
「お、お、俺は、酷いことされてる、って思うし……確かに無理矢理だけどでも、俺も結局拒否できてないし。お前が苦しむの、見るのは嫌だし……」
言ってて訳が分からなくなってくる。
誰かが苦しむのは見たくない。
じゃあ、俺が苦しむのは?
……俺だって苦しみたくはない。
俺を抱きしめる千早の腕に力がこもる。
「その優しさに甘えてるのは俺だな」
「そうだよ、俺、優しいと言うか甘いと言うか。馬鹿だと思うよ」
そうだ。
別に俺が強く拒否したらたぶんきっと、千早はこんなことしてこなかったと思う。
千早だって馬鹿じゃないし。
身代わりになれとか無茶言って、ここに連れ込まれて。
それでも俺は、逃げ出そうとしなかった。
それでもまあ、悪いのは千早なのは確定だとは思う。
「昨日、お前が泣いているのを見て、色々考えたんだ。そうしたのは俺自身だって」
もしかして、千早、反省してる……?
その事実に俺は動揺する。
どうしよう俺、どうしたらいいんだこの状況。
その時、パンの焼ける匂いと、トースターの止まる音が響く。
その匂いに俺の腹が、また音を立てる。
「と、と、とりあえず、飯食いたい」
冷めたパンは食べたくない。
そう思い、千早に声をかけると、彼は俺の耳元に口づけそして、離れて行った。
辺りを見回し、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいることに気が付く。
とうに朝を迎えているらしい。
スマホで時間を確認すると八時を過ぎていた。
身体が重い。
心も、軽くなったとは言えない。
偽物の番。
わかってはいても、心のどこかでずっと引っかかっている。
自分としては、俺が偽物になることで丸く収まるならそれでいいとか思っていたけれど。
偽物と言う割に、愛してやるとか言われて。
わけわかんねぇ。
あと三年もこの関係は続くのか……? そう思うと、心がずしり、と重くなる。
……逃げるとか無理だしな。
そもそも大学一緒だし、そんなこと俺ができるわけがない。
千早に開発された身体はあいつを求めるし、でも心はずっと揺らいでいる。
そもそも身代わりと言われて喜ぶかって言われたら喜ぶわけねぇしな。
あの日、俺が千早を止めた事から、この歪んだ関係は始まった。
あー、考えてたら訳わかんなくなってきた。
どうしたって俺は、今の状況から脱する方法なんてないだろうしそれに、もし俺が千早から離れようとしたらあいつ、どうかなっちゃいそうな気がする。
宮田は別に悪くねぇし。
そもそも運命の番だからといって、それで縛ろうとするのは良くないと思うし。
まあ、その結果、巻き込まれて今に至る俺がいるわけだけど。
俺はどうしたいんだ。
そう思い、俺はうなじに触れる。
千早に噛まれた傷痕。
番だから当たり前とか言われたけど、俺には重い。
……お前が運命を選ぶなら、俺はどうなるんだ……?
あー、なんなんだこの感情。訳わかんねーし、腹減ってきた。
俺はガバっと起き上がり、痛む腰をさすりつつなんとか服を着て、寝室を出た。
寝室をでるとすぐ、リビングがあるが、そこに千早の姿はなかった。
カーテンが開かれたリビングに差し込む太陽が眩しい。
テレビは消えているし、オーディオもついていない。
テーブルも綺麗に片付いている。
あいつ、どこに行ったんだ?
このリビングを挟んで向こう側にもう一部屋あり、そこが千早の勉強部屋になっている。
俺がここで課題をやる際は、その部屋を使っている。
その部屋にいるんだろうか?
そう思い、勉強部屋へと向かおうとすると、声がかかった。
「琳太郎」
驚き、声がした方を向く。
カウンターキッチンの向こうに、千早が立っていた。
あれ、さっきはいなかったような気がするんだけど……あれ?
不思議に思うけれど、単に奥の方にいて見えなかっただけかもしれない。
リビングから、キッチンの奥は見えないし。
「あ、千早」
俺は、リビングにあるソファーまで歩き、彼の方を向く。
「おはよう、琳太郎、朝食は?」
微笑みながら言い、千早は瞬間湯沸かしポットを手にした。
「おはよう……うん、腹減った」
そう答えると同時に、腹が鳴る。
「ちょっと待ってろ。あっためるから」
「あ、うん」
頷き俺は、ソファーに腰かけてテレビをつけた。
無音て苦手だ。
何か音が流れていないと落ち着かないので、人の家とはいえついテレビを点けてしまう。
やっているのはワイドショーだった。
それはそうか。
そう言う時間だもんな。
殺人事件、交通事故、芸能人の噂話。
こんな時間にテレビなんて見ないのでなんとなく新鮮な気持ちにはなるが……正直興味はなかった。
「琳太郎」
いつの間に現れたのか、頭上から声がかかったかと思うと、後ろから抱きしめられた。
「おわぁっ!」
千早から香るのは、たぶんシャンプーの匂いだけ。
俺にはアルファの匂いはわからない。
千早が、俺の耳元に唇を寄せて、囁くように言った。
「お前が、いなくなったらどうしようかと思った」
「……はい?」
想定外の事を言われ、俺は思わず間抜けな声を出す。
「朝起きたら、お前がいないんじゃないかって」
「あんだけヤっといて、お前より早く起きるとか無理に決まってるだろうが」
「……それもそうか」
おかげで俺はまだ、腰が痛い。
「琳太郎」
「何だよ」
「悪かったって、思ってるよ」
「……は?」
振り返りたいけれど、ソファーに身体を押さえつけられてしまい、全く身動きが取れやしない。
悪かった? 何を?
「無理やり、ここに連れてきたこととか……」
なぜか千早の声が消え入り、最後の方は全然聞こえない。
って、こんな耳元で言われてるのになんでだよ?
「……とか、の内容が重要じゃねえのか、それ?」
「無理やり、抱いたこととか……ごめん……琳太郎」
今さらそんなこと謝られても。
どうしたらいいかわからず、俺は戸惑いそして、千早の腕に触れる。
こういう空気、苦手だ。
何言えばいい、俺?
頭の中で色んな言葉がぐるぐるとまわる。
「お、お、俺は、酷いことされてる、って思うし……確かに無理矢理だけどでも、俺も結局拒否できてないし。お前が苦しむの、見るのは嫌だし……」
言ってて訳が分からなくなってくる。
誰かが苦しむのは見たくない。
じゃあ、俺が苦しむのは?
……俺だって苦しみたくはない。
俺を抱きしめる千早の腕に力がこもる。
「その優しさに甘えてるのは俺だな」
「そうだよ、俺、優しいと言うか甘いと言うか。馬鹿だと思うよ」
そうだ。
別に俺が強く拒否したらたぶんきっと、千早はこんなことしてこなかったと思う。
千早だって馬鹿じゃないし。
身代わりになれとか無茶言って、ここに連れ込まれて。
それでも俺は、逃げ出そうとしなかった。
それでもまあ、悪いのは千早なのは確定だとは思う。
「昨日、お前が泣いているのを見て、色々考えたんだ。そうしたのは俺自身だって」
もしかして、千早、反省してる……?
その事実に俺は動揺する。
どうしよう俺、どうしたらいいんだこの状況。
その時、パンの焼ける匂いと、トースターの止まる音が響く。
その匂いに俺の腹が、また音を立てる。
「と、と、とりあえず、飯食いたい」
冷めたパンは食べたくない。
そう思い、千早に声をかけると、彼は俺の耳元に口づけそして、離れて行った。
1
お気に入りに追加
906
あなたにおすすめの小説
上位種アルファと高値のオメガ
riiko
BL
大学で『高嶺のオメガ』とひそかに噂される美人で有名な男オメガの由香里。実際は生まれた時から金で婚約が決まった『高値のオメガ』であった。
18歳になり婚約相手と会うが、どうしても受け入れられない由香里はせめて結婚前に処女を失う決意をする。
だけどことごとくアルファは由香里の強すぎるフェロモンの前に気を失ってしまう。そんな時、強いアルファ性の先輩の噂を聞く。彼なら強すぎるフェロモンに耐えられるかもしれない!?
高嶺のオメガと噂される美人オメガが運命に出会い、全てを諦めていた人生が今変わりだす。
ヤンデレ上位種アルファ×美しすぎる高嶺のオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
お話、お楽しみいただけたら幸いです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ナッツに恋するナツの虫
珈琲きの子
BL
究極の一般人ベータである辻井那月は、美術品のような一流のアルファである栗栖東弥に夢中だった。
那月は彼を眺める毎日をそれなりに楽しく過ごしていたが、ある日の飲み会で家に来るように誘われ……。
オメガ嫌いなアルファとそんなアルファに流されるちょっとおバカなベータのお話。
*オメガバースの設定をお借りしていますが、独自の設定も盛り込んでいます。
*予告なく性描写が入ります。
*モブとの絡みあり(保険)
*他サイトでも投稿
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
【本編完結済】蓼食う旦那様は奥様がお好き
ましまろ
BL
今年で二十八歳、いまだに結婚相手の見つからない真を心配して、両親がお見合い相手を見繕ってくれた。
お相手は年下でエリートのイケメンアルファだという。冴えない自分が気に入ってもらえるだろうかと不安に思いながらも対面した相手は、真の顔を見るなりあからさまに失望した。
さらには旦那にはマコトという本命の相手がいるらしく──
旦那に嫌われていると思っている年上平凡オメガが幸せになるために頑張るお話です。
年下美形アルファ×年上平凡オメガ
【2023.4.9】本編完結済です。今後は小話などを細々と更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる