27 / 103
27 早く会いたい
しおりを挟む
十三時からのアルバイト。
全然身が入らなかった。
流れるようにレジの対応をし、お客様の問い合わせに答え、品出しをし、売り場の整理をして。
そして、休憩時間に瀬名さんに言われたうなじのマーキングについて調べた。
アルファがオメガのうなじを噛むのは、番である証であり、噛まれたオメガはそのアルファの所有物、と言う事になるらしい。
オメガは発情期になると、アルファを誰彼かまわず惹きつけてしまう匂いを発するらしいが、うなじを噛まれることで番の契約が成立し、匂いを発しなくなるとか。
どういう仕組みだよ。
俺はオメガじゃない。
だからいくらうなじを噛まれても、番の契約は成立しない。するわけがない。
そう思い、俺はうなじに触れる。
確かにある、噛み痕。
なんで千早はここを噛むのか不思議に思っていたけど、俺を番にするためか?
『偽物の番』
二週間前に、千早に抱かれて言われた言葉。
身代わりになれと。性欲を満たすためとも言ってたな。
そのくせ、愛してやるとも言って来て。
わけわかんねえな、あいつ。
俺はぼんやりと、休憩室のテーブルを見つめる。今この部屋には誰もいない。わずかに、店内BGMが聞こえてくるだけだ。
その為、いろんな考えが頭の中を駆け巡る。
千早にとって、俺、宮田の身代わりなんだもんな。
運命の番って、魂レベルで繋がってるっていうし。その絆を切る方法なんてあるわけがないよな。
でも宮田が拒絶して、結果俺は、千早に囲い込まれて。
開発されて……なんか開発って響きヤだな……
でもその通りだし。
卒業までの期間限定。
終わりのある関係。
何だ俺、なんでこんなに心が揺れるんだ?
千早は友達だ。
高校からの友達で、同じ大学に入って。
これからも変わらない、と思ってた。
なのに、週に三回あいつの家に行き、顔を合わせれば抱かれて。
あいつ、どこまで本気なんだろ?
ただの、身体だけの関係?
本当に性欲を満たすだけの存在なのか? でもその割には執着すごくねえか?
あー、わけわかんなくなってきた。
「結城、おっつー」
降ってきた声に驚き、俺はびくん、と身体を震わせた。
顔を上げると、テーブルの向こう側に瀬名さんが座っていた。
彼は焦げ茶色の小さな手提げバッグからパンとコーヒーと、ハードカバーの本を出し、それをテーブルに置く。
「あ、あ、お、お疲れ様です」
俺と瀬名さんは、出勤時間が一緒なので休憩時間も被ってしまう。
時刻は十五時半。時間も時間なので、この休憩室には俺と瀬名さんしかいない。
今、瀬名さんとふたりきりはちょっときつい。
「なんかぼんやりしてたけど、喰わなくて大丈夫?」
そう言われ、俺はテーブルの上に置いたままの、コンビニで買ったおにぎりの存在に気が付く。
あ、全然喰ってなかった。
俺はあわてておにぎりを手に取り、フィルムを外した。
「あ、もしかして、僕が言ったこと気にしてる?」
「いや、そんなんじゃないです」
見え透いた嘘を言い、俺は鮭のおにぎりにかぶりつく。
スマホを見ると、すでに休憩時間は二十分過ぎていた。
やべえ、俺、そんなにぼんやりしていたのかよ。
「やっぱりさあ、結城、僕と……」
「何もしませんから。ここ、どこだと思ってるんですか」
この数時間で、俺の中での瀬名さんイメージはかなり崩れ去っている。
ちょっと変わった人だな、くらいには思っていたけど、医学部だし、すげえ、と思っていたのに。
今となってはかなり変で、厄介な人だ。
しかもなんか誘ってくるし。こんな人類、初めて会ったよ。
瀬名さんは、さっさと生クリームたっぷりの菓子パンを平らげると、コーヒーを飲み、本を開く。
「そっかー。じゃあ、気が変わったら教えてね」
「変わるわけないです、何言ってんですか本当にもう。からかうのやめてください」
内心呆れつつ言うと、瀬名さんは本に目を落としたまま言った。
「僕は本気だよ」
さらっと言われ、何を言われたのか理解するのに時間がかかる。
本気?
「俺は瀬名さんにそんな興味ないですから」
しどろもどろになりつつ俺が言うと、瀬名さんはふざけた口調で答えた。
「それは残念だなー」
絶対俺、この人にからかわれていると思う。
瀬名さんは、本を読んでいるため表情がよくわからない。
これはもう、声をかけても反応なさそうだな。
言うだけ言ってこれかよ、まったく。
俺はおにぎりをさっさと平らげ、スマホを手に取った。
閉店時間までバイトをし、俺は店を後にする。
時刻は二十一時半。スマホを見ると、案の定、千早からメッセージが来ていた。
それを見て、自然と胸が高鳴っていく。
俺、千早と会うの、楽しみにしてんのかな?
……はやる気持ちは、ある。
早く会いたいと思う気持ちはある。
俺は今、瀬名さんに言われたことで心の中がぐっちゃぐちゃになっている。
だから、早くあいつに会いたい。
会って、この想いを何とかしたい。
コンビニ前で待っている、と書いてあったので、俺は小走りに東口へと向かった。
全然身が入らなかった。
流れるようにレジの対応をし、お客様の問い合わせに答え、品出しをし、売り場の整理をして。
そして、休憩時間に瀬名さんに言われたうなじのマーキングについて調べた。
アルファがオメガのうなじを噛むのは、番である証であり、噛まれたオメガはそのアルファの所有物、と言う事になるらしい。
オメガは発情期になると、アルファを誰彼かまわず惹きつけてしまう匂いを発するらしいが、うなじを噛まれることで番の契約が成立し、匂いを発しなくなるとか。
どういう仕組みだよ。
俺はオメガじゃない。
だからいくらうなじを噛まれても、番の契約は成立しない。するわけがない。
そう思い、俺はうなじに触れる。
確かにある、噛み痕。
なんで千早はここを噛むのか不思議に思っていたけど、俺を番にするためか?
『偽物の番』
二週間前に、千早に抱かれて言われた言葉。
身代わりになれと。性欲を満たすためとも言ってたな。
そのくせ、愛してやるとも言って来て。
わけわかんねえな、あいつ。
俺はぼんやりと、休憩室のテーブルを見つめる。今この部屋には誰もいない。わずかに、店内BGMが聞こえてくるだけだ。
その為、いろんな考えが頭の中を駆け巡る。
千早にとって、俺、宮田の身代わりなんだもんな。
運命の番って、魂レベルで繋がってるっていうし。その絆を切る方法なんてあるわけがないよな。
でも宮田が拒絶して、結果俺は、千早に囲い込まれて。
開発されて……なんか開発って響きヤだな……
でもその通りだし。
卒業までの期間限定。
終わりのある関係。
何だ俺、なんでこんなに心が揺れるんだ?
千早は友達だ。
高校からの友達で、同じ大学に入って。
これからも変わらない、と思ってた。
なのに、週に三回あいつの家に行き、顔を合わせれば抱かれて。
あいつ、どこまで本気なんだろ?
ただの、身体だけの関係?
本当に性欲を満たすだけの存在なのか? でもその割には執着すごくねえか?
あー、わけわかんなくなってきた。
「結城、おっつー」
降ってきた声に驚き、俺はびくん、と身体を震わせた。
顔を上げると、テーブルの向こう側に瀬名さんが座っていた。
彼は焦げ茶色の小さな手提げバッグからパンとコーヒーと、ハードカバーの本を出し、それをテーブルに置く。
「あ、あ、お、お疲れ様です」
俺と瀬名さんは、出勤時間が一緒なので休憩時間も被ってしまう。
時刻は十五時半。時間も時間なので、この休憩室には俺と瀬名さんしかいない。
今、瀬名さんとふたりきりはちょっときつい。
「なんかぼんやりしてたけど、喰わなくて大丈夫?」
そう言われ、俺はテーブルの上に置いたままの、コンビニで買ったおにぎりの存在に気が付く。
あ、全然喰ってなかった。
俺はあわてておにぎりを手に取り、フィルムを外した。
「あ、もしかして、僕が言ったこと気にしてる?」
「いや、そんなんじゃないです」
見え透いた嘘を言い、俺は鮭のおにぎりにかぶりつく。
スマホを見ると、すでに休憩時間は二十分過ぎていた。
やべえ、俺、そんなにぼんやりしていたのかよ。
「やっぱりさあ、結城、僕と……」
「何もしませんから。ここ、どこだと思ってるんですか」
この数時間で、俺の中での瀬名さんイメージはかなり崩れ去っている。
ちょっと変わった人だな、くらいには思っていたけど、医学部だし、すげえ、と思っていたのに。
今となってはかなり変で、厄介な人だ。
しかもなんか誘ってくるし。こんな人類、初めて会ったよ。
瀬名さんは、さっさと生クリームたっぷりの菓子パンを平らげると、コーヒーを飲み、本を開く。
「そっかー。じゃあ、気が変わったら教えてね」
「変わるわけないです、何言ってんですか本当にもう。からかうのやめてください」
内心呆れつつ言うと、瀬名さんは本に目を落としたまま言った。
「僕は本気だよ」
さらっと言われ、何を言われたのか理解するのに時間がかかる。
本気?
「俺は瀬名さんにそんな興味ないですから」
しどろもどろになりつつ俺が言うと、瀬名さんはふざけた口調で答えた。
「それは残念だなー」
絶対俺、この人にからかわれていると思う。
瀬名さんは、本を読んでいるため表情がよくわからない。
これはもう、声をかけても反応なさそうだな。
言うだけ言ってこれかよ、まったく。
俺はおにぎりをさっさと平らげ、スマホを手に取った。
閉店時間までバイトをし、俺は店を後にする。
時刻は二十一時半。スマホを見ると、案の定、千早からメッセージが来ていた。
それを見て、自然と胸が高鳴っていく。
俺、千早と会うの、楽しみにしてんのかな?
……はやる気持ちは、ある。
早く会いたいと思う気持ちはある。
俺は今、瀬名さんに言われたことで心の中がぐっちゃぐちゃになっている。
だから、早くあいつに会いたい。
会って、この想いを何とかしたい。
コンビニ前で待っている、と書いてあったので、俺は小走りに東口へと向かった。
1
お気に入りに追加
909
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
頑張って番を見つけるから友達でいさせてね
貴志葵
BL
大学生の優斗は二十歳を迎えてもまだαでもβでもΩでもない「未分化」のままだった。
しかし、ある日突然Ωと診断されてしまう。
ショックを受けつつも、Ωが平穏な生活を送るにはαと番うのが良いという情報を頼りに、優斗は番を探すことにする。
──番、と聞いて真っ先に思い浮かんだのは親友でαの霧矢だが、彼はΩが苦手で、好みのタイプは美人な女性α。うん、俺と真逆のタイプですね。
合コンや街コンなど色々試してみるが、男のΩには悲しいくらいに需要が無かった。しかも、長い間未分化だった優斗はΩ特有の儚げな可憐さもない……。
Ωになってしまった優斗を何かと気にかけてくれる霧矢と今まで通り『普通の友達』で居る為にも「早くαを探さなきゃ」と優斗は焦っていた。
【塩対応だけど受にはお砂糖多めのイケメンα大学生×ロマンチストで純情なそこそこ顔のΩ大学生】
※攻は過去に複数の女性と関係を持っています
※受が攻以外の男性と軽い性的接触をするシーンがあります(本番無し・合意)
両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる