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11約束
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その後も俺は後ろの穴を拡張され、千早に解放されたころには俺は全く動けなくなっていた。
こんなんじゃあバイトいけない。
怠い身体を動かし、なんとかバイト先である本屋に電話を入れた。
俺の声は明らかに掠れていておかしかったため、風邪ひいた、と言ったら簡単に信じてもらえたけれど。
俺のバイト代が……
俺は枕に顔を埋めて深くため息をつく。
千早は今、ここにはいない。
シャワーでも浴びてきてるのかなんだか知らないが、俺は寝室に置き去りにされている。
スマホで時間を確認すると、十一時半だった。
もうすぐ昼か……
腹が減ってるのかもよくわからない。
家、帰りたい。
今日はまだ土曜日だ。
明日もあると考えると気持ちが沈み込む。
逃げたくても動けないし、俺は寝返りをし窓の外に顔を向けた。
朝よりも雨は強くなっている様で、向こうの景色が歪んで見える。
この雨じゃあ、帰るのも大変だしなあ……
まだここにいるしかない、という現実に俺は打ちひしがれる。
「琳太郎」
扉が開く音と共に声が聞こえ、俺は仰向けになり声のした方を見た。
千早がこちらに近づいてくる。彼は、俺の肩に手を置いたかと思うと、顔を近づけキスをした。
触れるだけのキスに戸惑っていると、
「お昼、食べられそう?」
と言った。
昼飯どうしよう。
正直腹は減っていない。
「そんな気になれねーよ」
「食べないと、もたないだろ? まだ明日もあるんだから」
この狂った時間はまだ続くのか。
そうだよな、まだ土曜日だもんな……
ぐるぐると考えていると、千早がふっと、笑った。
「そんな顔で俺を見るなよ。ヤりたくなる」
至近距離で言われ、俺は顔が真っ赤になるのを感じた。
「んな顔、してねえよ」
「まあ、自分じゃあわかんないもんな。お前今、物欲しそうな顔してるぜ?」
もの欲しそうな顔、ってなんだよ……!
文句を言う前にまた口づけられそして、頬を撫でられた。
結局、昼飯の後も拡張すると言われ散々泣かされ、夜は千早に抱かれた。
日曜日も同じように時間を過ごし、帰る頃にはもう何もしたくなくなっていた。
車で家に送られながら、俺は窓の外の景色をぼんやり見つめていた。
見慣れた夕暮れの町がなんだか異質なものに見える。
四十八時間以上、千早の部屋に閉じ込められていたんだよなあ……
「明日、大学の後うちに来いよ」
千早に言われ、俺は彼の方へと顔を向けた。
千早は真面目な顔をして正面を見つめている。
「は? 何言ってんだよ、そんなの無理に決まってんだろ! 明日はバイトだ!」
「ならバイトを辞めたらいい」
澄ました顔で言われ、さすがに腹が立つ。
「辞めるわけねーだろ! せっかく雇ってもらったのに、俺だって欲しいものとか免許取ったりとかいろいろしたいことあるんだよ」
そうくって掛かると、千早はあからさまに嫌そうな顔をする。
「……どうするか……」
「だいたい俺に自分でやれって言って、玩具を押し付けただろ? それなら毎日通う必要なくない? っていうかなんであんなにいろいろ持ってるんだよ」
「宮田藍を見てから買い集めた」
真顔で言われ、俺は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
買い集めた?
「俺だってずっと家にいられるわけじゃないからな。そういう時に使わせるために色々買い集めた。まあ、まさかお前に使うことになるとは思わなかったけど」
それって宮田を囲った時、自分でオナニーさせるために集めたって事か?
わかんねー。意味がかわんねー。
「まあ、おかげでお前の調教に使えるし、買っといてよかったよ」
「調教ってなんだ、調教って!」
全然意味が変わるじゃねーか。
俺は馬じゃねーぞ?
信号で車が止まり、千早はこちらに顔を向けた。
「俺好みの身体に躾けるんだから、調教で間違いないだろう? なあ、琳太郎」
爽やかな笑顔でとんでもないことを言われ、俺は顔だけでなく身体まで熱くなるのを感じ、彼から視線を反らした。
「お前、バイトって基本何曜日?」
「あ? えーと、土曜日の昼からと、月曜と水曜日の夕方からが多いかな」
基本、週に三日くらいだ。
駅中にあるそこそこ大きな本屋が、俺の職場だった。
時間遅いと時給がいいし、けっこう力仕事が多いし色んな本を知れて楽しい。
「じゃあ、それ以外はうちに来られるってことだな」
「ちょっと待て、週四でお前んち通えって? せめて週二にしろ! 俺に休みを寄越せ!」
俺としては、十分妥協したつもりだった。
俺の家に着くまでの間、「週何回千早の家に通うのか」論争は続き、俺の家の前に着くころには、金曜日の休みをもぎ取ることに成功した。
その代わり、土曜日のバイトの後、ここに泊まることになってしまったが……
いいのか悪いのかわからないが、休みをもぎ取れたことは大きい。
でもそれっていいのか……?
なんだか千早の罠に、嵌められているような気がして仕方がない。
交渉って、無理難題を最初吹っかけた後、妥協させていくものだからな……
……あ、俺、絶対嵌められた。
毎日通うより、泊まる方がよほどまし、と思ってしまったし、今更撤回もできず。
何とも言えない気持ちで俺はベルトを外し、車から降りようとした。
「琳太郎」
「え?」
名を呼ばれたかと思うと手を掴まれそして、身体を引き寄せられてしまう。
すぐ目の前に千早の顔がある。
いつもは優しい二重の瞳が、妖しい光を帯び、俺の顔を映している。
「お前は俺の物だ。わかってるよな」
「……あぁ……ンなこと、わかってるよ。だからその代り……」
「宮田藍には近づかない。だろ?」
笑う千早の笑顔が怖い。
千早は触れるだけのキスをし、俺から手を離す。
誰に見られるかわかんねーのに、何すんだ、こいつ……!
ここで文句を言ったらいつまでたっても解放されないような気がして、俺は顔が真っ赤になるのを感じながら口もとに手を当てて、
「じゃあな!」
と声を上げ、ドアを開いた。
こんなんじゃあバイトいけない。
怠い身体を動かし、なんとかバイト先である本屋に電話を入れた。
俺の声は明らかに掠れていておかしかったため、風邪ひいた、と言ったら簡単に信じてもらえたけれど。
俺のバイト代が……
俺は枕に顔を埋めて深くため息をつく。
千早は今、ここにはいない。
シャワーでも浴びてきてるのかなんだか知らないが、俺は寝室に置き去りにされている。
スマホで時間を確認すると、十一時半だった。
もうすぐ昼か……
腹が減ってるのかもよくわからない。
家、帰りたい。
今日はまだ土曜日だ。
明日もあると考えると気持ちが沈み込む。
逃げたくても動けないし、俺は寝返りをし窓の外に顔を向けた。
朝よりも雨は強くなっている様で、向こうの景色が歪んで見える。
この雨じゃあ、帰るのも大変だしなあ……
まだここにいるしかない、という現実に俺は打ちひしがれる。
「琳太郎」
扉が開く音と共に声が聞こえ、俺は仰向けになり声のした方を見た。
千早がこちらに近づいてくる。彼は、俺の肩に手を置いたかと思うと、顔を近づけキスをした。
触れるだけのキスに戸惑っていると、
「お昼、食べられそう?」
と言った。
昼飯どうしよう。
正直腹は減っていない。
「そんな気になれねーよ」
「食べないと、もたないだろ? まだ明日もあるんだから」
この狂った時間はまだ続くのか。
そうだよな、まだ土曜日だもんな……
ぐるぐると考えていると、千早がふっと、笑った。
「そんな顔で俺を見るなよ。ヤりたくなる」
至近距離で言われ、俺は顔が真っ赤になるのを感じた。
「んな顔、してねえよ」
「まあ、自分じゃあわかんないもんな。お前今、物欲しそうな顔してるぜ?」
もの欲しそうな顔、ってなんだよ……!
文句を言う前にまた口づけられそして、頬を撫でられた。
結局、昼飯の後も拡張すると言われ散々泣かされ、夜は千早に抱かれた。
日曜日も同じように時間を過ごし、帰る頃にはもう何もしたくなくなっていた。
車で家に送られながら、俺は窓の外の景色をぼんやり見つめていた。
見慣れた夕暮れの町がなんだか異質なものに見える。
四十八時間以上、千早の部屋に閉じ込められていたんだよなあ……
「明日、大学の後うちに来いよ」
千早に言われ、俺は彼の方へと顔を向けた。
千早は真面目な顔をして正面を見つめている。
「は? 何言ってんだよ、そんなの無理に決まってんだろ! 明日はバイトだ!」
「ならバイトを辞めたらいい」
澄ました顔で言われ、さすがに腹が立つ。
「辞めるわけねーだろ! せっかく雇ってもらったのに、俺だって欲しいものとか免許取ったりとかいろいろしたいことあるんだよ」
そうくって掛かると、千早はあからさまに嫌そうな顔をする。
「……どうするか……」
「だいたい俺に自分でやれって言って、玩具を押し付けただろ? それなら毎日通う必要なくない? っていうかなんであんなにいろいろ持ってるんだよ」
「宮田藍を見てから買い集めた」
真顔で言われ、俺は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
買い集めた?
「俺だってずっと家にいられるわけじゃないからな。そういう時に使わせるために色々買い集めた。まあ、まさかお前に使うことになるとは思わなかったけど」
それって宮田を囲った時、自分でオナニーさせるために集めたって事か?
わかんねー。意味がかわんねー。
「まあ、おかげでお前の調教に使えるし、買っといてよかったよ」
「調教ってなんだ、調教って!」
全然意味が変わるじゃねーか。
俺は馬じゃねーぞ?
信号で車が止まり、千早はこちらに顔を向けた。
「俺好みの身体に躾けるんだから、調教で間違いないだろう? なあ、琳太郎」
爽やかな笑顔でとんでもないことを言われ、俺は顔だけでなく身体まで熱くなるのを感じ、彼から視線を反らした。
「お前、バイトって基本何曜日?」
「あ? えーと、土曜日の昼からと、月曜と水曜日の夕方からが多いかな」
基本、週に三日くらいだ。
駅中にあるそこそこ大きな本屋が、俺の職場だった。
時間遅いと時給がいいし、けっこう力仕事が多いし色んな本を知れて楽しい。
「じゃあ、それ以外はうちに来られるってことだな」
「ちょっと待て、週四でお前んち通えって? せめて週二にしろ! 俺に休みを寄越せ!」
俺としては、十分妥協したつもりだった。
俺の家に着くまでの間、「週何回千早の家に通うのか」論争は続き、俺の家の前に着くころには、金曜日の休みをもぎ取ることに成功した。
その代わり、土曜日のバイトの後、ここに泊まることになってしまったが……
いいのか悪いのかわからないが、休みをもぎ取れたことは大きい。
でもそれっていいのか……?
なんだか千早の罠に、嵌められているような気がして仕方がない。
交渉って、無理難題を最初吹っかけた後、妥協させていくものだからな……
……あ、俺、絶対嵌められた。
毎日通うより、泊まる方がよほどまし、と思ってしまったし、今更撤回もできず。
何とも言えない気持ちで俺はベルトを外し、車から降りようとした。
「琳太郎」
「え?」
名を呼ばれたかと思うと手を掴まれそして、身体を引き寄せられてしまう。
すぐ目の前に千早の顔がある。
いつもは優しい二重の瞳が、妖しい光を帯び、俺の顔を映している。
「お前は俺の物だ。わかってるよな」
「……あぁ……ンなこと、わかってるよ。だからその代り……」
「宮田藍には近づかない。だろ?」
笑う千早の笑顔が怖い。
千早は触れるだけのキスをし、俺から手を離す。
誰に見られるかわかんねーのに、何すんだ、こいつ……!
ここで文句を言ったらいつまでたっても解放されないような気がして、俺は顔が真っ赤になるのを感じながら口もとに手を当てて、
「じゃあな!」
と声を上げ、ドアを開いた。
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