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10絶対に変だ

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 それからも、学校にいけば何となく遊佐君がそばにいることが多かった。
 私としては、何人かと仲良くなりたいな、という思いがあるのだけれど。
 話をするようになったのは、同じゼミの子二人だけだ。
 遊佐君も話をするようになった子はいる様で、男子学生と話している姿がたまに見られた。
 でも、お昼の時間になると必ずそばによってきて、いつの間にか私と遊佐君、それに柊一朗君、ルリと四人で食べるのが習慣化されていた。
 その時、なぜか必ず遊佐君が自然と私の隣に座る。
 私の正面にはルリが座るから、まあ、変とも言い切れないとは思うんだけれど。
 何かこう、気になる。
 あの、入学式の後、私と彼の間の赤い鎖が見えたことはない。
 そもそもしょっちゅう見えるものではないから、気にしても仕方ないんだけれど。
 人の関係なんて変化していくものだから、何かのきっかけで鎖が糸になる可能性もなくはないけれど……無理な気がする。だって鎖だよ? かなり頑丈そうだったもの。
 いや、でも私は遊佐君とどうこうなるつもりはひとかけらもないから。
 だって、絶対遊佐君は変だもの。
 十六歳からホストやっているって話も変だし、日曜日、頼んでもいないのに私の買い物にくっついてきたのも変だ。
 私と遊佐君は、決して仲がいいわけじゃない。
 小さい頃はそこそこ交流があったけれど……ついたり離れたりを繰り返して、高校のときはほぼ切れていた。
 で、高校卒業して急になんなのこれ。
 訳が分からなすぎる。

 入学して二週間たったある日のお昼。
 いつものようになんとなく遊佐君と一緒に学食に行くと、ルリの隣に座った柊一朗君がテーブルに突っ伏していた。
 何あれ。
 気にはなるものの、先にご飯を買わないと、と思い、長い学食の列に並んだ。
 遊佐君はパン屋さんで買ってきたと言うパンを食べるとかで、

「先に行ってるね」

 と言い、私に手を振りルリたちの方へと向かっていった。
 きつねうどんをトレイにのせて、私もルリたちの待つテーブルに向かう。
 テーブルについても、まだ柊一朗君はテーブルに突っ伏していた。

「あ、とよちゃん、やっほ」

 と言い、ルリが笑顔で手を振ってくる。
 私はトレイをテーブルに置き、背負っていたリュックを椅子に掛けてルリの向かいに腰かけた。
 ルリは唐揚げ定食を頼んだらしく、半分くらい食べ終わっている。
 柊一朗君の所には……とりあえずコンビニで買ったと思われるパンが三つほど手つかずで置かれている。
 私は箸を手に持ちつつ、ルリに声をかけた。
 
「どうしたの、柊一朗君」

 すると、ルリは柊一朗君をちらっと見た後、爽やかに笑い言った。

「振られたんですって」

 あ、察し。
 ……でも待って?

「……誰に?」

「大学の子だって」

 入学して二週間。もう振られたってどういうことよ。
 柊一朗君、それでショックを受けてるって事?
 ……今まで何度も振られているだろうに、こんなに凹むのね。ちょっと意外かも。

「今回は何日で振られたの?」

「一週間? デート行く前に振られたとかなんとか」

「ちょっと、ルリちゃん、俺の傷抉らなくてもいいじゃないか」

 がばっと顔を上げ、柊一朗君はルリの方を半眼で見つめる。
 一週間なら長い方なんじゃないかな、知らないけど。

「デート行く前でよかったんじゃないの? だって、デートに行ったら余計に傷つくでしょ」
 
 私はそう言って、うどんに箸をつけた。
 たぶんデートに行ったら、思っていたのと違うとか言われて、振られるだろう。
 私が知る限り、柊一朗君はそうやって何人もの女性に振られてきたはずだ。
 見た目と中身が余りにも違いすぎる柊一朗君。
 彼と付き合いたがる子は、どうもデート一回目でホテルに行くのを望むらしい。まあ、柊一朗君も見た目がいかにも遊んでそうだから、そうなってもおかしくないと思うんだろうけれど。
 ところが柊一朗君はそう言うことができなくって、何度もデートを繰り返した後やっと何とかキスまでたどり着けるかどうかなはず。
 ちなみにそこまでたどり着いた人はいないらしい。

「確かに和華ちゃんの言う通りかもしれないけど……」

 と言い、柊一朗君はまた突っ伏す。

「どっかに運命の相手とかいないかなあ」

 と、くぐもった声で言う。

 運命の相手。

 という言葉に、私の心がざわつきだす。
 私の運命の相手が遊佐君とか、本当にあるだろうか?
 入学式の日に確かに見えた、赤い鎖。
 実は、何かの間違いじゃないか、と思うことが多々ある。
 好きな時に見えたらいいのになあ、赤い糸。
 そうしたらこんなに思い悩まなくて済む……いや、悩むか。
 だって、相手は遊佐君だっていう事実はきっと変わらないんだもんね。
 あれを断ち切るのはかなり大変そうだ。

「運命の赤い糸で結ばれてるってやつ? 柊一朗君、そういうの信じるの?」

 茶化したような口調でルリが言うと、柊一朗君は、うーん、と呻った。
 柊一朗君と赤い糸で結ばれた相手がわかったとして、私は彼にそれを教えることはできない。
 そもそもそう言う相手がいるって、本当に知りたいだろうか?
 私は知りたくなかったな。
 柊一朗君は、突っ伏したままルリの問いに答える。

「だって、何度も何度も振られるから、そう言う相手でも現れないかとかそう言うのを俺だって思うわけで」

「夢見るより、告白してきた相手と付き合うのをどうにかした方がいいんじゃないかな」

 そう言ったのは、私の隣に座っている遊佐君だった。
 それは確かにその通りだ。
 柊一朗君は黙っていてもモテる。
 そして断るのが悪いことだと思っているらしく、誰とでも付き合ってしまう。
 そして想像と違う、と言われて別れる。
 即振る女の方もどうかと思うけれど、誰でも彼でも付き合う柊一朗君もどうかと思う。
 っていうか、そこまで節操なしなのになぜ手も握れないのか不思議で仕方ない。
 柊一朗君は顔だけを上げ、遊佐君を見つめる。

「お前みたいにコクってきた相手全員振るとか俺にはできないの」

「興味のない子と付き合う方が、相手を傷つけると思うけれど」

 これは、遊佐君の方が正論だと思う。
 そして、遊佐君、告白されたことあるんだ。意外なような、意外じゃないような。

「え、じゃあさあ、遊佐君は告白したことはないの?」

 興味津々、という様子でルリが身を乗り出し、目を輝かせて言う。
 遊佐君は頬杖をつき、口角を上げて笑い、

「どうだろうね」

 と答える。
 あ、これは答える気がないやつだ。

「なんで誤魔化すのー? じゃあ、付き合ったことは?」

 食い下がるルリを遊佐君は笑顔で受け流し、柊一朗君の前に転がるパンをひとつ掴んだ。

「食べないなら、俺がもらうよ」

「あ、駄目駄目! 俺食べるから!」

 がばっと起き上がり、柊一朗君は遊佐君からパンをとり返した。
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