18 / 21
飛衣視点の小話
パラダイス2
しおりを挟む
コインロッカーに荷物を預け、俺たちは広大なショッピングパークを歩き回る。
はぐれたら簡単に迷子になりそうだな。そう思った俺は、有名なチョコレートショップの前で立ち止まり、ドリンクメニューを見つめている朱里の腰に手を回した。
「ちょ……お前こんなところで何……」
驚いたのか、朱里は俺を振り返り俺の手を掴んでくる。
「朱里、こうしていないとどこかに行きそうだから」
「い、行かねえよ。子供じゃねえんだから。っていうか誰に見られるか分かんねえから離せよ」
そう言う割には、俺の手を掴んだまま引き離そうとしてこない。
少し前なら必死で俺の腕から逃げようとしてきただろうに。
そんな少しの変化も俺にとって嬉しいものだった。
「人はそこまで他人の事なんで見ていないよ。ねえ、朱里。君は今日すれ違った人たちの事、どれだけ覚えてる? 覚えてないでしょ」
「え、あ……そ、そうだけど……でも」
と言い、朱里は顔を伏せてしまう。
「それより、チョコレートドリンクが気になるなら買おうか」
そう告げて、俺は朱里を店の中に誘った。
朱里は目を輝かせてショーウィンドウの前に立ち、飾られているチョコレートを見つめている。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお声掛けください」
女性店員が笑顔で決まり文句を告げてくる。
俺は、チョコレートドリンクを二つ頼みショーウィンドウの前から動かないでいる朱里の後ろに立ち、彼が何を見ているのかその視線を追った。
「食べたいの?」
「え? あ、え?」
驚きの声を上げ、朱里はこちらを振り返る。
そんなに驚くようなことを言っていないだろうに。
朱里は目を瞬かせたあと、チョコレートの方に視線を向けて呟く。
「でも高いじゃん?」
まあ、一般的なチョコレートから考えたら値段は高めかもだが、朱里が食べたいと言うのなら出費を惜しむつもりはなかった。
「どれが食べたいの」
「そんなの選べるかよ」
などと言いだすので、俺は色んな種類が入っているアソートの商品を選び、それを購入することにした。
買った商品とチョコレートドリンクを受け取り、ドリンクのカップを戸惑いの顔をする朱里に差し出しながら俺は言った。
「ホテルに着いたら食べようか」
「え、あ……うん」
と言い、朱里は俯いてしまった。
店を出て話をしながらドリンクを飲んでいると、朱里がキョロキョロとしだした。
「俺、トイレ行ってくる」
と言い、俺にカップを差し出す。
「気をつけてね、朱里」
言いながらカップを受け取ると、彼は首を振り、
「迷子とかならねぇよ」
と言い、トイレがある方へと消えてしまった。
俺が言いたいのはそういうことじゃないけれど。
そう思いながら、通り過ぎていく人の波を見つめる。
この中にきっと、アルファやオメガが何人かいることだろう。
アルファとオメガ。
合わせて人口の一パーセントもいないと言われているし、町中で遭遇することは余りない。
そのため気にしてこなかったけれど、これだけの人がいればアルファは何人かいるだろうし、アルファの匂いを纏う朱里に興味をもつ者がいてもおかしくないだろう。
だからそういう輩に声をかけられないか心配だった。
俺は朱里が消えていった方へと歩き出す。
少し歩くと、トイレのある通路から出てきたところで朱里が男に話しかけられているのが見えた。
誰だ、あれは。
背は百八十近くだろうか。
見るからに体育会系の、色黒の男だった。
朱里は苦笑いをして両手を胸の前に出して首を横に振っている。
何か声をかけられて拒絶しているように見えるが、何を言われているのだろうか。
この距離じゃあわからないが、アルファだろうか?
もう少し近付けば匂いがするだろうけれど……
やはり首輪とかつけておかないと危険な気がする。
朱里は俺のものだという証をつけておかないと。
俺はまっすぐに朱里へと向かっていき、そして男との間に割って入り朱里へと笑いかけた。
「これ飲み終えたら次の店に行こう?」
すると朱里はほっとしたような顔をして俺からカップを受け取る。
「あ、ありがとう」
「あー、そういうことなんだ」
後ろから聞こえる、愉快そうな声に不快感を覚える。
俺は男を振り返り、にっこりと微笑み言った。
「俺の連れに何か?」
「気になったからナンパしてたんだけど。そっかー、君が匂いの理由か」
と言い、男は笑う。
この男、やはりアルファだ。そういう匂いがする。
朱里がナンパされるとは思ってもみなかった。人の多いところでひとりにさせられないな、それじゃあ。
「ナンパって、俺男……」
「別に男も女もベータもオメガも関係ないから」
なんて言い、男は笑う。
こういうのは厄介だ。
アルファの匂いに弱い朱里だし、あっという間に篭絡してしまうかもしれない。
俺は朱里の腕をつかみ、
「行こう」
と言い、早足で歩き始めた。
「ちょ、と、飛衣!」
朱里に近づくアルファの存在に不快感を覚える。
朱里は俺のものなのに、朱里がオメガなら他のアルファを寄せ付けなくて済むのに。
わかっていたはずなのに、いざ目の前で朱里がナンパなどされるとやりようのない感情に心が支配されてしまう。
これは嫉妬だろうか。それとも独占欲?
朱里はほんとうに危うい。
首輪……首輪……
「……飛衣」
声がかかりぐい、と肩を掴まれて振り返ると、朱里が下を俯き言った。
「えーと、あ……ありがと」
ありがとう。
確かに朱里はそう言った。
何を感謝しているのかわからず戸惑っていると、顔を上げて恥ずかしげに言った。
「なんか、名前とか連絡先とか誰と来たとかしつこく聞かれてさ、そんなん初めてだったからわけわかんなくって困ってたから」
「ねえ朱里」
「なに」
やっぱり首輪が必要だろうか。どこかに行ってしまわないようない。
俺は朱里の首に触れ、
「お守り、買おうか」
と言い、そのまま彼を抱き寄せた。
はぐれたら簡単に迷子になりそうだな。そう思った俺は、有名なチョコレートショップの前で立ち止まり、ドリンクメニューを見つめている朱里の腰に手を回した。
「ちょ……お前こんなところで何……」
驚いたのか、朱里は俺を振り返り俺の手を掴んでくる。
「朱里、こうしていないとどこかに行きそうだから」
「い、行かねえよ。子供じゃねえんだから。っていうか誰に見られるか分かんねえから離せよ」
そう言う割には、俺の手を掴んだまま引き離そうとしてこない。
少し前なら必死で俺の腕から逃げようとしてきただろうに。
そんな少しの変化も俺にとって嬉しいものだった。
「人はそこまで他人の事なんで見ていないよ。ねえ、朱里。君は今日すれ違った人たちの事、どれだけ覚えてる? 覚えてないでしょ」
「え、あ……そ、そうだけど……でも」
と言い、朱里は顔を伏せてしまう。
「それより、チョコレートドリンクが気になるなら買おうか」
そう告げて、俺は朱里を店の中に誘った。
朱里は目を輝かせてショーウィンドウの前に立ち、飾られているチョコレートを見つめている。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお声掛けください」
女性店員が笑顔で決まり文句を告げてくる。
俺は、チョコレートドリンクを二つ頼みショーウィンドウの前から動かないでいる朱里の後ろに立ち、彼が何を見ているのかその視線を追った。
「食べたいの?」
「え? あ、え?」
驚きの声を上げ、朱里はこちらを振り返る。
そんなに驚くようなことを言っていないだろうに。
朱里は目を瞬かせたあと、チョコレートの方に視線を向けて呟く。
「でも高いじゃん?」
まあ、一般的なチョコレートから考えたら値段は高めかもだが、朱里が食べたいと言うのなら出費を惜しむつもりはなかった。
「どれが食べたいの」
「そんなの選べるかよ」
などと言いだすので、俺は色んな種類が入っているアソートの商品を選び、それを購入することにした。
買った商品とチョコレートドリンクを受け取り、ドリンクのカップを戸惑いの顔をする朱里に差し出しながら俺は言った。
「ホテルに着いたら食べようか」
「え、あ……うん」
と言い、朱里は俯いてしまった。
店を出て話をしながらドリンクを飲んでいると、朱里がキョロキョロとしだした。
「俺、トイレ行ってくる」
と言い、俺にカップを差し出す。
「気をつけてね、朱里」
言いながらカップを受け取ると、彼は首を振り、
「迷子とかならねぇよ」
と言い、トイレがある方へと消えてしまった。
俺が言いたいのはそういうことじゃないけれど。
そう思いながら、通り過ぎていく人の波を見つめる。
この中にきっと、アルファやオメガが何人かいることだろう。
アルファとオメガ。
合わせて人口の一パーセントもいないと言われているし、町中で遭遇することは余りない。
そのため気にしてこなかったけれど、これだけの人がいればアルファは何人かいるだろうし、アルファの匂いを纏う朱里に興味をもつ者がいてもおかしくないだろう。
だからそういう輩に声をかけられないか心配だった。
俺は朱里が消えていった方へと歩き出す。
少し歩くと、トイレのある通路から出てきたところで朱里が男に話しかけられているのが見えた。
誰だ、あれは。
背は百八十近くだろうか。
見るからに体育会系の、色黒の男だった。
朱里は苦笑いをして両手を胸の前に出して首を横に振っている。
何か声をかけられて拒絶しているように見えるが、何を言われているのだろうか。
この距離じゃあわからないが、アルファだろうか?
もう少し近付けば匂いがするだろうけれど……
やはり首輪とかつけておかないと危険な気がする。
朱里は俺のものだという証をつけておかないと。
俺はまっすぐに朱里へと向かっていき、そして男との間に割って入り朱里へと笑いかけた。
「これ飲み終えたら次の店に行こう?」
すると朱里はほっとしたような顔をして俺からカップを受け取る。
「あ、ありがとう」
「あー、そういうことなんだ」
後ろから聞こえる、愉快そうな声に不快感を覚える。
俺は男を振り返り、にっこりと微笑み言った。
「俺の連れに何か?」
「気になったからナンパしてたんだけど。そっかー、君が匂いの理由か」
と言い、男は笑う。
この男、やはりアルファだ。そういう匂いがする。
朱里がナンパされるとは思ってもみなかった。人の多いところでひとりにさせられないな、それじゃあ。
「ナンパって、俺男……」
「別に男も女もベータもオメガも関係ないから」
なんて言い、男は笑う。
こういうのは厄介だ。
アルファの匂いに弱い朱里だし、あっという間に篭絡してしまうかもしれない。
俺は朱里の腕をつかみ、
「行こう」
と言い、早足で歩き始めた。
「ちょ、と、飛衣!」
朱里に近づくアルファの存在に不快感を覚える。
朱里は俺のものなのに、朱里がオメガなら他のアルファを寄せ付けなくて済むのに。
わかっていたはずなのに、いざ目の前で朱里がナンパなどされるとやりようのない感情に心が支配されてしまう。
これは嫉妬だろうか。それとも独占欲?
朱里はほんとうに危うい。
首輪……首輪……
「……飛衣」
声がかかりぐい、と肩を掴まれて振り返ると、朱里が下を俯き言った。
「えーと、あ……ありがと」
ありがとう。
確かに朱里はそう言った。
何を感謝しているのかわからず戸惑っていると、顔を上げて恥ずかしげに言った。
「なんか、名前とか連絡先とか誰と来たとかしつこく聞かれてさ、そんなん初めてだったからわけわかんなくって困ってたから」
「ねえ朱里」
「なに」
やっぱり首輪が必要だろうか。どこかに行ってしまわないようない。
俺は朱里の首に触れ、
「お守り、買おうか」
と言い、そのまま彼を抱き寄せた。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。
ナッツに恋するナツの虫
珈琲きの子
BL
究極の一般人ベータである辻井那月は、美術品のような一流のアルファである栗栖東弥に夢中だった。
那月は彼を眺める毎日をそれなりに楽しく過ごしていたが、ある日の飲み会で家に来るように誘われ……。
オメガ嫌いなアルファとそんなアルファに流されるちょっとおバカなベータのお話。
*オメガバースの設定をお借りしていますが、独自の設定も盛り込んでいます。
*予告なく性描写が入ります。
*モブとの絡みあり(保険)
*他サイトでも投稿
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
平凡くんと【特別】だらけの王道学園
蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。
王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。
※今のところは主人公総受予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる