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飛衣視点の小話
パラダイス2
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コインロッカーに荷物を預け、俺たちは広大なショッピングパークを歩き回る。
はぐれたら簡単に迷子になりそうだな。そう思った俺は、有名なチョコレートショップの前で立ち止まり、ドリンクメニューを見つめている朱里の腰に手を回した。
「ちょ……お前こんなところで何……」
驚いたのか、朱里は俺を振り返り俺の手を掴んでくる。
「朱里、こうしていないとどこかに行きそうだから」
「い、行かねえよ。子供じゃねえんだから。っていうか誰に見られるか分かんねえから離せよ」
そう言う割には、俺の手を掴んだまま引き離そうとしてこない。
少し前なら必死で俺の腕から逃げようとしてきただろうに。
そんな少しの変化も俺にとって嬉しいものだった。
「人はそこまで他人の事なんで見ていないよ。ねえ、朱里。君は今日すれ違った人たちの事、どれだけ覚えてる? 覚えてないでしょ」
「え、あ……そ、そうだけど……でも」
と言い、朱里は顔を伏せてしまう。
「それより、チョコレートドリンクが気になるなら買おうか」
そう告げて、俺は朱里を店の中に誘った。
朱里は目を輝かせてショーウィンドウの前に立ち、飾られているチョコレートを見つめている。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお声掛けください」
女性店員が笑顔で決まり文句を告げてくる。
俺は、チョコレートドリンクを二つ頼みショーウィンドウの前から動かないでいる朱里の後ろに立ち、彼が何を見ているのかその視線を追った。
「食べたいの?」
「え? あ、え?」
驚きの声を上げ、朱里はこちらを振り返る。
そんなに驚くようなことを言っていないだろうに。
朱里は目を瞬かせたあと、チョコレートの方に視線を向けて呟く。
「でも高いじゃん?」
まあ、一般的なチョコレートから考えたら値段は高めかもだが、朱里が食べたいと言うのなら出費を惜しむつもりはなかった。
「どれが食べたいの」
「そんなの選べるかよ」
などと言いだすので、俺は色んな種類が入っているアソートの商品を選び、それを購入することにした。
買った商品とチョコレートドリンクを受け取り、ドリンクのカップを戸惑いの顔をする朱里に差し出しながら俺は言った。
「ホテルに着いたら食べようか」
「え、あ……うん」
と言い、朱里は俯いてしまった。
店を出て話をしながらドリンクを飲んでいると、朱里がキョロキョロとしだした。
「俺、トイレ行ってくる」
と言い、俺にカップを差し出す。
「気をつけてね、朱里」
言いながらカップを受け取ると、彼は首を振り、
「迷子とかならねぇよ」
と言い、トイレがある方へと消えてしまった。
俺が言いたいのはそういうことじゃないけれど。
そう思いながら、通り過ぎていく人の波を見つめる。
この中にきっと、アルファやオメガが何人かいることだろう。
アルファとオメガ。
合わせて人口の一パーセントもいないと言われているし、町中で遭遇することは余りない。
そのため気にしてこなかったけれど、これだけの人がいればアルファは何人かいるだろうし、アルファの匂いを纏う朱里に興味をもつ者がいてもおかしくないだろう。
だからそういう輩に声をかけられないか心配だった。
俺は朱里が消えていった方へと歩き出す。
少し歩くと、トイレのある通路から出てきたところで朱里が男に話しかけられているのが見えた。
誰だ、あれは。
背は百八十近くだろうか。
見るからに体育会系の、色黒の男だった。
朱里は苦笑いをして両手を胸の前に出して首を横に振っている。
何か声をかけられて拒絶しているように見えるが、何を言われているのだろうか。
この距離じゃあわからないが、アルファだろうか?
もう少し近付けば匂いがするだろうけれど……
やはり首輪とかつけておかないと危険な気がする。
朱里は俺のものだという証をつけておかないと。
俺はまっすぐに朱里へと向かっていき、そして男との間に割って入り朱里へと笑いかけた。
「これ飲み終えたら次の店に行こう?」
すると朱里はほっとしたような顔をして俺からカップを受け取る。
「あ、ありがとう」
「あー、そういうことなんだ」
後ろから聞こえる、愉快そうな声に不快感を覚える。
俺は男を振り返り、にっこりと微笑み言った。
「俺の連れに何か?」
「気になったからナンパしてたんだけど。そっかー、君が匂いの理由か」
と言い、男は笑う。
この男、やはりアルファだ。そういう匂いがする。
朱里がナンパされるとは思ってもみなかった。人の多いところでひとりにさせられないな、それじゃあ。
「ナンパって、俺男……」
「別に男も女もベータもオメガも関係ないから」
なんて言い、男は笑う。
こういうのは厄介だ。
アルファの匂いに弱い朱里だし、あっという間に篭絡してしまうかもしれない。
俺は朱里の腕をつかみ、
「行こう」
と言い、早足で歩き始めた。
「ちょ、と、飛衣!」
朱里に近づくアルファの存在に不快感を覚える。
朱里は俺のものなのに、朱里がオメガなら他のアルファを寄せ付けなくて済むのに。
わかっていたはずなのに、いざ目の前で朱里がナンパなどされるとやりようのない感情に心が支配されてしまう。
これは嫉妬だろうか。それとも独占欲?
朱里はほんとうに危うい。
首輪……首輪……
「……飛衣」
声がかかりぐい、と肩を掴まれて振り返ると、朱里が下を俯き言った。
「えーと、あ……ありがと」
ありがとう。
確かに朱里はそう言った。
何を感謝しているのかわからず戸惑っていると、顔を上げて恥ずかしげに言った。
「なんか、名前とか連絡先とか誰と来たとかしつこく聞かれてさ、そんなん初めてだったからわけわかんなくって困ってたから」
「ねえ朱里」
「なに」
やっぱり首輪が必要だろうか。どこかに行ってしまわないようない。
俺は朱里の首に触れ、
「お守り、買おうか」
と言い、そのまま彼を抱き寄せた。
はぐれたら簡単に迷子になりそうだな。そう思った俺は、有名なチョコレートショップの前で立ち止まり、ドリンクメニューを見つめている朱里の腰に手を回した。
「ちょ……お前こんなところで何……」
驚いたのか、朱里は俺を振り返り俺の手を掴んでくる。
「朱里、こうしていないとどこかに行きそうだから」
「い、行かねえよ。子供じゃねえんだから。っていうか誰に見られるか分かんねえから離せよ」
そう言う割には、俺の手を掴んだまま引き離そうとしてこない。
少し前なら必死で俺の腕から逃げようとしてきただろうに。
そんな少しの変化も俺にとって嬉しいものだった。
「人はそこまで他人の事なんで見ていないよ。ねえ、朱里。君は今日すれ違った人たちの事、どれだけ覚えてる? 覚えてないでしょ」
「え、あ……そ、そうだけど……でも」
と言い、朱里は顔を伏せてしまう。
「それより、チョコレートドリンクが気になるなら買おうか」
そう告げて、俺は朱里を店の中に誘った。
朱里は目を輝かせてショーウィンドウの前に立ち、飾られているチョコレートを見つめている。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお声掛けください」
女性店員が笑顔で決まり文句を告げてくる。
俺は、チョコレートドリンクを二つ頼みショーウィンドウの前から動かないでいる朱里の後ろに立ち、彼が何を見ているのかその視線を追った。
「食べたいの?」
「え? あ、え?」
驚きの声を上げ、朱里はこちらを振り返る。
そんなに驚くようなことを言っていないだろうに。
朱里は目を瞬かせたあと、チョコレートの方に視線を向けて呟く。
「でも高いじゃん?」
まあ、一般的なチョコレートから考えたら値段は高めかもだが、朱里が食べたいと言うのなら出費を惜しむつもりはなかった。
「どれが食べたいの」
「そんなの選べるかよ」
などと言いだすので、俺は色んな種類が入っているアソートの商品を選び、それを購入することにした。
買った商品とチョコレートドリンクを受け取り、ドリンクのカップを戸惑いの顔をする朱里に差し出しながら俺は言った。
「ホテルに着いたら食べようか」
「え、あ……うん」
と言い、朱里は俯いてしまった。
店を出て話をしながらドリンクを飲んでいると、朱里がキョロキョロとしだした。
「俺、トイレ行ってくる」
と言い、俺にカップを差し出す。
「気をつけてね、朱里」
言いながらカップを受け取ると、彼は首を振り、
「迷子とかならねぇよ」
と言い、トイレがある方へと消えてしまった。
俺が言いたいのはそういうことじゃないけれど。
そう思いながら、通り過ぎていく人の波を見つめる。
この中にきっと、アルファやオメガが何人かいることだろう。
アルファとオメガ。
合わせて人口の一パーセントもいないと言われているし、町中で遭遇することは余りない。
そのため気にしてこなかったけれど、これだけの人がいればアルファは何人かいるだろうし、アルファの匂いを纏う朱里に興味をもつ者がいてもおかしくないだろう。
だからそういう輩に声をかけられないか心配だった。
俺は朱里が消えていった方へと歩き出す。
少し歩くと、トイレのある通路から出てきたところで朱里が男に話しかけられているのが見えた。
誰だ、あれは。
背は百八十近くだろうか。
見るからに体育会系の、色黒の男だった。
朱里は苦笑いをして両手を胸の前に出して首を横に振っている。
何か声をかけられて拒絶しているように見えるが、何を言われているのだろうか。
この距離じゃあわからないが、アルファだろうか?
もう少し近付けば匂いがするだろうけれど……
やはり首輪とかつけておかないと危険な気がする。
朱里は俺のものだという証をつけておかないと。
俺はまっすぐに朱里へと向かっていき、そして男との間に割って入り朱里へと笑いかけた。
「これ飲み終えたら次の店に行こう?」
すると朱里はほっとしたような顔をして俺からカップを受け取る。
「あ、ありがとう」
「あー、そういうことなんだ」
後ろから聞こえる、愉快そうな声に不快感を覚える。
俺は男を振り返り、にっこりと微笑み言った。
「俺の連れに何か?」
「気になったからナンパしてたんだけど。そっかー、君が匂いの理由か」
と言い、男は笑う。
この男、やはりアルファだ。そういう匂いがする。
朱里がナンパされるとは思ってもみなかった。人の多いところでひとりにさせられないな、それじゃあ。
「ナンパって、俺男……」
「別に男も女もベータもオメガも関係ないから」
なんて言い、男は笑う。
こういうのは厄介だ。
アルファの匂いに弱い朱里だし、あっという間に篭絡してしまうかもしれない。
俺は朱里の腕をつかみ、
「行こう」
と言い、早足で歩き始めた。
「ちょ、と、飛衣!」
朱里に近づくアルファの存在に不快感を覚える。
朱里は俺のものなのに、朱里がオメガなら他のアルファを寄せ付けなくて済むのに。
わかっていたはずなのに、いざ目の前で朱里がナンパなどされるとやりようのない感情に心が支配されてしまう。
これは嫉妬だろうか。それとも独占欲?
朱里はほんとうに危うい。
首輪……首輪……
「……飛衣」
声がかかりぐい、と肩を掴まれて振り返ると、朱里が下を俯き言った。
「えーと、あ……ありがと」
ありがとう。
確かに朱里はそう言った。
何を感謝しているのかわからず戸惑っていると、顔を上げて恥ずかしげに言った。
「なんか、名前とか連絡先とか誰と来たとかしつこく聞かれてさ、そんなん初めてだったからわけわかんなくって困ってたから」
「ねえ朱里」
「なに」
やっぱり首輪が必要だろうか。どこかに行ってしまわないようない。
俺は朱里の首に触れ、
「お守り、買おうか」
と言い、そのまま彼を抱き寄せた。
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