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飛衣視点の小話

バレンタイン

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 二月十四日木曜日。
 バレンタインデーということもあり、朝から教室はざわついていた。

「夏目君、これ!」

 クラスの女子から渡される義理チョコを、俺は笑顔で受け取り礼を告げる。

「ありがとう」

 一部の女子たちはクラス全員にチョコを配って周り、他の女子たちは友達同士でチョコを渡し合う。
 昔はバレンタインに告白、なんてことがあったらしいが最近本命チョコとか聞いたことはない。
 チョコやお菓子をプレゼントしあって食べるイベント、と言った方が正しい気がする。
 廊下や教室で受け取ったチョコをバッグにしまっていると視線に気が付く。
 窓際の席に腰かけて俺を見つめるのは朱里だった。
 俺と視線を合わせるとさっと顔を反らしてしまう。
 けれど気になるのかちらちらとこちらを見てくる。
 いつもは一度視線を反らしたら見ては来ないのに、今日はどうしたんだろうか。
 
「夏目君にもこれ!」

 不意に声がかかり、クラスメイトの女子から小さな赤い紙袋を差し出される。

「あぁ、ありがとう」

 笑顔で受け取りそれをバッグにしまいながら、ちらり、と朱里の方を見る。
 やはり彼は俺の方を見ていた。
 気になるんだろうか。
 俺がチョコを貰っているのが。
 自分だって何人かの女子から渡されているだろうに。
 俺はじっと、朱里を見る。
 すると彼は目を大きく見開いて頬を紅く染め、下を俯いてしまう。

「おっはよー、朱里、お前にもこれやるよ!」

 騒がしく入ってきた同級生が、朱里に小さな紙袋を押し付ける。
 朱里は驚いた顔をした後ぎこちなく笑い、

「あ、あぁ、ありがとう」

 と言い、また、俺の方をちらり、と見る。
 俺の反応が気になるのだろうか。
 さすがに同級生の男にチョコを貰ったからと言って俺が嫉妬するわけがない。
 そもそも朱里は俺の物なのだ。朱里が俺以外を選ぶなんてありえない。
 けれど、朱里はどこか不安な顔を見せる。
 だからずっと俺を見ているのだろうか。
 どんなに愛を囁いても、なかなか彼には伝わらないらしい。
 俺はスマホを取り出し、運転手に連絡をとる。
 すぐに返信があり、

『かしこまりました』

 という言葉を確認して俺はブレザーのポケットにスマホをしまう。
 俺は朱里に近づくと、びくっと身体を震えさせ、目を大きく見開く彼の耳元に唇を寄せて言った。

「今日、うちにおいで」

「……って、今日は……」

 言いかけて、朱里は口を閉ざす。
 今日は木曜日。朱里がうちに来る日じゃない。
 けれど今日は、特別だ。
 戸惑った顔をする朱里に笑いかけ、俺は手を振り自分の席へと戻る。
 バレンタインなのだから、甘い時間を過ごしたいと望むのは当たり前だろう。
 
「夏目君、超笑顔だけどどうしたの? いいことあったの?」

 隣の席の女子にそう声をかけられて、俺は頷き答えた。

「ちょっとね」

「もしかして恋人?」

 その言葉に俺は笑うだけで何も答えなかった。
 恋人、なんて生半可なものじゃない。
 俺にとって朱里はただ唯一の存在なのだから。



 放課後。
 朱里は戸惑った顔をしながらも俺に着いてきた。

「なんで、木曜日なのに……」

 玄関を出てそう呟く朱里の腕を掴み、引き寄せて言った。

「チョコレート」

「……チョコ?」

「朱里と一緒に食べたいから」

 そう答えて、俺は自分の言葉を自分の中で否定する。
 朱里と食べたいのはそうだけど少し違う。
 朱里も食べたいからだ。

「た、食べたいって……」

「貰ったチョコレートじゃないよ。俺が、君の為に用意したチョコだよ」

 正確には、運転手に用意させた、だけど。

「なんでそんな」

「何でって、今日はバレンタインでしょ? まあ、愛する人と一緒にいたいって想いは、いつでも変わらないけど」

「ちょっ……こんなところでそんな話するなよ……! 誰かに聞かれたら」

 焦った様子で朱里は呟き、辺りへと視線を向けようとする。その顎を掴み、俺は彼の目を見つめて言った。

「ねえ、朱里。俺だけを見ていればいいよ」

 君の世界に、俺以外の存在なんていらないんだから。
 朱里は真っ赤な顔をしたあと俯き、

「は、早く行こうぜ」

 と、余裕のない声で言った。


 俺の家の俺の部屋の中。
 ソファーに隣り合って座り、俺は用意されていたチョコレートの箱を空けた。
 箱の中にならぶ、丸いチョコレートたち。
 そのひとつを摘み、俺はそれを朱里の口もとに寄せた。

「はい、朱里」

「あ……」

 戸惑い気味に開いた唇の隙間に、丸いチョコレートが滑り込む。
 朱里真っ赤な顔をして口を押え、チョコレートを飲み込むと呟いた。

「おいしい……」

「当たり前でしょ? 俺が君の為に用意したんだから」

 言いながら俺は、チョコレートをもうひとつ摘まみ、朱里の肩に手をまわしてその身体を引き寄せてから、唇にチョコレートを当てる。
 今度は自分から口を開き、朱里はチョコレートをぱくり、と口にする。
 そこに俺は顔を寄せ、唇を重ねた。

「んン……」

 薄く開いた唇から舌を差し込むと、甘いチョコレートが舌に絡まる。
 早く朱里を食べたい。
 俺はそのまま朱里をソファーに押し倒し、角度を変えて口づけながら、ワイシャツの隙間から肌に触れた。
 首に朱里の腕が絡まり、舌を懸命に動かしてくる。
 唇を離すと、朱里はうっとりとした顔で俺を見つめて言った。

「飛衣……もっとぉ……」

「もっとってチョコ? それとも、キスかな」

 言いながら肌を撫でると、朱里は小さく喘ぎ、まつ毛を震わせる。

「ん……匂いが、強いからぁ……」

 あぁ、そういうことか。
 そんなつもりはなかったけれど、きっと今、朱里は俺から漂うアルファのフェロモンで発情状態になってしまっているのだろう。
 いつもよりも反応が敏感なのは、それだけ今日、俺の匂いが濃いのだろう。
 朱里は少し肌を撫でただけで腰を浮かし、荒い息を繰り返している。
 
「可愛い、朱里。じゃあ、自分で服脱いで?」

 言いながら俺は彼の上からどくと、朱里は戸惑う様子を見せたが立ち上がり、俺の目の前でゆっくりと服を脱ぎ始めた。
 ワイシャツと、その下に着ているTシャツ。それにスラックスと下着を脱ぐと、すっかり硬くなったペニスが天を向き、先走りを溢れさせているのがわかる。
 朱里は真っ赤な顔をして俺を見下ろし言った。

「次、は……どうしたらいいんだよ?」

「じゃあ、そのまま俺の膝に座って?」

 すると朱里は俺の首に手を回し俺の膝に乗る。
 俺は、朱里の背中に手を回し、乳首を口に含み舌で転がした。

「あ……ン……」

 無意識なのか、わざとなのか、朱里は俺の腹に腰を擦り付けてくる。
 朱里は裸だけど、俺はまだ制服姿だ。
 このままだと俺のワイシャツは朱里の精液塗れにされてしまいそうだ。
 それも悪くないけれど、できれば俺が朱里を精液塗れにしたい。
 ほどほどで止めなければ。
 すっかり尖った乳首から口を離し、俺は朱里を見上げる。

「飛衣……もっと、欲しいよぉ」

 鼻にかかる甘い声に、俺の心が揺れ動く。
 早く抱きたい。早く、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
 でも彼はベータだ。抱くには準備が必要だ。

「そうだね、朱里。じゃあ、一緒にお風呂に行こうか」

 俺の言葉を聞き、朱里は頷いた。



 湯船の中。
 朱里が俺の上で腰を揺らしている。
 すっかり慣らされた朱里のそこは、俺のペニスを難なく飲み込めるようになっていた。
 
「飛衣……好き、飛衣……」

 うわ言のように繰り返し、朱里は俺に口づけてくる。
 素直な朱里も、欲望に抗おうとする朱里もどちらも愛らしい。
 
「俺も、愛してるよ、朱里」

 口づけの合間にそう告げて、俺は朱里の腰を掴み激しく揺らした。
 可愛い朱里。
 俺の腕の中で喘いで、甘い夢をずっと見ていたらいい。
 君は俺の、唯一の番なんだから。
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