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4そばにいないのに

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 足早に家に入り、階段を駆け上がって自室へと入る。
 そして俺は荷物を床に投げ、ブレザーを脱がずベッドに寝転がった。
 飛衣はそばにいないのに、あいつの匂いが身体に絡みついていて、ペニスは勃起してるし、後孔は疼いている。

「あ……はぁ……」

 こんなの初めてだ。
 飛衣の……飛衣の匂いが身体から離れない。

「と、い……」

 名前を呼び、俺はもたつく手でブレザーを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外してスラックスを脱いだ。
 ブレザーから、あいつの匂いがわずかに漂う。
 
「う、あぁ……」

 俺は下着を脱ぎ、ペニスに手を伸ばした。
 それは硬く勃ちあがり、先走りを溢れさせている。
 俺はその先走りを指に絡ませ、上下に手を動かした。
 飛衣に抱かれているときのことを思い出しながら。
 飛衣は必ず俺を後ろから貫き耳元で、

『愛してるよ、朱里』

 と囁き俺のうなじを噛む。
 ……その時が一番気持ちいい。
 思い出すだけでペニスを扱く手は早くなる。

「と、い……」

 もっと欲しいのに。
 飛衣の匂いはわずかしかしない。
 当たり前か、このブレザーは俺の物なんだから。
 ただわずかに接触しただけじゃあ、大して匂いなんてつくわけがない。

「い、あ……」

 さっき、飛衣に煽られたせいだ。
 だからこんな風になったんだ。
 
「と、い……飛衣……」

 あいつに変えられた身体は、ペニスを扱いただけじゃあイけるわけがない。
 それはそうだ。
 リボンで縛られ、後ろでイくのを教え込まれたんだから。ペニスを扱いてもイけるわけねえじゃねえか。
 なんで飛衣は、俺を煽るだけ煽って家に帰したんだ?
 意味わかんねえよ。

『君はきっと、自分から求めるよ、俺を』

 飛衣は、そう言っていた。
 それって、俺から欲しいって言わせたいから?
 今日は月曜日だぞ。

「と、い……飛衣……」

 欲しい。
 飛衣が欲しい。
 でもここにあいつはいない。
 俺は、ペニスから手を離し、ベッドに座り大きく息を吐いた。
 イきたいのにイけない。それが苦しくて仕方ない。
 俺はブレザーを握りしめ、匂いを嗅ぐ。だけど、大してあいつの匂いはしない。
 もっと欲しいのに。
 来週末まで我慢なんてできるわけねえだろ。
 飛衣が欲しい。
 でもここにあいつはいない。
 ブレザーのポケットから、俺はスマホを取り出しその画面を見つめた。
 あいつに連絡する? でも連絡してどうするんだよ。
 抱いて、って懇願する?
 時間はもう五時近い。こんな時間に家をでたらさすがに親に不審がられるだろう。
 今日は我慢しないと。俺は首を横に振り、よろよろと起き上がり服を着替えてシャワーを浴びようと部屋を出た。


 火曜日。
 ろくに眠れず俺は大きな欠伸をして机に突っ伏した。
 眠い。
 まさか、予知もしてないのに寝不足になることがあるなんて思わなかった。
 教室のざわめきがうるさく感じる。

「あれ、朱里、どうしたの? また予知?」

 頭の上からライの声が降ってくる。
 俺は顔をあげず、

「ちげーよ」

 とだけ答える。ヤりたくて眠れなかったなんて言えるわけがねえし。
 予知の方がよっぽどいい。諦めがつく。でもこれ……どうしたらいいんだよ。
 
「まあ、無理すんなよ」

 と言い、ライは去って行く。
 そこで俺は顔を上げた。
 なんでライが去って行ったのかすぐに悟る。
 飛衣が、こちらに近づいてくる。当たり前だ、あいつは俺の前の席なんだから。
 クラスメイトと挨拶を交わして俺の前に来ると、

「おはよう」

 と言った。

「お、おはよう」

 そう答え、俺は視線を反らす。
 飛衣から匂いはしない。
 
「眠そうだけど、何か見たの」

 淡々と言われ、俺は首を横に振る。

「違う、そうじゃねえけど……」

 お前の匂いがして眠れなかった、なんて言えるかよ。

「朱里」

 名前を呼ばれ、俺はびく、として顔を上げる。

「な、んだよ」

 手が、俺の頬に触れると同時に匂いがする。

「顔色悪いけど、大丈夫? 送っていこうか」

 その言葉に俺は首を横に振る。

「だ、大丈夫、だから」

 呻き声交じりに俺が言うと、飛衣はふっと笑い、

「ほんと、強情だよね」

 と言い、俺から手を下ろした。
 強情とかそんなんじゃねえよ。
 またいつ予知を見るかわかんねえから、できる限り授業は受けておきたいんだよ……!
 
「欲しくなったら言いなよ、朱里」

「……!」

 欲しいよ。今だって欲しくてたまらない。だけど……今はそんなこと言えねえから俺は、耐える、という選択肢しか取れなかった。
 
「夏目君、おはよう」

 という女子の声が響く。

「あぁ、おはよう」

 続いて飛衣の声が聞こえる。
 飛衣を囲む生徒たち。
 彼女たちも香水や制汗剤の匂いがするけど、飛衣の匂いとは全然違う。
 色んな匂いがする中で、飛衣の匂いだけは違った。
 身体に、心に絡まりつく匂いだ。この匂いから俺は逃げられない。
 見合いがあるならいいじゃねえか。
 俺なんかに構ってないで、見合いして番を見つけたらいいのに。飛衣は俺を誘惑し続ける。



 なんとか一日を終え、帰り支度をする。
 俺飛衣がクラスメイトの誘いをかわしているのが耳に入る。

「ゴールデンウィーク何か予定あるの?」

 と聞かれた飛衣は、ちらり、と俺の方を見て言った。

「とりあえず受験生だしね」

 とはぐらかす。

「夏目君、アルファなんだし受験余裕でしょ?」

 アルファってだけで俺たちベータより頭がいい。
 飛衣はたしか、学年でトップなはずだから推薦だって余裕でとれるだろう。

「あはは、そうだね」

 と、やっぱり明確には答えず、飛衣はこちらを振り返った。

「ねえ朱里」

「え、あ、何だよ」

 さっさと帰りたいのに。
 飛衣は俺をそのまま帰すつもりはないらしい。
 彼は俺に手を伸ばして俺の腕を掴んで言った。

「送っていくよ」

「べ、別にいらねえよ」

 っていうか、周りの女子の目が怖いんだけど?
 怯える俺をよそに、飛衣は俺を引っ張っていく。

「ちょ……」

「夏目君?」

 背中に女子の声が聞こえるが、飛衣はそれを無視して俺を教室の外に連れ出した。
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