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2 1年間の授業
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魔術師の試験に合格したら、一年間授業を受ける。それが終わると、魔術師として活動して仕事ができるそうだ。
今年の合格者は二十人ほど。十六歳から十九歳の者だけが受験資格があり、毎年五百人ほどが受験するらしい。
合格率低くないか?
魔術師はいわゆる公務員扱いになり、授業料はタダになる。寮だし食事もでるから生活は保障される。給料もすこしだけど出る。
魔術師は国からの援助があって仕事を斡旋してもらえる。
学校の先生だったり、古文書の解読だったり。だから路頭に迷うことはまずない。
俺たちは手続きを済ませると、教室で待つように言われてライナーと待つことになった。
そこにさっき俺の使い魔についていろいろ言ってきたトビアスと、その取り巻きらしい男女が入ってくる。
トビアスの狼はひときわ目を引く。誰もが彼と、彼の足もとにいる狼に目を向ける。
ちなみに俺の使い魔を見た他の人たちの反応は……なんか苦笑いしてたな。
「犬の使い魔なんて珍しくってよかったじゃん」
って、ライナーが慰めてくれたけれど、なんかみんなの反応を見ているとあんまりよくないんじゃないかな……
ていうかこの犬……絶対あの時俺の足に纏わりついてきた子犬だろ。
俺、いったい何なんだ……
日本で生きていた野村彩斗としての意識があるけど、ルドルフとしての記憶もある。
「なあ、子犬。お前、何かした?」
犬に語りかけても何も答えず、俺の腕の中で鳴くだけだった。
「きゃん!」
犬は喋らないか……
でも使い魔とは意思の疎通ができるんじゃなかったっけ?
そう思って俺は犬の顔を見つめるけれど、犬はハアハア、と言うだけだった。
なんか先が思いやられるっていうか……大丈夫、かな。
「犬なんて連れて歩いて恥ずかしくないのかよ?」
嘲笑う声が聞こえ、俺はそちらを見るとトビアスが立っていた。
やっぱ使い魔にはランクがあるのか……だからあいつ、俺のことを馬鹿にしてるんだろうな。
犬は珍しいって言っていたけど、悪い意味で珍しいってことなのか。
べつに使い魔なんて何でもいいだろうに、めんどうな奴だな。
これ、マンガなんかでよくある主人公を勝手にライバル視してくるやつか?
なんか魔法使いが出てくる映画でもいたような。やたら主人公につっかかってくるやつ。
「別に、かわいいからいいじゃん」
そう答えて、俺は犬を抱きしめた。
犬、っていうのもなんか可哀そうだよな……名前つけてやらねえと。なにがいいだろ。
「……クロ」
何にも思いつかなくて、俺は見たままを言う。
「きゃん!」
と、犬は嬉しそうに尻尾を激しく振ったから、こいつの名前はクロに決まった。
「お前もしかして何にも知らないのかよ?」
嘲笑う声に、俺は心底どうでもいいと思いつつ言い返そうとした。
その時、
「説明があるから全員席に座りなさい」
と言う、地の底から響くような低い声が聞こえ、あの、塔の中にいた老齢の男性が入り口から入ってきた。
慌てて皆椅子に座り、正面を向く。
紫色のローブをまとった白髪の男性は壇上に立つと、すっと背筋を伸ばしてよく響く声で言った。
「私はフェルマン=フォン=フェンツ。一年間お前たちに魔術を教える。お前たちは今日から寮で共同生活を送りながら鍛錬と講義受けることになる」
すごいなこの人の声。
聞くものを従わせる威圧感がすごい。気が引き締まる感じがするし、自然と背筋が伸びていく。
皆黙って、フェンツ先生の言葉に耳を傾けていた。さっきまでのざわめきが嘘のように。
「お前たちは国家の財産だ。支給されるものはすべて国民の税金によって賄われる。それを自覚し、鍛錬に勤めよ」
「はい」
申し合わせたかのように、全員が同時に返事をする。
「あとは事務から説明がある。部屋の鍵が支給されるのでなくさないように」
フェンツ先生と入れ替わり、中年の女性が壇上に立つ。
俺、ここで一年魔術を学び、魔術師になるのか……
クロと一緒に。
俺は腕の中にいるクロを見下ろす。
クロは黙って話を聞いているようだった。
一年間よろしくな、クロ。
心の中でそう言うと、クロはこちらを振り返りにこっと笑ったように見えた。
今年の合格者は二十人ほど。十六歳から十九歳の者だけが受験資格があり、毎年五百人ほどが受験するらしい。
合格率低くないか?
魔術師はいわゆる公務員扱いになり、授業料はタダになる。寮だし食事もでるから生活は保障される。給料もすこしだけど出る。
魔術師は国からの援助があって仕事を斡旋してもらえる。
学校の先生だったり、古文書の解読だったり。だから路頭に迷うことはまずない。
俺たちは手続きを済ませると、教室で待つように言われてライナーと待つことになった。
そこにさっき俺の使い魔についていろいろ言ってきたトビアスと、その取り巻きらしい男女が入ってくる。
トビアスの狼はひときわ目を引く。誰もが彼と、彼の足もとにいる狼に目を向ける。
ちなみに俺の使い魔を見た他の人たちの反応は……なんか苦笑いしてたな。
「犬の使い魔なんて珍しくってよかったじゃん」
って、ライナーが慰めてくれたけれど、なんかみんなの反応を見ているとあんまりよくないんじゃないかな……
ていうかこの犬……絶対あの時俺の足に纏わりついてきた子犬だろ。
俺、いったい何なんだ……
日本で生きていた野村彩斗としての意識があるけど、ルドルフとしての記憶もある。
「なあ、子犬。お前、何かした?」
犬に語りかけても何も答えず、俺の腕の中で鳴くだけだった。
「きゃん!」
犬は喋らないか……
でも使い魔とは意思の疎通ができるんじゃなかったっけ?
そう思って俺は犬の顔を見つめるけれど、犬はハアハア、と言うだけだった。
なんか先が思いやられるっていうか……大丈夫、かな。
「犬なんて連れて歩いて恥ずかしくないのかよ?」
嘲笑う声が聞こえ、俺はそちらを見るとトビアスが立っていた。
やっぱ使い魔にはランクがあるのか……だからあいつ、俺のことを馬鹿にしてるんだろうな。
犬は珍しいって言っていたけど、悪い意味で珍しいってことなのか。
べつに使い魔なんて何でもいいだろうに、めんどうな奴だな。
これ、マンガなんかでよくある主人公を勝手にライバル視してくるやつか?
なんか魔法使いが出てくる映画でもいたような。やたら主人公につっかかってくるやつ。
「別に、かわいいからいいじゃん」
そう答えて、俺は犬を抱きしめた。
犬、っていうのもなんか可哀そうだよな……名前つけてやらねえと。なにがいいだろ。
「……クロ」
何にも思いつかなくて、俺は見たままを言う。
「きゃん!」
と、犬は嬉しそうに尻尾を激しく振ったから、こいつの名前はクロに決まった。
「お前もしかして何にも知らないのかよ?」
嘲笑う声に、俺は心底どうでもいいと思いつつ言い返そうとした。
その時、
「説明があるから全員席に座りなさい」
と言う、地の底から響くような低い声が聞こえ、あの、塔の中にいた老齢の男性が入り口から入ってきた。
慌てて皆椅子に座り、正面を向く。
紫色のローブをまとった白髪の男性は壇上に立つと、すっと背筋を伸ばしてよく響く声で言った。
「私はフェルマン=フォン=フェンツ。一年間お前たちに魔術を教える。お前たちは今日から寮で共同生活を送りながら鍛錬と講義受けることになる」
すごいなこの人の声。
聞くものを従わせる威圧感がすごい。気が引き締まる感じがするし、自然と背筋が伸びていく。
皆黙って、フェンツ先生の言葉に耳を傾けていた。さっきまでのざわめきが嘘のように。
「お前たちは国家の財産だ。支給されるものはすべて国民の税金によって賄われる。それを自覚し、鍛錬に勤めよ」
「はい」
申し合わせたかのように、全員が同時に返事をする。
「あとは事務から説明がある。部屋の鍵が支給されるのでなくさないように」
フェンツ先生と入れ替わり、中年の女性が壇上に立つ。
俺、ここで一年魔術を学び、魔術師になるのか……
クロと一緒に。
俺は腕の中にいるクロを見下ろす。
クロは黙って話を聞いているようだった。
一年間よろしくな、クロ。
心の中でそう言うと、クロはこちらを振り返りにこっと笑ったように見えた。
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