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9 取引
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案内された部屋は三階にある角の部屋だった。
天蓋のついた大きな寝台にソファーやテーブル、棚やら絵画もあってやたら豪華な部屋だった。
何、この部屋。
寝るだけの部屋なのになんでこんな豪華なのよ?
ファリオさんはとにかく相手の言う通りにするように、とだけ言って私をここにおいていってしまった。
室内を見回し、ソファーに腰掛ける男の姿をみて私は愕然とした。
室内を照らす月明かりと、寝台横に置かれたランプに浮かび上がるその姿は、まさしく私の元婚約者でこの国の第二皇子であるリュカ様だった。
胸元まで伸びた白金の髪は月明かりの中できらきらと輝き、紫色の瞳は妖艶な雰囲気をまとっている。
こんな目の色をした人、そうそういない。
スーツ姿の彼は私を見つめてにこっと笑って言った。
「お久しぶりですね、マルティナさん」
ば、バレてる。
なんで私のこと覚えてるのよ?
たじろぐ私に、リュカ様は続けた。
「ずっと捜しておりました」
「え、あ……な、なぜ、ですか」
「その話はあとでいてしますが、やはりそのドレスを選んでいただけたんですね」
ドレスがなんですって……?
言われて私は自分のドレスに視線をやり、顔をあげて言った。
「まさかこれ……」
「俺が用意しました。貴方の話を聞いたときから、貴方が着る服は全て俺が用意するとここの経営者に話したので」
あー、やっぱりアラールさんと、た繋がってたんだ。
まさかとは思ったけど……
いやでもなんで帝国の皇子がこんな娼館に出入りしてるのよ?
「そ、そうだったんですか……なんでそんな事を……?」
「貴方を誰にも奪われたくないですから」
そして彼は立ち上がり、私へと近づいてくる。
ああ……背、伸びましたね。三年前に比べてかなり大人びてる。
たしかリュカ様は私と同じ十九なはずだ。
彼は私の前に立つと、私の右手をそっと取りに言った。
「取引をしませんか?」
「……取引……?」
「ええ。マルティナさん、俺に協力してほしいんです。そのかわり貴方がたの身分や命の保証はいたします」
「ちょっとそれ、卑怯じゃないですか? 命の保証って……」
「貴方がたを処刑しろ、という声があるんですよ。それは兄が抑えていますが、三年たった今でもその声はくすぶっています」
何それ迷惑極まりないんですけど。
「貴方がた……特にラファエル王子は正統な王位継承者ですから、彼を生かしておくことは将来謀反を起こすこともあり得ると」
「そ、そんなことないわよ! 私達は旧王国の人間と一切関わりを持っていないし……今日を生きるのに精いっぱいなんだから」
そうだ。
私達は誰とも関わっていない。
謀反なんて考えないしそんなことする余裕なんてないんだから。
力いっぱい否定すると、リュカ様は頷き言った。
「わかっていますよ。ですが、いつ貴方がたの行方がばれ、捕らえられるかもわかりません。だから俺に協力してください」
言い方はとても静かだけど言ってる内容、なんか脅しにかかってない?
ちょっと怖いんだけど。それって私に拒否権ないですよね?
私は黙ってリュカ様を見ると、彼はとても穏やかな笑顔で笑っていた。
話している内容とその表情の落差にぞわっとする。
リュカ様ってこんな人でしたっけ。
「きょ、協力って……なんですか……?」
私が震えた声で言うと、彼は私の右手を自分の口元まで上げ、指輪を嵌めた指に口づけた。
ちょっと待ってよ、まさかこの人、私の指輪のこと、知ってるの……?
そしてリュカ様は私の目わを見つめながら言った。
「俺の呪いの話、ご存知ですか?」
「詳しくは知らないです」
呪われた皇子、って話は聞いたけれど詳しいことは聞いたことない。
「呪われているんですよ。本当に。誰かから魔力を喰わないと生きていけないんです」
魔力を食べるってどういうことよ?
言っている意味が分からず戸惑っていると彼は言った。
「何世代も前のことですが、俺の先祖が魔神を封印した際に傷を負い、魔力を喰らい続けないと死ぬ呪いをかけられてしまったんです。その当時の王は苦しみの末に亡くなったそうです。その呪いは数世代に一度、現れるようになってしまいました。このところずっと現れなかったんですが、数世代ぶりに現れたんですよ。それが俺なんです」
それ、初耳なんですけど?
だから呪われた皇子、って言われてたの?
「魔力を喰うってどういう……」
「そのままですよ。誰しも魔力を持っているでしょう。その魔力を喰うんです。だから俺が喰った相手は魔力を失います。貴方はその指輪がある限り魔力が無尽蔵に作られますから……だから、貴方が適任なんですよ」
ちょっと何言ってるのかわからないんですけど?
えーと、つまり……
私は必死でリュカ様が言ったことを考えた。
つまりリュカ様は魔力を食べないと死ぬし、私のしている指輪は魔力が無尽蔵に作られるから、その魔力を喰らえば私は魔力を失うことはないしリュカ様は万々歳ってことかな……?
この指輪そんなすごい指輪だったの?
「あ、あの、リュカ様がここにいるのって……」
「娼婦の魔力を食べる為ですよ。じゃないと俺は衰弱して死にますから」
そう言ったリュカ様の顔はとてもまじめなものだった。
この表情……本当なんだろうな。
この指輪、そんな強い魔力がある物だったのか。知らなかった……
精霊の指輪で外すこともできない、としか言われなかったけど。
「つまり私はその申し出を断れないですし、リュカ様も私がそれを受け入れないと困るってことですか?」
「えぇ。同じ人から魔力を食べることはできないんですよ。一度食べたら、その人から魔力は失われてしまうので」
何その厄介な呪い。
まあ厄介だから呪いなのか。
でもだから私は彼と取引ができる。
帝国の皇子が後ろ盾なら心強い……
選択肢なんてないし、私はこの申し出を受けるしかない。
生きるか死ぬかの選択を逼られるなんておもわなかった。
私は、私の手を握るリュカ様の手に左手を重ね、頷き言った。
「わかりました。取引します。弟……ラファエルには絶対に手出ししないで下さいね」
「ええ、わかっていますよ」
あくまで優しく微笑み言うリュカ様の顔に、私は安心よりも恐怖しか感じなかった。
天蓋のついた大きな寝台にソファーやテーブル、棚やら絵画もあってやたら豪華な部屋だった。
何、この部屋。
寝るだけの部屋なのになんでこんな豪華なのよ?
ファリオさんはとにかく相手の言う通りにするように、とだけ言って私をここにおいていってしまった。
室内を見回し、ソファーに腰掛ける男の姿をみて私は愕然とした。
室内を照らす月明かりと、寝台横に置かれたランプに浮かび上がるその姿は、まさしく私の元婚約者でこの国の第二皇子であるリュカ様だった。
胸元まで伸びた白金の髪は月明かりの中できらきらと輝き、紫色の瞳は妖艶な雰囲気をまとっている。
こんな目の色をした人、そうそういない。
スーツ姿の彼は私を見つめてにこっと笑って言った。
「お久しぶりですね、マルティナさん」
ば、バレてる。
なんで私のこと覚えてるのよ?
たじろぐ私に、リュカ様は続けた。
「ずっと捜しておりました」
「え、あ……な、なぜ、ですか」
「その話はあとでいてしますが、やはりそのドレスを選んでいただけたんですね」
ドレスがなんですって……?
言われて私は自分のドレスに視線をやり、顔をあげて言った。
「まさかこれ……」
「俺が用意しました。貴方の話を聞いたときから、貴方が着る服は全て俺が用意するとここの経営者に話したので」
あー、やっぱりアラールさんと、た繋がってたんだ。
まさかとは思ったけど……
いやでもなんで帝国の皇子がこんな娼館に出入りしてるのよ?
「そ、そうだったんですか……なんでそんな事を……?」
「貴方を誰にも奪われたくないですから」
そして彼は立ち上がり、私へと近づいてくる。
ああ……背、伸びましたね。三年前に比べてかなり大人びてる。
たしかリュカ様は私と同じ十九なはずだ。
彼は私の前に立つと、私の右手をそっと取りに言った。
「取引をしませんか?」
「……取引……?」
「ええ。マルティナさん、俺に協力してほしいんです。そのかわり貴方がたの身分や命の保証はいたします」
「ちょっとそれ、卑怯じゃないですか? 命の保証って……」
「貴方がたを処刑しろ、という声があるんですよ。それは兄が抑えていますが、三年たった今でもその声はくすぶっています」
何それ迷惑極まりないんですけど。
「貴方がた……特にラファエル王子は正統な王位継承者ですから、彼を生かしておくことは将来謀反を起こすこともあり得ると」
「そ、そんなことないわよ! 私達は旧王国の人間と一切関わりを持っていないし……今日を生きるのに精いっぱいなんだから」
そうだ。
私達は誰とも関わっていない。
謀反なんて考えないしそんなことする余裕なんてないんだから。
力いっぱい否定すると、リュカ様は頷き言った。
「わかっていますよ。ですが、いつ貴方がたの行方がばれ、捕らえられるかもわかりません。だから俺に協力してください」
言い方はとても静かだけど言ってる内容、なんか脅しにかかってない?
ちょっと怖いんだけど。それって私に拒否権ないですよね?
私は黙ってリュカ様を見ると、彼はとても穏やかな笑顔で笑っていた。
話している内容とその表情の落差にぞわっとする。
リュカ様ってこんな人でしたっけ。
「きょ、協力って……なんですか……?」
私が震えた声で言うと、彼は私の右手を自分の口元まで上げ、指輪を嵌めた指に口づけた。
ちょっと待ってよ、まさかこの人、私の指輪のこと、知ってるの……?
そしてリュカ様は私の目わを見つめながら言った。
「俺の呪いの話、ご存知ですか?」
「詳しくは知らないです」
呪われた皇子、って話は聞いたけれど詳しいことは聞いたことない。
「呪われているんですよ。本当に。誰かから魔力を喰わないと生きていけないんです」
魔力を食べるってどういうことよ?
言っている意味が分からず戸惑っていると彼は言った。
「何世代も前のことですが、俺の先祖が魔神を封印した際に傷を負い、魔力を喰らい続けないと死ぬ呪いをかけられてしまったんです。その当時の王は苦しみの末に亡くなったそうです。その呪いは数世代に一度、現れるようになってしまいました。このところずっと現れなかったんですが、数世代ぶりに現れたんですよ。それが俺なんです」
それ、初耳なんですけど?
だから呪われた皇子、って言われてたの?
「魔力を喰うってどういう……」
「そのままですよ。誰しも魔力を持っているでしょう。その魔力を喰うんです。だから俺が喰った相手は魔力を失います。貴方はその指輪がある限り魔力が無尽蔵に作られますから……だから、貴方が適任なんですよ」
ちょっと何言ってるのかわからないんですけど?
えーと、つまり……
私は必死でリュカ様が言ったことを考えた。
つまりリュカ様は魔力を食べないと死ぬし、私のしている指輪は魔力が無尽蔵に作られるから、その魔力を喰らえば私は魔力を失うことはないしリュカ様は万々歳ってことかな……?
この指輪そんなすごい指輪だったの?
「あ、あの、リュカ様がここにいるのって……」
「娼婦の魔力を食べる為ですよ。じゃないと俺は衰弱して死にますから」
そう言ったリュカ様の顔はとてもまじめなものだった。
この表情……本当なんだろうな。
この指輪、そんな強い魔力がある物だったのか。知らなかった……
精霊の指輪で外すこともできない、としか言われなかったけど。
「つまり私はその申し出を断れないですし、リュカ様も私がそれを受け入れないと困るってことですか?」
「えぇ。同じ人から魔力を食べることはできないんですよ。一度食べたら、その人から魔力は失われてしまうので」
何その厄介な呪い。
まあ厄介だから呪いなのか。
でもだから私は彼と取引ができる。
帝国の皇子が後ろ盾なら心強い……
選択肢なんてないし、私はこの申し出を受けるしかない。
生きるか死ぬかの選択を逼られるなんておもわなかった。
私は、私の手を握るリュカ様の手に左手を重ね、頷き言った。
「わかりました。取引します。弟……ラファエルには絶対に手出ししないで下さいね」
「ええ、わかっていますよ」
あくまで優しく微笑み言うリュカ様の顔に、私は安心よりも恐怖しか感じなかった。
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