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4なんで?
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それから一ヶ月ほどがたった、十月のおわり。
ラファエルが新しい学年になるまであと半年ほどとなる。
進学確認の書類や奨学金の申請書類などをラファエルが持ち帰ってきた。
「姉さん、家計そんなに楽じゃないでしょ? 四年生からは義務じゃないし僕、働く……」
「何言ってるの。せっかくビドーさんたちが保証人になって学校に入れてくれたんだからあと三年、通いなさいよ」
不安げな表情を見せる弟の言葉に被せるように言うと、彼は戸惑いの顔になる。
「でも、姉さんだって学校……」
「私はいいの。追放されるまではちゃんと教育受けてきたし、それに女性の進学率はめちゃくちゃ低いから行かなくてもいいの」
勉強したくないわけじゃないけど、私には必要ないもの。
お金もかかるし。
私はラファエルの肩に手を置いて言った。
「だからラフィは心配しなくていいの。私は働いてるんだし、貴方ひとりの面倒くらい見られるわよ」
「でもそれじゃあ……」
苦しげな顔になり、ラファエルは口を閉ざす。
あー、言いたいことはわかるんだ。
僕のために姉さんが犠牲にならなくてもとか思ってるんだろうな。
顔にそう書いてある。
そんなの気にしなくていいのに。
ラファエルだって、国がなくなったことで充分犠牲を払ってる。
だから決して私だけが犠牲になってるわけじゃない。
「私は大丈夫だって。ちゃんと相手みつけて結婚するから」
あてはないけど。
「メイドが商人や貴族に気に入られて結婚なんてことはあるし、だから大丈夫大丈夫」
実際、最近読んだ新聞にそんな話が書いてあったからあながち間違いではない。
商人に見初められてその息子と結婚、て話。まあ、女性の方も良家の子女だったっぽいけど。
血筋なら負けない……お金ないけど。
それに私の素性を気にしない人じゃないとだしな。
着の身着のまま、とまでは言わないけど、財産の大半は取られちゃって、かろうじて宝石類だけを隠し持って国を放り出された。
その殆どはお母様の治療費に使っちゃった。
今私に残されてるのは、お父様から受け継いだ呪いの指輪だけだ。
でもこれ、外せないんじゃ意味がない。
「結婚といえば姉さん。学校で妙な噂聞いたんだ」
「噂って何」
ラファエルは神妙な顔をして言葉を続けた。
「リュカ皇子が、元婚約者を捜してるらしいって」
……リュカ皇子……元婚約者……?
……それって私しかいなくない?
あまりの驚きに言葉が出てこない。
私はぽかーん、と口をあけてラファエルを見つめた。
「……なんで?」
「そ、それはわからないけど……噂だし、ホントかどうかもわからないよ? でも姉さんの名前……マルティナ=ヴォルケンシュタインて具体的に言われてたから……あながち噂とは言い切れないかも」
「追放しておきながらなんで今さら」
そこまで言って、私を追放したのは皇帝でありリュカ様ではないことを思い出す。
「リュカ様はわざわざ攻め入る前に警告に来てくれたし……あの方自身は姉さんに特別な感情があるんじゃない?」
……そうかなあ。
どうだろう、それは。
最後に会ったときはなんか悲しそうではあったけど、こちらもそれどころじゃなかったしな。
彼の警告のおかげで宝石類を隠す余裕もできて、国を出ることができたのは事実だしそのおかげで助けられた。
「私を捜し出してどうするんだろう?」
「さあ……」
私とラファエルは顔を合わせてただ首を傾げるばかりだった。
ラファエルが新しい学年になるまであと半年ほどとなる。
進学確認の書類や奨学金の申請書類などをラファエルが持ち帰ってきた。
「姉さん、家計そんなに楽じゃないでしょ? 四年生からは義務じゃないし僕、働く……」
「何言ってるの。せっかくビドーさんたちが保証人になって学校に入れてくれたんだからあと三年、通いなさいよ」
不安げな表情を見せる弟の言葉に被せるように言うと、彼は戸惑いの顔になる。
「でも、姉さんだって学校……」
「私はいいの。追放されるまではちゃんと教育受けてきたし、それに女性の進学率はめちゃくちゃ低いから行かなくてもいいの」
勉強したくないわけじゃないけど、私には必要ないもの。
お金もかかるし。
私はラファエルの肩に手を置いて言った。
「だからラフィは心配しなくていいの。私は働いてるんだし、貴方ひとりの面倒くらい見られるわよ」
「でもそれじゃあ……」
苦しげな顔になり、ラファエルは口を閉ざす。
あー、言いたいことはわかるんだ。
僕のために姉さんが犠牲にならなくてもとか思ってるんだろうな。
顔にそう書いてある。
そんなの気にしなくていいのに。
ラファエルだって、国がなくなったことで充分犠牲を払ってる。
だから決して私だけが犠牲になってるわけじゃない。
「私は大丈夫だって。ちゃんと相手みつけて結婚するから」
あてはないけど。
「メイドが商人や貴族に気に入られて結婚なんてことはあるし、だから大丈夫大丈夫」
実際、最近読んだ新聞にそんな話が書いてあったからあながち間違いではない。
商人に見初められてその息子と結婚、て話。まあ、女性の方も良家の子女だったっぽいけど。
血筋なら負けない……お金ないけど。
それに私の素性を気にしない人じゃないとだしな。
着の身着のまま、とまでは言わないけど、財産の大半は取られちゃって、かろうじて宝石類だけを隠し持って国を放り出された。
その殆どはお母様の治療費に使っちゃった。
今私に残されてるのは、お父様から受け継いだ呪いの指輪だけだ。
でもこれ、外せないんじゃ意味がない。
「結婚といえば姉さん。学校で妙な噂聞いたんだ」
「噂って何」
ラファエルは神妙な顔をして言葉を続けた。
「リュカ皇子が、元婚約者を捜してるらしいって」
……リュカ皇子……元婚約者……?
……それって私しかいなくない?
あまりの驚きに言葉が出てこない。
私はぽかーん、と口をあけてラファエルを見つめた。
「……なんで?」
「そ、それはわからないけど……噂だし、ホントかどうかもわからないよ? でも姉さんの名前……マルティナ=ヴォルケンシュタインて具体的に言われてたから……あながち噂とは言い切れないかも」
「追放しておきながらなんで今さら」
そこまで言って、私を追放したのは皇帝でありリュカ様ではないことを思い出す。
「リュカ様はわざわざ攻め入る前に警告に来てくれたし……あの方自身は姉さんに特別な感情があるんじゃない?」
……そうかなあ。
どうだろう、それは。
最後に会ったときはなんか悲しそうではあったけど、こちらもそれどころじゃなかったしな。
彼の警告のおかげで宝石類を隠す余裕もできて、国を出ることができたのは事実だしそのおかげで助けられた。
「私を捜し出してどうするんだろう?」
「さあ……」
私とラファエルは顔を合わせてただ首を傾げるばかりだった。
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