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31 野狐
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大学の隣にある「総合科学研究所」は、素質あり、と認められた子供が集められ異能力について研究する施設だ。
僕はその施設に六歳くらいの頃から通っていて、そこで臨と知り合った。
素質、の意味は正直よくわからないけれど、強い能力とか変わった異能を持つ人間が集められるらしい。
研究所は国立の施設で、所長クラスになると政治的な影響もあると言う。
能力者の中にはそれこそショッピングモールのひとつ位破壊できてしまうほどの力を持つ者がいるので、国が能力者を幼いうちから囲い込み管理するのが目的、らしい。
子供の頃は同世代の子がたくさんいたけれど、時間の経過と共に研究所に通う子供たちの数は減り、高校生の今、研究所に呼ばれる同世代の能力者は二桁もいないだろう。
成長するにつれて能力の変化があり、伸び悩み皆いなくなっていく。
そんな施設に未だに呼ばれ、能力検査と言う名の実験をし、行動さえも制限される僕たちは国に縛られて生きている。
ならばその立場を利用しない手はないだろう。
研究所の所長に「お願い」と言う名の脅迫に近い話をし、大学病院の院長には万一彼女が妊娠していた場合受け入れてくれるように「お願い」をして、その日が終わった。
夜。
僕の家の僕の自室。
僕はリモを抱きしめベッドに横たわっていた。
所長と話しをつけたのも、院長と交渉したのも僕じゃなくて臨だけど、精神的に疲れた。
「何とかして日和ちゃんを助けねえとな」
「そうですねえ……どうしてこうなっちゃったんでしょう……? まさかあの怖い気配の正体が日和ちゃんだったなんて……」
と言い、リモは顔を伏せる。
リモは猫を襲った化け物から身を隠してて、それで僕と出会ったんだよな。
そしてその猫を襲っていたのはたぶん日和ちゃんで、でもそれは何かに憑りつかれたからなのか、憑りつかれる前の事なんだろうか。
「なあ、リモ」
「はい、なんでしょう?」
「お前は天狐の伝説、どれだけ知ってる?」
社で出会ったお婆さんは、天狐が人と結婚してめでたしめでたしになった、と言っていた。
でもそのハッピーエンドの先はどうなったんだろうか?
リモは顔を上げると口もとに手を当てて言った。
「えーとですね、天狐様は人々を救うために山に降りてきて、人と仲良くなったんですよ! それで人と恋に落ちて、お嫁さんになったんですよね。それで……」
そしてリモは黙り込む。
しばらくの沈黙の後、小さく首を傾げて言った。
「どうしたんでしょうねえ……」
「そこが知りたいんだけどね。ハッピーエンドのその先を」
やっぱ知らねえか。
なにか今回の事件のヒントがあるのかなって思ったけれど、そう簡単にはいかないらしい。
「妖怪は人よりも長生きですしねえ……でも天狐様が亡くなられたのか生きているのか何にもわからないんですよね。そういえばどうなったんでしょうか?」
「いくら結ばれても、自分だけ残されるのって辛くねえかな?」
そう言う人たちの記憶をたくさん見てきた……と思う。
僕が消した記憶達。
その記憶の中には愛する人を失って憔悴した人々の物がいくつもあるはずだ。
その一つ一つを覚えているわけじゃないけど、どういう記憶があったのか、っていう僕の印象は覚えている。
天孤も哀しい想いをしたのだろうか?
そして彼女はどうしたんだろう?
そんなの考えても分かんねえか。
「日和ちゃんて野狐だって言ってたよな」
野狐は狐の妖怪の中でもかなり下っ端なようだし、そんな妖怪の気配をリモは怖いって言ってたんだよな?
……ってことは普通の野狐じゃない?
「僕が知る限り至って普通の野狐なはずなんですけど……今まで出会った野狐と変わんないですし。あーでも野狐なら長時間人に化けていられないかもですねえ。満月の夜って僕たちはとっても妖力が強くなるんですよ! だから日和ちゃんは満月の夜を選んでマスターさんに会いに行ってたんですけど。もしかして満月じゃなくても日和ちゃんは人になれるだけの強い妖力を持っているのかも……?」
まあそうだよな。
実は強い妖力の持ち主っていうのが一番しっくりくるよな。
もしかして伝承の天狐と関係があるとか?
……ンなわけねえか。そんな都合のいい話あるわけねえよな。
「じゃあ何なんだよ?」
「狐の妖怪には細かい分類があるんですけど、野狐の他、仙狐とか白狐とか色々といるのでもしかしたらその類何でしょうか? でもなんで野狐だって言ってたんだろ?」
「何かの理由で力に制限がかかってるとか?」
「おぉ! それはあり得そうですねぇ。全然気が付きませんでしたけど、おいらは日和ちゃんが日和ちゃんにもどれるならそれでいいです!」
「そのためには日和ちゃんがどこにいるのか掴まねえと。なあお前、怖い気配とかわかるんだからそれで彼女がどこにいるのかわかんねえの?」
リモの顔を見て言うと、彼は目をぱちぱちとしている。そして長い沈黙の後言った。
「おお! 言われてみればそうですね! 気が付きませんでした! 怖い気配がする方には近づかないようにしていたので、逆に怖い気配に近づけばいいわけですね!」
怖い気配の正体が日和ちゃんだとわかったのだから、リモにその怖い気配がどこにあるのか探らせるのが一番だろう。
どれくらいの精度なのかが気になるけれど、この様子見てると不安になるんだよな……
「おいらもお役にたてるんですね! 嬉しいなあ」
「あぁ。明日臨に話して作戦を練ろうな」
「わかりました!」
そして僕らは部屋の照明を消して眠りに落ちた。
僕はその施設に六歳くらいの頃から通っていて、そこで臨と知り合った。
素質、の意味は正直よくわからないけれど、強い能力とか変わった異能を持つ人間が集められるらしい。
研究所は国立の施設で、所長クラスになると政治的な影響もあると言う。
能力者の中にはそれこそショッピングモールのひとつ位破壊できてしまうほどの力を持つ者がいるので、国が能力者を幼いうちから囲い込み管理するのが目的、らしい。
子供の頃は同世代の子がたくさんいたけれど、時間の経過と共に研究所に通う子供たちの数は減り、高校生の今、研究所に呼ばれる同世代の能力者は二桁もいないだろう。
成長するにつれて能力の変化があり、伸び悩み皆いなくなっていく。
そんな施設に未だに呼ばれ、能力検査と言う名の実験をし、行動さえも制限される僕たちは国に縛られて生きている。
ならばその立場を利用しない手はないだろう。
研究所の所長に「お願い」と言う名の脅迫に近い話をし、大学病院の院長には万一彼女が妊娠していた場合受け入れてくれるように「お願い」をして、その日が終わった。
夜。
僕の家の僕の自室。
僕はリモを抱きしめベッドに横たわっていた。
所長と話しをつけたのも、院長と交渉したのも僕じゃなくて臨だけど、精神的に疲れた。
「何とかして日和ちゃんを助けねえとな」
「そうですねえ……どうしてこうなっちゃったんでしょう……? まさかあの怖い気配の正体が日和ちゃんだったなんて……」
と言い、リモは顔を伏せる。
リモは猫を襲った化け物から身を隠してて、それで僕と出会ったんだよな。
そしてその猫を襲っていたのはたぶん日和ちゃんで、でもそれは何かに憑りつかれたからなのか、憑りつかれる前の事なんだろうか。
「なあ、リモ」
「はい、なんでしょう?」
「お前は天狐の伝説、どれだけ知ってる?」
社で出会ったお婆さんは、天狐が人と結婚してめでたしめでたしになった、と言っていた。
でもそのハッピーエンドの先はどうなったんだろうか?
リモは顔を上げると口もとに手を当てて言った。
「えーとですね、天狐様は人々を救うために山に降りてきて、人と仲良くなったんですよ! それで人と恋に落ちて、お嫁さんになったんですよね。それで……」
そしてリモは黙り込む。
しばらくの沈黙の後、小さく首を傾げて言った。
「どうしたんでしょうねえ……」
「そこが知りたいんだけどね。ハッピーエンドのその先を」
やっぱ知らねえか。
なにか今回の事件のヒントがあるのかなって思ったけれど、そう簡単にはいかないらしい。
「妖怪は人よりも長生きですしねえ……でも天狐様が亡くなられたのか生きているのか何にもわからないんですよね。そういえばどうなったんでしょうか?」
「いくら結ばれても、自分だけ残されるのって辛くねえかな?」
そう言う人たちの記憶をたくさん見てきた……と思う。
僕が消した記憶達。
その記憶の中には愛する人を失って憔悴した人々の物がいくつもあるはずだ。
その一つ一つを覚えているわけじゃないけど、どういう記憶があったのか、っていう僕の印象は覚えている。
天孤も哀しい想いをしたのだろうか?
そして彼女はどうしたんだろう?
そんなの考えても分かんねえか。
「日和ちゃんて野狐だって言ってたよな」
野狐は狐の妖怪の中でもかなり下っ端なようだし、そんな妖怪の気配をリモは怖いって言ってたんだよな?
……ってことは普通の野狐じゃない?
「僕が知る限り至って普通の野狐なはずなんですけど……今まで出会った野狐と変わんないですし。あーでも野狐なら長時間人に化けていられないかもですねえ。満月の夜って僕たちはとっても妖力が強くなるんですよ! だから日和ちゃんは満月の夜を選んでマスターさんに会いに行ってたんですけど。もしかして満月じゃなくても日和ちゃんは人になれるだけの強い妖力を持っているのかも……?」
まあそうだよな。
実は強い妖力の持ち主っていうのが一番しっくりくるよな。
もしかして伝承の天狐と関係があるとか?
……ンなわけねえか。そんな都合のいい話あるわけねえよな。
「じゃあ何なんだよ?」
「狐の妖怪には細かい分類があるんですけど、野狐の他、仙狐とか白狐とか色々といるのでもしかしたらその類何でしょうか? でもなんで野狐だって言ってたんだろ?」
「何かの理由で力に制限がかかってるとか?」
「おぉ! それはあり得そうですねぇ。全然気が付きませんでしたけど、おいらは日和ちゃんが日和ちゃんにもどれるならそれでいいです!」
「そのためには日和ちゃんがどこにいるのか掴まねえと。なあお前、怖い気配とかわかるんだからそれで彼女がどこにいるのかわかんねえの?」
リモの顔を見て言うと、彼は目をぱちぱちとしている。そして長い沈黙の後言った。
「おお! 言われてみればそうですね! 気が付きませんでした! 怖い気配がする方には近づかないようにしていたので、逆に怖い気配に近づけばいいわけですね!」
怖い気配の正体が日和ちゃんだとわかったのだから、リモにその怖い気配がどこにあるのか探らせるのが一番だろう。
どれくらいの精度なのかが気になるけれど、この様子見てると不安になるんだよな……
「おいらもお役にたてるんですね! 嬉しいなあ」
「あぁ。明日臨に話して作戦を練ろうな」
「わかりました!」
そして僕らは部屋の照明を消して眠りに落ちた。
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