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8 通院
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そして七月九日土曜日。
今日は通院だ。
七時にがんばって起きた俺は、八時半には病院に何とか着けた。
オメガとかアルファとかを診察できる病院は、大きな病院に限られている。だから俺が通っているのは大学病院だ。
だから超混んでいる。
発情期がきてしまったからきっと検査するんだろうな。
受付を済ませてしばらくして診察と検査になった。採血だけでなく触診までされて俺はげんなりとして、待合室でうな垂れていた。
あぁ……俺、オメガとして診察受ける日が来るなんて思わなかった……
オメガって……恥ずかしすぎる。あー……薬もらったら俺、まっすぐ帰ろう……なんかもう、診察受けるだけで疲れた、俺。
待合室で魂が抜けていると、スマホがぶるぶると震えた。
誰だろう、と思い確認すると相手は真弘さんだった。
『ちゃんと病院行った?』
『行ったよ、二週間後に結果でるからまた来いって言われた』
『そっか。夕飯、食べにおいでよ』
真弘さん、こんなにメッセージ寄越す人だったっけ。そう思って今までのやり取りをたどってみるけれど、こんなにメッセージをくれたことはない。
何があったんだ、いったい。まじで親みたいだな、って思ったけど、親でもここまで連絡してこないや。
俺の体質のお陰であんまり仲、よくないからな……
夕飯かぁ……どうしようかな。行かなかったら俺、今日は食べない気がするしなぁ。
ちょっと考えて、俺は真弘さんに返信する。
『わかった。夕方に行くよ』
行かなかったらご飯届に来そうだしな、真弘さん。
『待ってるよ』
という返信が来たのを見て俺はスマホをしまった。
そして夕方。俺は真弘さんのお店を訪れる。
開店直後のバーにはいつものように誰もいない。
俺に気が付いた真弘さんは、優しい笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「こんにちは、真弘さん。夜も暑くてつらい」
言いながら俺は、定位置に腰かける。
そこにすぐ置かれたのはポテトサラダだった。
「あ、ありがとう、真弘さん」
礼を言い、俺は出された箸を手に持つ。
「飲み物はどうする? ジュースにしておく?」
「あー、どうしようかなぁ」
正直飲む気はなかったけど、ここに来ると飲みたくなるんだよなぁ……
俺は呻った後、
「一杯だけ飲む」
て言って、ポテトサラダに箸をつけた。
そこに唐揚げとおにぎりがのったお皿が置かれ、続いてお酒のグラスが置かれる。
用意されたカクテルはスクリュードライバーだった。オレンジとウォッカでつくるんだっけな。
「二週間後に検査結果でるんだっけ」
「うん、でも試験あるから、八月で予約してきた」
今月末は試験がある。
検査のことは気になるけどそれよりも試験の方が大事だし、検査結果を聞いたらたぶん、勉強どころじゃなくなりそうだから。
俺はスクリュードライバーを飲んでそのグラスを見つめる。
スクリュードライバーって飲みやすいんだよなぁ。だからつい飲みすぎちゃう。そう思いつつ、美味しいからすぐに二口目を口にした。
「真弘さん、こんなの出されたらもう一杯飲みたくなるじゃん」
言いながら俺は、あっという間にスクリュードライバーを半分ほど飲んでしまう。
「じゃあもう一杯用意しようか?」
いたずらっぽく笑いながら真弘さんが言った。
どうしようかな……欲しい、って言わない限り真弘さんは次の飲み物を用意はしないだろうけど。
おにぎりと唐揚げ食べてから考えよう。
出された料理を食べ終わる頃、お客さんがやってくる。
見るとふたり組の青年だった。俺より少し年上……二十代半ばくらいだろうか。物珍しそうに辺りを見回していることから、きっと初めて来たんだろう。
「いらっしゃいませ」
真弘さんがそうふたりに声をかけ、席をすすめる。
ふたりはカウンター席の中ほどに腰かけて、メニューを見つめて言った。
「スクリュードライバーを」
「俺はジンライムで」
「はい、かしこまりました」
注文を受けて真弘さんがカウンターの中で動いていく。
それを俺はぼんやりと見つめた。
働く真弘さんてかっこいいよなぁ。俺だけの時は柔和なお兄さんだけどお客さんが来ると全然空気が変わる。
頬杖ついてぼんやりと真弘さんを見つめて俺は、自分の考えにハッとする。
俺、真弘さんに今までこんなこと思ったことあったっけ?
いいや、だって真弘さんは従兄だ。それ以上でもそれ以下でもない。
今日、病院で言われたっけ。発情期がくると情緒不安になりやすいからって。きっとそのせいだ。
そう自分に言い聞かせて俺は席を立つ。
帰ろう。じゃないと俺、真弘さんによからぬ感情をいだきそうだから。
お客さんに飲み物を用意した真弘さんが、驚いた様子で俺を見てこちらへと近づいてくる。
「帰るの?」
「うん。今日はこれで帰るよ。疲れたし」
病院に行って疲れたのは事実だ。でもそれ以上に真弘さんのまとう空気とか雰囲気がやばい。
俺、アルファなのにな……でも俺、アルファとして生きられないんだろうか。
財布をだしてお金を払おうとすると、その手に真弘さんの手がそっと重なる。
ただ少し触れただけなのに心臓が跳ね、俺は目を見開いて真弘さんを見た。
「またおいで」
そう言って笑う真弘さんの笑顔が痛い。
真弘さんと、神宮寺さん。
ふたりのアルファを目の前にすると俺は……オメガなのかって思い知らされてしまう。
俺、どうしたいんだろう。
そんなのまだ考えられるわけがない。
今日は通院だ。
七時にがんばって起きた俺は、八時半には病院に何とか着けた。
オメガとかアルファとかを診察できる病院は、大きな病院に限られている。だから俺が通っているのは大学病院だ。
だから超混んでいる。
発情期がきてしまったからきっと検査するんだろうな。
受付を済ませてしばらくして診察と検査になった。採血だけでなく触診までされて俺はげんなりとして、待合室でうな垂れていた。
あぁ……俺、オメガとして診察受ける日が来るなんて思わなかった……
オメガって……恥ずかしすぎる。あー……薬もらったら俺、まっすぐ帰ろう……なんかもう、診察受けるだけで疲れた、俺。
待合室で魂が抜けていると、スマホがぶるぶると震えた。
誰だろう、と思い確認すると相手は真弘さんだった。
『ちゃんと病院行った?』
『行ったよ、二週間後に結果でるからまた来いって言われた』
『そっか。夕飯、食べにおいでよ』
真弘さん、こんなにメッセージ寄越す人だったっけ。そう思って今までのやり取りをたどってみるけれど、こんなにメッセージをくれたことはない。
何があったんだ、いったい。まじで親みたいだな、って思ったけど、親でもここまで連絡してこないや。
俺の体質のお陰であんまり仲、よくないからな……
夕飯かぁ……どうしようかな。行かなかったら俺、今日は食べない気がするしなぁ。
ちょっと考えて、俺は真弘さんに返信する。
『わかった。夕方に行くよ』
行かなかったらご飯届に来そうだしな、真弘さん。
『待ってるよ』
という返信が来たのを見て俺はスマホをしまった。
そして夕方。俺は真弘さんのお店を訪れる。
開店直後のバーにはいつものように誰もいない。
俺に気が付いた真弘さんは、優しい笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「こんにちは、真弘さん。夜も暑くてつらい」
言いながら俺は、定位置に腰かける。
そこにすぐ置かれたのはポテトサラダだった。
「あ、ありがとう、真弘さん」
礼を言い、俺は出された箸を手に持つ。
「飲み物はどうする? ジュースにしておく?」
「あー、どうしようかなぁ」
正直飲む気はなかったけど、ここに来ると飲みたくなるんだよなぁ……
俺は呻った後、
「一杯だけ飲む」
て言って、ポテトサラダに箸をつけた。
そこに唐揚げとおにぎりがのったお皿が置かれ、続いてお酒のグラスが置かれる。
用意されたカクテルはスクリュードライバーだった。オレンジとウォッカでつくるんだっけな。
「二週間後に検査結果でるんだっけ」
「うん、でも試験あるから、八月で予約してきた」
今月末は試験がある。
検査のことは気になるけどそれよりも試験の方が大事だし、検査結果を聞いたらたぶん、勉強どころじゃなくなりそうだから。
俺はスクリュードライバーを飲んでそのグラスを見つめる。
スクリュードライバーって飲みやすいんだよなぁ。だからつい飲みすぎちゃう。そう思いつつ、美味しいからすぐに二口目を口にした。
「真弘さん、こんなの出されたらもう一杯飲みたくなるじゃん」
言いながら俺は、あっという間にスクリュードライバーを半分ほど飲んでしまう。
「じゃあもう一杯用意しようか?」
いたずらっぽく笑いながら真弘さんが言った。
どうしようかな……欲しい、って言わない限り真弘さんは次の飲み物を用意はしないだろうけど。
おにぎりと唐揚げ食べてから考えよう。
出された料理を食べ終わる頃、お客さんがやってくる。
見るとふたり組の青年だった。俺より少し年上……二十代半ばくらいだろうか。物珍しそうに辺りを見回していることから、きっと初めて来たんだろう。
「いらっしゃいませ」
真弘さんがそうふたりに声をかけ、席をすすめる。
ふたりはカウンター席の中ほどに腰かけて、メニューを見つめて言った。
「スクリュードライバーを」
「俺はジンライムで」
「はい、かしこまりました」
注文を受けて真弘さんがカウンターの中で動いていく。
それを俺はぼんやりと見つめた。
働く真弘さんてかっこいいよなぁ。俺だけの時は柔和なお兄さんだけどお客さんが来ると全然空気が変わる。
頬杖ついてぼんやりと真弘さんを見つめて俺は、自分の考えにハッとする。
俺、真弘さんに今までこんなこと思ったことあったっけ?
いいや、だって真弘さんは従兄だ。それ以上でもそれ以下でもない。
今日、病院で言われたっけ。発情期がくると情緒不安になりやすいからって。きっとそのせいだ。
そう自分に言い聞かせて俺は席を立つ。
帰ろう。じゃないと俺、真弘さんによからぬ感情をいだきそうだから。
お客さんに飲み物を用意した真弘さんが、驚いた様子で俺を見てこちらへと近づいてくる。
「帰るの?」
「うん。今日はこれで帰るよ。疲れたし」
病院に行って疲れたのは事実だ。でもそれ以上に真弘さんのまとう空気とか雰囲気がやばい。
俺、アルファなのにな……でも俺、アルファとして生きられないんだろうか。
財布をだしてお金を払おうとすると、その手に真弘さんの手がそっと重なる。
ただ少し触れただけなのに心臓が跳ね、俺は目を見開いて真弘さんを見た。
「またおいで」
そう言って笑う真弘さんの笑顔が痛い。
真弘さんと、神宮寺さん。
ふたりのアルファを目の前にすると俺は……オメガなのかって思い知らされてしまう。
俺、どうしたいんだろう。
そんなのまだ考えられるわけがない。
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