アルファでオメガ

あさじなぎ@小説&漫画配信

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 「秋斗君……?」

 すぐそこで声が聞こえるけれど、神宮寺さんは俺に触れようとはしなかった。
 俺は首を振って顔を上げ、笑顔を作り神宮寺さんの方を見る。

「な、なんでもないっすよ」

 でもそんな底の浅い嘘なんて、大人の神宮寺さんにはすぐ見抜かれちゃうだろう。
 実際、彼は不審そうな顔で俺の方を見ている。
 やっべ。どうしよう……これ、どうやって誤魔化そうかな……

「も、もしかして身体の調子よくない?」

 あぁ、そういう方向か。ならそういう方向に話を持っていこう。そう思って俺は頷いて言った。

「あ、はい。あの……初めてアレがきて……ときどきあるんですよね」

 と言って、俺は誤魔化す。
 そんなんじゃねぇけど、この心の中の葛藤を、神宮寺さんに知られたいとは思わなかった。
 俺は……どうしたいんだろうな。
 アルファかオメガか。
 どちらで生きるのが正しいんだろう。
 
「じゃあ、早く休んだ方がいいね」

 心配げな顔で言われて俺は頷いた。

「そうっすね……すいません、また今度、話しましょう」

 笑って答えると神宮寺さんはなぜか驚いた顔になる。
 ……なんでそんな顔するんだ、この人?

「え、あ……う、うん……そうだね」

 そして嬉しそうな顔になって頷いた。
 俺、何か変なこと言ったか? よくわかんねぇな。
 そんな話をしているうちに、俺が住むマンションの前にたどり着く。
 着いてよかったという安心感と、もう着いてしまったという残念な気持ちが俺の中で拮抗しあう。
 俺はマンションを見上げた後、神宮寺さんを振り返って言った。

「じゃあ俺、帰ります。今日はありがとうございました」

 そして俺は頭を下げて、神宮寺さんに背を向ける。

「あ、えーと……秋斗君」

 戸惑ったような声で名前を呼ばれ、俺は振り返り神宮寺さんを見る。
 彼は俺の方に伸ばした手を一度引っ込めて、首を横に振った後、俺の方をじっと見つめて言った。

「連絡先、聞いてもいいかな」

「あ……」

 それはいつか聞かれるだろうって思っていた。
 そりゃそうだよな、この人、俺にチャンスをくれって言ってきたんだもんな。連絡先を知りたいのは当たり前だろう。
 連絡先……どれならいいだろう。スマホの番号? SNSのアカウント? メッセージアプリ?
 大学の連絡で使うから、SNSは大学用と趣味用のアカウントがある。
 何ならいいだろう、えーと、えーと……メッセージアプリやSNSのDMだと既読ついちゃうからな……

「で、電話なら」

 必死に考えた後俺がそう答えると、彼はほっとしたような顔になる。

「ありがとう」

 そんな笑顔で言われると恥ずかしいんだけど。
 俺は顔を伏せてスマホを取り出してロックを解除する。
 電話番号教えるだけなのになんで俺、緊張してるんだろ。
 互いに電話番号を教え合うと、神宮寺さんはにこっと笑い、

「じゃあまた」

 と言って、手を振る。

「あ、はい。また」

 俺はぎこちなく笑い、背を向けて急いでマンションに入っていった。


 部屋に入り、俺はソファーに座り込んで天井を見つめる。
 俺、どうしよう……
 アルファとして生きるものだと思っていた。
 なのにオメガとして目覚めてしまって、俺は今、どうしたいのかわからない。
 時間はまだある。すぐに決めなくていいことだけど……

『俺にチャンスをくれないか?』

 そう言った時の神宮寺さんの表情が頭の中をよぎり、心が痛くなる。
 わかんねえよ、俺。どうしたいかなんてさ。
 来週の土曜日、通院の時に相談しよう。
 絶対に、どうするのかっていう話題、でるからな……
 そう思っていると、スマホがぶるぶると震えた。
 俺はスマホを手にして、ロックを解除して誰からの連絡か確認する。
 相手は真弘さんだった。
 って、なんで真弘さん?
 最近なんか、すげー連絡してくるようになったような気がする。

『ちゃんと帰れた? 大丈夫?』

 まるで母親みたいなメッセージだな。

『大丈夫だよ、子供じゃねぇし』

『そうなんだけど。検査あるだろうから、ちゃんとご飯食べるんだよ』

『わかってるって』

 検査かあ……
 オメガとして目覚めて初めての通院。
 何言われんのかな。
 そう思って俺は大きく息をついた。
 
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