ぼくに毛が生えた

理科準備室

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第3話 T先生にばれた

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 お風呂でちんちんに毛が生えているのを見つけてから一か月ほど経った。
 それからも毛はだんだんのびてきて、お風呂だけじゃなくておしっこするときもチャックを開けてひっぱり出して狙いを合わせるたびに黒いのがはっきり見えるようになってきた。うんこするときに歌っても4年生の合唱部に入った時は出てていた鼻から抜けるような女の子のような高くて透き通ったボーイソプラノの声はもう出なかった。
 ぼくにとってボーイソプラノの声はたった一つのつばさだった。
 ふだん教室にいるときのぼくは、「ようよう」とかいつも言っていて、いつも汗くさい取っ組み合いのプロレスごっこをやっている、あのおきゅう部の丸刈りたちと同じダンシという名の汚いケダモノだった。
 しかも、ぼくは手が少し不自由だったので、字を書くことも絵を描くことも楽器の演奏も工作もまるで下手で、給食や持ち物をよくひっくり返したりこぼしたりする汚いバイキンだった。おまけに、もっと汚いことに、したくなくても、おなかがはってくれば家のオンナベンジョでおしりを出してうんこもしなければならなかった。
 でも、合唱部で初めてボーイソプラノで歌ったとき、ぼくはT先生からつばさをもらったような気がした。学校の音楽室や体育館の舞台に立ったときはもちろん、うちのオンナベンジョでうんこしながら歌う時も、ぼくののどの奥からボーイソプラノの女の子のように高くて透き通った声がでてくると、背中からつばさがはえてきて、ダンシとか不自由な手とかオンナベンジョにたまったうんこみたいな汚いもの中にあるバイキンの世界から、体ごと一瞬でも飛びたったような気がした。
 しかし、今のぼくには、それまで白かったちんちんに毛がはえていくのとは正反対に、背中のつばさははえてこなくなり、はじめて合唱部で歌ったときの前のあのダンシに戻っていた。しかも毛むくじゃらのもっと汚いケダモノにもなってしまっていた。
 ただ、同じ図書室の音楽の本にあったように、昔のヨーロッパでやっていたカストラートみたいにちんちんを切ればボーイソプラノに戻ると書いてあったけど、ズボンとパンツを下ろしてちんちんをハサミの前に出している光景を想像しただけで痛そうでイヤだった。
 それでもぼくは合唱部では、最初に毛が生えたのに気付いた日にちんちんを必死に手でおおって風呂場を出たように必死に裏声で歌って声変わりを隠した。
 でも、そんな努力もある日突然終わった。
 その日も放課後の音楽室でT先生の指導で合唱部の練習をしていた。秋の文化祭で発表する「秋の子」「まっかな秋」に続けて「もみじ」をうたっていた。その時、T先生は突然ピアノの手を止めてぼくを呼んだ
「●●●くん、ちょっと来なさい、ピアノに合わせて歌ってみて」
 T先生はいつもの発声練習の曲を弾いた。
「あー、あー、あー」
「裏声じゃなくて、普通の声で」
 ぼくはどきりとした。もう本当にぼくのボーイソプラノのときは終わりに近づいいること
「あー、あー、あー」
 T先生はピアノの手を止めて言った。
「ちょっと、みなさん聞いてください!」
「これから、●●●くんはアルトパートにまわってもらいます。皆さんも知っているようにこれまで●●●くんはソプラノパートとしてこの合唱部を引っ張ってもらってきてましたが、男の子は大人になっていくと声が下がって大人の男性の声になってしまいソプラノパートが歌えなくなってしまいます。本当は●●●くんは男性の大人の声でも高音ですからテノールパートなんですが、うちの合唱部はそれがないのでアルトパートで歌ってもらうことにしました。こんどはアルトでがんばってくれるかな、●●●くん?」 
 T先生に言われたらぼくは「はい」と答えるしかなかった。
 T先生は小学校に入学以来どの先生にも嫌われてきたぼくをはじめてかわいがってくれた先生だった。4年生のまだ背の伸びていない頃のぼくをいつも「坊や」と呼んでくれていた。T先生は担任している学級やその同学年の子たちには、音楽に熱心な分お高くて親しみにくくて指導が厳しい先生と評判が悪かったけど、ぼくにはやさしかったことは誰もが不思議がった。それはぼくが歌がうまかったことがあったかもしれないけど、ぼくの手が少し不自由なことを挙げる大人もいた。聞いた話だけどT先生は障害のある子にやさしくて、そういう子をからかった子を数回ひっぱたいたことで、PTA会長の親が校長に文句を言ってきて問題になったことがあるらしかった。
 でも、そんなT先生でも、女の子たちの前でちんちんに毛がはえたことをばらされたみたいでぼくはすごく恥ずかしくて、ぼくはおもわずほほが恥ずかしくなってうつむいてしまった。「ちんちんに毛がはえた●●●くんなんてエッチ!最低!近寄ってこないで!」と合唱部の女の子たちに目いっぱい軽蔑されるのが怖くて目が見れなかった。
 でも、そのあと6年生のソプラノパートのリーダーの女の子が
「●●●くんを失うのは残念ね、でも大人になったから仕方ないわ、アルトでがんばってね!」
というと、同じく6年生のアルトパートのリーダーの女の子が
「アルトへようこそ●●●くん! 私たちは君のような戦力を迎えられてうれしいわ」
 と言ってくれてぼくを励ましてくれた。それとともに周りからは拍手が上がった、ちんちんに毛が生えたというのに・・・。

(続く)
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