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第二章:うらーか男子のアシスタント

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 アパートの更新、または退居まであと十八日。

 前回のクロアさんの配信を生で見た結果、更新か退居かの二択は、まあなんとかなるんじゃね?程度に思い始めた和也の目に今、入ってきたもの。部屋のドアの前にドンと置かれた、置き配というもの。それなりの大きさのものが2つ、小さめの何かが1つ、部屋のドアを塞いでいた。
 全てクロアさん宛てのものだった。
「置き方っ!ビールが温くなんだろっ!コンチクショウっ!」
 コンビニ帰りの和也の手首には、ビールとスナック菓子の入ったビニール袋が提げられていた。
 段ボール箱を蹴飛ばしたい気持ちを鎮める為に、深呼吸。大丈夫だ、落ち着け和也。箱の一つはカップ麺と書いてある、見た目程は重くない筈だ。
 気合いを入れて、三つの荷物を重ねて持ち上げて、ダッシュで白亜の家に持って行けばいい。文句は全て白亜に言えばいい。
「うりゃああぁっ!」
 叫び声と共に、コンビニ袋を腕に引っ提げたまま、三つの荷物を積み重ねて持ち上げて、和也は白亜の住む古民家まで走った。約20秒の距離だった。
 ガンガンガン!ガンガンガン!
 両手を荷物に塞がれて、ノックの出来ない状態の和也は、白亜の家のドアを蹴飛ばす。
「白亜さんさー、届いた荷物がクッソ邪魔くせぇんだよ!さっさと取りに出てきやがれ!」
 ガラリとドアが開く。中から出てきた白亜は、和也が荷物を抱えている様子を見て頷いた。
「中に入れ。荷物はこの前の客間に、とりあえず置いといてくれ」
 両手が塞がっている、サンダル履いてて良かった。和也は足元を確認し、ホッとしてサンダルを脱いだ。白亜の家に上がり、この前通された生活感の無い客間を入ってすぐの場所に、ドサッと荷物を下ろす。
「ふぅ……クロアさん宛てっつー事は、欲しいものリストからのモンか?」
「……だろうな」
 いつの間にか隣に座っていた白亜から、スッと無言でカッターを手渡された。白亜は一番小さい梱包を、ぺりぺりと音を立てて開けている。
 カッターは、他の箱を開けておけと言いたいのだろう。
 チラリ、横目で白亜の手元を見る。細く、しなやかな指だ。爪なんて桜貝みてぇな色してやがる。やっぱコイツ、生活感ねーわ。あっても届いたカップ麺ぐれーだろ。なんて思いながら一番重かった箱を開けた。中身は、ずっしり重たい袋が1つ。袋には「わくわく!大人の福袋~たのしいオモチャでたっぷりイこう~」デカい文字で印刷してあった。
「……何だこりゃ?」
 こういう類いの物がある事を、和也は知っていた。知っていたからこそ、福袋という形で実物が大量に入っているだろう物を見て、辟易する。大人の福袋は脇に置いておき、箱に入っていた紙を広げて目を通す。
「メッセージ、読むぞ。初々しいクロアさんが、どこに出しても恥ずかしい淫乱メスお兄さんになるのを楽しみにしてます!グッズは配信で使って下さると嬉しいです。これからも配信楽しみにしてます♡だ、そうな……」
「こちらにも入っていた。えーと、欲しいものリストから送らせて頂きました。クロアさんの白い肌に赤い縄は、絶対似合うと思います!……ふむ、似合うと言われたなら、試してみるか」
 白亜が和也に表紙を見せるように手に持って突き出してきたものは、一冊の書籍。「どきどき♡緊縛レッスン入門編」中身は緊縛プレイについて親切丁寧、写真付きで解説してあるもの、らしい。
 ってか、試してみるか。じゃねーんだわ。変態的なもん持ちながら無邪気に目を輝かせて、こっち見んな!しばくぞ……とまで考えて和也は首を横に振った。このまま白亜が成長しきってしまったら、しばくのもそのうちご褒美になるような気がした。
「最後!カップ麺の人っ!この人はきっとまともな筈だ!」
 和也のやけっぱちな期待は、すぐに裏切られた。
「……ドM臭漂うメスお兄さんには粗末な食事がお似合いだ。惨めにかっ喰らって欲しい……んあああああっ!カップ麺様に失礼だろこの野朗っ!」
 メッセージを読み上げ、叫ぶ和也の隣では、白亜が届いたものを並べてスマホで写真を撮っていた。白亜は暫くスマホを弄ってから、座卓の座布団の上に座る。
「和也、ちょうどいいタイミングだ。次の配信の話をしよう。座って、福袋の中身を座卓の上に広げよ」
 これは一応、仕事。今までのバイトみてぇにすぐ辞めたら後が無い、仕事。仕方なく、変態のお世話をするだけの簡単なお仕事……ブツブツと小さな声で呟き念じながら、和也は大人の福袋の中身を出して、座卓の上に並べていく。
 ローションやローター、バイブなどの定番のものから、縄や拘束具などのまぁ入っている事もありそうだなぁというSMグッズ、これどうすんだよ?と思うようなゼンマイ仕掛けでトコトコ歩く男性器のオモチャまで、数回程度の配信では使いきれないだろう重量分の玩具が福袋に入っていた。
「これで全部だ。次の配信で使いてぇもん、あんのか?」
「配信内容だが……リクエストがいくつか来ていて、正直悩んでいる所だ」
 首を突っ込んだら抜けられなくなる。和也の直感は、全てを捨てて逃げるなら今だと言っていた。直感とせめぎ合うものは、和也自身に湧いた他者……白亜への興味だった。和也にとって他者とは、今まで利用するだけの存在だった。それなのに、今はどうだろう?白亜が女だったら?と、考えもした。蓋を開けてみて気付いた生活感の無さ、意外と豊かな表情を、いつの間にか目で追うようになっていた。
「……悩んでるモンの候補、言ってみろ。オレが選んでいいってんなら、オレがやりやすそうなヤツを選んでやる」
「そっ!それはとても助かる!ありがたい」
 座卓から身を乗り出し、和也の手を両手でぎゅっと握りしめて、白亜はキラキラした目で嬉しそうに笑った。
 和也はチッ、と、舌打ちをする。退路は絶たれつつあった。
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