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終幕〜先生のママになりたい〜

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微睡み、夢現を行き来する、新緑の香る心地良い季節。トシヲは智のアパートに居た。

「一緒に流星群を見る」
その約束を果たした後も、トシヲは休みが重なる度に智の部屋を訪れていた。今は全裸に薄手のパーカーを羽織っただけの姿で、座布団に座っている。首筋や二の腕、内腿の皮膚の表面には小さく赤い痕が無数に散りばめられていた。
膝の上には、智が頭を乗せて寝転がっている。こちらは下着だけを身につけた状態だ。そこはかとなく情事の後を匂わせる、甘い空気に満ちていた。
さらり。トシヲの手が優しく智の髪を撫でた。
「トモちゃん先生」
うっすらと、智は目を開け、眩しそうにまばたきを何度か繰り返す。
「まだ、先生と呼んでくれるのか。嬉しいな……」
「卒業前夜、たくさん教えて貰いましたから。トモちゃん先生の欲望の方向性も、僕自身の気持ちの変化への気付きも、全部」
「トシヲは勉強熱心だ、そういう所も全部……その、好きだぞ」
「僕も、智ちゃん先生の変態的な所も含めて、好きですよ」
トシヲは智の頬に両手を伸ばし、手のひらで優しく包み込んで智の唇に口付けた。優しい口付けの味は、サイダーの甘さがした。
「変態的なのはお互い様だろ」
「一つ不満があるとしたら……トモちゃん先生がまだ僕の事をママって呼んでくれない所です」
眼鏡越しの、トシヲの真剣な眼差しに智は目を泳がせている。
「僕はね、全人類のママになりたかった……数ヶ月前までの話ですね。今は……トモちゃん先生のママに、なりたい」
「……あぁーーー…………」
真剣なトシヲの口調に反して、智は自分の顔面を腕で覆い隠し、情けない呻き声を上げた。
「好きな人を癒したい、受け入れたいって、今ならハッキリ分かりますからね」
「ターゲットが絞られた、という事か。呼びはしないが、他の奴に言いまくられるよりかは……安心出来る」
スッと、トシヲの手が後ろに伸びる。手繰り寄せたものは一冊の絵本。トシヲは、智の目線から絵が見えるように絵本の表紙を開いた。
「トモちゃん先生、読み聞かせぐらいは付き合って下さい」
「……そのぐらいなら、まあ……」
トシヲの手のひらが、智の頭をポンポンと撫でる。スゥ、と軽く息を吸う音の後には、穏やかで優しい声が絵本の中の物語を紡いでいく。

「これは、僕と、トモちゃん先生の為の物語…………」


【END】
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