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神無月ハロウィン
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神無月の終わり。現代では仮装を楽しむイベントと化した、外国から伝わってきた祭り「ハロウィン」日本で言うところのお盆のようなものという認識はあるものの、お盆とは全く違う賑わいを見せ、時にハメを外し過ぎる者も居る。
そんな中、俺、松戸真也が働いているバー「セブンスヘブン」もまた、ハロウィンには仮装をしてきた客にちょっとした菓子をお通しに添えて出していた。
普段なら、白くてふわふわの狐……壱が一緒に働いている事もある。が、毎年ハロウィンの日に、壱は居ない。神使の狐である彼は、神無月には出雲に行ってしまっている。立場的には行っても行かなくてもいいらしいが、普段はなかなか会えない弟や妹も集まる為、出雲に行くようだ。俺には、止めろという気も起こらない。
比較的仲の良いきょうだい達が、年に1回集まれる場所だ。楽しんできて欲しいとすら思っている。
だからと言って、壱がひと月居ない寂しさはあるけれど……それでも、俺は12ヶ月のうち、11ヶ月は壱と共に過ごせるのだ。あのふわふわの柔らかく白い毛並みの耳や尻尾も、触るとぷにぷにモチモチしている素肌も、最近懐いてきて無意識に甘えてくるぬくもりも、1年のうち11ヶ月は独占出来る。そう考えると、不思議と悪い気はしない。
ただ、ハロウィンで壱が仮装するとしたら、どんなものを選ぶのかとか、選べなさそうならどんなものを着せようかとか、そう言った楽しみが無い事は、少しだけ寂しく思う。俺にとって、壱の居ないハロウィンは、月が変わって壱が帰ってくる前日。11月1日の暁光と共に土産を引っ提げて、にこにこしながら
「ただいまなのじゃ。土産は出雲そばなのじゃ。酒も貰ったからの」
等と言ってくる。最近は、壱の居なかった期間の寂しさよりも、ハロウィンの日の仕事を終えてから、夜明けの蕎麦をいかに美味しくするか?久々に一緒に食べる食事をどんなものにしようかと、楽しみにする事が増えた。
ハロウィンの日の仕事が終わったら、壱の好きなとり天を作って、薬味を刻んで、土産の蕎麦をとびきり美味しく食べられるように準備する。
1ヶ月ぶりの、二人で食べる食事は格別だと思うんだ。俺のハロウィンの楽しみは、次の日への希望なのかも知れない。
仕事が終わり、蕎麦に乗せるものを用意しているうちに、気の抜けた声がどこからともなく聞こえてきた。
「ただいまーなのじゃ!真也と食べたくての、土産に出雲そばを買ってきたのじゃ」
ふわふわの、真っ白な尻尾を嬉しそうに振って、柔らかな笑みを浮かべて壱は目の前に立っていた。
「おかえり、壱」
壱の身体を、そっと抱きしめてキスをして。蕎麦を茹でる前に少しだけ、ロマンチックな気分に浸らせて欲しい。ひと月、触れられなかった寂しさと溜まった情欲は、これからの季節に来る壱の発情期に合わせて埋め合わせをして貰うからな?壱。
【おしまい】
そんな中、俺、松戸真也が働いているバー「セブンスヘブン」もまた、ハロウィンには仮装をしてきた客にちょっとした菓子をお通しに添えて出していた。
普段なら、白くてふわふわの狐……壱が一緒に働いている事もある。が、毎年ハロウィンの日に、壱は居ない。神使の狐である彼は、神無月には出雲に行ってしまっている。立場的には行っても行かなくてもいいらしいが、普段はなかなか会えない弟や妹も集まる為、出雲に行くようだ。俺には、止めろという気も起こらない。
比較的仲の良いきょうだい達が、年に1回集まれる場所だ。楽しんできて欲しいとすら思っている。
だからと言って、壱がひと月居ない寂しさはあるけれど……それでも、俺は12ヶ月のうち、11ヶ月は壱と共に過ごせるのだ。あのふわふわの柔らかく白い毛並みの耳や尻尾も、触るとぷにぷにモチモチしている素肌も、最近懐いてきて無意識に甘えてくるぬくもりも、1年のうち11ヶ月は独占出来る。そう考えると、不思議と悪い気はしない。
ただ、ハロウィンで壱が仮装するとしたら、どんなものを選ぶのかとか、選べなさそうならどんなものを着せようかとか、そう言った楽しみが無い事は、少しだけ寂しく思う。俺にとって、壱の居ないハロウィンは、月が変わって壱が帰ってくる前日。11月1日の暁光と共に土産を引っ提げて、にこにこしながら
「ただいまなのじゃ。土産は出雲そばなのじゃ。酒も貰ったからの」
等と言ってくる。最近は、壱の居なかった期間の寂しさよりも、ハロウィンの日の仕事を終えてから、夜明けの蕎麦をいかに美味しくするか?久々に一緒に食べる食事をどんなものにしようかと、楽しみにする事が増えた。
ハロウィンの日の仕事が終わったら、壱の好きなとり天を作って、薬味を刻んで、土産の蕎麦をとびきり美味しく食べられるように準備する。
1ヶ月ぶりの、二人で食べる食事は格別だと思うんだ。俺のハロウィンの楽しみは、次の日への希望なのかも知れない。
仕事が終わり、蕎麦に乗せるものを用意しているうちに、気の抜けた声がどこからともなく聞こえてきた。
「ただいまーなのじゃ!真也と食べたくての、土産に出雲そばを買ってきたのじゃ」
ふわふわの、真っ白な尻尾を嬉しそうに振って、柔らかな笑みを浮かべて壱は目の前に立っていた。
「おかえり、壱」
壱の身体を、そっと抱きしめてキスをして。蕎麦を茹でる前に少しだけ、ロマンチックな気分に浸らせて欲しい。ひと月、触れられなかった寂しさと溜まった情欲は、これからの季節に来る壱の発情期に合わせて埋め合わせをして貰うからな?壱。
【おしまい】
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