2 / 2
貴方の望む物語
しおりを挟む
「むかしむかし、あるところに……」
放課後の教室。外からは運動部の子たちの元気な声が聞こえてきている。
オレンジ色に染まる、他には誰も居ないそこには1人の眼鏡をかけた少年が絵本を広げ、ゆったりと読み聞かせる声色で、声に出して読んでいた。
ガラリ。教室の扉が開く。
「古谷トシヲ、1人でブツブツ言ってないでそろそろ帰れ」
眉間に皺を寄せた、中肉中背の男性が教室に入り、少年・古谷トシヲに少し呆れた声色で告げた。
「あ、先生。僕の事はママって呼んでって言ってますよね?」
「誰が呼ぶか……」
古谷は手にしていた絵本を先生に見せた。
「僕の愛する子供達に、読み聞かせをしたいんです。その為に練習してました」
見せられた絵本に視線を落として暫く凝視する先生。その絵本は、よくあるお伽話。少女が王子様と幸せになるハッピーエンドのものだった。
「それはそうと、その絵本は古谷の趣味で選んだのか?」
絵本は、そう。シンデレラ。子供向けにエグいエピソードを省いてあるストーリーのもの。
古谷はフルフルと首を横に振る。
「僕の趣味で選ぶなら……ワクワクするような冒険譚ですね。僕の趣味だけでなく、愛しい子供達には色々な物語に触れて欲しいですから、定番は一通り読み聞かせ出来るようになりたいんですよ」
「はぁ……聴いててやるから、読み終わったら帰れよな……」
そう言う先生の言葉の後、古谷は絵本の最初のページを開いて先程のようなゆったりと、優しい声色で古谷は絵本を読み聞かせ始める。
「シンデレラは王子様と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」
絵本の読み聞かせを聴いた先生は、ふぁ……と、欠伸を一つ。
「上手いとは思うが。古谷の声、少し眠たくなるな……」
古谷は少しはにかんだ表情を浮かべ、読み終えた絵本を閉じて鞄に仕舞う。
「愛しい子供達の為の寝物語でもありますからね」
「王子様と幸せに、か。大人になってから改めて聞くと、途中カボチャの場所で城に行ったり、12時になる前に急いで帰ろうとしたり、ほんの少しの冒険はしてるんだなぁって印象はある話だな」
癖のある黒髪を先生の手がぽんぽん、と撫でる。古谷はくすぐったそうに目を細めた。
「読んでいてそんな気はしました。おとぎ話って、だいたい少しぐらいは冒険しているものが多いかもって」
会話をしながら、古谷は帰り支度を整え終えてから先生の頬にそっと手を添える。
「先生も、僕の愛しい子供達の1人です。だから……先生の好きな物語も教えて下さいね?」
夕暮れ時、黄昏の色から宵闇の色に近くなる教室。先生はすこし黙り込んで、真剣に考えている様子。真面目な気質は些細な所で見えてくる。
「うーん……聞かれてもすぐには出ないな。ま、知りたいならまた何かを聴かせてくれ。そのうち俺の好きな物語も見つかるかも知れん」
「それでは先生、また明日の放課後。別の絵本の読み聞かせを聴いて下さいね」
鞄を肩にかけ、襟足の長めの癖毛を揺らしながら古谷は教室から廊下に向かった。まだ教室内に残る先生の方を振り向いて
「次こそは先生、僕をママって呼んで下さいね!」
「呼ばねぇよ!!!」
反射的に出た先生のツッコミは、静かな教室に響き渡った。既に教室から出た自称ママの生徒に届いているのか、いないのかは定かではない。
放課後の教室。外からは運動部の子たちの元気な声が聞こえてきている。
オレンジ色に染まる、他には誰も居ないそこには1人の眼鏡をかけた少年が絵本を広げ、ゆったりと読み聞かせる声色で、声に出して読んでいた。
ガラリ。教室の扉が開く。
「古谷トシヲ、1人でブツブツ言ってないでそろそろ帰れ」
眉間に皺を寄せた、中肉中背の男性が教室に入り、少年・古谷トシヲに少し呆れた声色で告げた。
「あ、先生。僕の事はママって呼んでって言ってますよね?」
「誰が呼ぶか……」
古谷は手にしていた絵本を先生に見せた。
「僕の愛する子供達に、読み聞かせをしたいんです。その為に練習してました」
見せられた絵本に視線を落として暫く凝視する先生。その絵本は、よくあるお伽話。少女が王子様と幸せになるハッピーエンドのものだった。
「それはそうと、その絵本は古谷の趣味で選んだのか?」
絵本は、そう。シンデレラ。子供向けにエグいエピソードを省いてあるストーリーのもの。
古谷はフルフルと首を横に振る。
「僕の趣味で選ぶなら……ワクワクするような冒険譚ですね。僕の趣味だけでなく、愛しい子供達には色々な物語に触れて欲しいですから、定番は一通り読み聞かせ出来るようになりたいんですよ」
「はぁ……聴いててやるから、読み終わったら帰れよな……」
そう言う先生の言葉の後、古谷は絵本の最初のページを開いて先程のようなゆったりと、優しい声色で古谷は絵本を読み聞かせ始める。
「シンデレラは王子様と末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」
絵本の読み聞かせを聴いた先生は、ふぁ……と、欠伸を一つ。
「上手いとは思うが。古谷の声、少し眠たくなるな……」
古谷は少しはにかんだ表情を浮かべ、読み終えた絵本を閉じて鞄に仕舞う。
「愛しい子供達の為の寝物語でもありますからね」
「王子様と幸せに、か。大人になってから改めて聞くと、途中カボチャの場所で城に行ったり、12時になる前に急いで帰ろうとしたり、ほんの少しの冒険はしてるんだなぁって印象はある話だな」
癖のある黒髪を先生の手がぽんぽん、と撫でる。古谷はくすぐったそうに目を細めた。
「読んでいてそんな気はしました。おとぎ話って、だいたい少しぐらいは冒険しているものが多いかもって」
会話をしながら、古谷は帰り支度を整え終えてから先生の頬にそっと手を添える。
「先生も、僕の愛しい子供達の1人です。だから……先生の好きな物語も教えて下さいね?」
夕暮れ時、黄昏の色から宵闇の色に近くなる教室。先生はすこし黙り込んで、真剣に考えている様子。真面目な気質は些細な所で見えてくる。
「うーん……聞かれてもすぐには出ないな。ま、知りたいならまた何かを聴かせてくれ。そのうち俺の好きな物語も見つかるかも知れん」
「それでは先生、また明日の放課後。別の絵本の読み聞かせを聴いて下さいね」
鞄を肩にかけ、襟足の長めの癖毛を揺らしながら古谷は教室から廊下に向かった。まだ教室内に残る先生の方を振り向いて
「次こそは先生、僕をママって呼んで下さいね!」
「呼ばねぇよ!!!」
反射的に出た先生のツッコミは、静かな教室に響き渡った。既に教室から出た自称ママの生徒に届いているのか、いないのかは定かではない。
0
お気に入りに追加
5
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。

星蘭学園、腐男子くん!
Rimia
BL
⚠️⚠️加筆&修正するところが沢山あったので再投稿してますすみません!!!!!!!!⚠️⚠️
他のタグは・・・
腐男子、無自覚美形、巻き込まれ、アルビノetc.....
読めばわかる!巻き込まれ系王道学園!!
とある依頼をこなせば王道BL学園に入学させてもらえることになった為、生BLが見たい腐男子の主人公は依頼を見事こなし、入学する。
王道な生徒会にチワワたん達…。ニヨニヨして見ていたが、ある事件をきっかけに生徒会に目をつけられ…??
自身を平凡だと思っている無自覚美形腐男子受け!!
※誤字脱字、話が矛盾しているなどがありましたら教えて下さると幸いです!
⚠️衝動書きだということもあり、超絶亀更新です。話を思いついたら更新します。


平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる