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第9話
しおりを挟むテラとの通信を終えて、小屋を出ようとした。
その時、何かが動いたような物音が聞こえた。
まだ奴らの仲間がいたのか?
驚き、警戒して辺りを見回す。
しかし部屋の中には何も動くものはない。
よく聞くと、音は上から聞こえてくるようだった。
天井を見る。
部屋の隅の天井に、天板が外せるようになっている部分があった。
そのそばには、梯子が倒れている。
どうも、そこから梯子で屋根裏部屋へと入れるようだ。
その屋根裏部屋から、ゴソゴソと音がしている。
僕は警戒しながら、梯子を使って天板を外し、屋根裏部屋へと登ってみた。
気配を殺して辺りをうかがう。
中は思ったより広く、ちゃんとした部屋になっている。
酒や食料等が保管されているようだ。
その隅に、音の主がいた。
縛られ、猿ぐつわを噛まされている少女が、転がされていたのだ。
少女は身をよじって暴れていたが、縄が解ける様子はない。
僕が近づいていくと、少女はそれに気づき、こちらを見て、
「んー!んー!」
と何事か声をあげた。
とりあえず、猿ぐつわを外してやる。
「ぷはっ!ありがとう!あんたが下のやつらをやっつけてくれたのね!」
少女が言う。
状況からして、さっき僕が殲滅した奴らにさらわれてきたのだろう。
タイミングよくボスや手下が小屋にいると思ったが、この少女の処遇を話し合っていたのかもしれない。
奴らは人身売買にも手を染めている。
少女には、おそらく階下の騒ぎが聞こえていたのだろう。
奴らがやられたのを察知して、救助を求めて騒ぎ出したというところか。
「ああ。君は?」
「私はメリダ!ねえあなた、この縄を解いてくれない?ちょっとドジ踏んじゃってさぁ。助けてくれたらお礼はするから!ね!」
少女はまくしたてるように言い、僕に向かってウインクをしてみせた。
罪のない一般家庭の少女が哀れにも人さらいに遭ったのだ……と思っていたが、どうも少し違うようだ。
「ドジ?お礼?」
「そうなのよ!まさか盗みに入った所がこいつらのたまり場だったなんて思わなかったのよね。危うく売り飛ばされるところだったわ。助けてくれたら、こいつらのお宝を山分けにしてあげる!」
どうやら、この少女も、どちらかというと悪者のたぐいだったようだ。
しかも、奴らのお宝をさも自分のもののように僕に半分譲ろうとしているが、そもそもそれはこの少女のものではない。
「あ、なによその表情は?まさかあんた、あたしにへんなことしようってんじゃないでしょうね?男ってみんなそう!仕方ないわね。ちょっとだけなら……」
返事をしない僕の表情を見て、どう曲解したのか、少女は的はずれな事を言いはじめた。
「わかったわかった。縄は解いてやる。お宝も別にいらない。変なこともしない。だから暴れないでくれよ」
正直、この少女は善良な市民ではなさそうだし、僕は女性が苦手だ。別に見捨ててもいいのだが、このままだと、この少女はおそらく誰にも見つけられずに餓死するかもしれない。
さすがにそれは寝覚めが悪い。
僕は少女の縄を解いてやった。
少女はキョトンとした顔で僕を見て、
「え?どうして?何もいらないの?あんた、変わってるわね……」
「金に困ってるわけじゃないし、女性恐怖症なんだ。助けたのは僕の道徳に従ったまでだ」
「女性恐怖症?なに、あんたEDなの?」
いきなり不躾なことを訊いてくる少女。
僕は憮然として、
「初対面の人間に訊くことじゃないな」
と言った。
「あらー。ごめんなさい。でもそうよね。あたしの美ボディを見て、欲情しない男なんて男としておかしいもんね」
どれだけ自分に自信があるんだ。
ともかく、これで最低限のことはしてやった。
僕は少女の軽口にはつき合わず、梯子を使って階下へ降りた。
少女もついてくる。
小屋から出て、拠点へ戻るために雪の中を歩き出す。
少女もついてくる。
「おい、どうしてついてくる?」
「ああ、まだ名前を言ってなかったわね。あたしメリダっていうの。あなたはなんていうの?」
名前を尋ねたわけではない。
「違う。どうしてついてくるんだと訊いているんだ。街の方向はこっちじゃないぞ」
「わかってるわよ。ねえ、私、あんたについて行くことに決めたわ!よろしくね」
「いや、困るよ。何を言っているんだ。どうしてそうなる?」
少女……メリダは唇を尖らせて言った。
「あたし、身寄りがなくってさぁ。孤児院に戻れる歳じゃないし、正直、街にも戻りづらいのよね」
「街に戻りづらい?」
「あいつら、街じゃけっこう幅きかせてたから。そいつらに盗みに入ったっていうのがバレてると、何されるかわかんないのよ」
「たが、あいつらのボスは死んだはずだ」
「わかってないわね。ああいうのは、ボスが死んだってまたワラワラとゴキブリみたいに湧いて出るのよ。際限なくね」
「………」
まあ、僕も統治者側の人間だった身だ。そういうチンピラ崩れがいくらでも湧くのはよく知っている。
「だから、あたしマジで困ってるの。街に戻れないし、他の街に行くにしたって、旅の準備も何もなしじゃ自殺行為だわ。だからお願い。ちょっとだけ寄生させて!」
メリダは両手を合わせて、片目を瞑ってみせた。
こうも正直に言われると、呆れを通り越して気持ちよくなってくる。
僕はため息をついた。
「仕方ない。だが覚悟しろよ。あいつらと揉めていたからわかるだろうが、僕だってまともな市民じゃない。秘密を漏らしたら死んでもらう」
「わかってるわよ。これでも口は固いんだから!」
本当にわかっているのか、軽く言うメリダ。
「あと、盗むなよ。僕の周りで盗みをしたら、同じく殺すからな」
「わかったわよ。あなた隙がなさそうだからね」
それなりに凄みをきかせてた言ったつもりだったが、メリダはケロリと答えてきた。
隙があったら盗むということだろうか。どうもこの少女とは噛み合わない。
僕はもう一度ため息をついた。
「仕方ない。こっちだ」
「やっほう!そうこなくっちゃ!」
小躍りしながらついてくるメリダ。僕は早くも後悔しかかっていた。
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