8 / 14
第4話の3
しおりを挟む納得していると、テラの方から話しかけてきた。
「ヘンリー様。出過ぎた事かもしれませんご、ひとつ、提案がございます」
「ん?なんだい?」
「ヘンリー様の左腕についてです。不便なのではないでしょうか」
「まあ、そりゃもちろん不便だが……」
「さらに、左腕がないという事は戦闘能力の著しい低下につながります。この状況下では、致命的かと考えます」
「まあ、確かにそうだが、しかしだからといって腕を生やすことはさすがにできないだろう?」
「はい。現状では腕を生やすことは不可能ですが、義手を用意することはできます」
現状では、と来た。
内心驚きつつ、義手という言葉にも怪訝に思う。
「しかし、義手というのはかなり専門的な技術と、個々の状態に合わせた細かい調整が必要なのだろう。そのため、すべて特注品になると聞いたことがある。量産品の義手があるというのかい?」
「いいえ。そういった意味では、特注品の義手になります。ですが、専門の技師がいなくても、ここの設備を使用すればヘンリー様の状態に合わせた高性能な義手を作成することが可能です」
「そうなのか?しかしそれはどうやって……」
僕が口にした疑問に、テラは少し考えるような素振りをしてみせた。
「口で説明するよりも、実際に見ていただいた方が早いかと思います。もしよろしければ、コントロールルーム兼工房にご案内いたしますが」
この施設に、僕が目覚めたこの部屋以外にもいくつかの部屋があることは、さっき廊下を歩いた時にわかっていた。
この謎の施設の中を少しでも見せてもらえるというのであれば、願ったりだ。
「ああ、ぜひとも頼みたい」
僕は言った。
するとテラは、
「こちらです」
と言い、部屋の扉から廊下に出て行った。
ついていくと、地上部への階段とは逆の側に扉があり、その向こうにはさらに下へ向かう階段があった。
その階段を使って地下二階へと降りると、そこはなんとも奇妙な部屋だった。
全体的に暗く、様々なモニターやインジケーターの光が賑やかに輝いている。
実験室のような大きめの作業台があり、その奥にデスクと椅子があった。
周囲には様々な形をした機械や器具が並んでおり、壁には大きな液晶モニターが3枚もあった。
そのうちの2枚は、地図のようなものを映し出している。
そして作業台の上には透明な箱のようなものがあり、その中に、人間の腕の形をしたものが浮かんでいた。
そう、箱の中が水で満たされているわけでもないのに、浮かんでいたのだ。
「こちらが、コントロールルーム兼工房です。この施設の中枢です」
テラが言う。
僕はその部屋の様子に呆気にとられていた。
その中でも、特に箱の中に浮かんでいる義手に見とれていた。
金属のような光沢のある物質でできている。不思議と硬質な印象は受けない。
腕というのは、人の最も便利な道具だ。だからこそ、見た目にその機能が現れる。
この義手は、人間の腕よりも遥かに多くの事を可能にしてくれるだろう。
「そちらが、ヘンリー様の義手です。まだ完成品ではありませんが、微調整をすれば装着することができます。お気に召しましたか」
「ああ……。素晴らしい。こんなものをいつの間に作っていたんだい?」
「このボックスはナノテクを使用した3D出力機です。設計図があれば大抵のものは作ることができます。この義手の設計図は、私のようなアンドロイドのものを流用しました」
正直、何度もテラはアンドロイドだと言われているが、普通の人間にしか見えない。
もちろんテラの手も、普通の人間の女性のものだ。
「私のものと見た目が違うのは、より機能性を重視したためです。また、装着すれば人工皮膚によって覆われますので、実際の腕とさほど見分けがつかなくなるかと思います」
「そうなのか……。機能というのは?君の腕の流用ということは、関節が動かせたりするのか?」
僕の知っている義手は、棒のようなもので、関節が一つあればいいほうだ。
最高級品になると、魔法で動かせるものもあるが、とうてい自分の手のようにはいかない。
「基本的には、ご自分の手と同じように動かせます。電気信号と魔法とのマルチ接続ですので、違和感はほぼないかと。それに加えて、腕力の増加、反射回路による緊急自衛機能、電磁バリア、通信機能等がついています」
ふむ、わからん。
いや、インストール?とやらのおかげで単語の意味はわかるのだが、僕の知っている義手とあまりにもかけ離れすぎて理解が追いつかない。
しかし、とんでもなく高性能で便利な義手だということはわかった。
「装着いたしますか?」
「ああ」
その時、テラがぴくりと動きを止めた。何かに耳をすますように沈黙する。
少しして、テラは言った。
「探知システムに反応がありました。地上部周辺にヒトを感知。どうやら、おかわりが届いたようです。義手の慣らし運転にはちょうどよろしいかと」
13
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる