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第3話の2
しおりを挟む僕は敵の一人がドアのそばで待ち構えていることを確認すると、小屋の中にあった木製の壊れかけた椅子を持った。
そして外に通じるドアを勢いよく蹴り開ける。
すかさず、手に持った椅子を外に放り投げる。
飛び出した椅子に反応して、出口のすぐ横から剣が振り下ろされた。
剣は椅子を破壊した。
そしてその木製の部材に刃がくい込み、動きが鈍る。
僕は片手で剣を抜き、戸惑っている相手の腕に振り下ろした。
刃は相手の腕甲にくい込んだが、その下までは届かなかった。
「くっ……」
腕甲ごと腕を切断するつもりだったのに。
片腕しかないせいで、体のバランスが取れずに体重移動がうまくいかない。
それに剣を両手で握れないので、同じ威力を出そうとすると倍の握力が必要になる。
バランスを崩してたたらを踏んでしまう。
ドアから僕の体がはみ出たところへ、別の敵が肩を掴んできた。
うまく抵抗できず、そのまま外に引きずり出されてしまう。
片腕しかないという事が、ここまで不利だとは。
とっさに自分から地面に倒れ込み、転がって逃れる。
僕の転がった後の地面を、敵の剣が突き刺していく。
跳ね起きて距離を取る。
が、起きた勢いで体のバランスを崩し、またしてもたたらを踏んでしまった。
幸運にも三人に囲まれる位置関係は避けられたが、思惑が大きく外れてしまった。
と、脇腹に鋭い痛みを感じ、目をやると、切り傷ができて服に血が滲んでいた。
攻撃を避けながら転がった際に、敵の刃が掠っていたのだろう。
内蔵まで達するほどではないが、出血はじくじくと続いていて、自然に止まる浅傷でもない。
非常にまずい戦況だ。
おかしい。
なぜ判断を間違えた。
慣れない片腕のハンデが大きいことなど、少し考えればわかったはずじゃないのか。
現にテラは僕の戦力不足を危惧していた。僕の判断力が鈍っている。
まさか、呪いの影響か?
僕は小屋を背にして三人と向き合うような位置関係にいる。
一斉に襲い掛かられたら、さばききる自信はない。
その時、小屋の中からテラが叫ぶ声が聞こえた。
「ヘンリー・レン様!」
僕の名前だ。
名乗った覚えはないが、そんなことは些細なことだった。
眠っている間に荷物や衣服を見られたのかもしれない。
「現在の状況を緊急事態と認め、あなたを、臨時の仮マスター権限のあるゲストとして登録します。これには本人の承認が必要です」
なんだ?
急に言われても、半分も理解できない。
先頭の男が剣を振りかぶって襲ってくる。
僕はそれを避けながら、叫び返した。
「どういうことだ!どうすればいい?」
「これにより、システムによる魔力的な補助、その他が可能になります。承認する場合は、その意思を声に出してください」
片手で相手の攻撃を受けるが、やはり握力が足りず、簡単に弾かれてしまう。
さばききれない。
「わかった!僕の判断が間違っていた。手助けになるならなんでもいい、承認する!承認するよ!」
僕は叫び返した。
考えている余裕はなかった。
藁にも縋る気持ちで、僕はとっさに了承を叫んだ。
「ありがとうございます。現時点より、ヘンリー・レン様を臨時仮マスター権限のあるゲストとして登録いたいました。これより、魔力供給による身体強化を開始します」
テラがそう言った途端、僕の体に変化が起こった。
体中が熱くなり、力が漲ってくる。
霧が晴れるように意識が冴えわたっていく。
二人の敵が同時に斬りつけてきた。
その両方の刃が、スローモーションに見える。
刃だけでなく、敵の体の動きも、三人目の動きもゆっくりと観察できた。
僕は余裕を持って二本の剣をかわし、一人目に目潰しを、二人目に蹴りを叩き込んだ。
簡単な前蹴りだったのだが、相手はドロップキックでもくらったように吹っ飛んだ。
目潰しをした敵は失神したようだ。
最後の一人が驚きの表情を見せる。
だがその最後の一人が行動に移るより早く、僕はその懐に飛び込んでいた。
相手の鳩尾に体重を乗せた肘打ちをくらわせる。
相手は背後に弾き飛ばされ、吐瀉物ではなく血を吐いて沈黙した。
僕はそのまましばらく身構えていたが、三人とも起き上がる気配はない。
というか意識がない。
それを確認して、ようやく警戒を解いた。
身体の熱がすっと冷めていく。
同時に、羽のように軽かった手足に元の重さが戻ってきた。
頭のだるさも忍び寄ってくる。
「敵性ビジターの意識消失を確認しました。お見事です」
小屋の中にいるテラが、無感動に戦いの終了を告げる。
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