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第1話
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ここトラストライン地方は、厳しい地形と気候で知られている。
平地は少なく、8割以上が山岳地帯だ。
それも、馬車が通れるような道がほとんどない険しい山ばかりである。
山の奥地にはモンスターも多く出没し、強力なドラゴン種の巣があるという噂もある。
獣人族の村落も多いが、この地方の属するタラミス王国は人間属の国で獣人を国民とは認めていないため、交流は盛んではない。
夏は乾季となり、砂漠のように乾いた灼熱の空気が生きとし生けるものを焼く。
冬は豪雪で、毎日のように吹雪が吹き荒れ、背丈を超える積雪が夏まで溶けることがない。
春と秋はほぼないと言ってもいいくらい短い間しかなく、夏と冬が交互にやってくる。
今はその僅かな、夏から冬に変わる前の猶予期間だ。
とはいえ、他の地方で言えば真冬と言っていいだろう。
積雪がまだ屋根まで届いておらず、かろうじて歩ける程度だというだけで、気温は氷点下を下回っている。
辺りは吹雪いており、数メートル前もよく見えない。
僕はいま、そんな吹雪の中でさまよい歩いていた。
言葉どおり、目的地もなく、ただ足が動く限り、歩き続けているのだ。
指先一つに至るまですべての動作がうまくいかない。
それに先程受けた刀傷が紫色に腫れ上がってひどく熱を持っている。
どうやら毒が刃に塗ってあったらしい。
騙されてかけられた呪いのせいで回復や解毒の魔法も封じられているため、処置のしようがない。
そして、極めつけは、左腕が千切れている。紐で縛ってどうにか失血死は免れたものの、肩から先がなくなったせいで体のバランスが取りづらくて歩くのもおぼつかない。
そんな状態で、行くあてはなかった。
どこか一時的な目的地といえるような場所もなかった。
先ほど、吹雪の向こうに灯りが見えたような気がしたが、視界が悪すぎてすぐに見失ってしまった。
吹雪の雪山で目的地もなく、大怪我をしながらさまよい歩いている。
遭難という言葉すら生温い四面楚歌だ。
正直、死は覚悟している。
こうしている間にも、いつ追手に追いつかれるかわからない。
必死で逃げてこの山に迷い込んだのだ。
追手は容赦なく僕を殺すだろう。
今の僕にはもう戦う力は残っていない。
なすすべなく、簡単に命を奪われることになるに違いない。
そんな考えが頭をよぎったとたん、足が限界を迎えた。
深い雪をかき分けて進むだけの体力が尽きてしまったのだ。
いや、付きたのは気力なのかもしれない。
客観的にみて、体力はもうとっくに限界を超えてしまっている。
視界が霞む。
もともと吹雪のせいで悪い視界が、ほとんど何も見えなくなる。
見える範囲が狭くなり、暗闇が押し寄せてくる。
僕はがくんと膝をついた。
意識がなくなる寸前なのだろう。
その膝の衝撃すらもぼんやりとしている。
雪の上に突っ伏して、頬に雪が押し付けられるが、その冷たさももう感じない。
頭の中が朦朧として、現実と妄想の境界が曖昧になる。
頭の上で、女の声が聞こえるのだ。
この吹き荒れる吹雪の中にまったく似つかわしくない、落ち着いた抑揚のない声だ。
「領域内への侵入者を捕捉。照合の結果、敵性ではないと判断。重度の衰弱及び意識の混濁を確認。救命活動に移ります」
平地は少なく、8割以上が山岳地帯だ。
それも、馬車が通れるような道がほとんどない険しい山ばかりである。
山の奥地にはモンスターも多く出没し、強力なドラゴン種の巣があるという噂もある。
獣人族の村落も多いが、この地方の属するタラミス王国は人間属の国で獣人を国民とは認めていないため、交流は盛んではない。
夏は乾季となり、砂漠のように乾いた灼熱の空気が生きとし生けるものを焼く。
冬は豪雪で、毎日のように吹雪が吹き荒れ、背丈を超える積雪が夏まで溶けることがない。
春と秋はほぼないと言ってもいいくらい短い間しかなく、夏と冬が交互にやってくる。
今はその僅かな、夏から冬に変わる前の猶予期間だ。
とはいえ、他の地方で言えば真冬と言っていいだろう。
積雪がまだ屋根まで届いておらず、かろうじて歩ける程度だというだけで、気温は氷点下を下回っている。
辺りは吹雪いており、数メートル前もよく見えない。
僕はいま、そんな吹雪の中でさまよい歩いていた。
言葉どおり、目的地もなく、ただ足が動く限り、歩き続けているのだ。
指先一つに至るまですべての動作がうまくいかない。
それに先程受けた刀傷が紫色に腫れ上がってひどく熱を持っている。
どうやら毒が刃に塗ってあったらしい。
騙されてかけられた呪いのせいで回復や解毒の魔法も封じられているため、処置のしようがない。
そして、極めつけは、左腕が千切れている。紐で縛ってどうにか失血死は免れたものの、肩から先がなくなったせいで体のバランスが取りづらくて歩くのもおぼつかない。
そんな状態で、行くあてはなかった。
どこか一時的な目的地といえるような場所もなかった。
先ほど、吹雪の向こうに灯りが見えたような気がしたが、視界が悪すぎてすぐに見失ってしまった。
吹雪の雪山で目的地もなく、大怪我をしながらさまよい歩いている。
遭難という言葉すら生温い四面楚歌だ。
正直、死は覚悟している。
こうしている間にも、いつ追手に追いつかれるかわからない。
必死で逃げてこの山に迷い込んだのだ。
追手は容赦なく僕を殺すだろう。
今の僕にはもう戦う力は残っていない。
なすすべなく、簡単に命を奪われることになるに違いない。
そんな考えが頭をよぎったとたん、足が限界を迎えた。
深い雪をかき分けて進むだけの体力が尽きてしまったのだ。
いや、付きたのは気力なのかもしれない。
客観的にみて、体力はもうとっくに限界を超えてしまっている。
視界が霞む。
もともと吹雪のせいで悪い視界が、ほとんど何も見えなくなる。
見える範囲が狭くなり、暗闇が押し寄せてくる。
僕はがくんと膝をついた。
意識がなくなる寸前なのだろう。
その膝の衝撃すらもぼんやりとしている。
雪の上に突っ伏して、頬に雪が押し付けられるが、その冷たさももう感じない。
頭の中が朦朧として、現実と妄想の境界が曖昧になる。
頭の上で、女の声が聞こえるのだ。
この吹き荒れる吹雪の中にまったく似つかわしくない、落ち着いた抑揚のない声だ。
「領域内への侵入者を捕捉。照合の結果、敵性ではないと判断。重度の衰弱及び意識の混濁を確認。救命活動に移ります」
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