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私はいずれ幸せになることが確定しているので虐められてもたいしたことがない話 2

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以前、メイド達の間で小銭が無くなる事件があった。
その時も、オルデュール様は私の出身を理由にして、犯人は私だと決めつけた。証拠もないのに、同僚のメイド達はそれを信じて私が犯人だという扱いをした。

結局、別の人間が犯人だとわかったからいいものの、危うく逮捕されるところだった。

「まったく、邪魔ね!こんなところにバケツなんて置いてるんじゃないわよ」

オルデュール様がバケツを蹴飛ばす。
バケツは倒れて中の水が廊下に広がった。

「ちゃんと拭いときなさいよ!こんなところに置くのが悪いんだからね!」

そんなところにバケツを置いたのはメイド長なのだが、私はあえて黙っていた。

また最初から雑巾がけをやり直さなければならない。
私は内心でため息をついたが、もちろん外には出さない。
掃除は得意なのだ。
大したことではない。

オルデュール様はドスドスとメイド長にソックリな足音をたてて去って行った。

あの二人、実は血縁関係があるんじゃないかしらと思うくらいよく似ている。
オルデュール様の背中が見えなくなってから、私はこっそりと肩をすくめる。

私はこの世界の人間じゃない。
転生者だ。

いま私がいるこの世界は、少女小説「エマ・メーディオ物語」の世界である。

主人公のエマは、貧しい家庭に生まれ、借金のかたに貴族の屋敷にメイドとして売られ、誰からも愛されずにいじめられる。
しかし、屋敷で開かれたあるパーティーの夜にこの国の王子様と出会い、一目惚れをされる。
そこから、エマの大逆転劇が始まるのだ。
エマは王子様の寵愛を受け、婚約者となる。
エマをいじめていた悪役令嬢達はみんな、王子様に嫌われて不幸のどん底に落ちる。

私は前世でこの小説を読んだことがあるのだ。

ある時、私は唐突に自分が転生者であること、今いるこの世界が少女小説の中であること、自分がその小説の主人公のエマ・メーディオになっていることを認識した。

だから、メイド長やオルデュール様にいじめられても、両親に愛されなくても、屋敷中に嫌われても、私にはたいしたことではなかった。

なぜなら、私はこの小説を読んだことがあり、彼女たちがこれからどんなに不幸な目に遭うことになるのか、よく知っているからだ。

彼女たちがどれだけ私をいじめようとも、最後に王子様に愛されるのはエマである私なのだ。
彼女たちはかわいそうに、愛されることはないのだ。
私はそれを知っている。

だから、彼女たちに何をされても腹が立たないのだ。
むしろあわれみすら覚える。

私はエマ・メーディオなのだから。



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