2 / 19
私はいずれ幸せになることが確定しているので虐められてもたいしたことがない話 2
しおりを挟む
以前、メイド達の間で小銭が無くなる事件があった。
その時も、オルデュール様は私の出身を理由にして、犯人は私だと決めつけた。証拠もないのに、同僚のメイド達はそれを信じて私が犯人だという扱いをした。
結局、別の人間が犯人だとわかったからいいものの、危うく逮捕されるところだった。
「まったく、邪魔ね!こんなところにバケツなんて置いてるんじゃないわよ」
オルデュール様がバケツを蹴飛ばす。
バケツは倒れて中の水が廊下に広がった。
「ちゃんと拭いときなさいよ!こんなところに置くのが悪いんだからね!」
そんなところにバケツを置いたのはメイド長なのだが、私はあえて黙っていた。
また最初から雑巾がけをやり直さなければならない。
私は内心でため息をついたが、もちろん外には出さない。
掃除は得意なのだ。
大したことではない。
オルデュール様はドスドスとメイド長にソックリな足音をたてて去って行った。
あの二人、実は血縁関係があるんじゃないかしらと思うくらいよく似ている。
オルデュール様の背中が見えなくなってから、私はこっそりと肩をすくめる。
私はこの世界の人間じゃない。
転生者だ。
いま私がいるこの世界は、少女小説「エマ・メーディオ物語」の世界である。
主人公のエマは、貧しい家庭に生まれ、借金のかたに貴族の屋敷にメイドとして売られ、誰からも愛されずにいじめられる。
しかし、屋敷で開かれたあるパーティーの夜にこの国の王子様と出会い、一目惚れをされる。
そこから、エマの大逆転劇が始まるのだ。
エマは王子様の寵愛を受け、婚約者となる。
エマをいじめていた悪役令嬢達はみんな、王子様に嫌われて不幸のどん底に落ちる。
私は前世でこの小説を読んだことがあるのだ。
ある時、私は唐突に自分が転生者であること、今いるこの世界が少女小説の中であること、自分がその小説の主人公のエマ・メーディオになっていることを認識した。
だから、メイド長やオルデュール様にいじめられても、両親に愛されなくても、屋敷中に嫌われても、私にはたいしたことではなかった。
なぜなら、私はこの小説を読んだことがあり、彼女たちがこれからどんなに不幸な目に遭うことになるのか、よく知っているからだ。
彼女たちがどれだけ私をいじめようとも、最後に王子様に愛されるのはエマである私なのだ。
彼女たちはかわいそうに、愛されることはないのだ。
私はそれを知っている。
だから、彼女たちに何をされても腹が立たないのだ。
むしろあわれみすら覚える。
私はエマ・メーディオなのだから。
その時も、オルデュール様は私の出身を理由にして、犯人は私だと決めつけた。証拠もないのに、同僚のメイド達はそれを信じて私が犯人だという扱いをした。
結局、別の人間が犯人だとわかったからいいものの、危うく逮捕されるところだった。
「まったく、邪魔ね!こんなところにバケツなんて置いてるんじゃないわよ」
オルデュール様がバケツを蹴飛ばす。
バケツは倒れて中の水が廊下に広がった。
「ちゃんと拭いときなさいよ!こんなところに置くのが悪いんだからね!」
そんなところにバケツを置いたのはメイド長なのだが、私はあえて黙っていた。
また最初から雑巾がけをやり直さなければならない。
私は内心でため息をついたが、もちろん外には出さない。
掃除は得意なのだ。
大したことではない。
オルデュール様はドスドスとメイド長にソックリな足音をたてて去って行った。
あの二人、実は血縁関係があるんじゃないかしらと思うくらいよく似ている。
オルデュール様の背中が見えなくなってから、私はこっそりと肩をすくめる。
私はこの世界の人間じゃない。
転生者だ。
いま私がいるこの世界は、少女小説「エマ・メーディオ物語」の世界である。
主人公のエマは、貧しい家庭に生まれ、借金のかたに貴族の屋敷にメイドとして売られ、誰からも愛されずにいじめられる。
しかし、屋敷で開かれたあるパーティーの夜にこの国の王子様と出会い、一目惚れをされる。
そこから、エマの大逆転劇が始まるのだ。
エマは王子様の寵愛を受け、婚約者となる。
エマをいじめていた悪役令嬢達はみんな、王子様に嫌われて不幸のどん底に落ちる。
私は前世でこの小説を読んだことがあるのだ。
ある時、私は唐突に自分が転生者であること、今いるこの世界が少女小説の中であること、自分がその小説の主人公のエマ・メーディオになっていることを認識した。
だから、メイド長やオルデュール様にいじめられても、両親に愛されなくても、屋敷中に嫌われても、私にはたいしたことではなかった。
なぜなら、私はこの小説を読んだことがあり、彼女たちがこれからどんなに不幸な目に遭うことになるのか、よく知っているからだ。
彼女たちがどれだけ私をいじめようとも、最後に王子様に愛されるのはエマである私なのだ。
彼女たちはかわいそうに、愛されることはないのだ。
私はそれを知っている。
だから、彼女たちに何をされても腹が立たないのだ。
むしろあわれみすら覚える。
私はエマ・メーディオなのだから。
7
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います
真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
クズな義妹に婚約者を寝取られた悪役令嬢は、ショックのあまり前世の記憶を思い出し、死亡イベントを回避します。
無名 -ムメイ-
恋愛
クズな義妹に婚約者を寝取られ、自殺にまで追い込まれた悪役令嬢に転生したので、迫りくる死亡イベントを回避して、義妹にざまぁしてやります。
7話で完結。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
【完結】悪役令嬢に転生!国外追放後から始まる第二章のストーリー全く知りませんけど?
大福金
恋愛
悪役令嬢アリスティアに異世界転生してしまった!!
前世の記憶を思い出したのは、断罪も終わり国外追放され途中の森で捨てられた時!何で今?!知ってるゲームのストーリー全て終わってますけど?
第二章が始まってる?ストーリー知りませんが?
森に捨てられ前世の記憶を取り戻すがここが物語の第二章のストーリーの始まりらしい。。
2章の内容が全くわからない悪役令嬢が何故か攻略対象に溺愛され悩むお話。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる