14 / 19
愛される日2
しおりを挟む「うん、憶えてないよね……。君は小さかったし、僕もまだ、今の姿とはまったく違っていたから」
今の姿とは違う?
私の中で、何かが引っかかった。
洞窟の中にいるココの弟たちの、トカゲのような姿。
私は、その姿には見憶えがある。王宮でだ。
王宮で……。
そうだ、王宮の中庭であのトカゲを見つけたのだ。
珍しい形で、とても綺麗なトカゲだったが、ひどく弱っていた。
害虫として殺処分しようとする庭師から隠して、城の外へ逃してやったのだ。
「まさか……あの時のトカゲさんが……あなた?」
私が言うと、ココは目を見開いて驚く。
「憶えてたの!?」
「今よ、今、思い出したわ!そうなのね?あなたがあの時のトカゲさんなのね!」
「そうだよ!王宮の中庭で、庭師から逃してくれた!」
「あの、虹色の鱗と角を持った!」
「そう!弱っていた僕に蜂蜜を舐めさせてくれた!」
私達はお互いに指さし合い、確認し合った。
驚くべきことに、私達は既に出会っていたのだ。
いや、ココはそれを憶えていて、私だけが忘れていたようだが。
「嬉しいよ!思い出してくれたんだね!」
ココは飛び上がらんばかりに喜び、満面の笑顔を見せてくれた。
「そ、それで、返事は……」
ころころと表情を変え、不安そうに訊くココ。
私は改めてココに向き直り、その手をとった。
「もちろん、ありがとう。こちらこそ、これからもよろしくおねがいします」
そして私も、ココのように笑った。
自然に、いつの間にか出てきた笑顔だった。
ココの顔が緊張から緩み、笑顔へと変わっていく。
私達は笑顔を向け合い、手を取り合って見つめ合った。
「マイアーレ……」
「ココ」
お互いに名前を呼び合う。
その時、鋭く空気を裂く音が聞こえた。
そして何かがぶつかる音がした。
振り向くと、矢が洞窟の入口に刺さっていた。その矢には布が巻いてあり、火がついている。
火矢だ。
続いて、空気を裂く音が、たくさん。
「マイアーレ!」
ココが私に飛びつき、私を抱えるようにして地面に伏せる。
そのココの背中に、いくつもの火矢が降り注ぐ。
しかし、ココは人間の背中からドラゴンの翼を出してその火矢から私を守った。
「ココ!大丈夫!?」
「ああ」
言葉の通り、ドラゴンの翼は人間の矢など簡単に弾いてしまい、刺さったものは一つもないようだった。
「大丈夫。でも……」
ココが立ち上がる。
そして矢が飛んできた方向を向いて、この上なく苦い顔を見せる。
私もそちらを見て、思わず息をのんだ。
軍隊だ。
それも百や二百ではない。
戦争時のような、本気の軍勢だ。
王国軍の本隊が、この山を包囲していた。
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
自分の家も婚約した相手の家も崩壊の危機だと分かったため自分だけ逃げました
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
ミネルヴァは伯爵家に養女として引き取られていたが、親に虐げられながら育っていた。
侯爵家の息子のレックスと婚約させられているが、レックスの行動を見て侯爵家は本当は危ないのでは?と嫌な予感を抱く。
調べたところレックスの侯爵家は破綻寸前であることがわかった。
そんな人と心中するつもりもないミネルヴァは、婚約解消をしようとするがどうしても許してもらえないため、家と縁を切り自分だけ逃げることにした。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる