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愛される日2

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「うん、憶えてないよね……。君は小さかったし、僕もまだ、今の姿とはまったく違っていたから」

今の姿とは違う?

私の中で、何かが引っかかった。

洞窟の中にいるココの弟たちの、トカゲのような姿。

私は、その姿には見憶えがある。王宮でだ。

王宮で……。
そうだ、王宮の中庭であのトカゲを見つけたのだ。

珍しい形で、とても綺麗なトカゲだったが、ひどく弱っていた。
害虫として殺処分しようとする庭師から隠して、城の外へ逃してやったのだ。

「まさか……あの時のトカゲさんが……あなた?」

私が言うと、ココは目を見開いて驚く。

「憶えてたの!?」

「今よ、今、思い出したわ!そうなのね?あなたがあの時のトカゲさんなのね!」

「そうだよ!王宮の中庭で、庭師から逃してくれた!」

「あの、虹色の鱗と角を持った!」

「そう!弱っていた僕に蜂蜜を舐めさせてくれた!」

私達はお互いに指さし合い、確認し合った。

驚くべきことに、私達は既に出会っていたのだ。

いや、ココはそれを憶えていて、私だけが忘れていたようだが。

「嬉しいよ!思い出してくれたんだね!」

ココは飛び上がらんばかりに喜び、満面の笑顔を見せてくれた。

「そ、それで、返事は……」

ころころと表情を変え、不安そうに訊くココ。

私は改めてココに向き直り、その手をとった。

「もちろん、ありがとう。こちらこそ、これからもよろしくおねがいします」

そして私も、ココのように笑った。
自然に、いつの間にか出てきた笑顔だった。

ココの顔が緊張から緩み、笑顔へと変わっていく。

私達は笑顔を向け合い、手を取り合って見つめ合った。

「マイアーレ……」

「ココ」

お互いに名前を呼び合う。

その時、鋭く空気を裂く音が聞こえた。
そして何かがぶつかる音がした。
振り向くと、矢が洞窟の入口に刺さっていた。その矢には布が巻いてあり、火がついている。

火矢だ。

続いて、空気を裂く音が、たくさん。

「マイアーレ!」

ココが私に飛びつき、私を抱えるようにして地面に伏せる。
そのココの背中に、いくつもの火矢が降り注ぐ。

しかし、ココは人間の背中からドラゴンの翼を出してその火矢から私を守った。

「ココ!大丈夫!?」

「ああ」

言葉の通り、ドラゴンの翼は人間の矢など簡単に弾いてしまい、刺さったものは一つもないようだった。

「大丈夫。でも……」

ココが立ち上がる。
そして矢が飛んできた方向を向いて、この上なく苦い顔を見せる。

私もそちらを見て、思わず息をのんだ。

軍隊だ。
それも百や二百ではない。
戦争時のような、本気の軍勢だ。

王国軍の本隊が、この山を包囲していた。



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