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不思議なドラゴンの棲家1
しおりを挟むドラゴンの手のひらの中は意外にも暖かかった。
ドラゴンは私を両手のひら(両前足?)で優しく包み込むと、空へと舞い上がった。
体が浮く不思議な感覚に背筋がぞわりとする。
ドラゴンの指の隙間から、びゅうびゅうと風が吹き込んでくる。
相当な速度で飛んでいるのだろう。
恐る恐る顔を外に出してみると、冷たい空気が頬を荒々しく撫でていった。
私は肺いっぱいに息を吸い、できる限り大きな声で叫んだ。
「あなたはだれ?どうして私を連れて行くの?」
一緒に行こう、と誘われても、私には選択肢などなかった。
震えながらうなずいて、そのまま空に連れてこられたのだ。
風の音が強すぎて、ドラゴンには私の声が届かないようだった。
もう一度大きな声で叫ぶ。
「あなたは、だあれ!」
ドラゴンは声に気づき、その紅いルビーのような瞳で私を見ると、またすぐに前を向いた。
なんだか、少し寂しそうな表情にも感じられた。
そうして、ドラゴンは口を開いた。
「下を見てごらん。今日は天気が良いから、地上がよく見えるよ」
言われて思わず下を見ると、自分がどれほどの高さを飛んでいるのかよくわかった。
先ほどまで自分がいた町外れの畑はすでに背後に置き去りにされて見えない。
無論、その後ろにあった王宮も視界の外だ。
目の前に、いや、眼下に広がるのは緑の山脈とその間を流れる谷川、その中に点々と存在する人間の集落。そして真っ青な空だ。
「すごい……」
私は恐怖も忘れて見入ってしまった。
ドラゴンが満足そうに微笑んだ気がした。
「あの山の中腹に村があるでしょ?その少し先に僕の神殿があるんだ」
ドラゴンが言う。
その視線の先にあるのは、この国の伝承で神聖な山とされているココ山脈だった。
その神聖な山に、僕の神殿?
「その神聖よりもっと行ったところに僕の巣があるから、そこまで我慢してね」
そう言うと、ドラゴンは飛ぶ角度を少し変えた。降下を始めたのだ。
風が強くなり、私の頬を叩く。
そのスピードに怖くなって私は再びドラゴンの手のひらに隠れた。
ココ山脈のドラゴン。
それはまさに、この国の守護竜とされているドラゴンのことだ。
もし本当にこのドラゴンがココ山脈のドラゴンなら、私はこの国の伝説の守護竜に連れ去られたことになる。
ドラゴンの手のひらの中で重力が変わる感覚がして、スピードが緩くなったのがわかった。
再び指の隙間から外を見る。
真下に神殿が見えた。
古い、遺跡のような神殿だ。
しかし大きく、さらに村人たちによって手入れがされているのがよくわかった。
ドラゴンはその神殿を通り過ぎ、山の中腹の森の中にあるちょっとした広場に軟着陸した。
飛び立つ時もそうだったが、手のひらの私に負担がかからないように細心の注意を払っているのがよくわかる動きだった。
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