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ドラゴンとの出会い1
しおりを挟むあれから、私はすぐさま鞄一つの荷物とともに城を追い出された。
私の後で、城壁の門が閉まる大きな音が鳴り響く。
今この瞬間から、私は王族ではなくなったのだ。
目の前には城のお濠にかかる橋。
その向こうには城下町が開けている。
私は橋を渡り、城下町をあてもなく歩いた。
昨日まで王女だった私は、孤児院の慰問や街の視察などの公務で何度か城下町に来ていたので、街を歩くのは初めてではない。
何度か顔を見たことのある街の人達もいる。
そういった人達は私が共も連れずに一人で歩いているのに驚きながらも笑顔で挨拶をしてくれる。
私はそれに曖昧な笑顔で挨拶を返しながら、通りを歩き続けた。
正直なところ、行くあてがあるわけではない。
しかし、安易にその辺の安宿に泊まるのはやめたほうがよさそうだ。
私は街の人に顔が知られている。
自分は施政者として、民に好かれるよう努めてきたつもりだ。
わが国の人々は善良な人ばかりだと思いたいが、人々の中には良からぬことを考える輩もいないとは限らない。
護衛のいない元王族などという存在は、そういった連中にとって良いカモなのではないだろうか。
かといって、頼れるような人も、今のところ思いつかない。
身を寄せることができそうな有力者も何人か思いつきはするのだが、迷惑をかけることを思うと足は向かなかった。
今ごろ、メルダとフォルター王子はどうしているだろうか。
実を言うと、私はあの二人は意外とお似合いのカップルになるのではないかと思っている。
私は性格が暗くて真面目だけが取り柄の、あまり自己主張できない質だ。
それでもどうにかこうにか王女としての公務をこなしてこれたのは、周りの臣下たちが有能だったからである。
人の上に立つ者は、真面目なだけでは駄目なのだ。
私はとうてい、人の上に立つ者の器ではない。
それに引き換え、メルダの破天荒さと、自分の欲望に忠実なところは、ある種のカリスマになり得ると思う。
当たりが強いのも私に対してだけで、他の人に対してはある程度ちゃんとした対応をしているようだし、少なくとも馬鹿ではない。
そしてフォルター王子には、悪い事をしてしまった。
1年以上も結婚を引き延ばしていたのは、完全に私のワガママなのだ。
フォルター王子は私の前では格好をつけて公明正大に振る舞ってはいるが、なんだか心の中で何を考えているのかわからないところがあった。
ひょっとしたら何か腹黒い事を企んでいるのかもしれないという根拠のない予感がして、結婚に気が進まなかったのだ。
しかし、もしフォルター王子が腹黒だったとしても、メルダとならばうまくやっていけそうな気がするのだ。
メルダもまた、善良とは言い難い人間だということを私は知っている。
二人は似たもの同士で意気投合したのかもしれない。
だとすれば喜ばしいことだ。
二人とも、少なくとも私よりは能力があるはずなので、政治もうまくやるだろう。
そんなことを考えながら歩くうちに、町外れまで来てしまった。
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