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無駄な物言い
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「異論あり!」
手を上げたのは、シレクサ子爵だった。
彼は人垣の中から、飛び上がるようにして手を上げている。
そして、その手を抑えようとするもう一対の手がある。
シルビアの手だ。
「ちょっと!やめなさいよ!何考えてんの!」
シルビアが、シレクサ子爵を止めているのだった。
「うるさい!口出しするんじゃない!」
シレクサ子爵とシルビアの二人は、互いに掴み合いながら、人々の前に出てきた。
「ちょっとあなた、どういうつもりなの?私というものがありながら!私と結婚するんだから、あの女がどうなろうと関係ないじゃない!」
「うるさいうるさい!僕のやることに口出しをするんじゃない!お前がそんな女だとは思わなかった!」
二人は人々の前で罵り合いを始めた。
皆はあっけにとられて、痴話喧嘩を続ける二人を眺めている。
しかし相変わらずシルビアの化粧は濃い。
気に入らない相手にカミソリを送りつけるような女だし、子爵も早々に愛想を尽かしたのかもしれない。
あるいは、シルビアの方が子爵の性癖に不満を持ち、それが原因でうまく行かなくなったか。
他にも考えられる原因はたくさんある。多すぎて特定できなかった。
「なによ!あなたこそ、そんな男だとは思わなかったわ!どうせ、土壇場になってあの女を取られるのが惜しくなったんでしょう!」
「ああそうさ!悪いか!お前なんかよりあの女の方が家柄も見た目もよっぽど優れている!」
なんという言い分だろう。
それを聞いて、心が動く女が一人でもいると思うのだろうか。
呆れていると、シレクサ子爵は私に向かって訴えかけ始めた。
「マリアンヌ!僕が悪かった!この通り謝るから、どうか僕のところへ戻ってきておくれ。君も僕のことを愛してくれていただろう!もう一度二人でやり直そうじゃないか」
土下座せんばかりの勢いで、頭を下げ始めた。
そんなにシルビアが嫌だったのだろうか。目に涙まで浮かべている。
その時、私の隣のヒロエ王子が私に囁いた。
「彼は、君の口から私に自らの悪評が伝わるのが怖いのだろうね」
悪評?メイドを苛める性癖のことか。
それとも女性蔑視の思想のことか。あるいは、他に何かあるのか。
私が疑問を口にすると、
「その全てだよ。実際には君が知らないとしても、彼は君がどこまで知っているかを知らないからね」
王子はやれやれといったように肩をすくめた。
そして一歩前に出て告げる。
「シレクサ子爵。あなたは、私とマリアンヌ殿の婚約について異を唱えると言うのですね」
「そ、そうです。そうだ!」
「では、どのようにしてその気持ちをマリアンヌ殿に主張しますか」
「け、けけ、決闘だ!」
会場にいる皆が驚愕した。
決闘など、そうやすやすと口にしていい言葉ではない。
それなりの手続きをきちんと踏んで、立会人のもとで日を改めて行われるべきものだ。
しかしシレクサ子爵は、その場で剣を抜き放ったのだ。
「今ここで決闘を申し込む!」
「シレクサ子爵。あなたは今、自分が何をしているか分かっているのでしょうね」
王子の声が冷たくなる。
その場の空気が張り詰める。
「あ、ああ!」
「ならば良い。受けて立とう」
王子は壇上から降り、シレクサ子爵と向かい合った。
二人の周りから人々が離れていき、円形の空間ができる。
王子は腰の剣を抜いた。
「行くぞ!」
シレクサ子爵が剣を振りかぶり、王子に襲いかかる。
しかし王子は容易くそれを避け、剣の柄でシレクサ子爵の首を強かに打ち据えた。
「ぐぅっ!」
子爵は呻き声を上げて倒れ込んだ。
「立会人も形式もない決闘だが、子爵はこれで満足か」
子爵は倒れたまま、痛みに立ち上がれずにいる。
あやうく血を見るところだったが、そうならずに済んで皆が胸をなでおろした。
手を上げたのは、シレクサ子爵だった。
彼は人垣の中から、飛び上がるようにして手を上げている。
そして、その手を抑えようとするもう一対の手がある。
シルビアの手だ。
「ちょっと!やめなさいよ!何考えてんの!」
シルビアが、シレクサ子爵を止めているのだった。
「うるさい!口出しするんじゃない!」
シレクサ子爵とシルビアの二人は、互いに掴み合いながら、人々の前に出てきた。
「ちょっとあなた、どういうつもりなの?私というものがありながら!私と結婚するんだから、あの女がどうなろうと関係ないじゃない!」
「うるさいうるさい!僕のやることに口出しをするんじゃない!お前がそんな女だとは思わなかった!」
二人は人々の前で罵り合いを始めた。
皆はあっけにとられて、痴話喧嘩を続ける二人を眺めている。
しかし相変わらずシルビアの化粧は濃い。
気に入らない相手にカミソリを送りつけるような女だし、子爵も早々に愛想を尽かしたのかもしれない。
あるいは、シルビアの方が子爵の性癖に不満を持ち、それが原因でうまく行かなくなったか。
他にも考えられる原因はたくさんある。多すぎて特定できなかった。
「なによ!あなたこそ、そんな男だとは思わなかったわ!どうせ、土壇場になってあの女を取られるのが惜しくなったんでしょう!」
「ああそうさ!悪いか!お前なんかよりあの女の方が家柄も見た目もよっぽど優れている!」
なんという言い分だろう。
それを聞いて、心が動く女が一人でもいると思うのだろうか。
呆れていると、シレクサ子爵は私に向かって訴えかけ始めた。
「マリアンヌ!僕が悪かった!この通り謝るから、どうか僕のところへ戻ってきておくれ。君も僕のことを愛してくれていただろう!もう一度二人でやり直そうじゃないか」
土下座せんばかりの勢いで、頭を下げ始めた。
そんなにシルビアが嫌だったのだろうか。目に涙まで浮かべている。
その時、私の隣のヒロエ王子が私に囁いた。
「彼は、君の口から私に自らの悪評が伝わるのが怖いのだろうね」
悪評?メイドを苛める性癖のことか。
それとも女性蔑視の思想のことか。あるいは、他に何かあるのか。
私が疑問を口にすると、
「その全てだよ。実際には君が知らないとしても、彼は君がどこまで知っているかを知らないからね」
王子はやれやれといったように肩をすくめた。
そして一歩前に出て告げる。
「シレクサ子爵。あなたは、私とマリアンヌ殿の婚約について異を唱えると言うのですね」
「そ、そうです。そうだ!」
「では、どのようにしてその気持ちをマリアンヌ殿に主張しますか」
「け、けけ、決闘だ!」
会場にいる皆が驚愕した。
決闘など、そうやすやすと口にしていい言葉ではない。
それなりの手続きをきちんと踏んで、立会人のもとで日を改めて行われるべきものだ。
しかしシレクサ子爵は、その場で剣を抜き放ったのだ。
「今ここで決闘を申し込む!」
「シレクサ子爵。あなたは今、自分が何をしているか分かっているのでしょうね」
王子の声が冷たくなる。
その場の空気が張り詰める。
「あ、ああ!」
「ならば良い。受けて立とう」
王子は壇上から降り、シレクサ子爵と向かい合った。
二人の周りから人々が離れていき、円形の空間ができる。
王子は腰の剣を抜いた。
「行くぞ!」
シレクサ子爵が剣を振りかぶり、王子に襲いかかる。
しかし王子は容易くそれを避け、剣の柄でシレクサ子爵の首を強かに打ち据えた。
「ぐぅっ!」
子爵は呻き声を上げて倒れ込んだ。
「立会人も形式もない決闘だが、子爵はこれで満足か」
子爵は倒れたまま、痛みに立ち上がれずにいる。
あやうく血を見るところだったが、そうならずに済んで皆が胸をなでおろした。
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