悪役令嬢の私が婚約破棄?いいでしょう。どうなるか見ていなさい!

有賀冬馬

文字の大きさ
上 下
8 / 10

無駄な物言い

しおりを挟む
「異論あり!」

手を上げたのは、シレクサ子爵だった。

彼は人垣の中から、飛び上がるようにして手を上げている。

そして、その手を抑えようとするもう一対の手がある。

シルビアの手だ。

「ちょっと!やめなさいよ!何考えてんの!」

シルビアが、シレクサ子爵を止めているのだった。

「うるさい!口出しするんじゃない!」

シレクサ子爵とシルビアの二人は、互いに掴み合いながら、人々の前に出てきた。

「ちょっとあなた、どういうつもりなの?私というものがありながら!私と結婚するんだから、あの女がどうなろうと関係ないじゃない!」

「うるさいうるさい!僕のやることに口出しをするんじゃない!お前がそんな女だとは思わなかった!」

二人は人々の前で罵り合いを始めた。

皆はあっけにとられて、痴話喧嘩を続ける二人を眺めている。

しかし相変わらずシルビアの化粧は濃い。
気に入らない相手にカミソリを送りつけるような女だし、子爵も早々に愛想を尽かしたのかもしれない。
あるいは、シルビアの方が子爵の性癖に不満を持ち、それが原因でうまく行かなくなったか。
他にも考えられる原因はたくさんある。多すぎて特定できなかった。

「なによ!あなたこそ、そんな男だとは思わなかったわ!どうせ、土壇場になってあの女を取られるのが惜しくなったんでしょう!」

「ああそうさ!悪いか!お前なんかよりあの女の方が家柄も見た目もよっぽど優れている!」

なんという言い分だろう。
それを聞いて、心が動く女が一人でもいると思うのだろうか。

呆れていると、シレクサ子爵は私に向かって訴えかけ始めた。

「マリアンヌ!僕が悪かった!この通り謝るから、どうか僕のところへ戻ってきておくれ。君も僕のことを愛してくれていただろう!もう一度二人でやり直そうじゃないか」

土下座せんばかりの勢いで、頭を下げ始めた。
そんなにシルビアが嫌だったのだろうか。目に涙まで浮かべている。

その時、私の隣のヒロエ王子が私に囁いた。

「彼は、君の口から私に自らの悪評が伝わるのが怖いのだろうね」

悪評?メイドを苛める性癖のことか。
それとも女性蔑視の思想のことか。あるいは、他に何かあるのか。

私が疑問を口にすると、

「その全てだよ。実際には君が知らないとしても、彼は君がどこまで知っているかを知らないからね」

王子はやれやれといったように肩をすくめた。

そして一歩前に出て告げる。

「シレクサ子爵。あなたは、私とマリアンヌ殿の婚約について異を唱えると言うのですね」

「そ、そうです。そうだ!」

「では、どのようにしてその気持ちをマリアンヌ殿に主張しますか」

「け、けけ、決闘だ!」

会場にいる皆が驚愕した。
決闘など、そうやすやすと口にしていい言葉ではない。
それなりの手続きをきちんと踏んで、立会人のもとで日を改めて行われるべきものだ。

しかしシレクサ子爵は、その場で剣を抜き放ったのだ。

「今ここで決闘を申し込む!」

「シレクサ子爵。あなたは今、自分が何をしているか分かっているのでしょうね」

王子の声が冷たくなる。

その場の空気が張り詰める。

「あ、ああ!」

「ならば良い。受けて立とう」

王子は壇上から降り、シレクサ子爵と向かい合った。

二人の周りから人々が離れていき、円形の空間ができる。

王子は腰の剣を抜いた。

「行くぞ!」

シレクサ子爵が剣を振りかぶり、王子に襲いかかる。

しかし王子は容易くそれを避け、剣の柄でシレクサ子爵の首を強かに打ち据えた。

「ぐぅっ!」

子爵は呻き声を上げて倒れ込んだ。

「立会人も形式もない決闘だが、子爵はこれで満足か」

子爵は倒れたまま、痛みに立ち上がれずにいる。

あやうく血を見るところだったが、そうならずに済んで皆が胸をなでおろした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

姉から、兄とその婚約者を守ろうとしただけなのに信用する相手を間違えてしまったようです

珠宮さくら
恋愛
ラファエラ・コンティーニには、何かと色々言ってくる姉がいた。その言い方がいちいち癇に障る感じがあるが、彼女と婚約していた子息たちは、姉と解消してから誰もが素敵な令嬢と婚約して、より婚約者のことを大事にして守ろうとする子息となるため、みんな幸せになっていた。 そんな、ある日、姉妹の兄が婚約することになり、ラファエラは兄とその婚約者の令嬢が、姉によって気分を害さないように配慮しようとしたのだが……。

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。

hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。 義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。 そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。 そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。 一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。 ざまあの回には★がついています。

ポンコツ悪役令嬢と一途な王子様

蔵崎とら
恋愛
ヒロインへの嫌がらせに失敗するわ断罪の日に寝坊するわ、とにかくポンコツタイプの悪役令嬢。 そんな悪役令嬢と婚約者のゆるふわラブコメです。 この作品は他サイトにも掲載しております。

処理中です...