7 / 10
王子との婚約発表
しおりを挟む
舞踏会の夜。
先日のような小さなパーティーとは違い、今夜の舞踏会は規模の大きなものだった。
出席している顔ぶれも先日のようなこっぱ貴族ばかりではなく大公や公爵、あるいは他国から招かれた賓客といった、そうそうたるメンバーである。
しかしそこでも、やはり私は壁の花であった。
ダンスがメインの舞踏会であるというのに、私に声をかけてくる男はまだ一人もいない。
かといっておしゃべりをする相手もおらず、ひとりさみしく彷徨いていたのだった。
婚約破棄されたばかりの令嬢など、腫れ物に触るようにしか扱ってもらえないのが当然である。
しかし、私はこの後起こることを知っている。
ダンスなどしない方が良かったので、むしろ都合が良いのだった。
ファンファーレが鳴り響き、先触れが、
「王子殿下のご入場です!」
と告げる。
公式なパーティーであるため、こういった演出もなされるのだ。
ヒロエ王子が会場に入ってくる。
舞台へと上がり、皆に挨拶をするのだ。
音楽が止まった。
先ほどまであんなに騒がしかったパーティー会場がしんと静まり返る。
そこにいる全員が王子の言葉を待っているのだ。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」
王子のスピーチは無難な枕詞から始まり、ひと通りの時候の挨拶を述べてから、本題へと入った。
「……ここで、ひとつ重要なお知らせをしたいと思います。私の結婚相手についてです」
会場がざわめく。
王子は皆の人気者であり、アタックする女性はそれこそ星の数ほどいたが、誰とも良い仲になったという話がなかったからだ。
「私も年頃になり、婚約者を決めるべき時期になりました。実は皆様にはお知らせしていませんでしたが、私には心に決めた想い人がいます」
ざわめきがさらに大きくなる。
「ヒロエ王子に、想い人が……?」
「ということは、片想いなのかしら」
「誰かしら?」
会場にいた女性の誰もが、もしかして私がその……?と胸を高鳴らせているようだ。
万に一つの可能性しかなくても、期待してしまう気持ちはわからなくはなかった。
王子は言葉を続ける。
「今日、ここにお集まり頂いた皆さんに、私の想い人が誰であるかを公表し、私の気持ちを皆さんに知っていただきたいと思います」
おお……とどよめきの声があがる。
会場中の女性達が期待した。緊張のあまり倒れてしまう者もいたくらいだ。
「それは、ベルヌ公爵家の姫、マリアンヌ殿です。私は彼女を深く愛しています」
王子の口から私の名前が出る。
一瞬の静寂の後、会場は混乱に包まれた。
キャーッという悲鳴のような声があちこちで上がる。
「な、なぜ……」
「マリアンヌ殿はシレクサ子爵に婚約破棄を言い渡されたばかりなのでは……」
私がそこにいることに気づいた周りの人々が離れていき、私の周りには人のいない空間ができた。
王子は話を続ける。
「私はずっと以前から彼女を愛していました。しかし彼女は シレクサ子爵殿の婚約者でした。この想いが遂げられることはないと、胸に秘めたまま墓場まで持っていこうと思っていました。しかし先日、私にとってはまたとないチャンスが巡ってきたのです。彼女が婚約者と別れたという報せが私のもとに届いたのです。私は、もう、我慢することができません」
ヒロエ王子が私の方を見る。
私は王子に微笑み返す。
王子は壇上から降りて、私のもとまで歩いてきた。
皆がごくりとつばをのんだ。
「マリアンヌ殿、私と婚約してください」
見ていた人々の中から、黄色い歓声が上がる。
私は王子の手を取り、
「もちろんですわ。末永くよろしくお願いいたします」
にっこりと笑って返事をした。
「おお……」
「まさかこんな……」
人々の驚きの声が聞こえる。
私と王子は手を取り合って歩き、壇上に上がった。
王子が、よく通る声で皆に言い放った。
「皆さま!ご覧いただいたように、マリアンヌ嬢は私の求婚を受け入れてくれた!私とマリアンヌ嬢が婚約者となることに異論のある者はおられるか!おられるなら、今この場で申し出られよ!」
しんと静まり返る会場。
そして、その次の瞬間、人垣の中から一本の手が上がった。
「異論あり!」
先日のような小さなパーティーとは違い、今夜の舞踏会は規模の大きなものだった。
出席している顔ぶれも先日のようなこっぱ貴族ばかりではなく大公や公爵、あるいは他国から招かれた賓客といった、そうそうたるメンバーである。
しかしそこでも、やはり私は壁の花であった。
ダンスがメインの舞踏会であるというのに、私に声をかけてくる男はまだ一人もいない。
かといっておしゃべりをする相手もおらず、ひとりさみしく彷徨いていたのだった。
婚約破棄されたばかりの令嬢など、腫れ物に触るようにしか扱ってもらえないのが当然である。
しかし、私はこの後起こることを知っている。
ダンスなどしない方が良かったので、むしろ都合が良いのだった。
ファンファーレが鳴り響き、先触れが、
「王子殿下のご入場です!」
と告げる。
公式なパーティーであるため、こういった演出もなされるのだ。
ヒロエ王子が会場に入ってくる。
舞台へと上がり、皆に挨拶をするのだ。
音楽が止まった。
先ほどまであんなに騒がしかったパーティー会場がしんと静まり返る。
そこにいる全員が王子の言葉を待っているのだ。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」
王子のスピーチは無難な枕詞から始まり、ひと通りの時候の挨拶を述べてから、本題へと入った。
「……ここで、ひとつ重要なお知らせをしたいと思います。私の結婚相手についてです」
会場がざわめく。
王子は皆の人気者であり、アタックする女性はそれこそ星の数ほどいたが、誰とも良い仲になったという話がなかったからだ。
「私も年頃になり、婚約者を決めるべき時期になりました。実は皆様にはお知らせしていませんでしたが、私には心に決めた想い人がいます」
ざわめきがさらに大きくなる。
「ヒロエ王子に、想い人が……?」
「ということは、片想いなのかしら」
「誰かしら?」
会場にいた女性の誰もが、もしかして私がその……?と胸を高鳴らせているようだ。
万に一つの可能性しかなくても、期待してしまう気持ちはわからなくはなかった。
王子は言葉を続ける。
「今日、ここにお集まり頂いた皆さんに、私の想い人が誰であるかを公表し、私の気持ちを皆さんに知っていただきたいと思います」
おお……とどよめきの声があがる。
会場中の女性達が期待した。緊張のあまり倒れてしまう者もいたくらいだ。
「それは、ベルヌ公爵家の姫、マリアンヌ殿です。私は彼女を深く愛しています」
王子の口から私の名前が出る。
一瞬の静寂の後、会場は混乱に包まれた。
キャーッという悲鳴のような声があちこちで上がる。
「な、なぜ……」
「マリアンヌ殿はシレクサ子爵に婚約破棄を言い渡されたばかりなのでは……」
私がそこにいることに気づいた周りの人々が離れていき、私の周りには人のいない空間ができた。
王子は話を続ける。
「私はずっと以前から彼女を愛していました。しかし彼女は シレクサ子爵殿の婚約者でした。この想いが遂げられることはないと、胸に秘めたまま墓場まで持っていこうと思っていました。しかし先日、私にとってはまたとないチャンスが巡ってきたのです。彼女が婚約者と別れたという報せが私のもとに届いたのです。私は、もう、我慢することができません」
ヒロエ王子が私の方を見る。
私は王子に微笑み返す。
王子は壇上から降りて、私のもとまで歩いてきた。
皆がごくりとつばをのんだ。
「マリアンヌ殿、私と婚約してください」
見ていた人々の中から、黄色い歓声が上がる。
私は王子の手を取り、
「もちろんですわ。末永くよろしくお願いいたします」
にっこりと笑って返事をした。
「おお……」
「まさかこんな……」
人々の驚きの声が聞こえる。
私と王子は手を取り合って歩き、壇上に上がった。
王子が、よく通る声で皆に言い放った。
「皆さま!ご覧いただいたように、マリアンヌ嬢は私の求婚を受け入れてくれた!私とマリアンヌ嬢が婚約者となることに異論のある者はおられるか!おられるなら、今この場で申し出られよ!」
しんと静まり返る会場。
そして、その次の瞬間、人垣の中から一本の手が上がった。
「異論あり!」
35
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。
hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。
義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。
そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。
そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。
一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。
ざまあの回には★がついています。

ポンコツ悪役令嬢と一途な王子様
蔵崎とら
恋愛
ヒロインへの嫌がらせに失敗するわ断罪の日に寝坊するわ、とにかくポンコツタイプの悪役令嬢。
そんな悪役令嬢と婚約者のゆるふわラブコメです。
この作品は他サイトにも掲載しております。

クリスティーヌの本当の幸せ
蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

私のゆるふわな絵に推しの殿下が和んでくださいました ~ざまぁノートってなんですか?
朱音ゆうひ
恋愛
「私、悪役令嬢になってしまった! しかも婚約者の王子殿下は私の推し!」
公爵令嬢エヴァンジェリンは、断罪イベント直前で前世を思い出した。
「今すぐ婚約破棄しましょう、今まですみませんでした! 無害になるので、断罪しないでください」
そう言って王子シルフリットに背を向けた彼女の手には、彼がエヴァンジェリンの本性を探ろうとして渡した罠である「ざまぁノート」が拾われていた。
このノート、渋いおじさまの声で話しかけてくる。
しかも手が勝手に……ゆるふわの絵を描いてしまいますっ!!
別サイトにも掲載しています(https://ncode.syosetu.com/n5304ig/)

辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄
六角
恋愛
レイナは王国一の美貌と才能を持つ令嬢だが、その高慢な態度から周囲からは悪役令嬢と呼ばれている。彼女は王太子との婚約者だったが、王太子が異世界から来た転生者であるヒロインに一目惚れしてしまい、婚約を破棄される。レイナは屈辱に耐えながらも、自分の人生をやり直そうと決意する。しかし、彼女の前に現れたのは、王国最北端の辺境伯領を治める冷酷な男、アルベルト伯爵だった。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる