悪役令嬢の私が婚約破棄?いいでしょう。どうなるか見ていなさい!

有賀冬馬

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王子との婚約発表

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舞踏会の夜。

先日のような小さなパーティーとは違い、今夜の舞踏会は規模の大きなものだった。

出席している顔ぶれも先日のようなこっぱ貴族ばかりではなく大公や公爵、あるいは他国から招かれた賓客といった、そうそうたるメンバーである。

しかしそこでも、やはり私は壁の花であった。

ダンスがメインの舞踏会であるというのに、私に声をかけてくる男はまだ一人もいない。

かといっておしゃべりをする相手もおらず、ひとりさみしく彷徨いていたのだった。

婚約破棄されたばかりの令嬢など、腫れ物に触るようにしか扱ってもらえないのが当然である。

しかし、私はこの後起こることを知っている。

ダンスなどしない方が良かったので、むしろ都合が良いのだった。

ファンファーレが鳴り響き、先触れが、

「王子殿下のご入場です!」

と告げる。

公式なパーティーであるため、こういった演出もなされるのだ。

ヒロエ王子が会場に入ってくる。

舞台へと上がり、皆に挨拶をするのだ。

音楽が止まった。

先ほどまであんなに騒がしかったパーティー会場がしんと静まり返る。

そこにいる全員が王子の言葉を待っているのだ。

「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」

王子のスピーチは無難な枕詞から始まり、ひと通りの時候の挨拶を述べてから、本題へと入った。

「……ここで、ひとつ重要なお知らせをしたいと思います。私の結婚相手についてです」

会場がざわめく。

王子は皆の人気者であり、アタックする女性はそれこそ星の数ほどいたが、誰とも良い仲になったという話がなかったからだ。

「私も年頃になり、婚約者を決めるべき時期になりました。実は皆様にはお知らせしていませんでしたが、私には心に決めた想い人がいます」

ざわめきがさらに大きくなる。

「ヒロエ王子に、想い人が……?」

「ということは、片想いなのかしら」

「誰かしら?」

会場にいた女性の誰もが、もしかして私がその……?と胸を高鳴らせているようだ。
万に一つの可能性しかなくても、期待してしまう気持ちはわからなくはなかった。

王子は言葉を続ける。

「今日、ここにお集まり頂いた皆さんに、私の想い人が誰であるかを公表し、私の気持ちを皆さんに知っていただきたいと思います」

おお……とどよめきの声があがる。

会場中の女性達が期待した。緊張のあまり倒れてしまう者もいたくらいだ。

「それは、ベルヌ公爵家の姫、マリアンヌ殿です。私は彼女を深く愛しています」

王子の口から私の名前が出る。

一瞬の静寂の後、会場は混乱に包まれた。

キャーッという悲鳴のような声があちこちで上がる。

「な、なぜ……」

「マリアンヌ殿はシレクサ子爵に婚約破棄を言い渡されたばかりなのでは……」

私がそこにいることに気づいた周りの人々が離れていき、私の周りには人のいない空間ができた。

王子は話を続ける。

「私はずっと以前から彼女を愛していました。しかし彼女は シレクサ子爵殿の婚約者でした。この想いが遂げられることはないと、胸に秘めたまま墓場まで持っていこうと思っていました。しかし先日、私にとってはまたとないチャンスが巡ってきたのです。彼女が婚約者と別れたという報せが私のもとに届いたのです。私は、もう、我慢することができません」

ヒロエ王子が私の方を見る。

私は王子に微笑み返す。

王子は壇上から降りて、私のもとまで歩いてきた。

皆がごくりとつばをのんだ。

「マリアンヌ殿、私と婚約してください」

見ていた人々の中から、黄色い歓声が上がる。

私は王子の手を取り、

「もちろんですわ。末永くよろしくお願いいたします」

にっこりと笑って返事をした。

「おお……」

「まさかこんな……」

人々の驚きの声が聞こえる。

私と王子は手を取り合って歩き、壇上に上がった。

王子が、よく通る声で皆に言い放った。

「皆さま!ご覧いただいたように、マリアンヌ嬢は私の求婚を受け入れてくれた!私とマリアンヌ嬢が婚約者となることに異論のある者はおられるか!おられるなら、今この場で申し出られよ!」

しんと静まり返る会場。

そして、その次の瞬間、人垣の中から一本の手が上がった。

「異論あり!」


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