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子爵の新しいお相手
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パーティーから数日後。
王宮の庭園で、思わぬ人物と会うことになった。
もちろん、まったくの偶然である。
シレクサ子爵と、先日のパーティーで目立っていた化粧の濃い女である。
「こんなところで会うとは、ちょうどいい。君に彼女を紹介しておこう」
シレクサ子爵は尊大な口調で言う。
そして隣に侍っている化粧の濃い女を私に紹介した。
「シルビアだ。レーヌ男爵の娘で、僕の現在の婚約者だ」
現在の、というところに、シレクサ子爵は強いアクセントを置いて言った。
さもお前は過去の女だと言わんばかりだ。
「そうですの。 よろしゅうございましたわ。仲がおよろしいようで」
私は微笑む。
だが内心は驚愕していた。
吹き出すのを堪えるのが大変だった。
あの女と?まさか、あの、あの女と?
シルビアと紹介された女は、まるで初対面の人間にするかのように、よそ行きの礼をしてみせた。
もしかして、覚えていないのだろうか。いや、まさか。
「お初にお目にかかります。シルビアでございますわ」
やはり覚えていないらしい。それともこの場ではあくまで初対面として接しろということだろうか。
「どうも。マリアンヌですわ」
先日のパーティー会場での勇姿、よく覚えておりますわ……と、そう言いたいのを鉄の自制心で抑える。
シレクサ子爵の方を見ると、すました顔をしている。やはり、彼は何も知らないようだ。
その得意気な顔に、ある種の哀れみすら感じてしまう。
「シレクサ子爵」
私は本心から言ったのだった。
「お二人はとてもお似合いですわ。やはり子爵には私なんかよりも、シルビア殿のようなかたのほうが相応しいかと思います」
「おお、そうか。君もそう思うか。なんだか今日はしおらしいじゃないか。反省したのかね」
やはりこの男は好きになれない。このシルビアとかいう尻軽女が拾ってくれて良かった。
私は心底そう思うのだった。
シレクサ子爵とシルビア姫を見送りながら、私はため息をついた。
さすがにこれでもう彼らとの縁は切れただろう。
そう思ったのだった。
王宮の庭園で、思わぬ人物と会うことになった。
もちろん、まったくの偶然である。
シレクサ子爵と、先日のパーティーで目立っていた化粧の濃い女である。
「こんなところで会うとは、ちょうどいい。君に彼女を紹介しておこう」
シレクサ子爵は尊大な口調で言う。
そして隣に侍っている化粧の濃い女を私に紹介した。
「シルビアだ。レーヌ男爵の娘で、僕の現在の婚約者だ」
現在の、というところに、シレクサ子爵は強いアクセントを置いて言った。
さもお前は過去の女だと言わんばかりだ。
「そうですの。 よろしゅうございましたわ。仲がおよろしいようで」
私は微笑む。
だが内心は驚愕していた。
吹き出すのを堪えるのが大変だった。
あの女と?まさか、あの、あの女と?
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もしかして、覚えていないのだろうか。いや、まさか。
「お初にお目にかかります。シルビアでございますわ」
やはり覚えていないらしい。それともこの場ではあくまで初対面として接しろということだろうか。
「どうも。マリアンヌですわ」
先日のパーティー会場での勇姿、よく覚えておりますわ……と、そう言いたいのを鉄の自制心で抑える。
シレクサ子爵の方を見ると、すました顔をしている。やはり、彼は何も知らないようだ。
その得意気な顔に、ある種の哀れみすら感じてしまう。
「シレクサ子爵」
私は本心から言ったのだった。
「お二人はとてもお似合いですわ。やはり子爵には私なんかよりも、シルビア殿のようなかたのほうが相応しいかと思います」
「おお、そうか。君もそう思うか。なんだか今日はしおらしいじゃないか。反省したのかね」
やはりこの男は好きになれない。このシルビアとかいう尻軽女が拾ってくれて良かった。
私は心底そう思うのだった。
シレクサ子爵とシルビア姫を見送りながら、私はため息をついた。
さすがにこれでもう彼らとの縁は切れただろう。
そう思ったのだった。
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