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前編

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6月のある晴れた日。
私は人生で最も幸せだった。
いや、人生で最も幸せな日は、もう少しあとなんだけど、それでも、過去最高に幸せだった。
大好きな彼と、結婚式の打ち合わせをしているのだ。
式は10日後。
もうほとんどの事は決まって、最後のリハーサルがいま終わったところだ。
「楽しみね!わたし、いまとっても幸せだわ!」
「ああ、楽しみだ。僕もだよ」
彼はそう言って微笑みかけてくれた。
間違いなく、私の人生は最高潮をむかえようとしていた。

それなのに、ああ、それなのに!
どういうこと!?
目の前で起きている事が信じられない!
なんてこと!
何が起きているの?
わからない、わかりたくない。
私は叫んだ。
「なにしてるの!」
そう、目の前で行われていたのは。
私の大好きな夫がいて。
私の妹がいて。
私の大好きな夫が、私の妹に覆い被さっていて。
「お姉ちゃん!」
妹が叫び、慌てて、二人は飛び退いた。
二人の服は少し乱れている。
とにかく慌てている二人。
「……どういうこと?」
私は言う。
「ち、違うんだ、これは……」
「そ、そうよ!違うのよ!お姉ちゃんが心配するような事じゃないのよ。ね、ねえ?」
そう言って、私の夫に問いかける妹。
「そ、そうだとも!勘違いだ。君は勘違いをしている!」
苦しい言い訳をする二人。
私の怒りは頂点に達した。
「もういいわ!あなたがそんな人だとは思わなかった!馬鹿にしないで!婚約破棄よ!結婚なんかするもんですか!」
私はそう言い、結婚式の準備も何もかも放り出して、外に飛び出して行った。
「待ってくれ!話せばわかる!」
私の夫になるはずだった彼が、私を追いかけてくる。
「やめて!あなたなんか嫌いよ!もう別れてやるんだから!」
「待つんだ」
彼の手が、私の手を掴む。
私はその場に泣き崩れた。
もう嫌。
どうしてこんなことになるの? 
神様。
私が何をしたっていうの?
こんな仕打ち。
どうして。
どうしてこんな目に。
涙が頬をつたう。

そんな私に、彼は話しはじめた……。
聞きたくない。
言い訳なんて、聞きたくない。
どうせ二人して私を嘲笑っていたんだわ。
いつから裏切っていたの?
いつから、私は愛されなくなっていたの?
私に魅力がないから?
妹のほうが良かったの?
でもあんまりだわ。
どうして、よりによって妹と浮気なんて。
他の女ならいいってわけじゃないけど、どうして妹と。
妹のほうから誘ったの?
まさか、あの妹が?
妹が私を裏切ったの?
ひどいわ。
信じていたのに。
家族だと思っていたのに。
それなのに裏切るなんて。
どうして?
どうしてなのよ……

泣きじゃくる私に、彼はゆっくりと、一言ずつ言い聞かせる。
それでも、その内容は私の中に入ってこない。
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