お別れ席のツクモさん

星見くじ

文字の大きさ
上 下
6 / 6

再会、そして

しおりを挟む



涼やかなドアベルの音が鳴る。いらっしゃいませ、と店員が愛想良く微笑んだ。
メニューを選ぶ振りをしつつ、店内の様子を伺う。
昼には少し早いこの時間、人気はほとんど無い。人気は、だが。
窓から外を見つめていた少女が、しかしこちらに気づいたらしい。目が合った途端にみるみる顔を綻ばせ、子供のように手を振った。
曖昧に微笑みを返して、視線を逸らす。ふう、とため息が出たのは安堵からか諦めからか。おすすめと書かれたサンドイッチを頼み、彼女の待つ席へと向かった。









「おはよう!あれ、もうこんにちはかな?まあいいや、来てくれたんだね!いやぁ良かった、来てくれなかったらどうしようかと思ってたよー!」
「どうするつもりだったんすか」
「まあどうも出来ないけど。ここから私動けないし」
やや物騒な色を含んだ言葉につい身構えるも、あっけらかんとした答えに一瞬で気が抜ける。
聞けば、彼女にはいわゆる特殊能力なんてものは無いらしい。強いて言うなら、ふわふわと宙を浮き、半透明で人に見られないと言った程度。それ以外は普通の人間と変わらないらしい。つまり、杞憂だったという事だ。
やっぱり来るんじゃなかった。
断れば恐ろしい事になるかもなんて、考えすぎにも程がある。大体、見るからに無害な少女をそこまで怖がるなんて。サンドイッチを頬張りながら、昨日の自分に恨み言を吐く。
「ああ、でも。一つだけあるよ、能力」
彼女がふと呟いた。へえ、と一瞬身を乗り出したものの、忘れる程度なら大したものでは無いのかと思い直す。浮いた尻を戻して、オレンジジュースを啜る。
「君、好きな人居るでしょ」
噎せた。
勢いよく咳き込みながら、どうにか紙ナプキンで口を押さえる。鼻がツンとして涙が止まらない。うわあ、大丈夫?と焦る声が頭上から降ってきたが答えられもしない。
「や、ごめんそんなに驚くとは……」
「な、」
「な?」
「なんで、知って……」
絞り出すような声で、問う。涙で滲む視界の真ん中で、少女はぱちりと瞬きをして。
「言ったでしょ、能力があるって」
にやりと開いた口が、弧を描く。
「私には、恋が見えるんだ」





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)

菜っぱ
ライト文芸
ガリ勉チビメガネの、夕日(ゆうちゃん) 見た目元気系、中身ちょっぴりセンチメンタルギャル、咲(さきちゃん)   二人はどう見ても正反対なのに、高校生になってもなぜか仲の良い幼なじみを続けられている。 夕日はずっと子供みたいに仲良く親友でいたいと思っているけど、咲はそうは思っていないみたいでーーーー? 恋愛知能指数が低いチビメガネを、ギャルがどうにかこうにかしようと奮闘するお話。 基本ほのぼのですが、シリアス入ったりギャグ入ったりします。 R 15は保険です。痛い表現が入ることがあります。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

拝啓、隣の作者さま

枢 呂紅
ライト文芸
成績No. 1、完璧超人美形サラリーマンの唯一の楽しみはWeb小説巡り。その推し作者がまさか同じ部署の後輩だった! 偶然、推し作家の正体が会社の後輩だと知ったが、ファンとしての矜持から自分が以前から後輩の小説を追いかけてきたことを秘密にしたい。けれども、なぜだか後輩にはどんどん懐かれて? こっそり読みたい先輩とがっつり読まれたい後輩。切っても切れないふたりの熱意が重なって『物語』は加速する。 サラリーマンが夢見て何が悪い。推し作家を影から応援したい完璧美形サラリーマン×ひょんなことから先輩に懐いたわんこ系後輩。そんなふたりが紡ぐちょっぴりBLなオフィス青春ストーリーです。 ※ほんのりBL風(?)です。苦手な方はご注意ください。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

re-move

hana4
ライト文芸
 薄暗くしてある個室は、壁紙や床、リクライニングソファーまで、全てブラウンに統一してある。  スイート・マジョラムをブレンドしたアロマが燻り、ほんのりと甘い香りに 極小さい音量で流れるヒーリング音楽、滞在しているだけで寝てしまいそうな空間。  リクライニングソファーに横たわる彼に、至極丁寧にタオルが掛けられた。  一つ大きく深呼吸をしてから、タオル越しの額に両手を重ね じんわりと自分の体温を伝える。ゆったりとしたリズムにのせて、彼の感触を指先で捉える……  すると、お互いの体温は融け合いはじめ、呼吸までもが重なり──  やがてその波は徐々に緩急を失くしてゆき、穏やかで抑揚のない寝息へとかわった。  目を閉じると、初めて“みる”ストーリーが、走馬燈のように流れ始める…… *  橘(たちばな)あかりはドライヘッドスパサロン『re-move』 で、セラピストとして働いている。  頭を揉み解す事で疲労を回復させながら、お客様を究極の癒しへと誘うドライヘッドスパ。  この仕事が大好きなあかりだったが、彼女には誰にも話していない能力がある。  マッサージを施しているあいだ、彼女には『お客様の過去』が走馬灯のようにみえている。  そして、その人の後悔があまりにも強い場合には……  その『過去』へと、憑依することができた。  その日のお客様は、スタイリッシュなサラリーマン【武田慎吾様】  武田様の『過去』に憑依したあかりは、その日を彼と共にやり直そうとして……  ──疲労と後悔を癒すドライヘッドスパサロン『re-move』 へようこそ。

かあさん、東京は怖いところです。

木村
ライト文芸
 桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。 「知らないわよ、そんなの!」  東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。

『飛ばない天使達の中』

segakiyui
ライト文芸
林東子は看護学生だ。小児科実習を迎えて不安が募る。これまで演じて来た『出来のいい看護学生』が演じ切れないかもしれない、という不安が。患者に自分の本性を暴かれるかもしれないという不安が。

人生前のめり♪

ナンシー
ライト文芸
僕は陸上自衛官。 背中に羽を背負った音楽隊に憧れて入隊したのだけれど、当分空きがないと言われ続けた。 空きを待ちながら「取れる資格は取っておけ!」というありがたい上官の方針に従った。 もちろん、命令は絶対。 まあ、本当にありがたいお話で、逆らう気はなかったし♪ そして…気づいたら…胸にたくさんの記章を付けて、現在に至る。 どうしてこうなった。 (…このフレーズ、一度使ってみたかったのです) そんな『僕』と仲間達の、前向き以上前のめり気味な日常。 ゆっくり不定期更新。 タイトルと内容には、微妙なリンクとズレがあります。 なお、実際の団体とは全く関係ありません。登場人物や場所等も同様です。 基本的に1話読み切り、長さもマチマチ…短編集のような感じです。

処理中です...