お別れ席のツクモさん

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23時、寝室にて

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ぼふん、と音を立ててベッドに転がる。
洗いたのシーツからかすかに洗剤の匂いがした。同時に投げたスマホを手に取って、しかし目的もなくただ真っ黒な画面を見つめるに留まった。
​──恋を、見せて下さい。
「恋を見せる……って、なんだよ」
脳内に蘇った言葉に、ぽろりと本音を零す。拾う者のいないそれは、しんと静まった部屋の床に転がっていった。
私に、恋を見せるとはどういう事だろうか。
私に恋をして欲しい、なら分かる。恋を知らずに一生を終えた少女が、未練を残して幽霊となる。そして、偶然にも出会った少年と恋をする。自分の願いを叶える為。そうして最後に二人は結ばれるも、しかし未練をなくした少女は成仏する。
なんてよくあるストーリーだろうか、ボーイミーツガールもののテンプレートとすら言える。これならば理解はできる。まあそのような展開を望まれていた場合、諸事情により丁重にお断りさせていただくが。
しかし。彼女の願いは『恋を見せて欲しい』だ。
つまり、どういう事なのか。
スマートフォンの電源を押す。時刻は23時15分。ごろりと横向きに転がって、沸き上がる謎を咀嚼していく。
見る、ということは彼女は当事者では無く傍観者。
​──もしかして、彼女自身が恋をするのではなく。
俺と誰かの恋路を見たい、という事か。
「……何で……?」
思わず呟いた。
疑問が解けると同時に、また湧き上がる新たな疑問。
何故わざわざ人の、しかも会ったばかりの他人の恋を見たがるんだ。趣味なのか。そうだとしたらあまり関わりたくない。
関わりたくないのだが。
もし、もし万が一。
彼女が自分を選んで頼み事をしたのが、ただの偶然ではなかったら。
つまり。
彼女がもし、ある事を知っていて。
それ故に、敢えて選んだのだとしたら。
そんな訳ない、とは言いきれなかった。彼女はツクモガミ​─自称というだけで、実のところ証拠はないが─であり、人とは違う存在だ。とどのつまり、何か特別な能力を持っていたっておかしくはない。例えば人に取り憑いたりだとか、誰かの心を操るだとか。
そして、もし願いを断られたら、それを使うつもりだとしたら​──。
スマートフォンの電源を入れ、素早くロックを解除する。アプリを起動して、カレンダーを軽く流し見た。
明日の日付欄には、何も書かれていない。
ホームボタンを押して、時計のマークを押す。6時30分、いつも通りの時間。目覚ましのアラートをセットして、布団に潜り込んだ。
時刻は0時を回っていた。
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