お別れ席のツクモさん

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ツクモさんはこいねがう

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自称ツクモガミで、記憶喪失の半透明少女。自分の名前すら分からないと言う。便宜上ツクモさんと呼ぶ事にした。安直だが、分かりやすいから丁度いいだろう。
物珍しそうにスマートフォンを眺めてるツクモさんは、「へえ」とか「ほお」とか言いながらすかすかと指を貫通させている。霊障とか起きたらどうしよう。
ちらり、腕時計を見る。五時二十分をひとつ過ぎた。春も終わりがけで日も長くなったとは言え、この時間にはもう西日が傾いている。ここに入ったのが昼過ぎだから、結構長居をしてしまったことになる。
「あの」
そろそろ帰りたい。そう思って、切り出そうとしたが。
「ねえ、一つお願いがあるんだけど」
遮られた言葉が喉奥につっかえる。
「なん、ですか」
浮かせかけた腰を元に戻す。スマートフォンから手を離したツクモさんが、居住まいを正して息を吐く。
誰かの頼みを断るのは苦手だ。断って、相手を傷つけてしまうのが怖いからだ。
例えそれが、人ならざるもの相手でも。
一呼吸あって、ツクモさんは顔を上げた。
「お願いします」
砕けた口調はそこには無かった。
力強い瞳が、こちらを見据える。彼女の黒い眼に映る自分と目が合った。
「貴方にしか、頼めないんです」
握りこまれた手が冷たい。
人のそれとは思えない温度に、改めて目の前の存在が全くの異形である事を悟った。つう、と汗が額を伝う。
「どうか、私に…」
先程までの朗らかな少女の面影は無い。祈り。願い。強い感情。それら全てを包みこんだ顔。
血の気のない唇が、動いた。
「恋を、見せてください」


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