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お別れ席のツクモガミ
しおりを挟む「すごい!私が見える人初めて!うわわ人と喋るのどれくらいぶりかなぁっ、なんか緊張しちゃう!」
「は、はは、そうなんすか」
「うん!ね、ね、キミもしかして霊感持ってる人だったり?お化けとか妖怪とか見えてるの?私以外にもお化けとか見たことある?」
「いや、無いですけど……」
「えーそうなの?やっぱりこの辺には居ないのかな?私も私みたいなのと会った事ないんだよね」
「はは……」
マシンガンの如く喋り続ける幽霊——確証はないが——に、曖昧に笑いながら相槌を打つ。
やっぱり、あの時気づいてないフリして帰ればよかった。
今更後悔しながら、改めて注文したコーラを啜る。正直もう飲み物はいらなかったが、机に何も無いままただ席に居座るのも憚られた為に仕方なく頼んだ。胃にも財布にも優しくない。
せめてもの救いは、彼女に敵意がなさそうなことだった。
噂では、恐ろしい悪霊だとか人を呪うだとか言われていた。しかし、今目の前にいる幽霊にそのような様子はない。きらきらと目を輝かせて話し続ける彼女は、まるで普通の少女の様だった。
「……まあ足、無いけど……」
ぽつりと呟いた声は、幸いにも聞こえなかったようだ。ふわりふわりと、椅子の背もたれの上らへんに浮かぶ彼女の体はうっすらと透け、足があるべき場所には何も無い。心なしか鳥肌が立ったような気がして、つい腕を何度か摩った。
「……あ、ごめんね一方的に喋っちゃって!あっしかも私名乗ってない!」
あれから10分程話し続け、漸く弾切れを起こしたらしい。一度ふうと息を吐いた彼女は、はっとした顔で空中を一回転した。わざとらしく厳しい顔つきをして、
椅子に手をかけるようなポーズを取る。
「私の名は……名は……あれ、なんだっけ……ッゴホン!と、とにかく!私はなんと、この椅子の九十九神なのです!」
ビシッと人差し指を突きつけながら、どうだ、と言わんばかりにこちらを見る。
「……はあ……」
それだけ言って、場に沈黙が落ちる。
エアコンの稼働音が虚しく響いた。
「薄い!もっと驚いてよ!」
「いや、自信満々に言われても……そもそもツクモガミって何?って感じでピンと来ないというか……」
「えっキミ知らないの!?ウソ!」
「知らないけど……」
正直な感想を述べると、ショックを受けたような顔で萎れてしまった。幽霊……じゃなくってツクモガミ?とやらの割に、表情がコロコロとよく変わる。
なんだか可哀想になってしまい、スマホを取り出して操作する。検索エンジンに打ち込んで、真っ先に出てきたページを押した。
「何それ?」
「え、す、スマホだけど」
覗き込んできた顔の近さに少し狼狽えながら、説明文に目を通す。
ツクモガミ……九十九神、または付喪神。百年という年月を経た道具が変化し、魂を得た妖怪の一種である。
「そう!これ!これが私!どう?驚いた?」
そう言ってふんぞり返るのを、まじまじと見つめる。そして、手元の画面に写し出された挿絵と見比べる。
おどろおどろしく描かれた画像と、目の前にいる少女の姿は、どうしたって同じものとは思えなかった。
しかし。
「どうしたの?」
「いや……妖怪って本当にいるんだなぁって驚いただけ……」
「でしょ!ふふん、もっと驚いていいんだよ、えーと……」
「あ、和人です」
「和人くん!いい名前だね、よろしくね!」
「よろしく……」
それを、期待に目を輝かせる少女に突きつけることは流石に出来なかった。
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