ばけものとにんげん

星見くじ

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夢を見る。
大学に入学したばかりの頃の夢。
先輩と出会った時の夢。
背が高くて、人混みの中でもいっとう目立つ人。思わず見入っていると、声をかけてくれた。
新入生の子かな、良かったらウチのサークル見に来てよ、なんていう声も耳に入らないくらい、その笑顔に釘付けになった。
かっこいい先輩。
大好きな先輩。
先輩。先輩。



…先輩って、誰だっけ?










ここが好きじゃないという白の言うことが、最初はよくわからなかった。
だって、こんなにも美しいのに。
青を屈折して透き通った清流の流れに、時折揺れる水草。青々と茂る草花は、黄色や青といった小さな花達が入り交じり、桜の木は季節を知らずに狂い咲く。
夜になれば深青の夜空に輝く月が周囲を照らし、昼とはまた違った光景を見せてくれる。
どう見たって、あの荒れ果てた山よりずっと居心地がいいのに。


だが、その疑問はすぐに解消された。
最初に違和感を持ったのは、清流に手を浸した時。
二度目は、白に連れられ草原に寝転んだ時。
そして、白の住む荘厳な屋敷を歩いていた時。
そこで、やっと違和感の正体に気がついた。
ここには生き物がいないのだ。
あれ程穏やかな流れなのに魚が一匹もいない。草原には動物はおろか虫すらも見つからず、あれ程広い屋敷には白と自分以外の気配がなかった。内部は常に清潔に保たれているのにだ。普通なら、何人かいないと家中を掃除するのも不可能だろう。
白がここを嫌ってるのは、一人ぼっちだったから?

「うん、そうだよ」
問えば、あっさりと肯定が返ってきた。布団の中で寄り添いながら、時折甘えるように頭を擦り付けてくる。
応えるように絹のような髪を梳くと、くすくすと笑う声がした。
「僕はここで生まれたんだ。でも、ここには誰も居なくて寂しかった。だから現世に行ったの。そしたら人間達が僕を見つけてくれたから嬉しくて。もうこっちに戻ってこなくていいやーって思ってたんだ」
でも、と呟いて、白が半身を起こす。小さな子供の様に見えた彼は、見上げれば一人の男の顔をしていた。するりと、白い指先が頬を撫でる。
「今は、君と二人きりでいられるから気に入ってるよ」
「ん…そっか」
頬を撫でる指が下へと降りていく。首筋をなぞられ擽ったさで身を攀じると、楽しげな笑い声と共に抱きしめられた。
「可愛い君を独り占めできるんだもん、はぁ、幸せ」
「はは、白って大袈裟だな」
やや低い体温に抱かれて、多幸感に包まれる。


ふと、頭に何かが過ぎった。
掴みそこねたそれが、ちかちかと点滅する。
まるで、何かに危険を知らせるように。



何かを、忘れているような気がする。
「…なあ、白」
「なあに」
何か、大切なものを。





「…俺って、なんでここに来たんだっけ」
「ええ?そんなの決まってるじゃないか」
何かって、なんだっけ?掴み損ねたそれは、大切なものだったのか?
本当に?
どこかから、這うような音がする。
重い体を滑らせて、音も立てずに忍び寄り。
牙を立てた。




「僕のつがいになるため、でしょ?」




「…そう、だった、な」





金色の目が、光っていた。
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