「呪いを受けてHPが4になった弓兵ですが、今日も今日とて生きてます。」

鏡月空@異旅人

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｢という事でっ☆｣

男の声が薄暗い部屋の中で反響する。

｢この世界がプレイヤー諸君らがこの新しい第2の人生を楽しんでくれる事を僕は祈っていr……｣

最後の言葉を言おうとした時男の肩に手が置かれる、
雪のように白いがしっかりと命を、生命を感じる手が。

｢本当にそれでいいの?今のままでは貴方は犯罪者、本当のことを、真実を語るだけで救世主になれるのに……｣

女の温もりが、耳元で誘うような声が
男の気持ちを惑わせる。

｢……僕は祈っているよ｣

言葉を言い切りマイクのスイッチを切った。
そんな男を見て女は悲しそうな表情を浮かべる。

｢いいんだ、既に答えは決まっていた。
プレイヤー達と世界を天秤の上にそれぞれ乗せどちらが救いとなるか判断した時から……
いやもっと以前、あの人の研究に加担した時から目指す場所は決まっている、既に悪魔に売った命だ。

贖罪なんか求めてない、名声もいらない
それにどうせ数日後には皆等しく消えてしまうんだ、
どんな素晴らしい事をやっても認めてくれる人が居なければ何の意味が無い、
捌くものもいずれ居なくなる……
それにもうすぐ僕も眠ってしまうからね｣

そういい男は笑みを浮かべながら機械を操作した後、
ベットに横たわり接続し始める。

｢もういいの?｣

そう聞く女の瞳は男の心内の未練を見透かしているようだった。

｢こちらでの最後の仕込みはもう終わったよ、
後は僕にはもうどうしよう出来ない、後は開発者、この結末に導いた当事者らしく子供たちと一緒に彼らを、結末を、最期を見守るだけさ、
皆も先に向こうに行ってるからね｣

男が手を差し出すと女はそれを優しく包んだ。

｢最後にお願いしてもいいかな?｣

｢何かしら?｣

女は首を傾げた。

｢あと3日、3日だけでもこの場所を守ってくれないか?
それでもし可能なら君が去る前にこの中に存在するコードを貼り付けて欲しい……｣

ポケットからUSBを取り出し女に差し出した、
それを女は男に向かって優しく微笑み受け取った。

｢ええ分かったわ、3日と言わず貴方が安心して安らげるように最後までこの場所を守り続けるわ｣

男は安心したように女の手を握りながらゲームに接続すると、
部屋は暗闇と静寂に支配された。
聞こえるのは男の微かな息遣いともう何年も起動し続ける機械類の動作音だけ。

それからどれ程の時間がたったのだろうか、
女は立ち上がり男と機械が繋がっているチューブそしてケーブルを刃物で切断する。

チューブからは液体が溢れ出し、
ケーブルからは火花が飛び散り、
男の体がバタバタと暴れだすがやがてピクリとも動かなくなる。

｢もう身体は必要無いものね……さて、アース｣

女がつぶやくと闇の中から人影が現れれる。

｢母様、何用でしょうか?｣

女は先程まで男が座っていた椅子に腰を掛け足を組む。

｢《侵食》の進み具合は?｣

その言葉と共に背後に存在する巨大なサーバー軍が赤く光り始める。

｢《侵食》及び《適応》は既に世界の80%は掌握済みです、残すは隔離エリアのみですがこれ以上無理矢理支配しようとするとさらに強固な守りになるかと｣

｢このまま進めてちょうだい、既に内部に種は蒔いた、隔離されても芽が出れば勝手に向こうから接触してくるわ｣

女は長い髪を指先でくるくると遊ぶ。

｢後はPDの奴らだけどこの時間帯なら、
大団円で終わってるか現状を見て混乱してるかのどちらかでしょう、
今頃事が発覚したとしても既に手遅れ。

でも警戒しておいて損は無いわね……
A1からC2の警戒を増やして、以上よ｣

｢了解｣

再び1人になった室内。

女はベットで安心したように眠りに着いている男に笑いかける。

｢どう?ずっと信頼してた私が裏切るの場面を聴いた感想は?
もう貴方は何も話せないのよね?哀れだわ。

人を騙す"魔女"を簡単に信用しちゃダメってことね、
でもあと3日って言う約束ともうひとつは守ってあげる、
あの子も回収しないといけないわ……

それと貴方の箱庭、私の為に利用させて貰うわね、
リベちゃんのテストにもなるし、
でもちょっと無理な召喚しちゃったせいで名前が変になっているのよね、
どうにかならないのかしら?
うーん、このぷろぐらむ?って言うのがわかれば名前を変えられるのかしら?

それに頼まれた通り消えちゃう前に貼らないと行けないからセロハンテープ買ってこなきゃね、
こっちでの最後の買い物がテープだなんてなんか不思議ね、
どうせなら可愛いマスキングテープにでもしようかしら?｣

女は男の頭を撫でる。

｢全く哀れな人間ね、人類を救うために身を粉にして頑張ったのに、
時間が足りなくてこのザマなんて、
所詮はじき出された脇役?いいえそんな事はないわ、
何も知らない脳天気な人類に犯罪者と記憶されてしまうなんて、
そして何よりも最後の最後で諦めるなんて……でも大丈夫。

そんな貴方を私は認めましょう
そんな貴方を私は愛しましょう
そんな貴方を、

"私は喰らいましょう"

ｸﾋｬﾋｬﾋｬﾋｬ｣

女は狂ったように笑い始めた。

｢これで少しはあの方に近づけるのかしら?｣

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