20 / 26
第20話《《強制転移》により飛ばされた俺達ですが、拭いようのない違和感を覚えました。》
しおりを挟む《強制転移》
フィールドや《迷宮》に存在するトラップで起動させた対象、又はパーティを別の場所に瞬間移動させる。
移動先としては入口に戻される物やモンスター進入禁止《安全区域》が多いが、稀にモンスターの寝床に飛ばされたり《迷宮》に存在する他の《罠》の真上に飛ばされ連鎖する事もある。
しかし罠の他に《強制転移》は新エリア突入時にエリアの紹介を兼ねフィールドとエリア名が表示されるPVを表示させる時もされるおそらく今回はそちらの方だろう。
視界が開け目に入ったのはまるで聖堂のような場所、しかし随分と古ぼけている。
ステンドグラスは割れ、聖堂を支える柱も倒壊し
最奥の中央、神かなにかの像が置かれていたであろう場所は台座しか残されていない。
天井は壊れ今にも雨が降りそうな厚い雲に覆われている。
その次に目に入るのは聖堂を埋め尽くすような大勢のプレイヤー。
「おいどうなってんだよっ!」
「ここはどこなんだ?」
「扉があかないぞ?」
それぞれがこの状況を理解出来ず困惑しているようだった。
崩壊している壁を上り脱出しようとしているプレイヤーもいるが見えない壁に阻まれ登れないようだった。
外に出られないエリアかとなると。
「《イベント待機エリア》かな?」
隣に立つルースが呟く、
おそらく確定だ。
《イベント待機エリア》とは《通常エリア》とは違い、
ギャウリディアでイベントが開催された際
そのイベントに沿って開放されるエリアであり。
例えるなら夏イベントあれば海水浴場、
クリスマスと言ったら巨大なツリーがあるエリアなどがあり主な利用目的としては、
複数人で行動する場合の待ち合わせ場所や報酬交換等のNPCが配置されている。
《通常エリア》でも複数人の交換用のNPCは配置されるがリアルさを優先するため1人ずつ対応しているので。
複数人に対応出来る《イベント待機エリア》の交換NPCを利用するプレイヤーが多い。
それに直接イベントエリアにも行く事ができるのでなかなかに便利だ。
そしてイベントエリアは一定範囲外に行こうとすると進んでいる方向によって《通常エリア》か《イベントエリア》に転移し頭上には見えない壁が存在し建物の屋根等には登れないようになっている。
つまり……今の状況と一緒だ。
となれば次なる《イベントエリア》が開放されるまで《待機エリア》からは移動することが出来ない。
が妙だ、普通なら《イベントエリア》には行けなくても《通常エリア》には戻れるはず、だがメニューから転移を選択しても灰色に変色しており反応しない。
嫌な予感がする……
身体に走る緊張と共に寒気を感じた。
「は?おいおいおい、待て待て待て!?」
1人の男が大きな声を上げ騒いでいたようだった、
そのプレイヤーは手を動かし何かを操作している、
コンソールは他人には見えないので彼が何をしているのかは分からないが酷く焦っているようだった。
「どっ、どうしたんですか?」
気弱そうな男が声をかけ
その声で忙しなく動いていた男の手が止まった。
付近にいたプレイヤーたちは尋常ではない表情をした男の言葉を待つ。
「ロ、ログアウトが出来ないんだよ」
「はえ?」
気弱そうな男は男が一体何を言っているのか理解できないと言った様子で固まっていた。
付近のプレイヤーは各自真実を確かめ同時に驚愕の表情を次々と浮かべ始めた。
「本当にログアウトができないじゃん……」
「どうなってんだよこれ」
「みんな落ち着けって、何時もの軽い不具合さ、直ぐに治るって」
1人の少年が笑うように言った。
「何言ってんだよ、テクスチャバグとか、NPCの挙動がおかしいのと違って、ログアウトできないんだぞ!?
1人2人ならまだしも全員ができないって、緊急メンテナンス問題じゃないか!?」
「そうよ私だって16時から美容院の予約が入ってるから早く辞めたいのに、どうすんのよ」
矛先は少年へと向かう。
「そうだそうだ、ログアウトできないなんてこれから俺たちどう住んだよ」
やり場のない怒りを受けた少年は堪えているが泣きそうになっていた。
「そこまでだよ、みんな」
その時ルースが少年を庇うように前に出た。
「確かにログアウト出来ないのは大問題だけど、
直ぐに開発者が気が付いて復旧してくれる、
文句は彼じゃなくて運営に直接問い合わせした方がいい」
矛先を向けていたプレイヤーたちは渋々と言った様子で散らばって行った。
「ありがとう、ごさいます」
少年はルースに礼を言う。
「気にしないで、君のせいじゃないんだから」
優しく頭を撫でた。
「さて、誰かリスタリアを見なかったかい?」
騒ぎで集まってきた《青龍騎士団》のメンバーにルースは問いかけている。
「ん?コールすればいいんじゃないのか?」
「それが繋がらなくてね、ログアウトもできないし、連絡もできない、ちょっと嫌な感じがするね」
その時ルースの予感が的中していると返事をするように白い稲光が空から降る、
何度も何度も飛来する雷に共鳴するように灰色の空は赤黒く染まり渦を巻き始める、
その光景に誰しもが空を見上げていた。
そして渦が穴のようにぽっかりと隙間が開いた時ソレは穴の中から現れた。
俺は弓を構え上空に向かって《散りばめられた星々》を放つ、
真上に放ったので衝撃が直接俺にのしかかるがそんなことはどうでもいい。
閃光を放ちながら空に向かった矢は奴に当たり爆発する。
周りのプレイヤーたちは俺が何をしているのか理解できなかったでろう。
俺も自分ではしっかりと理解出来ていない、身体が勝手に動いたと言うべきか。
『全く、いきなり攻撃してくるとか面白い子だな』
何処からともなく何度も聞きなれた声が響いた。
「ヴぉああああああaaaaaaaaaaaaaa」
次に咆哮のような物が聞こえ次の瞬間
空は晴れ渡っていた。
状況を飲み込めない俺だが唯一分かっているのは、
あの時俺達を襲った黒竜が猫の着ぐるみを騎乗させ上空に浮かんでいるという事。
そして俺の攻撃は《ERROR》という破壊無効オブジェクトによって遮られたという事実だけだった。
『プレイヤー、いや違うね☆』
黒猫はおどけた態度で言った。
『現実から逃げて来た《逃亡者》の諸君、第2の人生は楽しんでいるかな?』
黒猫は楽しそうに笑った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

呪われた装備品との、正しい? つきあい方。
月白ヤトヒコ
ファンタジー
呪われた装備品。
それは、様々な事情といわくに拠り、通常の装備として扱うことが困難な武具、防具のこと。
そんな危険極まりない呪いの装備品だが、やはりある程度の有用性は認められるだろう。
呪いのリスクをコントロールできれば、装備品として効果的に運用することが可能になる。
今回は、そんな呪われた品々とのつきあい方を記した本を紹介しようと思う。
時間に余裕があり、心身共に強靭で頑健であるなら、試してみるのもいいだろう。
※試してみてなんらかの事故や不幸が振り掛かっても、当方は一切の責任を負わないが。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる