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第19話《駆け付け弓兵ですが、かつてない強敵に気分が高揚していました。》
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2人を騎士団本部に預けた後大通りを全速力で駆ける、
街の中は地獄絵図だ、あちこちで戦闘が起こり赤いポリゴンの破片が周囲を舞っている。
通り抜ける為に何体も何体も倒しているがキリがない。
「グオオオオオオオオオオオ」
突如咆哮が聞こえる
「敵かっ!何処だっ!?いや待てこの声は……」
上を見上げると何かが俺に向けて落下してきている、
そして地面スレスレで大きく羽ばたき砂埃を飛ばすと共に着地したのは赤い鱗を持つ《竜種》。
「レオ、どうしてお前がここに?ご主人はどうした……っておい、
だから俺を咥えるなって今はそれどころじゃっ……」
レオは俺を咥えながら空へと羽ばたきとある方向へ進む。
そして方角を見て俺は察する。
「なるほど俺を運んでくれる訳だな」
となるとこいつの性格上敵の真上に放り出されでもしそうな訳だが…
「レオ、口を少し開けろ装備変更する」
あの広範囲攻撃を見た時《竜種》のブレスかと思ったがルースは"黄金の鎧を着た人型ボス"と言った俺の記憶上該当するボスは存在しない。
この世界で最も厄介なボスは《巨人》でも《悪魔》でも《竜種》でもない、
《人型》だ。
ギャウリディアの敵に設定されているAIは常時戦っている相手の情報を蓄積し学習し強化されていく。
まったく同じ敵でも最初に戦ったプレイヤーと、次に戦うプレイヤーでは敵の脅威度が変わる。
そして敵の中でもボスと通常モンスターのAIの学習能力の差は大いに違い、
リポップしない《迷宮ボス》になるとAIの優秀さは格別だ、
普段は前衛を狙っているのかと思ったら瞬時に後衛、しかも回復役を狙い始めこちらの戦力を確実に削いでいく。
そしてボスの中でも《人型》ボスのAIは格が違う、ステータスでは《竜種》に劣る者も多いはずなのに時に《竜種》をも凌ぐ方法を、戦術を取りこちらに攻めてくる。
ある《旅人》は言った、
《人型ボス》には絶対に挑むなと。
ある《戦士》は言った、
挑むなら学習させ無いように少数精鋭、最短で撃破しろと。
そう言われてしまうほど《人型ボス》の学習能力はAIは未知数なのだ。
「もういいぜ」
そういうとレオは俺を食い殺さんと言わんばかりに思いっきり口を閉じる。
が噛まれる前にするりと抜け出し鼻先に座る。
「グルぅぅううう」
不服そうに唸る。
「全くお前ってやつは」
太く長いレーザー跡の終着点いや、出発点の真上にたどり着く。
「さてと、行きますか」
1歩踏み出し浮遊感に身を任せながら大空に身を投げ出し、
腰の刀に手を添え抜刀の構えに入り意識を集中させる。
上空から刀スキル《居合》で奇襲を仕掛ける。
恐らくこの高度なら頭部に一撃入れれば《ボス》とは言え多少は削れるだろう。
だが正確に当てるには俺の存在を悟らせてはならない。
「ルース、聞こえるか?」
コールするが返答はない。
ようやく敵が見える高度まで落下する、
確かに黄金色に輝く鎧に右手には赤く炎が煌めく槍を持っている。
そして違和感に気づく。
何故奴は動かない?
戦闘しているのであれば多少なりともその場から動くはず
それにやつ以外の人影も見当たらない……
その時奴は顔を上げた、
兜の隙間からまるでモノアイのような赤い単眼が俺を射抜く。
「奇襲できないか……」
そう小さく呟き抜刀の構えを解き地面に落下する。
上手く足から体重を落とし体を支えるが高所からの《落下》によりHPが半分持っていかれるが《自動回復》により直ぐに全快する。
奴の頭上に頂くのは5本のHPバー、
そのHPバーの1本目は2割ほどしか削れていない。
「貴殿が"希望"か?」
仁王立ちしながら赤いモノアイは新たな挑戦者を品定めするような視線を俺に向ける。
「希望?なんの事だ?」
「そこに転がる男が言っておったのだ、もうすぐ到着する…と」
槍の矛先は俺の後ろを指している、
それを追うように視線を動かすと
そこには地面に倒れ伏したルースがいた。
「ルース!?」
すぐに駆け寄りHPを確認する、
良かった1割は残っているが瀕死だ。
頬には《火傷》の跡があるが既にデバフ時間は終わっているようだ。
そのまま周囲を見渡すと、見覚えのある顔触れが同じように倒れていた。
「お前がやったのか?」
状況証拠は揃っているが確認するように聞く。
「俺以外いなかろう?剣を取れ《逃亡者》」
逃亡者?なんの事だ?
そのまま奴は槍を構え、それに釣られるように俺も刀に手をかける。
俺達の間に静寂が流れた。
「……ふむ、《逃亡者》の間では対峙から5秒経てば決闘の開始だと聞いたが、攻撃してこないのか?」
奴は首を傾げながらそう言った
「ならこちらから行くぞっ!!」
言うが早いが一瞬で俺の目の前に出現する、炎に包まれた槍が俺の胴体目掛けて突き出される、
それを奴の右に移動するように右足を1本目に出し瞬時に右に体を捻りながら左足で胴体を目掛け蹴りを放つが、
左足は奴に掴まれそのまま上空に向かって投げ出されてしまう。
奴は左手に炎をため上空に飛ばされた俺に向かって火の球《火球》放つ、
接近してくる《火球》を《刀》で命中判定斬りし消滅させるが、それを見越していたかのように《投擲》されていた槍が俺の頬を切り裂く。
肉が焼けるような焦げ臭い匂いと肌がヒリヒリする。
《火傷》のデバフが入ったか……
落下しながら装備画面を操作し《温もりの指輪》の装備を外し再び装備する、
HPが徐々に減っていくが0.5秒ごとに発動する《自然治癒》効果のおかげで減っても直ぐに全快する。
下を向くと奴は落下位置に無手で存在し俺を仕留めようと待機していた。
奴に向け《毒》《麻痺》《火傷》《流血》の効果が付与された矢を同時に放つ。
同時に放つには《最大同時射出本数》の多いものを使う。
今回の場合は通常の矢の威力は落ちるが《最大同時射出本数》が5本と多い上状態状態を付与できる確率が高くなる《嘆きの弓》を使用し放つ、
本来用途は同じ種類の《矢》を使用し《状態異常蓄積量》を上げるためだろうが。
ボスに対してどれほど蓄積するか分からない
それに鎧の上からなので試し打ち程度のものだ。
放った矢は甲高い音を立て奴の鎧を掠めるが、
状態異常にかかった様子はない。
弓を背中に背負い《刀》を抜刀し奴を切りつけようとするが腕をクロスさせ防がれ火花が散る。
そして重力に従い地面に着地する寸前、腹部の違和感と共に俺の落下は止まる。
なんだ?
違和感がある腹部を見ると先程俺の頬を掠めた槍に貫かれていた、
纏う炎は俺の身を焼き尽くそうと激しく燃え上がる。
「弱いな、希望と言うからには期待しておったがこの程度とは、自分の実力も知らずに火中に飛び込むのは蛮勇ぞ……
お主を運んできた混沌の赤き竜の方が自分の身の程を分かっているのではないか?」
強引に燃え盛る槍を身体から引き抜き横凪に振るう、
奴は少し驚き回避しようと反応したがそれよりも先に切っ先で切りつける。
消ずれたのはほんの数ミリ程度、だが一撃を入れたという事実が俺を鼓舞する。
持っている槍を奴の方に投げる。
こんな持つだけで《火傷》のデバフがかかる《槍》なんぞ誰が使うか。
「仕切り直しだ、早く拾えよ」
《アイテムストレージ》からとあるアイテムを選択し実体化させながら
ぽっかりと空いた腹を手で押さえながら促す。
「傷ついた体で何ができると?」
「やってみなくちゃわからねえだろ?まだ俺も本気を出していないからな」
実態化したアイテムを徐々に修復されるアバター内へと落とす。
「ほう、ならばその本気を見せて見ろっ!」
黄金鎧が燃え上がりその炎を槍が纏う、
槍は先が三股に変化する、
おそらく炎属性の強化とダメージ判定が多段化か?
「しゃあああああああ」
雄叫びと共に俺は黄金鎧へと接近する、
向かってきた俺を迎撃するように槍を突き出すが、
突き出された瞬間槍を飛び超え、
頭に蹴りをお見舞する。
接近戦では《槍》の突き出す行動は身体の正面でしか最高威力で使えず、
さらに攻撃の予備動作が見えるため接近戦には不向きだ。
それならずっと接近戦で戦えばいいじゃないか?
と思うプレイヤーは一定数存在すると思うが
敵もそう甘くはない。
槍は突く攻撃というように攻撃の威力を一点集中させ相手を攻撃するのが基本の武器だが、突き以外でも使用できるのは基本だ。
黄金鎧は空中に浮く俺目掛けハエたたきの要領で槍を振りかぶった。
接近する槍を短剣で一時的に受け止めすぐに反発力を利用して範囲外に飛ぶ。
俺を着地を許さないように黄金鎧は先回りし左手に炎を纏う。
空中では攻撃を回避することは困難。
火属性の攻撃を8割減少できる中盾《赤詠の盾》と戦鎚《雷光》を装備し
を構え身体を盾に収まるようになるべく小さくし衝撃に備える、
盾と《火球》が衝突し爆風と共に熱風が盾からはみ出た身体を撫でるが止まらぬ勢いのまま突っ込む。
そして右手を外に大きく払い、盾を構える俺を《パリィ》しようと接近していた奴の左手を《逆パリィ》し大きく仰け反らせる。
ボスとはいえ《パリィ》は有効だ、
しかしタイミングが通常モンスターに比べシビアなスタミナ消費も大きく、
体勢崩せてもすぐに復帰してしまう。
今まさに右手の燃え盛る槍が俺の胴体を貫こうと接近している。
俺は戦鎚を奴の頭目掛けて《アースクエイク》を繰り出す。
グチャりと腹部を貫く音と共に槍は俺の腹へと再び収まり、戦鎚は奴の頭部へとヒットした、
槍は俺を焼きつくそうと炎を燃やすが直ぐに鎮火してしまう。
奴は再び着火させようと力を入れようとしているが身体が動かせないようだった。
攻撃の蓄積による《スタン》状態
俺は強引に身体を右に動かし身体を引きちぎり槍の拘束から離脱する。
肉片、赤いエフェクトと共にキラキラと輝くガラスの破片が飛び散る。
素早く奴の背後に移動しお返しとばかりに《刀》で鎧を貫通させ腹の中に押し込みスキル《血鬼乱舞》を発動する。
腹部に存在する臓器を全て欠損させるかのような《型》などない滅多切り、
大量の赤いエフェクトが俺に降り注ぎさらに火力がブーストされる。
スタン状態で全ての攻撃がクリティカル判定及び防御低下、
そして《血気乱舞》における相手の血を浴びれば浴びるほど威力が上がる仕様により、
黄金鎧のHPの1本目は一瞬で消え去る。
安心したのもつかの間、
背筋が凍る感覚を感じ背後に瞬時に飛んだと同時に俺の髪が数本パラパラと重力に従い地面に落下していく。
少しでも判断が遅れれば奴の回転斬りによって首が飛んでいただろう。
「なるほどそれが貴様の力か、あの一撃で貴様を灰にしてやろうと思ったが、一体何をした?
我の炎が消えるなど今まで有り得なかったっ!」
黄金の鎧はドロドロと熔け、変わりに奴の怒りと連動しているかのように燃え盛る炎を鎧として纏っていた。
「単に水をかけただけだ、火事ならば水をかければいい簡単な事だろ?」
ギャウリディアにおける《火》と《水》にはそれぞれ数値が設定されており。
《火》が100の数値で燃えている場合それ以上の数値を持つ《水》をかければ鎮火させられる。
数値は《火》であれば熱量と燃え広がってる範囲で上限し、
《水》ならば温度と量で判断される。
奴は定期的に槍に炎を供給していた、
その事から槍自身は自然着火はできないと判断。
炎を纏った槍が溶けない事から槍自体の耐熱値は高いだろうがおそらくそこまで数値はではない、
ならば鎮火してしまえばいいと考え着いた訳だが。
奴は無限に炎を生み出せると考えた上でどうすれば供給を絶てるか。
そもそも《延焼》によるスリップダメージは俺には致命傷だ、
4秒以上デバフがかかれば確実に消滅する。
自身がデバフを受けない上で奴に攻撃を当てる方法、
それはスタン値を蓄積し《スタン》状態にするしかない。
しかし相手はボスだ、そう易々と稼がせてくれるような立ち回りはしない。
しかしおそらくだが俺が来るまでの他プレイヤーの活躍によってそこそこ溜まっていると仮定しよう、それならば蓄積値が高い戦鎚スキル《アースクエイク》を1発でも当てられればもしかしたらと思った、
そして当てるためには一瞬でも隙が必要、ならば体勢を崩させその上相手の武器を俺の体に突き刺して拘束してしまえばいいそうすれば俺の思考を読めない限り余計なことはできないだろう。
生憎やつは頭クリティカルボーナスがある頭ではなくわざわざ攻撃判定時に《ダメージ減少効果》が起こる身体を狙ってきた、
その事からなにか理由はあるが身体を槍で突き刺したいタイプのヤバい思考の持ち主だと予想ならばそれを利用する。
そして実行するには《燃焼》デバフが懸念材料、ならば消してしまおうと思い
最初に腹部に穴を開けられた段階で俺は《冷智の水》を忍ばせていた、
しかし予想以上に《スタン状態》からの復帰が早く8割、1本目しか削れなかったのが不満か。
HPバーが複数存在する相手はそれぞれ削る度に能力が強化され強力になっていく
奴の2段階目は見た目の変化では炎の鎧を纏っただけだが、攻撃はどのように変化したのか……
それにここまで熱量が届くと言うことは接近しただけでも《燃焼》のデバフが着く可能性がある、
今の俺の装備では後4本のHPを削り切ることは絶望的だ。
そう考えていると奴は頭上で槍を一回転させ地面に突き刺し、
「我は女王陛下に《祝福》を授かりし《十二将》が1人、豪炎のレオニス
《逃亡者》いや戦士よ、貴殿の名は?」
高らかにそう名乗ったと共に奴のHPバーの上に《豪炎レオニス》と表示された。
敵やモンスターの中でも名乗りを上げるやつは一定数存在する、
名乗っている最中に攻撃してもいいが俺は静かに聞き思考を巡らせていた。
自ら名乗ることで名前がわかるモンスターかこれは初だな、
今までは先に《偵察》し名前や見た目を確認する事でステージや《迷宮》内に存在する情報と照らし合わせ弱点や攻略法を探すのが正攻法だったが、
名前が最初から表示されていないモンスターが出現したのはおそらく初めてだ、今回のアップデートにおける要素のひとつだろう。
それに《女王陛下》か、女王と言えば北に存在する雪の大地《グレゾリア》にあるダンジョン《クレムリナ城》の再奥に《ボス》として存在する《拒絶の女王 エリナ》その1人しか存在が確認されていない。
しかし名前に拒絶と入っているように彼女は人を忌み嫌い自身が生み出した雪だるまのような生物《スニィ》を使役し侵入者を排除していた。
レオニスと名乗る奴とは攻撃方法全てがエリナが使役するモンスターとは相性が最悪な上、
《十二将》とも言っていた、
奴と似たような存在が後11人いるとしてやはりエリナと関係があるとは思えない。
「《傭兵》 リクだ」
俺も名乗り奴の出方を警戒する。
そして数秒の時が俺らの間に流れる。
漂う沈黙、奴の鎧からは炎をような物が度々噴出されている。
「なるほど《リク》か、我をここまで滾らせる戦いは久しぶりよ、自分の持てる力を駆使して足掻く戦法、気に入ったっ!
ならばこちらも力を解放せねばならん」
次の瞬間奴の姿が蜃気楼のようにぶれた、
いやまて、これは蜃気楼と言うより。
「「「さあ、仕切り直しと行こうじゃないか」」」
俺の目の前にはレオニスが3人存在した。
いや……1人でも辛いのに3人とか聞いてないですよ、無理無理白旗フリフリ状態ですねこれ、
そもそもボス相手に1人で戦ってる時点で無謀がすぎてるんですが?
そこに転がってるプレイヤー達、早く立ち上がって貰えませんこと?
「そこまでよ」
「むっ?その声h」
目の前の光景に絶望しかけていた俺だったが
何処からともなく声が聞こえ次の瞬間レオニス×3は氷塊に囚われていた。
「よっと」
上空から突如現れ着地する新たな存在。
「なっ!?」
その姿に絶句した
「全く、最近内政ばっかで身体を動かせなかったからって張り切りすぎ、
お母様が言ってたでしょ?今回は時間稼ぎが目的だって」
白いマントをふわりとはためかせる一見すると、魔法使いに見えなくもない大きな三角の帽子を被った少女、
腰には金色の装飾が施された白い鞘を刺している。
だが目を奪われたのはそこではない、
彼女の輝く赤と青の、2色眼
《双眼異色族》
そして何よりも雪のような真っ白な髪に既視感を覚える。
「《リヴィア》さん?」
そう声と足が前に出ていた、
1歩前に踏み出したところで急に足が重くなり前のめりに倒れてしまいそうになる、
足元を見ると氷で足が固定されていた。
「それ以上近づくなら身体の隅々、血の1滴残らず凍らせちゃいますよ?」
1歩1歩俺に近づく彼女が発する冷気によって彼女が歩いた大地は凍っていく。
「私の事を《リヴィア》と呼びましたね、貴方は?」
まるで初対面かのように彼女は言う
「は?俺だよ、リクだよ!」
「リク、リク、リク……記憶にありませんね、そして何故だか貴方の名前を口に出すと吐き気がします」
「本当に知らんのか?お主の大切な存在では無いのか?」
氷塊が解け顔だけ出したレオニスが言った。
「まさか私が《逃亡者》に興味を示すとでも??
メークやキャスとは違いま……ちょっと待ってください、メモリーに反応があります」
彼女はそう言いながら目を瞑る。
「ああ、なるほどそういう事でしたか」
彼女はウンウンと頷いた
「彼女は死にました」
彼女?誰だ?彼女、カノジョ、カノジョ?
「え?」
「低能なんですか?彼女、《プレイヤーネーム:リヴィア》は既に世界に飲み込まれ死んでいます」
視界が真っ暗になった、
どういうことだ?リヴィアさんが死んだ?だとしたら目の前にいるこの子は別人?
「……正確にはまだ死んでないですが、死んでいるようなものでしょう」
「どういうことだっ!?」
彼女に詰めよろうとするが足が動かない事を思い出す。
「ウザイですキモイです、これ現実だったら唾とか飛んでますよね?汚いです」
懐から《秋羽のナイフ》を《投擲》するが彼女に触れる前に凍りつき地面に落下する。
「女の子の顔傷物にしようとするとか何考えてるんですか?
だからモテないんですよ……リクさん?」
辺りに漂う冷気など気にならない程俺の体は沸騰する。
身体は首だけを残し氷塊に捕われる俺、
その周囲を楽しそうにくるくると回る少女。
『教えて欲しいですか?何故彼女が何処にいるのか?
知りたいですか?どうすれば会えるのか?』
耳元で冷たい声で囁かれる。
「ああ知りたい」
俺は彼女の目を見て言った。
『だーめ私からは教えられないわ、よわよわな今のお兄さんじゃ彼女を救えない、守れない……
でも私も鬼じゃないからヒントは教えてあげる
"月明かりが照らす鐘塔"を探して、その終着点で彼女は居る。
何かを、誰かを待っている、それは貴方かそれとも自分を殺す化け物か』
「月明かりが、むぐっ───」
彼女に口を抑えつけられる。
『それ以上喋ったら私が今ここで貴方を殺すわ、
これでもお母様にバレないように気をつけてリスキーな発言してるんだからね?』
聞きたいことがまだ山ほどあるがコクコクと頷く。
「ならいいわ、レオ兄時間よ」
「分かった、リク今度相見える時は互いに最初から全力で合間見えようぞ」
レオニスは身体から吹き出す炎と仕草で再戦を望み。
「貴方のせいで余計な行動したわ、口も触っちゃったし帰ったら消毒しないと行けないじゃない……
出来ればもう貴方とは二度と会いたくないわね、攻略を望むのであれば立ち塞がらないといけないけれど。
それじゃさようなら」
《双眼異色族》の少女は言葉を吐き捨てながら消えていった。
2人が消えたと同時に《Congratulation》という文字が、
煌びやかな装飾と共に視界に表示されおそらく献上値に応じた経験値やアイテムなどが手に入る。
《BLVが4に上がりました》というシステムと共に、
12のステータスポイントと4のスキルポイントが付与される。
これがアップデートで言っていた《BLV》か……
おそらく今回の献上値における経験値によってレベルが上がっていくのだろう。
ふと身体を見ると槍によって貫かれた腹部は何事も無かったかのように修復されていた。
本来なら《欠損》状態の場合《治療アイテム》を使わなければ3日程度は修復にかかるはずだが
先程然もそうだが既に完治しているのは《防衛戦》の影響か?
「……リクお疲れ様」
どうやらお寝坊さん達が起きたようだ。
「お前らもっと早く起きろよ、何回死にかけたk……は?」
急に身体が光に包まれ浮遊感に襲われる
「《強制転移》か!?」
浮遊感と共に俺の視界は真っ白に染まった。
街の中は地獄絵図だ、あちこちで戦闘が起こり赤いポリゴンの破片が周囲を舞っている。
通り抜ける為に何体も何体も倒しているがキリがない。
「グオオオオオオオオオオオ」
突如咆哮が聞こえる
「敵かっ!何処だっ!?いや待てこの声は……」
上を見上げると何かが俺に向けて落下してきている、
そして地面スレスレで大きく羽ばたき砂埃を飛ばすと共に着地したのは赤い鱗を持つ《竜種》。
「レオ、どうしてお前がここに?ご主人はどうした……っておい、
だから俺を咥えるなって今はそれどころじゃっ……」
レオは俺を咥えながら空へと羽ばたきとある方向へ進む。
そして方角を見て俺は察する。
「なるほど俺を運んでくれる訳だな」
となるとこいつの性格上敵の真上に放り出されでもしそうな訳だが…
「レオ、口を少し開けろ装備変更する」
あの広範囲攻撃を見た時《竜種》のブレスかと思ったがルースは"黄金の鎧を着た人型ボス"と言った俺の記憶上該当するボスは存在しない。
この世界で最も厄介なボスは《巨人》でも《悪魔》でも《竜種》でもない、
《人型》だ。
ギャウリディアの敵に設定されているAIは常時戦っている相手の情報を蓄積し学習し強化されていく。
まったく同じ敵でも最初に戦ったプレイヤーと、次に戦うプレイヤーでは敵の脅威度が変わる。
そして敵の中でもボスと通常モンスターのAIの学習能力の差は大いに違い、
リポップしない《迷宮ボス》になるとAIの優秀さは格別だ、
普段は前衛を狙っているのかと思ったら瞬時に後衛、しかも回復役を狙い始めこちらの戦力を確実に削いでいく。
そしてボスの中でも《人型》ボスのAIは格が違う、ステータスでは《竜種》に劣る者も多いはずなのに時に《竜種》をも凌ぐ方法を、戦術を取りこちらに攻めてくる。
ある《旅人》は言った、
《人型ボス》には絶対に挑むなと。
ある《戦士》は言った、
挑むなら学習させ無いように少数精鋭、最短で撃破しろと。
そう言われてしまうほど《人型ボス》の学習能力はAIは未知数なのだ。
「もういいぜ」
そういうとレオは俺を食い殺さんと言わんばかりに思いっきり口を閉じる。
が噛まれる前にするりと抜け出し鼻先に座る。
「グルぅぅううう」
不服そうに唸る。
「全くお前ってやつは」
太く長いレーザー跡の終着点いや、出発点の真上にたどり着く。
「さてと、行きますか」
1歩踏み出し浮遊感に身を任せながら大空に身を投げ出し、
腰の刀に手を添え抜刀の構えに入り意識を集中させる。
上空から刀スキル《居合》で奇襲を仕掛ける。
恐らくこの高度なら頭部に一撃入れれば《ボス》とは言え多少は削れるだろう。
だが正確に当てるには俺の存在を悟らせてはならない。
「ルース、聞こえるか?」
コールするが返答はない。
ようやく敵が見える高度まで落下する、
確かに黄金色に輝く鎧に右手には赤く炎が煌めく槍を持っている。
そして違和感に気づく。
何故奴は動かない?
戦闘しているのであれば多少なりともその場から動くはず
それにやつ以外の人影も見当たらない……
その時奴は顔を上げた、
兜の隙間からまるでモノアイのような赤い単眼が俺を射抜く。
「奇襲できないか……」
そう小さく呟き抜刀の構えを解き地面に落下する。
上手く足から体重を落とし体を支えるが高所からの《落下》によりHPが半分持っていかれるが《自動回復》により直ぐに全快する。
奴の頭上に頂くのは5本のHPバー、
そのHPバーの1本目は2割ほどしか削れていない。
「貴殿が"希望"か?」
仁王立ちしながら赤いモノアイは新たな挑戦者を品定めするような視線を俺に向ける。
「希望?なんの事だ?」
「そこに転がる男が言っておったのだ、もうすぐ到着する…と」
槍の矛先は俺の後ろを指している、
それを追うように視線を動かすと
そこには地面に倒れ伏したルースがいた。
「ルース!?」
すぐに駆け寄りHPを確認する、
良かった1割は残っているが瀕死だ。
頬には《火傷》の跡があるが既にデバフ時間は終わっているようだ。
そのまま周囲を見渡すと、見覚えのある顔触れが同じように倒れていた。
「お前がやったのか?」
状況証拠は揃っているが確認するように聞く。
「俺以外いなかろう?剣を取れ《逃亡者》」
逃亡者?なんの事だ?
そのまま奴は槍を構え、それに釣られるように俺も刀に手をかける。
俺達の間に静寂が流れた。
「……ふむ、《逃亡者》の間では対峙から5秒経てば決闘の開始だと聞いたが、攻撃してこないのか?」
奴は首を傾げながらそう言った
「ならこちらから行くぞっ!!」
言うが早いが一瞬で俺の目の前に出現する、炎に包まれた槍が俺の胴体目掛けて突き出される、
それを奴の右に移動するように右足を1本目に出し瞬時に右に体を捻りながら左足で胴体を目掛け蹴りを放つが、
左足は奴に掴まれそのまま上空に向かって投げ出されてしまう。
奴は左手に炎をため上空に飛ばされた俺に向かって火の球《火球》放つ、
接近してくる《火球》を《刀》で命中判定斬りし消滅させるが、それを見越していたかのように《投擲》されていた槍が俺の頬を切り裂く。
肉が焼けるような焦げ臭い匂いと肌がヒリヒリする。
《火傷》のデバフが入ったか……
落下しながら装備画面を操作し《温もりの指輪》の装備を外し再び装備する、
HPが徐々に減っていくが0.5秒ごとに発動する《自然治癒》効果のおかげで減っても直ぐに全快する。
下を向くと奴は落下位置に無手で存在し俺を仕留めようと待機していた。
奴に向け《毒》《麻痺》《火傷》《流血》の効果が付与された矢を同時に放つ。
同時に放つには《最大同時射出本数》の多いものを使う。
今回の場合は通常の矢の威力は落ちるが《最大同時射出本数》が5本と多い上状態状態を付与できる確率が高くなる《嘆きの弓》を使用し放つ、
本来用途は同じ種類の《矢》を使用し《状態異常蓄積量》を上げるためだろうが。
ボスに対してどれほど蓄積するか分からない
それに鎧の上からなので試し打ち程度のものだ。
放った矢は甲高い音を立て奴の鎧を掠めるが、
状態異常にかかった様子はない。
弓を背中に背負い《刀》を抜刀し奴を切りつけようとするが腕をクロスさせ防がれ火花が散る。
そして重力に従い地面に着地する寸前、腹部の違和感と共に俺の落下は止まる。
なんだ?
違和感がある腹部を見ると先程俺の頬を掠めた槍に貫かれていた、
纏う炎は俺の身を焼き尽くそうと激しく燃え上がる。
「弱いな、希望と言うからには期待しておったがこの程度とは、自分の実力も知らずに火中に飛び込むのは蛮勇ぞ……
お主を運んできた混沌の赤き竜の方が自分の身の程を分かっているのではないか?」
強引に燃え盛る槍を身体から引き抜き横凪に振るう、
奴は少し驚き回避しようと反応したがそれよりも先に切っ先で切りつける。
消ずれたのはほんの数ミリ程度、だが一撃を入れたという事実が俺を鼓舞する。
持っている槍を奴の方に投げる。
こんな持つだけで《火傷》のデバフがかかる《槍》なんぞ誰が使うか。
「仕切り直しだ、早く拾えよ」
《アイテムストレージ》からとあるアイテムを選択し実体化させながら
ぽっかりと空いた腹を手で押さえながら促す。
「傷ついた体で何ができると?」
「やってみなくちゃわからねえだろ?まだ俺も本気を出していないからな」
実態化したアイテムを徐々に修復されるアバター内へと落とす。
「ほう、ならばその本気を見せて見ろっ!」
黄金鎧が燃え上がりその炎を槍が纏う、
槍は先が三股に変化する、
おそらく炎属性の強化とダメージ判定が多段化か?
「しゃあああああああ」
雄叫びと共に俺は黄金鎧へと接近する、
向かってきた俺を迎撃するように槍を突き出すが、
突き出された瞬間槍を飛び超え、
頭に蹴りをお見舞する。
接近戦では《槍》の突き出す行動は身体の正面でしか最高威力で使えず、
さらに攻撃の予備動作が見えるため接近戦には不向きだ。
それならずっと接近戦で戦えばいいじゃないか?
と思うプレイヤーは一定数存在すると思うが
敵もそう甘くはない。
槍は突く攻撃というように攻撃の威力を一点集中させ相手を攻撃するのが基本の武器だが、突き以外でも使用できるのは基本だ。
黄金鎧は空中に浮く俺目掛けハエたたきの要領で槍を振りかぶった。
接近する槍を短剣で一時的に受け止めすぐに反発力を利用して範囲外に飛ぶ。
俺を着地を許さないように黄金鎧は先回りし左手に炎を纏う。
空中では攻撃を回避することは困難。
火属性の攻撃を8割減少できる中盾《赤詠の盾》と戦鎚《雷光》を装備し
を構え身体を盾に収まるようになるべく小さくし衝撃に備える、
盾と《火球》が衝突し爆風と共に熱風が盾からはみ出た身体を撫でるが止まらぬ勢いのまま突っ込む。
そして右手を外に大きく払い、盾を構える俺を《パリィ》しようと接近していた奴の左手を《逆パリィ》し大きく仰け反らせる。
ボスとはいえ《パリィ》は有効だ、
しかしタイミングが通常モンスターに比べシビアなスタミナ消費も大きく、
体勢崩せてもすぐに復帰してしまう。
今まさに右手の燃え盛る槍が俺の胴体を貫こうと接近している。
俺は戦鎚を奴の頭目掛けて《アースクエイク》を繰り出す。
グチャりと腹部を貫く音と共に槍は俺の腹へと再び収まり、戦鎚は奴の頭部へとヒットした、
槍は俺を焼きつくそうと炎を燃やすが直ぐに鎮火してしまう。
奴は再び着火させようと力を入れようとしているが身体が動かせないようだった。
攻撃の蓄積による《スタン》状態
俺は強引に身体を右に動かし身体を引きちぎり槍の拘束から離脱する。
肉片、赤いエフェクトと共にキラキラと輝くガラスの破片が飛び散る。
素早く奴の背後に移動しお返しとばかりに《刀》で鎧を貫通させ腹の中に押し込みスキル《血鬼乱舞》を発動する。
腹部に存在する臓器を全て欠損させるかのような《型》などない滅多切り、
大量の赤いエフェクトが俺に降り注ぎさらに火力がブーストされる。
スタン状態で全ての攻撃がクリティカル判定及び防御低下、
そして《血気乱舞》における相手の血を浴びれば浴びるほど威力が上がる仕様により、
黄金鎧のHPの1本目は一瞬で消え去る。
安心したのもつかの間、
背筋が凍る感覚を感じ背後に瞬時に飛んだと同時に俺の髪が数本パラパラと重力に従い地面に落下していく。
少しでも判断が遅れれば奴の回転斬りによって首が飛んでいただろう。
「なるほどそれが貴様の力か、あの一撃で貴様を灰にしてやろうと思ったが、一体何をした?
我の炎が消えるなど今まで有り得なかったっ!」
黄金の鎧はドロドロと熔け、変わりに奴の怒りと連動しているかのように燃え盛る炎を鎧として纏っていた。
「単に水をかけただけだ、火事ならば水をかければいい簡単な事だろ?」
ギャウリディアにおける《火》と《水》にはそれぞれ数値が設定されており。
《火》が100の数値で燃えている場合それ以上の数値を持つ《水》をかければ鎮火させられる。
数値は《火》であれば熱量と燃え広がってる範囲で上限し、
《水》ならば温度と量で判断される。
奴は定期的に槍に炎を供給していた、
その事から槍自身は自然着火はできないと判断。
炎を纏った槍が溶けない事から槍自体の耐熱値は高いだろうがおそらくそこまで数値はではない、
ならば鎮火してしまえばいいと考え着いた訳だが。
奴は無限に炎を生み出せると考えた上でどうすれば供給を絶てるか。
そもそも《延焼》によるスリップダメージは俺には致命傷だ、
4秒以上デバフがかかれば確実に消滅する。
自身がデバフを受けない上で奴に攻撃を当てる方法、
それはスタン値を蓄積し《スタン》状態にするしかない。
しかし相手はボスだ、そう易々と稼がせてくれるような立ち回りはしない。
しかしおそらくだが俺が来るまでの他プレイヤーの活躍によってそこそこ溜まっていると仮定しよう、それならば蓄積値が高い戦鎚スキル《アースクエイク》を1発でも当てられればもしかしたらと思った、
そして当てるためには一瞬でも隙が必要、ならば体勢を崩させその上相手の武器を俺の体に突き刺して拘束してしまえばいいそうすれば俺の思考を読めない限り余計なことはできないだろう。
生憎やつは頭クリティカルボーナスがある頭ではなくわざわざ攻撃判定時に《ダメージ減少効果》が起こる身体を狙ってきた、
その事からなにか理由はあるが身体を槍で突き刺したいタイプのヤバい思考の持ち主だと予想ならばそれを利用する。
そして実行するには《燃焼》デバフが懸念材料、ならば消してしまおうと思い
最初に腹部に穴を開けられた段階で俺は《冷智の水》を忍ばせていた、
しかし予想以上に《スタン状態》からの復帰が早く8割、1本目しか削れなかったのが不満か。
HPバーが複数存在する相手はそれぞれ削る度に能力が強化され強力になっていく
奴の2段階目は見た目の変化では炎の鎧を纏っただけだが、攻撃はどのように変化したのか……
それにここまで熱量が届くと言うことは接近しただけでも《燃焼》のデバフが着く可能性がある、
今の俺の装備では後4本のHPを削り切ることは絶望的だ。
そう考えていると奴は頭上で槍を一回転させ地面に突き刺し、
「我は女王陛下に《祝福》を授かりし《十二将》が1人、豪炎のレオニス
《逃亡者》いや戦士よ、貴殿の名は?」
高らかにそう名乗ったと共に奴のHPバーの上に《豪炎レオニス》と表示された。
敵やモンスターの中でも名乗りを上げるやつは一定数存在する、
名乗っている最中に攻撃してもいいが俺は静かに聞き思考を巡らせていた。
自ら名乗ることで名前がわかるモンスターかこれは初だな、
今までは先に《偵察》し名前や見た目を確認する事でステージや《迷宮》内に存在する情報と照らし合わせ弱点や攻略法を探すのが正攻法だったが、
名前が最初から表示されていないモンスターが出現したのはおそらく初めてだ、今回のアップデートにおける要素のひとつだろう。
それに《女王陛下》か、女王と言えば北に存在する雪の大地《グレゾリア》にあるダンジョン《クレムリナ城》の再奥に《ボス》として存在する《拒絶の女王 エリナ》その1人しか存在が確認されていない。
しかし名前に拒絶と入っているように彼女は人を忌み嫌い自身が生み出した雪だるまのような生物《スニィ》を使役し侵入者を排除していた。
レオニスと名乗る奴とは攻撃方法全てがエリナが使役するモンスターとは相性が最悪な上、
《十二将》とも言っていた、
奴と似たような存在が後11人いるとしてやはりエリナと関係があるとは思えない。
「《傭兵》 リクだ」
俺も名乗り奴の出方を警戒する。
そして数秒の時が俺らの間に流れる。
漂う沈黙、奴の鎧からは炎をような物が度々噴出されている。
「なるほど《リク》か、我をここまで滾らせる戦いは久しぶりよ、自分の持てる力を駆使して足掻く戦法、気に入ったっ!
ならばこちらも力を解放せねばならん」
次の瞬間奴の姿が蜃気楼のようにぶれた、
いやまて、これは蜃気楼と言うより。
「「「さあ、仕切り直しと行こうじゃないか」」」
俺の目の前にはレオニスが3人存在した。
いや……1人でも辛いのに3人とか聞いてないですよ、無理無理白旗フリフリ状態ですねこれ、
そもそもボス相手に1人で戦ってる時点で無謀がすぎてるんですが?
そこに転がってるプレイヤー達、早く立ち上がって貰えませんこと?
「そこまでよ」
「むっ?その声h」
目の前の光景に絶望しかけていた俺だったが
何処からともなく声が聞こえ次の瞬間レオニス×3は氷塊に囚われていた。
「よっと」
上空から突如現れ着地する新たな存在。
「なっ!?」
その姿に絶句した
「全く、最近内政ばっかで身体を動かせなかったからって張り切りすぎ、
お母様が言ってたでしょ?今回は時間稼ぎが目的だって」
白いマントをふわりとはためかせる一見すると、魔法使いに見えなくもない大きな三角の帽子を被った少女、
腰には金色の装飾が施された白い鞘を刺している。
だが目を奪われたのはそこではない、
彼女の輝く赤と青の、2色眼
《双眼異色族》
そして何よりも雪のような真っ白な髪に既視感を覚える。
「《リヴィア》さん?」
そう声と足が前に出ていた、
1歩前に踏み出したところで急に足が重くなり前のめりに倒れてしまいそうになる、
足元を見ると氷で足が固定されていた。
「それ以上近づくなら身体の隅々、血の1滴残らず凍らせちゃいますよ?」
1歩1歩俺に近づく彼女が発する冷気によって彼女が歩いた大地は凍っていく。
「私の事を《リヴィア》と呼びましたね、貴方は?」
まるで初対面かのように彼女は言う
「は?俺だよ、リクだよ!」
「リク、リク、リク……記憶にありませんね、そして何故だか貴方の名前を口に出すと吐き気がします」
「本当に知らんのか?お主の大切な存在では無いのか?」
氷塊が解け顔だけ出したレオニスが言った。
「まさか私が《逃亡者》に興味を示すとでも??
メークやキャスとは違いま……ちょっと待ってください、メモリーに反応があります」
彼女はそう言いながら目を瞑る。
「ああ、なるほどそういう事でしたか」
彼女はウンウンと頷いた
「彼女は死にました」
彼女?誰だ?彼女、カノジョ、カノジョ?
「え?」
「低能なんですか?彼女、《プレイヤーネーム:リヴィア》は既に世界に飲み込まれ死んでいます」
視界が真っ暗になった、
どういうことだ?リヴィアさんが死んだ?だとしたら目の前にいるこの子は別人?
「……正確にはまだ死んでないですが、死んでいるようなものでしょう」
「どういうことだっ!?」
彼女に詰めよろうとするが足が動かない事を思い出す。
「ウザイですキモイです、これ現実だったら唾とか飛んでますよね?汚いです」
懐から《秋羽のナイフ》を《投擲》するが彼女に触れる前に凍りつき地面に落下する。
「女の子の顔傷物にしようとするとか何考えてるんですか?
だからモテないんですよ……リクさん?」
辺りに漂う冷気など気にならない程俺の体は沸騰する。
身体は首だけを残し氷塊に捕われる俺、
その周囲を楽しそうにくるくると回る少女。
『教えて欲しいですか?何故彼女が何処にいるのか?
知りたいですか?どうすれば会えるのか?』
耳元で冷たい声で囁かれる。
「ああ知りたい」
俺は彼女の目を見て言った。
『だーめ私からは教えられないわ、よわよわな今のお兄さんじゃ彼女を救えない、守れない……
でも私も鬼じゃないからヒントは教えてあげる
"月明かりが照らす鐘塔"を探して、その終着点で彼女は居る。
何かを、誰かを待っている、それは貴方かそれとも自分を殺す化け物か』
「月明かりが、むぐっ───」
彼女に口を抑えつけられる。
『それ以上喋ったら私が今ここで貴方を殺すわ、
これでもお母様にバレないように気をつけてリスキーな発言してるんだからね?』
聞きたいことがまだ山ほどあるがコクコクと頷く。
「ならいいわ、レオ兄時間よ」
「分かった、リク今度相見える時は互いに最初から全力で合間見えようぞ」
レオニスは身体から吹き出す炎と仕草で再戦を望み。
「貴方のせいで余計な行動したわ、口も触っちゃったし帰ったら消毒しないと行けないじゃない……
出来ればもう貴方とは二度と会いたくないわね、攻略を望むのであれば立ち塞がらないといけないけれど。
それじゃさようなら」
《双眼異色族》の少女は言葉を吐き捨てながら消えていった。
2人が消えたと同時に《Congratulation》という文字が、
煌びやかな装飾と共に視界に表示されおそらく献上値に応じた経験値やアイテムなどが手に入る。
《BLVが4に上がりました》というシステムと共に、
12のステータスポイントと4のスキルポイントが付与される。
これがアップデートで言っていた《BLV》か……
おそらく今回の献上値における経験値によってレベルが上がっていくのだろう。
ふと身体を見ると槍によって貫かれた腹部は何事も無かったかのように修復されていた。
本来なら《欠損》状態の場合《治療アイテム》を使わなければ3日程度は修復にかかるはずだが
先程然もそうだが既に完治しているのは《防衛戦》の影響か?
「……リクお疲れ様」
どうやらお寝坊さん達が起きたようだ。
「お前らもっと早く起きろよ、何回死にかけたk……は?」
急に身体が光に包まれ浮遊感に襲われる
「《強制転移》か!?」
浮遊感と共に俺の視界は真っ白に染まった。
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