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第2話《ある意味廃人弓兵ですがギャンブルってやっぱり怖いなって思いました。》
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街をぶらぶらと歩きながら人目が少ない狭い路地裏に入る、
少し進み手頃な薄汚れた壁に背を預けしばらく待っているとこちらに近づいてくる気配を感じ取る。
「よおリク、お待たせだな」
白い猫耳フード付きのローブを装備をしているせいで相手の顔が見えないが、
もう聞きなれた声の人物が俺に声をかけてくる。
「いや、待っていない少し野暮用を消化していてな、こっちが遅れないか心配だった」
「ふーん、それよりも噂は聞いてるぜ、廃人さんよ」
表情は見えないがニヤニヤと笑っているだろう彼の声に俺は内心焦った、
こいつは《情報屋》だ何処で俺の何を知ったのか分からない。
「噂?なんの事だ?」
「前回の討伐イベントで総合は大した事ない順位だが、《双腕のギーラス》個人討伐数では1位らしいな」
その言葉を聞いて俺は安心した。
「そうなのか、ランキングなんて滅多に見ないから知らなかった」
ギャウリディアで開催された前回の大型イベントはひたすらリポップ型のボスと戦う形式で4つのボスの中から挑戦するボスを選べた。それぞれ討伐回数ごとに報酬が存在するがどれも必要になりそうなものは無かったので早めに1つのボスを集中的に討伐していた、そいつが《双腕のギーラス》だった。
巨人のモンスターなのだが、身体と同じくらいの棍棒を振り回したり前衛職の《タンク》でもHPを1撃で吹き飛ばすような格闘打撃攻撃を放ったりととにかく見た目から脳筋らしいボスだが、張り付こうとすれば足で地面を揺るがしこちらの衝撃値を増やして身体の体幹、体制を崩そうとしたり。距離を離せば地面を抉り取り《投石》したりとかなり厄介なボスだったが攻撃パターンを見切ってしまえばHPバーを削って行っても超劇的な進化は遂げず立ち回りやすい相手だった。
そのおかげで《双腕のギーラス》の討伐数個人では1位。周回により多少のレア素材を獲得することができた。
リリースから6か月たった現状、公式ではダウンロード数は1000万超えを発表され、複数アカウントが作れない仕様により1000万人はこの世界に接続したことはあるとは考えられるが今はその半分いればいい方だろう。
ゲーム性が合わなくてログインしてない人や、リアル事情でプレイ出来なくなったプレイヤーもいるため現在もプレイを続けている人口は予想よりもだいぶ下がるとは思うが……
人口が下がる原因としてすでに世界から去ったプレイヤーの存在もある。
基本的にはモンスターにやられるかPKされるかになるが。
プレイヤーの中でもモンスターと戦う《戦闘職》以外にも選べる道は《生産職》《その他》とあるわけで。
モンスターとの戦闘で命を落としログイン出来なくなる可能性が一番高い《戦闘職》を選ぶプレイヤーは全体の4割程いれば良い方だろう。
世界から去る理由のトップに入るモンスターとの戦闘で、さらにそこからイベントでも強力なボスクラスのモンスター相手に周回などという、危険度極まりない酔狂な真似をするの人間が多くいるはずはない。
といろいろな理由があり思ったよりあっさりと俺が1位を取ってしまったってわけだ。
まあランキングは実装されているが、ランキング報酬は実装されていないので、
イベントボスのドロップ報酬狙いぐらいでしか周回は今後もしないだろう。
これで報酬やらイベント称号やらがあったらモチベーションも上がるのだが精々スキルの熟練度の上昇とドロップアイテム獲得くらいしかないもんはない。
「上位勢の間では結構噂されてるぜ、実力者12人と計画された立ち回りでやっと楽に攻略できる《双腕のギーラス》をイベントボスとは言えソロで周回してるんだからなあ。
お前の1個下の順位、2位の討伐数70との差は23で93体、
君の下の順位のプレイヤーは2位から13位は順位同列で12人の固定パーティーだったはずだ。
ただでさえ複数人で挑む事前提のイベントだ、連続で戦えば集中力も長くは続かない、俺はボス戦なんてまともに戦った軽々は無いが一回戦うだけでも精神を研ぎ澄まし消費すると聞く。疲労が溜まればミスも多くなり危険性が増すのだろう?
普通に考えたらソロよりも複数人での周回していた方が討伐数は共有になるから高順位を取れるはずだ。
だがその常識をソロのお前がひっくり返したんだからな。
チートだとか、《神器》シリーズの一つを持っている、だとかいろいろと言われてるぜ」
ギャウリディアの難易度は他の没入型VRMMOと比べればかなり高い、複数人で攻略する事が前提となっているような難易度だ。
ソロで《隠密》スキルにより迷宮を探索し、ボス手前のワープポイントを開放してレギオンやギルドメンバーを《転移》させ迷宮を攻略する方法も存在する。ソロが決して悪いというわけでもない。
全てをソロで攻略するには難易度が高い、それだけだ。
大人数も大人数で複数人で行動しているとモンスターとのエンカウント率が増え、終わりのない襲撃が始まることもある、ボス戦でも俺は参加しなかったがギャウリディア配信初期に立ち塞がったボス《腐敗樹 トレトト》はレベル30前後のプレイヤーが30人、6人×6パーティレイドでギリギリの戦いだったと聞く。
人数が多ければ多いほど取り巻きである《汚染されたボックル》が増援として出現すると酒場で攻略メンバーだった男が語っていた。
「ギャディアではチートもできないし、神器シリーズだって現状発見されてるのは最前線で活躍している《紫電》が持ってる一本の《刀》だけって聞いてぞ?そんなもん俺が持ってるわけないだろ?持った瞬間噂されて寝る間も無く襲撃者に襲われるぞ。で、それより例の件の進展はどうだ?」
俺は本題に入るために話を変える。
「ああ、相変わらず進展はないぜ、《トレジャーハンター》や《考古学者》に遺跡の壁画やら古代の文献を確認させたりしてみたけど"黒い竜"の情報は影も形もなかった、竜に関係している場所のNPCも同じだな。
赤とか青なら頻繁に話は聞くが、本当に存在するのか?その黒い竜とやらは?」
「レッドドラゴンやアイスか……あいつらの上位種、そこらの竜よりもっと強力で禍々しい竜が絶対ギャディアのどこかにいるはずだ」
握る手に力がこもり赤いエフェクトが流れる。
「お前のことを疑うわけじゃないけどよ、ほんとに"探し人"って言うのは"この世界に"ログインしてるのか?」
俺はメニューウインドウからフレンドを選択し1番上の、
フレンドのログイン状態を確認する。
「話を聞いた限りじゃ場所表示がバグってるんだろ?」
《リヴィア》《現在地:譛?譫懊※縺ョ遖榊コ》《最終ログイン:0分前》
探し人の名前の横、本来ならどちらもフレンド登録しているプレイヤーに限りそのフレンドが現在いる都市や、場所が書かれているのだが、その表記が文字化けしている。
そしてその横には最終ログイン0分前表記そして緑のマーク。
緑はログイン中、赤はログアウト、灰色はダンジョン内やログインを隠す機能を使っている時に変化する。
つまり表示が緑なら不具合でなければこのゲームにログインしているということになっているはずだ、
最終ログイン時間についても0分前ならログインしている。
「俺もリクが見ているウインドウが見えればいいんだがな、だが人間として何時みても最終ログインが0分前なのは、それこそ廃人クラスだな……稀に居るが飯とか風呂とかどうしてるんだろうな……」
ゲームの仕様上自分のウインドウは他人には見えない、そして自分以外が自分のウインドウを操作することもできない。
「調査、引き続き頼めるか?」
「了解……あまりいい情報は得られないだろうけどやってみるよ、お前さんが望むならオレはいつまでも付き合ってやるよ」
「……感謝する。依頼料は後で振り込んでおく」
「待て」
俺は路地から出ようとすると呼び止められた。
「忘れるところだった。そういえばコレ《収集屋》からお前にと頼まれた」
小さい箱を渡される、
中ではまるで海賊が付けているような黒い眼帯が入っていた。
《鑑定》を発動し眼帯の効果を調べる。
《黒晶の眼帯》 特殊・装飾品
・《隠密》スキル効果上昇
・体力自動回復(20/秒)
・スタミナ消費軽減
(納品まで2日、さすが《収集屋》だな……)
《収集屋》
主に装備やアイテムなどの収集を代行するプレイヤー達の集団をそう呼んでいる。
労力と価値に見合う報酬に多少上乗せすれば、手に入れられるものは実装されていてドロップする限り何でも手に入れられる凄腕の集団。
ギャディアには複数の《収集屋》がいるが今回俺が頼んだのはその中でも凄腕とされる《詩愁の鷹》と呼ばれる存在だ。
素性は謎に包まれており、依頼の受け付けはメールのみ、アイテムの納品も何人ものNPCやプレイヤーを挟んでいるため性別はおろか単独なのか複数人なのかすら不明である。相当念入りに周囲を気にしている人物だと判断できる。
通常の《収集屋》は依頼した装備を見つけたらそのまま納品するため装備の付与されている効果はランダムだが、
この人物は装備のサブ効果まで指定したものを納品する、その代わりそこらの《収集屋》に頼むより高額になるがそれに見合った働きをしてくれる。
通常装備のサブ効果は《武器》や《鎧》などの種類によってバラツキはあるが平均して約50種類ほどだ、
《装備》に付与される効果の数は1~4つと付与される効果が増えるほど出現する確率は低くなる。
そして求めているの《装備》に求めている効果が着くまでドロップを狙う《厳選》と呼ばれる行為は運が良ければ数日、沼れば数ヶ月、運が悪すぎれば数年かかるのがどのゲームでも常識になっている。
だが俺が頼んだ《収集屋》は頼んだ通りの物を最短で1日、最長で3日で納品する。
噂では任意のサブ効果を付与できるものか自身の運を強化できる《ユニークスキル》か持ってると噂されているがどうなのだろうか……?なにしろ《詩愁の鷹》の人物像を知るプレイヤーはほぼいない、俺も《傭兵》仲間から少し聞いたくらいだ。
「それにしても眼帯なんて何に使うんだ??」
隣で箱の中の眼帯を覗き込んでいた《情報屋》が言う。
「ん?まあかっこいいからな」
「ほう、いわゆる厨二病ってやつか……そのくらいの年になると発症しやすいらしいな、《毒》や《麻痺》などのデバフより数倍たちが悪い。
それにしても《収集屋》に頼むなんて相当吹っ掛けられたろ、俺は利用したことないからわからんが、だいぶ金かかるらしいな」
厨二病を発症する歳はギリギリ過去になっているが、勘違いしてくれる分にはありがたい
「たしか2000万ぐらいだな。眼帯自体は宝箱からドロップするからそこまで難易度は高くないが。《収集屋》も最悪命を落とす危険もあるからな妥当だろ。」
「は!? 2000万!?」
フードの下で驚いているのが見えた。
「おまえ……俺に毎月3000万ルーニーをポンって払うのもそうだけど、どっからその資金湧いているんだ?
最前線ダンジョンで1日ひたすらモンスター狩って戦利品売ったところで、100万ちょい稼げるかどうかだろ
やっぱり個人の《傭兵》ともなると高給取りなのか?」
「いろいろと稼ぐ策があるだけだ、用がないならもう俺は行くぜ」
《情報屋》背を向けて歩き出す、次にいつ会えるのかはわからないが奴は神出鬼没だ。
俺が何かしらの情報が欲しくなったタイミングで見計らったかのように表れる、だからフレンド登録していなくてもまたどこかで会えるだろう。
路地裏から表通りに出て《オリナル》の中心へと歩みを進める。
今日はもう一つ寄るところがあるからな。
先程路地に入った方へ戻るのではなく路地を奥へ進んでいると足元に何かが当たる、
薄暗くよく見えないがHPバーが見えるため、
NPCかプレイヤーだろう。
(ああ、エリア的に貧民街か……)
大通りに面している場所は賑わって活気あったが、
数本路地を抜けるとそこは静かだ、
《貧民街》
ここにいる人物たちは外でモンスター倒す勇気もなく、《生産職》を取り働く勇気もない、
弾き出された人物たちだ、
今日を、今を生きるだけで精一杯、
1日1食食べれれば満足、そんな人達が暮らしている。
まあプレイヤーならばギャウリディアから離れればいいだけなので《貧民街》にいる人物はNPCばかりだろう。
衛生環境が悪いからか辺りには獰猛な野犬や鼠が蔓延っており気を抜けば命の危険も有り得る。
そんな人々が肩を寄せ合い細々と暮らしている
HPは全快している人のほうが少ないだろう
空腹で徐々に削れやがて消えてしまう
貧民街は主にNPCしかいないとは思うが稀にプレイヤーを見かけることがある
おそらくだが何をやってもうまくいかずここに行き着いたのだろう
《貧民街》を歩く俺に視線がチラホラと向けられる、初期装備の《旅人のローブ》を纏っている俺は仲間だと思われてるのか、
自分の居場所を脅かす敵だと認識されているのか……
(あまりにもこの世界はリアルだ)
俺はそう思った。
薄暗い路地を数本抜け飲食店が多い大通りに出る、
空を見上げるともう空は暗く星が空に瞬いていた。
様々な料理の匂いが食欲をそそり腹が空いてきた。
(お腹が空いてないときにおいしそうな料理の匂いを嗅ぐと急激に空腹になるデバフでもあるんじゃないのか?)
毎回この場所を通るたびにそう思う。
進めば進むほどお酒の匂いと甘い匂い、それとやけに軽装な女性が多く客引きをしているお店が並び始める。
そんなところに建っているきんきらきんと装飾が輝く目が悪くなりそうな建物、
いや絶対目が悪くなるそんなここが目的地だ。
扉を開くと一気に騒がしい人々の声とともに熱気が伝わってくる空間が広がる。
『おっしゃ今日はついてるぜ!』『ちっ、この台くそ設定なんじゃねえの?』『お客様これ以上の迷惑行為は退場となりますがよろしいですか?』
金と欲望が渦巻く娯楽施設
カジノ《ロイヤリティー・ルメート》
入ると黒い服を着た従業員に囲まれる、俺は武器をアイテムストレージに収納し両手を上げる
ボディーチェックをして武器を携帯してないことを確認され、解放される。
「当店では危険物の持ち込み及び、器b「もう何回も聞いているから知っているよ、それより支配人を呼んできていただけませんか?リクと言えば伝わるはずです」……かしこまりました」
おそらく新人だろうか?
「少し遊んでいますから、支配人にはゆっくりでいいと伝えてください」
一礼して従業員は去っていく
(さてと今回は何で遊ぶかな)
ここにはあまり来ない、普段ギャンブルもやらないからルールもあまり知らないが
その中でも少しだけやったことがある『ブラック・ジャック』のテーブルに座る。
7人のテーブルで俺以外に5人座っている、どうやらタイミングよくゲーム受付待機時間の用で俺はすぐさま最低ベットの1000ルーニを入金する。
そしてディーラーによって配られる手札、
俺のクローバーの10とハートのQで10、
出だしは好調だ。
ちらっと盤上を見ると親、ディーラーの見せ札1枚目はスペードのQで10
プレイヤー側は右から16、20、16、19、そして俺の20
まずスペード2のダイヤ4で6の青年、
身につけている防具からしてようやく中堅クラスになったくらいの冒険者が仕事終わりに、
遊びに来ているのだろうか?
彼の掛け金は56万。
中堅クラスで56万はかなりの大金だ予想だが半端な掛け金からして所持金全額ベットだな、
かなりの勝負師だと伺える、
まあ緊張からか顔が青ざめているのであまり場数は踏んでいないのだろう。
それもそうか彼の手札は合計6、
正直初期手札運がなかったとしか言えない。
ブラックジャックのルールは配られた手札をより21に近づけた方が勝ち、
だが21を超えてしまった場合とディーラーより低くい場合は負けだ。
JQKの絵柄は10として扱い、
Aは10を超えるまでなら11として扱え、
それ以外は1となる。
そしてトランプはジョーカーを抜いた52枚のデッキを3か4つほど合わせたものを使う。
少ないと今まで場に出たカードを見て山札に残っているカードを予想する《カウンティング》と言う不正行為を防ぐためだと思われる。
今回のようにディーラーの見せ札が10伏せ札がわからない以上基本は伏せ札は10と考えた方がいい、
なぜなら54枚の内10と10になるJQKの枚数が16枚だから約30%程になる、
だがあくまでも確率問題なので勝つ可能性はある。
彼勝つには20以上にしないといけないが……
「引きますか?」
ディーラーが彼に聞くと彼は頷く。
6の状態で引かないプレイヤーはディーラー21を越す《バースト》と呼ばれる負けの状態をほぼ確信している者くらいだから当然だ。
新たに彼に配られたカードはハートの10、合計で16になった。
「引かれますか?」
再びのディーラーの問いに対して彼は機械のようにぎこちなく頷く。
山札から青年の目の前に置かれる裏面のカード、
彼は食い入るように前のめりにそのカードを見つめ息を飲む、
これで5より上のカードが出たら彼は負けだ。
ゆっくりとカードがめくれられていく。
そして表になったカードはクラブの3、青年は一瞬息をのんだような表情をしたがまだ地獄は終わらない。
彼の前にはこのままスタンドし19で勝負しに行きディーラーのバーストを狙うか……
1枚引きAか2を引くしか勝利は残っていない、
俺なら安全圏を取りカードを引かないスタンドを選ぶ。
「引かれますか?」
悩んでいるのかしばしの沈黙が流れた後……
「…………はぃ」
周りの騒音にかき消されてしまいそうなか細い声で彼は泣きながら答えた。
俺はカードを引くと言う勝負に出た彼の目の前に出されたカードを自分の番でもないのに、
まるで自分の番かのように緊張していた
目の前に裏面で置かれた5枚目のカード、
ブラックジャックで5枚目まで引かれることはかなり珍しい。
彼の運命を決めるその1枚のカードにテーブルにいる全員の視線が注目していた。
そしてめくられるカード、現れたのは……
『スペードのK』
無慈悲にも絵柄が出てしまった……
そして彼の手札は29のバースト、負けだ
「……」
彼はすぐさま席を立ち、
逃げ出すかように去って行ってしまった。
「あのお兄さん相当、ツイてなかったみたいね、私はスタンドよ」
20のきらびやかなドレスを着た女が言う、掛け金は700万、
見かけからして相当な富豪か?
「全ツッパは遊ぶならいいが、稼ぐとなると愚策だな、
それに勝負どころの見極めもど素人だ、ヒット」
16のカウボーイ風の男は煙草を吸いながらディーラーに引くように言う 掛け金100万
引かれめくられたカードはダイアの5、
合計21ディーラーが10か絵柄とAの2枚で21、
ブラックジャックじゃなければ負けは無いだろう。
「……スタンド」
19の無口なコートの男は静かにそう言った 掛け金 500万
「俺スプリットで」
最後に俺はスプリットを宣言する。
スプリットは場に出た2枚のカードが同じ数字の場合ハンドを2つに分け掛けることが出来る、
つまり俺の場合だとクローバーの10とハートの10が別々になりそれぞれ1000ルーニーずつ、
合計2000ルーニー掛け1枚のずつ引く。
引かれたカードはスペードの9とクローバーの8、
19と18かかえって最初の手札より弱くなってしまったが仕方ない。
「両方スタンドで」
ディーラーの伏せカードが捲られる。
『ハートのA』
ブラックジャックだ、このテーブル全員負け。
仮にあの青年が21にしてたとしても初期の2枚での21、
《ナチュラルブラックジャック》には勝てなかった訳だ。
「あらら」
「ほう、どうやらあの彼には最初から勝ち目なんて存在しなかったわけだツキに見放されていた」
「……」
女と無口は分からないが
テンガロンハットのカウボーイは自分の負けより青年の運の無さ気にしているようだった。
俺はテーブルから立ち上がり新たなゲームを探し歩く。
「あらお兄さん!お飲み物はいかがかしら?」
声をした方を向くとバニー姿の女性がドリンクを片手にウインクを向けてくる。
「アルコールが入ってない飲み物はありますか?」
「そ、れ、な、ら、このヴェーパールーネがおすすめよ!ノンアルコールだから酔う心配もないわ」
見た目がサイダーに近い水色の飲み物のグラスを受け取り口元に持って行こうとしたその時。
「きゃっ!やめてくださいっっつ!」
少女の甲高い悲鳴がホールに響き渡る。
悲鳴をした方を見ると客が従業員に絡んでいるようだった。
「いィじゃないか~お姉ちゃん獣人なんだろおぉ?なんあらこんあとこより俺のところで働かないか?」
「やっ、やめてください、お願いします!」
俺は不穏な雰囲気を感じ飲み物を一気に飲み干してお姉さんにグラスを返し二人のほうへ近づく。
「この獣人風情がっ!」
男が振り下ろそうとした手を掴む。
「なんらあおまえ、邪魔するな!」
「ちょっと酔いすぎじゃないですか?おじさん」
掴んだ手を離すと男は数歩下がったのを見て俺は少女を守るように前に立つと彼女は力が抜けたのか座り込む。
「おえははそこの獣人にここより稼がしてやるから俺のところに来ないかって誘っただけだぞ!」
聞いてないしどうでもいい……
「彼女嫌がっていますよね、それに新しい働き口の紹介なのにセクハラ紛いのことをする意味があるんですか?」
「なまいきいってんじゃねえぞ!」
「反論できないならさっさとおかえりください」
周囲を見渡すと黒服が耳に手を当てなにか話している。
(あと少し足止めすればいいか)
「だったら勝負しませんか?」
「勝負だと?」
男に提案する。
「貴方が勝ったら俺は素直に引きますし、謝罪でも何でもしますよ」
「ほお、言ったな?いいだろう」
男はニヤニヤと笑いながら答える。
俺は内心ガッツポーズを決める、ここで断られたら支配人が来るまで足止めできない。
正直俺の所持トークスキルでは無理だ、そもそもそんなスキルギャウリディアには存在しないのだが、
相手が酔っていたのが幸いした。
「それならすぐそこにブラックジャックのテーブルがありますから、簡単にブラックジャックでもやりますか、
俺と貴方どっちが合計が21に近いか勝負するんです」
「そんなのでいいのか?」
「はい、どちらに"幸運の女神"がほほ笑むのか分かりやすいでしょう?」
男はなるほどと頷く、単純で助かった。
「それじゃあお願いできますか、お嬢さん」
俺は彼女に微笑みかけながら座り込む彼女に手を差し出す、彼女は不安そうに少しおびえながらもこくりと頷き、
俺の手を取り立ち上がる。
「もう大丈夫だから安心して」
立ち上がらせた時に彼女だけに聞こえるように小声でそう言った。
テーブルに着席した俺達そして始まるベットのための待機時間。
「あっそうです普通にやっても面白くないので一つルールを追加しませんか?」
「ルールだとぉ?」
「カードが1枚引かれた段階で今のカードと次に引かれたカード、
2枚の合計が2から21の中でどうなるか予想するんです、
当たった場合は僕と貴方2人の掛け金の合計の3倍を相手から貰える……どうです?」
男は考え込みやがて俺の服装ををちらっと見る。
(俺の服装を見て安全圏を探しているな、
自分で見ても今の見た目は金持ちには見えないからな)
「よし乗った借金してでも払ってもらうからな」
ニヤニヤしながら勝ちを確信しているな、すごい慢心だ俺がボスモンスターだったら瞬殺されてるな
「その言葉忘れないで下さいよ?」
2500万所持金全額ベット。
ベットが確定される頭上のモニターに掛け金が表示される。
「!?」
獣人の少女は一瞬だけ驚いた顔をし、
男は口を開けたまま動かず観客たちはざわめく。
(まあこんなボロ布纏った奴が2500万なんて大金ベットしたら驚くわな……
向こう200万、まあそんなとこか)
「いったいどちらが、勝利の女神に愛されているんでしょうね?」
俺は今できる最高の笑顔で男ににっこりと笑う。
そして配られるカード男は10、俺に配られたのはKで10、
ディーラーは8。
ここまでは順調、次のステップだ。
「さて最終的な合計はどうなるんですかね?お先に宣言しますか?」
男は考え込む
「……なら俺から宣言しますね、BJ」
笑みを浮かべ宣言してやった、
周囲がざわめく、ブラックジャック、ほぼ勝利を確信しての宣言だからだ。
「お前正気か!?」
男が冷や汗をかき始める。
「俺はいたって正気で本気です、早く宣言をどうぞ?」
少女は心配そうに俺を見つめる
それに気が付き安心させようとほほ笑む。
「……20だ」
(まあ安全圏狙うよね)
そして男に配られたカードをめくるとJ、合計20。
男はニヤニヤと勝利を確信した気持ち悪い笑顔を浮かべこちらを見てくる、
そんな顔でこっちを見ないでくれ……
そして俺の元へやってくるカード、カードを持ってくる少女の手は震えていた
このカードでステップ2の勝負が決まる、不安にならないはずがない。
『俺は君を信じる、だから君も僕を信じてくれ』
獣人は耳がよく聞こえるという、そんな彼女だけに聞こえるように俺は呟いた。
少女は目を閉じ勢いよくひっくり返す。
『スペードのA』
ナチュナルブラックジャック、完全勝利だ。
掛け金は二倍になり、ナチュラルBJのため更に1.5倍、結果2.5倍の6250万になって帰ってくる。
「結果的には俺が勝ちましたが、予想では2人とも的中なので引き分けですね」
「……ああそうだな、なんか悪かったな、嬢ちゃんもすまなかった」
男は酒が抜けたのか意気消沈したかのようにトボトボと帰って行った。
「兄ちゃんすごいぜ!」「あのべラズに言ってやるなんてな」
周囲から拍手の嵐が送られ、俺はフードを深く被り直した。
「ふむ、何事ですかな?」
黒服の後ろから初老の男性が進みでる。
「支配人!実は……」
黒服は支配人と呼ばれた人物に耳打ちする。
「なるほどお客様、詳細をお聞きしたいので少し奥の部屋によろしいでしょうか?」
「ああ、かまわない」
初老の男性は従業員の少女に向き直る
「怖い思いをさせてしまったね少し部屋で休みなさい、君にも後で話を聞くことになるがいいかね?」
「はい、わかりました」
少女と目が合ったので、にこりと微笑みかけると彼女もぎこちない笑みだが笑ってくれた、
店の奥に行く彼女の背中を見ながら迷惑料と手伝ってくれた彼女に500万ほどを送金する。
「!!?」
送られてきたウィンドウを見たのか彼女はえらく驚いきながら振り向いたので、手を振っておく。
「さて行きましょうか」
俺は初老の男性に着いていく、
何故か俺の左右には黒服の男達が居るが最悪な事態にはならないだろう。
廊下を進んでいくと大きな扉の前たどり着く、
「この客人と話があるからお前達は外で待っていなさい」
初老の男性がそう言うと黒服2人はドアの前に警備のように立つ。
「さあこっちだ」
扉の中に入るとオフィスのような部屋が存在した
「んで?ずいぶんと遅い登場だったっと思うんですが”支配人”?」
「ここがここまで大きくなるとは思わなかったからねすり寄ってくる寄生虫の対処に忙しいんだよ分かってくれないかな”オーナー”?」
目の前の初老の男性、ラートル・シュベッターヴァンここの支配人だ。
「だからオーナーって呼ぶのはやめてくださいよ、
俺は先行投資しただけなんですから」
「オーナーはオーナーですからな、ほっほっほ」
出会いは4か月前《ヘルメン族の都》という砂漠地帯だった、
昼間は暑く夜は寒すぎる場所で俺は休憩しようとオアシスにたどり着いたのだが、
その時たまたまそこにまだ商人だったラートルさんがいた、
どうやら彼は護衛を頼んだ冒険者が度重なるモンスターの襲撃によって逃げてしまったらしい、
次の街まで護衛を頼まれたので何も予定がなかった俺は快く了承した。
ひとまず街にラートルさんを送り護衛が終わった後も、
何度か護衛の依頼があり次第に仲良くなって行った。
そして暫く経ったある時お金を貸してほしいとラートルさんからお願いされた、
土下座するまで頼み込まれ 、
流石に知り合いの土下座はあまり見たくなかったので。
かなり痛い出費だったが、ラートルさんを信用して7000万ほど貸した
そして一か月後できたのがこれだ……
気がついたら勝手に共同経営者になってるし、恩があるからって経費や人員費など色々抜いた売り上げの4割を俺がもらえることになっていた、
これでも2割ほど断ったのだが……
最近は相当稼いでいるようで先月入ってきた額は……うん金銭感覚狂いそう。
色々出費はあるもので度々使ってはいるが、
俺の口座には大金が眠っている。
そんな事は置いておき
この表示がないクエストは《シークレットクエスト》と呼ばれているものらしい。
出現方法は不明で1回のみ、
そしてそのクエストを受注したプレイヤーにより結果は変わる。
俺が受けた《建築》に分類クエストから《開発》、《ユニークアイテム》など種類は多様だ。
ある程度メインクエストを進め世界を探索し尽くしたプレイヤーは《シークレットクエスト》探しに注力する、
クリアすれば自分が有利になるものばかりなので当然だ。
「それで?オーナーがここに来るなんて珍しい、何か用事が?」
本題を忘れるところだった
「そうだ忘れる所だった……ついさっき盗人を追ってる時に襲われてね、
狙いは追ってた犯人みたいだけど、
かなりの手慣れだったからもしかしたら闇ギルドが暗躍してるのかなって」
「ふむ、闇ギルドですか……」
《闇ギルド》
やること成すこと全部真っ黒、
PK、強盗、人攫いを当たり前のようにする連中だ、
この世界に来てまで犯罪をする理由は分からないが、別世界だからこそやる人間もいるのだろうか?
よく分からん。
「ここで大金稼いだ奴がもしかしたら繋がってる可能性があると思ったんだけど……
あくまでも可能性のひとつだけど、
ここって警備もしっかりしてるし防音がしっかりしてるVIPルームもあるし、
何かと取引にも使われてるみたいだからね」
ラートルは考え込む……
「私も《闇ギルド》の恐ろしさは存じております、
それ故に街の警備隊と連携して該当するお客様には《退場》をお願いすることはありますが、
思い当たる節はありませぬな」
(可能は元々低かったからしょうがないか……)
「分かりました、ありがとうございます。
それにしても《獣人》の従業員なんていつ雇ったんです?」
俺はさっきの彼女について興味本位で尋ねる。
《獣人》はここから南西に進んだ所に生息しており、
《狩猟》をし生活している仲間意識が強い種族だ。
見た目は人間に耳やしっぽを生やした者から全身が毛に覆われた者まで多種多様な種類が存在する。
《人間》と《獣人》は敵対してはいないが、
仲が良い程でもなく、
こちらから彼らの領域に足を踏み入れることはあってもその逆はほぼ無い。
そんな《獣人》しかも女性がこちら側にいる、
それは複雑な事情があっての事だろう。
「ああ彼女ですか……
彼女の家は多額の負債を負ってしまったそうで、
私が肩代わりする代わりにここで働いて貰うことにしたんです」
「なるほど、相変わらずお人よしですねラートルさんは」
「いえいえ、オーナーに比べたら私なんて全然ですよ」
流石本人も居ないのにこれ以上踏み込むのはダメだろう、
聞きたいことも聞けたので帰ろうと立ち上がる。
「さて俺はそろそろ帰ります」
「もう行ってしまうのですか、今度はオーナーがのこれまでの冒険の話でも聞かせてくれないですか?」
「ええ、機会があれば飛びっきりのを、楽しみにしててください」
一礼し部屋から出ると黒服に連れられて従業員の裏口から外に出ると外はすっかり冷え込んでいる。
(布の服とローブだけじゃ寒くなるか防寒装備揃えなきゃな)
現実ではまだ春だがこっちでは今は秋だ、
このまま過ごせば体温が下がりはじめ《スタミナ回復速度低下》のデバフがかかり、
更に寒くなれば《凍傷》になるだろう。
そんなことを考えていると背後に誰かの存在を感じる、
何個か分かれ道を進むが気配は消えない。
(ふむ、誰だ?ここまで気配を消せていないのも逆に怪しい)
俺は次の分かれ道を曲がり追跡者の視界から消えたであろうタイミングで《消音》を発動し静かに建物の壁を上り屋根に降り立つ。
追跡者が俺の真下に来る。
「あれ?どこ行っちゃったのかな?」
女性の声?いやこの声は聞き覚えがある……
音を立てないように静かに彼女の背後に降り立ち声をかけ。
「俺をお探しかなラヴィさん」
「きゃっ!」
「ごめん脅かせるつもりはなかったんだけど……」
いつもの癖で音を立てないように行動したせいで彼女を驚かせてしまったらしい。
「いえ、それよりもなんで私の名前を?」
「支配人から聞いたんだよ、
それで?ラヴィさんは僕に何か用でしょうか?」
「えっと……その、先ほどはありがとうございました!」
彼女は深々と頭を下げる。
(なるほど、お礼を言うためにわざわざ……)
「私怖くて……でも貴方が助けてくれて、私嬉しかったです。
ですのであの、その……お礼が言いたくって」
「お礼なんていいよ、結果として更に君を巻き込んじゃったし、
あの場で俺一人で何とか出来たら良かったんだけどね」
「でも私は貴方が守ってくれるって言ってくれて安心したんです!
ですので本当に感謝してます!!」
聞こえそうな声量で行ったけどやっぱり聞こえてたんだ、少し恥ずかしいな。
あの時は場の雰囲気からか普段言わないような言葉を口走ってしまった、
反省だな。
「それじゃ素直に受け取っておく……
ああいうところはたまにアレみたいな客が来るからね大変でしょ」
「はい……それに私、お仕事も全然で……迷惑かけてばかりで」
「まだ新人なんでしょ?だったらこれからだよ、
1度失敗しても次失敗しないように頑張ればいいんだ、
支配人もよく頑張ってくれてるって言ってたよ」
「貴方は優しいんですね」
「いや僕は優しくない……
そうだ……少し時間あるかな?」
「え?はい大丈夫です。」
それから僕らは無人の家の屋根の上で星空を見ながら語り合った。
まず初めに自己紹介だ、
俺は彼女に自分の名前はリクで《傭兵》だと、大切な探し物を見つけるために旅をしながら時々依頼を受け人々に協力する《傭兵》だと伝えた。
彼女は俺が話したまだ知らぬ世界に目を輝かせながら聞いてくれていた。
そしてある程度簡潔に語った後俺たちは沈黙に包まれる。
「ねえリクさん」
「どうしたの?」
「私の話を聞いてくれませんか?」
彼女は俯きがちにそう言った、その表情からあまり話したくはない内容なのが伺える。
「いいよ、でも無理はしなくていいからね」
コクリと彼女は頷く。
「実は……」
彼女が語った内容は彼女の身の上話だ。
「……なるほどね」
纏めると、ここから南西にある《アマヤーナ》と言う小さな集落で母と共に暮らしていたが、
ある時彼女の母が病にかかった、
それは普通の薬では治らず徐々に体を蝕んで行った、
そんな時《アマヤーナ》に訪れたラートルさんが持っていた、
《妖精の香丸薬》と言う薬によって一命を取り留め、今は回復に向かっているらしい。
その時ラートルさんに薬代金を肩代わりしてもらう代わりの条件として今は彼の元で働いてるらしい。
「なるほど……教えてくれてありがとう」
「いえ……リクさんも聞いてくれてありがとうございます」
彼女が無理にだが微笑んだので俺も笑い返し手元を操作する。
「え?これって」
俺からは見えないが彼女の目の前にはひとつのメッセージウインドウが表示されているだろう
【Rikuさんからフレンド申請が届いています】
……ってね。
「何かあったらメール機能なんかで相談してくれれば力になれると思う、
嫌なら断ってくれていいよ」
急にラヴィさんは飛びついてくる、
(なんだっ!?)
瞬時に飛び退こうとしたが殺気が一切なかったため判断が遅れる、
彼女に体を捕まれ彼女の腕が俺の背中に回る。
「ラヴィさ……「嫌なわけありませんっ!ありがとうございますっ!!」……え?」
手にふわふわとした物が何度も当たるので彼女の背後を見見ると尻尾が左右に大きく揺れていた。
(本当に獣人なんだな)
「あっ改めてよろしくお願いします!」
バッと俺から離れ右手を前に出してきたので俺も右手を出し握手する。
「……そうだ忘れるところだった!リクさんあの先程の物なんですが……」
「ん、なに?」
「あのお金です!!先程は驚きすぎてしまって受け取り拒否出来ませんでしたけど、
500万なんて大金受け取れません!!」
と握っている右手をブンブンと上下に揺らしながら声を張る。
すると目の前にウインドウが表示され500万を受け取るかどうか表示される。
(何となく返されるのは分かっていたけど、
今回は彼女のおかげで勝てたわけだし、迷惑料も兼ねてるんだけど……
どしよ……早くしないとおやっさん帰っちゃうし)
俺はある案を思いつき拒否を押しながら
ラヴィさんの右手を両手で包み込むようにしながら一歩前に近づく。
「これは俺が頭が回らないばかりに想定以上の迷惑をかけたって事のけじめなんだ受け取ってくれないかな?
それでも納得できないなら一つ、
お願いをしてもいいかな?」
「はひっ!お願いっ!ってなんですか?」
「どうか俺だけの勝利の女神で居てくれないですか?」
「えっ!!??それってどういう……」
「どうか俺だけの勝利の女神でいてください」
困惑しているラヴィさんの目を見てもう一度言った
「えっと……そのっ!わかり……ました////」
了承してもらい、俺は内心ガッツポーズした。
(よしっ!これでラヴィさんが勝ち続ける限り俺の元に入るお金が増える、
これも幼なじみから恋愛小説をこれでもかと言うほど大量に読まされた成果だな、
我ながら完璧だ!
ラヴィさんの反応が変だが了承してくれただけよしだ!)
「良かったです、それじゃあラヴィさん降りましょうか?」
「……はい」
俺はラヴィさんの手を取り屋根上から地面に着地する。
路地から大通りに出る間俺らは一言も喋らなかった、
通りに近づくに連れ騒がしい声が聞こえてくる、
時間的に酔っぱらいが多いのだろう。
「えと、その……私家こっちなので……」
ラヴィさんは俺が向かいたい方向と反対方向を指さす。
「夜道は危険なので家まで送りましょうか?」
彼女の家が何処にあるかは分からないが、
もう夜だ、女性の1人歩きは危険だろう。
「いえっ!大丈夫です!ちゃんと家にたどり着けますので、送って頂かなくて大丈夫です!」
「わかりました、ですが気を付けてくださいね」
彼女が力強くそう言ったので俺は素直に引く。
「はい、リクさんも気をつけてください」
「それでは、また」
俺はラヴィさんに背中を向け歩き出す。
「ううっ……胸のドキドキ聞こえなかったかな?
でもリクさんだけの勝利の女神ってそういう事だよね……?」
少女のつぶやきは少年には聞こえなかった。
少し進み手頃な薄汚れた壁に背を預けしばらく待っているとこちらに近づいてくる気配を感じ取る。
「よおリク、お待たせだな」
白い猫耳フード付きのローブを装備をしているせいで相手の顔が見えないが、
もう聞きなれた声の人物が俺に声をかけてくる。
「いや、待っていない少し野暮用を消化していてな、こっちが遅れないか心配だった」
「ふーん、それよりも噂は聞いてるぜ、廃人さんよ」
表情は見えないがニヤニヤと笑っているだろう彼の声に俺は内心焦った、
こいつは《情報屋》だ何処で俺の何を知ったのか分からない。
「噂?なんの事だ?」
「前回の討伐イベントで総合は大した事ない順位だが、《双腕のギーラス》個人討伐数では1位らしいな」
その言葉を聞いて俺は安心した。
「そうなのか、ランキングなんて滅多に見ないから知らなかった」
ギャウリディアで開催された前回の大型イベントはひたすらリポップ型のボスと戦う形式で4つのボスの中から挑戦するボスを選べた。それぞれ討伐回数ごとに報酬が存在するがどれも必要になりそうなものは無かったので早めに1つのボスを集中的に討伐していた、そいつが《双腕のギーラス》だった。
巨人のモンスターなのだが、身体と同じくらいの棍棒を振り回したり前衛職の《タンク》でもHPを1撃で吹き飛ばすような格闘打撃攻撃を放ったりととにかく見た目から脳筋らしいボスだが、張り付こうとすれば足で地面を揺るがしこちらの衝撃値を増やして身体の体幹、体制を崩そうとしたり。距離を離せば地面を抉り取り《投石》したりとかなり厄介なボスだったが攻撃パターンを見切ってしまえばHPバーを削って行っても超劇的な進化は遂げず立ち回りやすい相手だった。
そのおかげで《双腕のギーラス》の討伐数個人では1位。周回により多少のレア素材を獲得することができた。
リリースから6か月たった現状、公式ではダウンロード数は1000万超えを発表され、複数アカウントが作れない仕様により1000万人はこの世界に接続したことはあるとは考えられるが今はその半分いればいい方だろう。
ゲーム性が合わなくてログインしてない人や、リアル事情でプレイ出来なくなったプレイヤーもいるため現在もプレイを続けている人口は予想よりもだいぶ下がるとは思うが……
人口が下がる原因としてすでに世界から去ったプレイヤーの存在もある。
基本的にはモンスターにやられるかPKされるかになるが。
プレイヤーの中でもモンスターと戦う《戦闘職》以外にも選べる道は《生産職》《その他》とあるわけで。
モンスターとの戦闘で命を落としログイン出来なくなる可能性が一番高い《戦闘職》を選ぶプレイヤーは全体の4割程いれば良い方だろう。
世界から去る理由のトップに入るモンスターとの戦闘で、さらにそこからイベントでも強力なボスクラスのモンスター相手に周回などという、危険度極まりない酔狂な真似をするの人間が多くいるはずはない。
といろいろな理由があり思ったよりあっさりと俺が1位を取ってしまったってわけだ。
まあランキングは実装されているが、ランキング報酬は実装されていないので、
イベントボスのドロップ報酬狙いぐらいでしか周回は今後もしないだろう。
これで報酬やらイベント称号やらがあったらモチベーションも上がるのだが精々スキルの熟練度の上昇とドロップアイテム獲得くらいしかないもんはない。
「上位勢の間では結構噂されてるぜ、実力者12人と計画された立ち回りでやっと楽に攻略できる《双腕のギーラス》をイベントボスとは言えソロで周回してるんだからなあ。
お前の1個下の順位、2位の討伐数70との差は23で93体、
君の下の順位のプレイヤーは2位から13位は順位同列で12人の固定パーティーだったはずだ。
ただでさえ複数人で挑む事前提のイベントだ、連続で戦えば集中力も長くは続かない、俺はボス戦なんてまともに戦った軽々は無いが一回戦うだけでも精神を研ぎ澄まし消費すると聞く。疲労が溜まればミスも多くなり危険性が増すのだろう?
普通に考えたらソロよりも複数人での周回していた方が討伐数は共有になるから高順位を取れるはずだ。
だがその常識をソロのお前がひっくり返したんだからな。
チートだとか、《神器》シリーズの一つを持っている、だとかいろいろと言われてるぜ」
ギャウリディアの難易度は他の没入型VRMMOと比べればかなり高い、複数人で攻略する事が前提となっているような難易度だ。
ソロで《隠密》スキルにより迷宮を探索し、ボス手前のワープポイントを開放してレギオンやギルドメンバーを《転移》させ迷宮を攻略する方法も存在する。ソロが決して悪いというわけでもない。
全てをソロで攻略するには難易度が高い、それだけだ。
大人数も大人数で複数人で行動しているとモンスターとのエンカウント率が増え、終わりのない襲撃が始まることもある、ボス戦でも俺は参加しなかったがギャウリディア配信初期に立ち塞がったボス《腐敗樹 トレトト》はレベル30前後のプレイヤーが30人、6人×6パーティレイドでギリギリの戦いだったと聞く。
人数が多ければ多いほど取り巻きである《汚染されたボックル》が増援として出現すると酒場で攻略メンバーだった男が語っていた。
「ギャディアではチートもできないし、神器シリーズだって現状発見されてるのは最前線で活躍している《紫電》が持ってる一本の《刀》だけって聞いてぞ?そんなもん俺が持ってるわけないだろ?持った瞬間噂されて寝る間も無く襲撃者に襲われるぞ。で、それより例の件の進展はどうだ?」
俺は本題に入るために話を変える。
「ああ、相変わらず進展はないぜ、《トレジャーハンター》や《考古学者》に遺跡の壁画やら古代の文献を確認させたりしてみたけど"黒い竜"の情報は影も形もなかった、竜に関係している場所のNPCも同じだな。
赤とか青なら頻繁に話は聞くが、本当に存在するのか?その黒い竜とやらは?」
「レッドドラゴンやアイスか……あいつらの上位種、そこらの竜よりもっと強力で禍々しい竜が絶対ギャディアのどこかにいるはずだ」
握る手に力がこもり赤いエフェクトが流れる。
「お前のことを疑うわけじゃないけどよ、ほんとに"探し人"って言うのは"この世界に"ログインしてるのか?」
俺はメニューウインドウからフレンドを選択し1番上の、
フレンドのログイン状態を確認する。
「話を聞いた限りじゃ場所表示がバグってるんだろ?」
《リヴィア》《現在地:譛?譫懊※縺ョ遖榊コ》《最終ログイン:0分前》
探し人の名前の横、本来ならどちらもフレンド登録しているプレイヤーに限りそのフレンドが現在いる都市や、場所が書かれているのだが、その表記が文字化けしている。
そしてその横には最終ログイン0分前表記そして緑のマーク。
緑はログイン中、赤はログアウト、灰色はダンジョン内やログインを隠す機能を使っている時に変化する。
つまり表示が緑なら不具合でなければこのゲームにログインしているということになっているはずだ、
最終ログイン時間についても0分前ならログインしている。
「俺もリクが見ているウインドウが見えればいいんだがな、だが人間として何時みても最終ログインが0分前なのは、それこそ廃人クラスだな……稀に居るが飯とか風呂とかどうしてるんだろうな……」
ゲームの仕様上自分のウインドウは他人には見えない、そして自分以外が自分のウインドウを操作することもできない。
「調査、引き続き頼めるか?」
「了解……あまりいい情報は得られないだろうけどやってみるよ、お前さんが望むならオレはいつまでも付き合ってやるよ」
「……感謝する。依頼料は後で振り込んでおく」
「待て」
俺は路地から出ようとすると呼び止められた。
「忘れるところだった。そういえばコレ《収集屋》からお前にと頼まれた」
小さい箱を渡される、
中ではまるで海賊が付けているような黒い眼帯が入っていた。
《鑑定》を発動し眼帯の効果を調べる。
《黒晶の眼帯》 特殊・装飾品
・《隠密》スキル効果上昇
・体力自動回復(20/秒)
・スタミナ消費軽減
(納品まで2日、さすが《収集屋》だな……)
《収集屋》
主に装備やアイテムなどの収集を代行するプレイヤー達の集団をそう呼んでいる。
労力と価値に見合う報酬に多少上乗せすれば、手に入れられるものは実装されていてドロップする限り何でも手に入れられる凄腕の集団。
ギャディアには複数の《収集屋》がいるが今回俺が頼んだのはその中でも凄腕とされる《詩愁の鷹》と呼ばれる存在だ。
素性は謎に包まれており、依頼の受け付けはメールのみ、アイテムの納品も何人ものNPCやプレイヤーを挟んでいるため性別はおろか単独なのか複数人なのかすら不明である。相当念入りに周囲を気にしている人物だと判断できる。
通常の《収集屋》は依頼した装備を見つけたらそのまま納品するため装備の付与されている効果はランダムだが、
この人物は装備のサブ効果まで指定したものを納品する、その代わりそこらの《収集屋》に頼むより高額になるがそれに見合った働きをしてくれる。
通常装備のサブ効果は《武器》や《鎧》などの種類によってバラツキはあるが平均して約50種類ほどだ、
《装備》に付与される効果の数は1~4つと付与される効果が増えるほど出現する確率は低くなる。
そして求めているの《装備》に求めている効果が着くまでドロップを狙う《厳選》と呼ばれる行為は運が良ければ数日、沼れば数ヶ月、運が悪すぎれば数年かかるのがどのゲームでも常識になっている。
だが俺が頼んだ《収集屋》は頼んだ通りの物を最短で1日、最長で3日で納品する。
噂では任意のサブ効果を付与できるものか自身の運を強化できる《ユニークスキル》か持ってると噂されているがどうなのだろうか……?なにしろ《詩愁の鷹》の人物像を知るプレイヤーはほぼいない、俺も《傭兵》仲間から少し聞いたくらいだ。
「それにしても眼帯なんて何に使うんだ??」
隣で箱の中の眼帯を覗き込んでいた《情報屋》が言う。
「ん?まあかっこいいからな」
「ほう、いわゆる厨二病ってやつか……そのくらいの年になると発症しやすいらしいな、《毒》や《麻痺》などのデバフより数倍たちが悪い。
それにしても《収集屋》に頼むなんて相当吹っ掛けられたろ、俺は利用したことないからわからんが、だいぶ金かかるらしいな」
厨二病を発症する歳はギリギリ過去になっているが、勘違いしてくれる分にはありがたい
「たしか2000万ぐらいだな。眼帯自体は宝箱からドロップするからそこまで難易度は高くないが。《収集屋》も最悪命を落とす危険もあるからな妥当だろ。」
「は!? 2000万!?」
フードの下で驚いているのが見えた。
「おまえ……俺に毎月3000万ルーニーをポンって払うのもそうだけど、どっからその資金湧いているんだ?
最前線ダンジョンで1日ひたすらモンスター狩って戦利品売ったところで、100万ちょい稼げるかどうかだろ
やっぱり個人の《傭兵》ともなると高給取りなのか?」
「いろいろと稼ぐ策があるだけだ、用がないならもう俺は行くぜ」
《情報屋》背を向けて歩き出す、次にいつ会えるのかはわからないが奴は神出鬼没だ。
俺が何かしらの情報が欲しくなったタイミングで見計らったかのように表れる、だからフレンド登録していなくてもまたどこかで会えるだろう。
路地裏から表通りに出て《オリナル》の中心へと歩みを進める。
今日はもう一つ寄るところがあるからな。
先程路地に入った方へ戻るのではなく路地を奥へ進んでいると足元に何かが当たる、
薄暗くよく見えないがHPバーが見えるため、
NPCかプレイヤーだろう。
(ああ、エリア的に貧民街か……)
大通りに面している場所は賑わって活気あったが、
数本路地を抜けるとそこは静かだ、
《貧民街》
ここにいる人物たちは外でモンスター倒す勇気もなく、《生産職》を取り働く勇気もない、
弾き出された人物たちだ、
今日を、今を生きるだけで精一杯、
1日1食食べれれば満足、そんな人達が暮らしている。
まあプレイヤーならばギャウリディアから離れればいいだけなので《貧民街》にいる人物はNPCばかりだろう。
衛生環境が悪いからか辺りには獰猛な野犬や鼠が蔓延っており気を抜けば命の危険も有り得る。
そんな人々が肩を寄せ合い細々と暮らしている
HPは全快している人のほうが少ないだろう
空腹で徐々に削れやがて消えてしまう
貧民街は主にNPCしかいないとは思うが稀にプレイヤーを見かけることがある
おそらくだが何をやってもうまくいかずここに行き着いたのだろう
《貧民街》を歩く俺に視線がチラホラと向けられる、初期装備の《旅人のローブ》を纏っている俺は仲間だと思われてるのか、
自分の居場所を脅かす敵だと認識されているのか……
(あまりにもこの世界はリアルだ)
俺はそう思った。
薄暗い路地を数本抜け飲食店が多い大通りに出る、
空を見上げるともう空は暗く星が空に瞬いていた。
様々な料理の匂いが食欲をそそり腹が空いてきた。
(お腹が空いてないときにおいしそうな料理の匂いを嗅ぐと急激に空腹になるデバフでもあるんじゃないのか?)
毎回この場所を通るたびにそう思う。
進めば進むほどお酒の匂いと甘い匂い、それとやけに軽装な女性が多く客引きをしているお店が並び始める。
そんなところに建っているきんきらきんと装飾が輝く目が悪くなりそうな建物、
いや絶対目が悪くなるそんなここが目的地だ。
扉を開くと一気に騒がしい人々の声とともに熱気が伝わってくる空間が広がる。
『おっしゃ今日はついてるぜ!』『ちっ、この台くそ設定なんじゃねえの?』『お客様これ以上の迷惑行為は退場となりますがよろしいですか?』
金と欲望が渦巻く娯楽施設
カジノ《ロイヤリティー・ルメート》
入ると黒い服を着た従業員に囲まれる、俺は武器をアイテムストレージに収納し両手を上げる
ボディーチェックをして武器を携帯してないことを確認され、解放される。
「当店では危険物の持ち込み及び、器b「もう何回も聞いているから知っているよ、それより支配人を呼んできていただけませんか?リクと言えば伝わるはずです」……かしこまりました」
おそらく新人だろうか?
「少し遊んでいますから、支配人にはゆっくりでいいと伝えてください」
一礼して従業員は去っていく
(さてと今回は何で遊ぶかな)
ここにはあまり来ない、普段ギャンブルもやらないからルールもあまり知らないが
その中でも少しだけやったことがある『ブラック・ジャック』のテーブルに座る。
7人のテーブルで俺以外に5人座っている、どうやらタイミングよくゲーム受付待機時間の用で俺はすぐさま最低ベットの1000ルーニを入金する。
そしてディーラーによって配られる手札、
俺のクローバーの10とハートのQで10、
出だしは好調だ。
ちらっと盤上を見ると親、ディーラーの見せ札1枚目はスペードのQで10
プレイヤー側は右から16、20、16、19、そして俺の20
まずスペード2のダイヤ4で6の青年、
身につけている防具からしてようやく中堅クラスになったくらいの冒険者が仕事終わりに、
遊びに来ているのだろうか?
彼の掛け金は56万。
中堅クラスで56万はかなりの大金だ予想だが半端な掛け金からして所持金全額ベットだな、
かなりの勝負師だと伺える、
まあ緊張からか顔が青ざめているのであまり場数は踏んでいないのだろう。
それもそうか彼の手札は合計6、
正直初期手札運がなかったとしか言えない。
ブラックジャックのルールは配られた手札をより21に近づけた方が勝ち、
だが21を超えてしまった場合とディーラーより低くい場合は負けだ。
JQKの絵柄は10として扱い、
Aは10を超えるまでなら11として扱え、
それ以外は1となる。
そしてトランプはジョーカーを抜いた52枚のデッキを3か4つほど合わせたものを使う。
少ないと今まで場に出たカードを見て山札に残っているカードを予想する《カウンティング》と言う不正行為を防ぐためだと思われる。
今回のようにディーラーの見せ札が10伏せ札がわからない以上基本は伏せ札は10と考えた方がいい、
なぜなら54枚の内10と10になるJQKの枚数が16枚だから約30%程になる、
だがあくまでも確率問題なので勝つ可能性はある。
彼勝つには20以上にしないといけないが……
「引きますか?」
ディーラーが彼に聞くと彼は頷く。
6の状態で引かないプレイヤーはディーラー21を越す《バースト》と呼ばれる負けの状態をほぼ確信している者くらいだから当然だ。
新たに彼に配られたカードはハートの10、合計で16になった。
「引かれますか?」
再びのディーラーの問いに対して彼は機械のようにぎこちなく頷く。
山札から青年の目の前に置かれる裏面のカード、
彼は食い入るように前のめりにそのカードを見つめ息を飲む、
これで5より上のカードが出たら彼は負けだ。
ゆっくりとカードがめくれられていく。
そして表になったカードはクラブの3、青年は一瞬息をのんだような表情をしたがまだ地獄は終わらない。
彼の前にはこのままスタンドし19で勝負しに行きディーラーのバーストを狙うか……
1枚引きAか2を引くしか勝利は残っていない、
俺なら安全圏を取りカードを引かないスタンドを選ぶ。
「引かれますか?」
悩んでいるのかしばしの沈黙が流れた後……
「…………はぃ」
周りの騒音にかき消されてしまいそうなか細い声で彼は泣きながら答えた。
俺はカードを引くと言う勝負に出た彼の目の前に出されたカードを自分の番でもないのに、
まるで自分の番かのように緊張していた
目の前に裏面で置かれた5枚目のカード、
ブラックジャックで5枚目まで引かれることはかなり珍しい。
彼の運命を決めるその1枚のカードにテーブルにいる全員の視線が注目していた。
そしてめくられるカード、現れたのは……
『スペードのK』
無慈悲にも絵柄が出てしまった……
そして彼の手札は29のバースト、負けだ
「……」
彼はすぐさま席を立ち、
逃げ出すかように去って行ってしまった。
「あのお兄さん相当、ツイてなかったみたいね、私はスタンドよ」
20のきらびやかなドレスを着た女が言う、掛け金は700万、
見かけからして相当な富豪か?
「全ツッパは遊ぶならいいが、稼ぐとなると愚策だな、
それに勝負どころの見極めもど素人だ、ヒット」
16のカウボーイ風の男は煙草を吸いながらディーラーに引くように言う 掛け金100万
引かれめくられたカードはダイアの5、
合計21ディーラーが10か絵柄とAの2枚で21、
ブラックジャックじゃなければ負けは無いだろう。
「……スタンド」
19の無口なコートの男は静かにそう言った 掛け金 500万
「俺スプリットで」
最後に俺はスプリットを宣言する。
スプリットは場に出た2枚のカードが同じ数字の場合ハンドを2つに分け掛けることが出来る、
つまり俺の場合だとクローバーの10とハートの10が別々になりそれぞれ1000ルーニーずつ、
合計2000ルーニー掛け1枚のずつ引く。
引かれたカードはスペードの9とクローバーの8、
19と18かかえって最初の手札より弱くなってしまったが仕方ない。
「両方スタンドで」
ディーラーの伏せカードが捲られる。
『ハートのA』
ブラックジャックだ、このテーブル全員負け。
仮にあの青年が21にしてたとしても初期の2枚での21、
《ナチュラルブラックジャック》には勝てなかった訳だ。
「あらら」
「ほう、どうやらあの彼には最初から勝ち目なんて存在しなかったわけだツキに見放されていた」
「……」
女と無口は分からないが
テンガロンハットのカウボーイは自分の負けより青年の運の無さ気にしているようだった。
俺はテーブルから立ち上がり新たなゲームを探し歩く。
「あらお兄さん!お飲み物はいかがかしら?」
声をした方を向くとバニー姿の女性がドリンクを片手にウインクを向けてくる。
「アルコールが入ってない飲み物はありますか?」
「そ、れ、な、ら、このヴェーパールーネがおすすめよ!ノンアルコールだから酔う心配もないわ」
見た目がサイダーに近い水色の飲み物のグラスを受け取り口元に持って行こうとしたその時。
「きゃっ!やめてくださいっっつ!」
少女の甲高い悲鳴がホールに響き渡る。
悲鳴をした方を見ると客が従業員に絡んでいるようだった。
「いィじゃないか~お姉ちゃん獣人なんだろおぉ?なんあらこんあとこより俺のところで働かないか?」
「やっ、やめてください、お願いします!」
俺は不穏な雰囲気を感じ飲み物を一気に飲み干してお姉さんにグラスを返し二人のほうへ近づく。
「この獣人風情がっ!」
男が振り下ろそうとした手を掴む。
「なんらあおまえ、邪魔するな!」
「ちょっと酔いすぎじゃないですか?おじさん」
掴んだ手を離すと男は数歩下がったのを見て俺は少女を守るように前に立つと彼女は力が抜けたのか座り込む。
「おえははそこの獣人にここより稼がしてやるから俺のところに来ないかって誘っただけだぞ!」
聞いてないしどうでもいい……
「彼女嫌がっていますよね、それに新しい働き口の紹介なのにセクハラ紛いのことをする意味があるんですか?」
「なまいきいってんじゃねえぞ!」
「反論できないならさっさとおかえりください」
周囲を見渡すと黒服が耳に手を当てなにか話している。
(あと少し足止めすればいいか)
「だったら勝負しませんか?」
「勝負だと?」
男に提案する。
「貴方が勝ったら俺は素直に引きますし、謝罪でも何でもしますよ」
「ほお、言ったな?いいだろう」
男はニヤニヤと笑いながら答える。
俺は内心ガッツポーズを決める、ここで断られたら支配人が来るまで足止めできない。
正直俺の所持トークスキルでは無理だ、そもそもそんなスキルギャウリディアには存在しないのだが、
相手が酔っていたのが幸いした。
「それならすぐそこにブラックジャックのテーブルがありますから、簡単にブラックジャックでもやりますか、
俺と貴方どっちが合計が21に近いか勝負するんです」
「そんなのでいいのか?」
「はい、どちらに"幸運の女神"がほほ笑むのか分かりやすいでしょう?」
男はなるほどと頷く、単純で助かった。
「それじゃあお願いできますか、お嬢さん」
俺は彼女に微笑みかけながら座り込む彼女に手を差し出す、彼女は不安そうに少しおびえながらもこくりと頷き、
俺の手を取り立ち上がる。
「もう大丈夫だから安心して」
立ち上がらせた時に彼女だけに聞こえるように小声でそう言った。
テーブルに着席した俺達そして始まるベットのための待機時間。
「あっそうです普通にやっても面白くないので一つルールを追加しませんか?」
「ルールだとぉ?」
「カードが1枚引かれた段階で今のカードと次に引かれたカード、
2枚の合計が2から21の中でどうなるか予想するんです、
当たった場合は僕と貴方2人の掛け金の合計の3倍を相手から貰える……どうです?」
男は考え込みやがて俺の服装ををちらっと見る。
(俺の服装を見て安全圏を探しているな、
自分で見ても今の見た目は金持ちには見えないからな)
「よし乗った借金してでも払ってもらうからな」
ニヤニヤしながら勝ちを確信しているな、すごい慢心だ俺がボスモンスターだったら瞬殺されてるな
「その言葉忘れないで下さいよ?」
2500万所持金全額ベット。
ベットが確定される頭上のモニターに掛け金が表示される。
「!?」
獣人の少女は一瞬だけ驚いた顔をし、
男は口を開けたまま動かず観客たちはざわめく。
(まあこんなボロ布纏った奴が2500万なんて大金ベットしたら驚くわな……
向こう200万、まあそんなとこか)
「いったいどちらが、勝利の女神に愛されているんでしょうね?」
俺は今できる最高の笑顔で男ににっこりと笑う。
そして配られるカード男は10、俺に配られたのはKで10、
ディーラーは8。
ここまでは順調、次のステップだ。
「さて最終的な合計はどうなるんですかね?お先に宣言しますか?」
男は考え込む
「……なら俺から宣言しますね、BJ」
笑みを浮かべ宣言してやった、
周囲がざわめく、ブラックジャック、ほぼ勝利を確信しての宣言だからだ。
「お前正気か!?」
男が冷や汗をかき始める。
「俺はいたって正気で本気です、早く宣言をどうぞ?」
少女は心配そうに俺を見つめる
それに気が付き安心させようとほほ笑む。
「……20だ」
(まあ安全圏狙うよね)
そして男に配られたカードをめくるとJ、合計20。
男はニヤニヤと勝利を確信した気持ち悪い笑顔を浮かべこちらを見てくる、
そんな顔でこっちを見ないでくれ……
そして俺の元へやってくるカード、カードを持ってくる少女の手は震えていた
このカードでステップ2の勝負が決まる、不安にならないはずがない。
『俺は君を信じる、だから君も僕を信じてくれ』
獣人は耳がよく聞こえるという、そんな彼女だけに聞こえるように俺は呟いた。
少女は目を閉じ勢いよくひっくり返す。
『スペードのA』
ナチュナルブラックジャック、完全勝利だ。
掛け金は二倍になり、ナチュラルBJのため更に1.5倍、結果2.5倍の6250万になって帰ってくる。
「結果的には俺が勝ちましたが、予想では2人とも的中なので引き分けですね」
「……ああそうだな、なんか悪かったな、嬢ちゃんもすまなかった」
男は酒が抜けたのか意気消沈したかのようにトボトボと帰って行った。
「兄ちゃんすごいぜ!」「あのべラズに言ってやるなんてな」
周囲から拍手の嵐が送られ、俺はフードを深く被り直した。
「ふむ、何事ですかな?」
黒服の後ろから初老の男性が進みでる。
「支配人!実は……」
黒服は支配人と呼ばれた人物に耳打ちする。
「なるほどお客様、詳細をお聞きしたいので少し奥の部屋によろしいでしょうか?」
「ああ、かまわない」
初老の男性は従業員の少女に向き直る
「怖い思いをさせてしまったね少し部屋で休みなさい、君にも後で話を聞くことになるがいいかね?」
「はい、わかりました」
少女と目が合ったので、にこりと微笑みかけると彼女もぎこちない笑みだが笑ってくれた、
店の奥に行く彼女の背中を見ながら迷惑料と手伝ってくれた彼女に500万ほどを送金する。
「!!?」
送られてきたウィンドウを見たのか彼女はえらく驚いきながら振り向いたので、手を振っておく。
「さて行きましょうか」
俺は初老の男性に着いていく、
何故か俺の左右には黒服の男達が居るが最悪な事態にはならないだろう。
廊下を進んでいくと大きな扉の前たどり着く、
「この客人と話があるからお前達は外で待っていなさい」
初老の男性がそう言うと黒服2人はドアの前に警備のように立つ。
「さあこっちだ」
扉の中に入るとオフィスのような部屋が存在した
「んで?ずいぶんと遅い登場だったっと思うんですが”支配人”?」
「ここがここまで大きくなるとは思わなかったからねすり寄ってくる寄生虫の対処に忙しいんだよ分かってくれないかな”オーナー”?」
目の前の初老の男性、ラートル・シュベッターヴァンここの支配人だ。
「だからオーナーって呼ぶのはやめてくださいよ、
俺は先行投資しただけなんですから」
「オーナーはオーナーですからな、ほっほっほ」
出会いは4か月前《ヘルメン族の都》という砂漠地帯だった、
昼間は暑く夜は寒すぎる場所で俺は休憩しようとオアシスにたどり着いたのだが、
その時たまたまそこにまだ商人だったラートルさんがいた、
どうやら彼は護衛を頼んだ冒険者が度重なるモンスターの襲撃によって逃げてしまったらしい、
次の街まで護衛を頼まれたので何も予定がなかった俺は快く了承した。
ひとまず街にラートルさんを送り護衛が終わった後も、
何度か護衛の依頼があり次第に仲良くなって行った。
そして暫く経ったある時お金を貸してほしいとラートルさんからお願いされた、
土下座するまで頼み込まれ 、
流石に知り合いの土下座はあまり見たくなかったので。
かなり痛い出費だったが、ラートルさんを信用して7000万ほど貸した
そして一か月後できたのがこれだ……
気がついたら勝手に共同経営者になってるし、恩があるからって経費や人員費など色々抜いた売り上げの4割を俺がもらえることになっていた、
これでも2割ほど断ったのだが……
最近は相当稼いでいるようで先月入ってきた額は……うん金銭感覚狂いそう。
色々出費はあるもので度々使ってはいるが、
俺の口座には大金が眠っている。
そんな事は置いておき
この表示がないクエストは《シークレットクエスト》と呼ばれているものらしい。
出現方法は不明で1回のみ、
そしてそのクエストを受注したプレイヤーにより結果は変わる。
俺が受けた《建築》に分類クエストから《開発》、《ユニークアイテム》など種類は多様だ。
ある程度メインクエストを進め世界を探索し尽くしたプレイヤーは《シークレットクエスト》探しに注力する、
クリアすれば自分が有利になるものばかりなので当然だ。
「それで?オーナーがここに来るなんて珍しい、何か用事が?」
本題を忘れるところだった
「そうだ忘れる所だった……ついさっき盗人を追ってる時に襲われてね、
狙いは追ってた犯人みたいだけど、
かなりの手慣れだったからもしかしたら闇ギルドが暗躍してるのかなって」
「ふむ、闇ギルドですか……」
《闇ギルド》
やること成すこと全部真っ黒、
PK、強盗、人攫いを当たり前のようにする連中だ、
この世界に来てまで犯罪をする理由は分からないが、別世界だからこそやる人間もいるのだろうか?
よく分からん。
「ここで大金稼いだ奴がもしかしたら繋がってる可能性があると思ったんだけど……
あくまでも可能性のひとつだけど、
ここって警備もしっかりしてるし防音がしっかりしてるVIPルームもあるし、
何かと取引にも使われてるみたいだからね」
ラートルは考え込む……
「私も《闇ギルド》の恐ろしさは存じております、
それ故に街の警備隊と連携して該当するお客様には《退場》をお願いすることはありますが、
思い当たる節はありませぬな」
(可能は元々低かったからしょうがないか……)
「分かりました、ありがとうございます。
それにしても《獣人》の従業員なんていつ雇ったんです?」
俺はさっきの彼女について興味本位で尋ねる。
《獣人》はここから南西に進んだ所に生息しており、
《狩猟》をし生活している仲間意識が強い種族だ。
見た目は人間に耳やしっぽを生やした者から全身が毛に覆われた者まで多種多様な種類が存在する。
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仲が良い程でもなく、
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「いえいえ、オーナーに比べたら私なんて全然ですよ」
流石本人も居ないのにこれ以上踏み込むのはダメだろう、
聞きたいことも聞けたので帰ろうと立ち上がる。
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「もう行ってしまうのですか、今度はオーナーがのこれまでの冒険の話でも聞かせてくれないですか?」
「ええ、機会があれば飛びっきりのを、楽しみにしててください」
一礼し部屋から出ると黒服に連れられて従業員の裏口から外に出ると外はすっかり冷え込んでいる。
(布の服とローブだけじゃ寒くなるか防寒装備揃えなきゃな)
現実ではまだ春だがこっちでは今は秋だ、
このまま過ごせば体温が下がりはじめ《スタミナ回復速度低下》のデバフがかかり、
更に寒くなれば《凍傷》になるだろう。
そんなことを考えていると背後に誰かの存在を感じる、
何個か分かれ道を進むが気配は消えない。
(ふむ、誰だ?ここまで気配を消せていないのも逆に怪しい)
俺は次の分かれ道を曲がり追跡者の視界から消えたであろうタイミングで《消音》を発動し静かに建物の壁を上り屋根に降り立つ。
追跡者が俺の真下に来る。
「あれ?どこ行っちゃったのかな?」
女性の声?いやこの声は聞き覚えがある……
音を立てないように静かに彼女の背後に降り立ち声をかけ。
「俺をお探しかなラヴィさん」
「きゃっ!」
「ごめん脅かせるつもりはなかったんだけど……」
いつもの癖で音を立てないように行動したせいで彼女を驚かせてしまったらしい。
「いえ、それよりもなんで私の名前を?」
「支配人から聞いたんだよ、
それで?ラヴィさんは僕に何か用でしょうか?」
「えっと……その、先ほどはありがとうございました!」
彼女は深々と頭を下げる。
(なるほど、お礼を言うためにわざわざ……)
「私怖くて……でも貴方が助けてくれて、私嬉しかったです。
ですのであの、その……お礼が言いたくって」
「お礼なんていいよ、結果として更に君を巻き込んじゃったし、
あの場で俺一人で何とか出来たら良かったんだけどね」
「でも私は貴方が守ってくれるって言ってくれて安心したんです!
ですので本当に感謝してます!!」
聞こえそうな声量で行ったけどやっぱり聞こえてたんだ、少し恥ずかしいな。
あの時は場の雰囲気からか普段言わないような言葉を口走ってしまった、
反省だな。
「それじゃ素直に受け取っておく……
ああいうところはたまにアレみたいな客が来るからね大変でしょ」
「はい……それに私、お仕事も全然で……迷惑かけてばかりで」
「まだ新人なんでしょ?だったらこれからだよ、
1度失敗しても次失敗しないように頑張ればいいんだ、
支配人もよく頑張ってくれてるって言ってたよ」
「貴方は優しいんですね」
「いや僕は優しくない……
そうだ……少し時間あるかな?」
「え?はい大丈夫です。」
それから僕らは無人の家の屋根の上で星空を見ながら語り合った。
まず初めに自己紹介だ、
俺は彼女に自分の名前はリクで《傭兵》だと、大切な探し物を見つけるために旅をしながら時々依頼を受け人々に協力する《傭兵》だと伝えた。
彼女は俺が話したまだ知らぬ世界に目を輝かせながら聞いてくれていた。
そしてある程度簡潔に語った後俺たちは沈黙に包まれる。
「ねえリクさん」
「どうしたの?」
「私の話を聞いてくれませんか?」
彼女は俯きがちにそう言った、その表情からあまり話したくはない内容なのが伺える。
「いいよ、でも無理はしなくていいからね」
コクリと彼女は頷く。
「実は……」
彼女が語った内容は彼女の身の上話だ。
「……なるほどね」
纏めると、ここから南西にある《アマヤーナ》と言う小さな集落で母と共に暮らしていたが、
ある時彼女の母が病にかかった、
それは普通の薬では治らず徐々に体を蝕んで行った、
そんな時《アマヤーナ》に訪れたラートルさんが持っていた、
《妖精の香丸薬》と言う薬によって一命を取り留め、今は回復に向かっているらしい。
その時ラートルさんに薬代金を肩代わりしてもらう代わりの条件として今は彼の元で働いてるらしい。
「なるほど……教えてくれてありがとう」
「いえ……リクさんも聞いてくれてありがとうございます」
彼女が無理にだが微笑んだので俺も笑い返し手元を操作する。
「え?これって」
俺からは見えないが彼女の目の前にはひとつのメッセージウインドウが表示されているだろう
【Rikuさんからフレンド申請が届いています】
……ってね。
「何かあったらメール機能なんかで相談してくれれば力になれると思う、
嫌なら断ってくれていいよ」
急にラヴィさんは飛びついてくる、
(なんだっ!?)
瞬時に飛び退こうとしたが殺気が一切なかったため判断が遅れる、
彼女に体を捕まれ彼女の腕が俺の背中に回る。
「ラヴィさ……「嫌なわけありませんっ!ありがとうございますっ!!」……え?」
手にふわふわとした物が何度も当たるので彼女の背後を見見ると尻尾が左右に大きく揺れていた。
(本当に獣人なんだな)
「あっ改めてよろしくお願いします!」
バッと俺から離れ右手を前に出してきたので俺も右手を出し握手する。
「……そうだ忘れるところだった!リクさんあの先程の物なんですが……」
「ん、なに?」
「あのお金です!!先程は驚きすぎてしまって受け取り拒否出来ませんでしたけど、
500万なんて大金受け取れません!!」
と握っている右手をブンブンと上下に揺らしながら声を張る。
すると目の前にウインドウが表示され500万を受け取るかどうか表示される。
(何となく返されるのは分かっていたけど、
今回は彼女のおかげで勝てたわけだし、迷惑料も兼ねてるんだけど……
どしよ……早くしないとおやっさん帰っちゃうし)
俺はある案を思いつき拒否を押しながら
ラヴィさんの右手を両手で包み込むようにしながら一歩前に近づく。
「これは俺が頭が回らないばかりに想定以上の迷惑をかけたって事のけじめなんだ受け取ってくれないかな?
それでも納得できないなら一つ、
お願いをしてもいいかな?」
「はひっ!お願いっ!ってなんですか?」
「どうか俺だけの勝利の女神で居てくれないですか?」
「えっ!!??それってどういう……」
「どうか俺だけの勝利の女神でいてください」
困惑しているラヴィさんの目を見てもう一度言った
「えっと……そのっ!わかり……ました////」
了承してもらい、俺は内心ガッツポーズした。
(よしっ!これでラヴィさんが勝ち続ける限り俺の元に入るお金が増える、
これも幼なじみから恋愛小説をこれでもかと言うほど大量に読まされた成果だな、
我ながら完璧だ!
ラヴィさんの反応が変だが了承してくれただけよしだ!)
「良かったです、それじゃあラヴィさん降りましょうか?」
「……はい」
俺はラヴィさんの手を取り屋根上から地面に着地する。
路地から大通りに出る間俺らは一言も喋らなかった、
通りに近づくに連れ騒がしい声が聞こえてくる、
時間的に酔っぱらいが多いのだろう。
「えと、その……私家こっちなので……」
ラヴィさんは俺が向かいたい方向と反対方向を指さす。
「夜道は危険なので家まで送りましょうか?」
彼女の家が何処にあるかは分からないが、
もう夜だ、女性の1人歩きは危険だろう。
「いえっ!大丈夫です!ちゃんと家にたどり着けますので、送って頂かなくて大丈夫です!」
「わかりました、ですが気を付けてくださいね」
彼女が力強くそう言ったので俺は素直に引く。
「はい、リクさんも気をつけてください」
「それでは、また」
俺はラヴィさんに背中を向け歩き出す。
「ううっ……胸のドキドキ聞こえなかったかな?
でもリクさんだけの勝利の女神ってそういう事だよね……?」
少女のつぶやきは少年には聞こえなかった。
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