「呪いを受けてHPが4になった弓兵ですが、今日も今日とて生きてます。」

鏡月 空@異旅人

文字の大きさ
上 下
1 / 26

第1話 《弓兵ですが依頼のためにしかたなく初心者の振りをしています。》

しおりを挟む
VRMMORPG ~ギャウリディア~

通称ギャディア



可愛くデフォルメされた黒猫のような人形がスポットライトに照らされ突然暗闇から現れ、語り始める。



【ファンタジー世界でもう1人の自分になれる】




このゲームはね!



人間の髪質、体型、体の細かな凹凸から"身長"などの

キャラメイクの自由度もそうだけど、

最初に選べる人間、エルフ、ドワーフ、獣人などの種族、

戦士、騎士、僧侶、魔法使いの代表的な職業はもちろん、料理人や
最近ではアイドルなんていう職業も追加されたみたいだね☆
うんえーさんの情報では職業数は100を超えたって言ってたかな。



ん?それだけでは普通のMMORPGと変わらない?

職業数が100超えてるゲームってあまりないと思うけど……まあそうだよね☆



何がリアルなのかと言うとね、この世界では物を食べればその味を感じられ、川の匂いや山の匂い、草花の匂いを嗅ぐこともできる。




実際に自分がそこにいるかのように感じられる訳だねー

つまり五感すべてで世界を堪能できるわけだよキミィ!



ただしこっちで満腹になったからと言って現実で食事しなかったら餓死しちゃうから注意だね!
なんていうのかな思い込み?実際はおなか減ってるのにゲームで食べたからそれで満たされて
現実でも満たされちゃってる状態、プラシなんとか効果?違うかな?

とにかく食事は現実でもすること!黒猫さんとのやくそくだよ!






自分で鉄を溶かして打って武具を作る事もできるし、打ち方や角度によっても出来るものは違うし、薬草を採取して新しい薬を作り、販売することも出来る、何を選び何をするかは君次第なんだ、もちろんまだできないこともあるがアップデートで追加するんじゃないかな、もちろん利用規約違反すると垢BAN対象だからねしかたないね、
ゲームの世界でもやっていいこと悪いことがある、
当たり前じゃないかHAHAHAHAHAHA☆



黒猫さんでも政府さんには勝てなかったよ……こわいこわい……



あっ垢BANで思い出したけどこのゲームはモンスターに倒されちゃったり、餓死、病死、凍死、溺死、
プレイヤーキャラのHPが0になったら

ガメオベr、、、おっとゲームオーバー、もう一生ログイン出来ないから気をつけてね?

アカウント登録が生体認証だから仕方ないね☆

1度きりの人生だからこそ意味があるんだよ?ゲームでもね。



食べたら食べた分体重が増えるし太る、運動すれば汗は出るし、体を洗わければ臭っていく。

バットステータス悪臭が付与されてモンスターが大量に押し寄せてきてやられちゃった
ベータテスターもいたからね、気をつけようね!


もちろんこれらの事柄はNPCにもすべて適応されるから頑張り次第では
ゲーム内のNPC恋人を理想の体型にさせたり、逆に嫌いな人を……

おっと話がそれてしまったね!



早口に説明したけど大体わかってもらえたかな?
それにその顔は説明はいいから早くプレイさせろって言う顔だね☆



さあ準備が出来たのなら、この扉の先に進んで異世界での人生をスタートだ!

でもでもその前に1つ大事な事を聞かせてね☆



"キミは第2の人生を送りたいかい?新たな人生を望むかい?理想世界での生存を、自分で紡ぐ運命を期待するかい?"



その顔は愚問だったみたいだね、それじゃあ!



「GOOD FANTASY LIFE─────君たちの未来はどうなるのかな?精々僕を楽しませてくれたら良いな☆HAHAHAHAHAHAHAHA──────」



その言葉と同時にスポットライトの照明は消え人形は闇の中へと消えた後から聞こえるのは反響する笑い声だけだった。

─────────────────────────────────────────

風が頬を撫でる感覚で目を開ける、


目を擦りながら先ほどの夢、始めた時の注意事項という、コミカルに動く黒猫が喋るチュートリアルの一つを思い出す。
誰かに習うより自分が実際にプレイして慣れる派だからか正直スキップして早く初めたかったがスキップが無いのは残念だった。

他の《完全没入型フルダイブVRMMO》より自由度が高く、全面的に売り出しているおかげが年齢制限が12歳以上だからルールや規約をしっかりと分かりやすいようにしておかないと、後で文句を言い始める輩が現れるのでどうしようもないか。
別ゲーだと毎回長ったらしいルールの説明を接続中に聞かないといけないク〇ゲーもあるがそれに比べたら一度見れば設定から再度見れるシステムにしているだけましだな……もう一度見る奴なんて黒猫のが好きな奴しかいなさそうだが。


……にしてもギャディアを初めてもう半年も経つのか。今更ゲーム初回起動時の夢を見るって疲れてんのかな?


右下には17:46分と言うデジタルな数字が表示されている。
少し予定より寝すぎてしまったようだ。

(さて、情報屋の情報が正しいならターゲットが活動し始める時間だな。)



顔に当たる西日を眩しく思いながら目を閉じ体を起こし、立ち上がろうと1本踏み出した瞬間、
踏みしめるはずだった地面は無く、浮遊感が体を襲った。


「えっ?」

予想しなかった身体の動きに思わず声を出したが声を出したところで地面が出現するわけでもない、為す術もなくそのまま重力に従い地面に激突する。

「いったっああああああああああ!」


激しい衝撃と裏腹に表示されたのは-1と言うダメージ表記と視界端、左上に表示されている緑のHPバーの減少。

しかし《自然治癒オートヒール》の効果により一瞬でHPは全回復する。

そういえば依頼時間までモンスターに見つからないように木の上で仮眠してたのか、寝起きだからか頭が寝ぼけているな。
今ので装備の耐久が、削れてないと良いが………

装備メニューから装備品の耐久値を確認する。


(ローブだけギリギリ半分より手前か、後でおっちゃんに修理して貰わないな。
最近は討伐イベが主だったからな、隙間時間に挑んで倒しての繰り返しだったから修理する暇もなかった…
これ以上酷使したら危ないな、今回の依頼完了まで持ってくれたら万歳、下手したら余裕で死ぬな)





体についた落ち葉と土を払い落とし身体を起こす。

周囲に気配はない、木の上から落ちた時点で依頼の難易度が跳ね上がっていたがその時はその時だ、俺は俺のできる事、依頼を遂行するだけ。過程はあまり重要ではない。0か1、できたかできなかっただけだ。

鬱蒼した緑が茂る森の中を観光でもするようにのんびりと進む。
途中雨でぬかるんでいる場所を避けて通ろうとすると
すると突然泥の地面がボコボコと沸き立ち始め、やがて人型を形成し始める。



視線マーカーが泥人形をマークする、
やがて泥は剣を構えた歪なモンスターを生成した。


《泥の戦士》


名前とともに赤のHPバーが生成される。

今いるこのエリア《ナーガレの森》で出没する通常モンスターのひとつで、攻撃方法はももっさりとした動きで剣で切りつけるだけ。
初心者が攻撃を回避、および防御などの基本的な戦闘の動きを練習するのにうってつけのモンスターだ。



《ナーガレの森》の攻略推奨レベルは6、それに対し俺のレベルは87、正直泥人形程度ならデコピンひとつでHPを吹き飛ばせるが、依頼の件もある。


俺は自分が思っているよりもワンテンポ遅く動き始める、大きく上に剣を振りかぶった泥人形の攻撃を初心者支給装備のひとつ《旅人の短剣》で防御し態勢を立て直すために一度距離を離した俺を泥人形は再び剣を体の上で構えながらゆっくりと追う。

久しぶりに戦ったけど酷いな……両手を使い上で構えているせいで上も下も身体がガラ空きだ。どこからでも攻撃できるぞ……このゲームギャディアの初心者でも別VRMMOの経験があるなら特に苦戦もなく倒せる。

上からの攻撃をギリギリ装備しているローブを斬られながら回避しカウンターで頭にゆっくりと突きを放つ。

泥人形のHPバーが7割消し飛び、力を大きく制限したつもりが足りず少し後悔する。

PvEでもPvPでも急所を狙った方がダメージボーナスが入る、積極的に狙っていきたいが、
急所は小さく当たりづらい、中には兜などで頭への攻撃を防いでいるモンスターも存在する。なので泥人形の間合いのギリギリで剣を振り。
剣同士を交えながら判定が比較的広い胴体に攻撃を命中させていく。

暫く攻撃を続けていくと泥人形の頭上、HPを示す赤いバーが徐々に減少しやがて尽き、人形はポリゴンの光とともに塵となった。


慣れないことをすると疲れるな……



モンスターが消滅すると目の前に経験値とドロップアイテムのウインドウが表示される

Exp.1
《不純の泥》


「いっ、いらねえ……」

予想通りすぎて思わず口から漏れてしまう、

経験値に関しては敵とのレベル差が開くほど相手が高い場合は増え、相手が低い場合は減る。
低い場合は大体15程度差が開くと急激に取得できる経験値の差が出始める。

低レべ&序盤に訪れる場所のフィールドのモンスターが落とす物に最初から期待などしていないが……
どんな物でも価値があり様々な物の素材として使われるこの世界でも未だに必要用途が見つかっておらず、
いらない物扱いされているアイテムがウインドウに表示されてる、売却しても1ルーニーにしかならず、持てる重量が決まっているこのゲームでは、重りになるので捨ててしまった方がいいが《鍵系》アイテムと同じ重量1なのでなにか重要なアイテムなのではないかと考察しているプレイヤーもいる。


身につけるローブに付着した泥を払いながら《不純の泥》わざとアイテムストレージにしまい、
フードを目深に被り直し歩き出す、
後方の木陰に潜む何者かの気配を微かに《感知》する。

さて新手かターゲットかどちらにしろここで依頼遂行するのは草木が邪魔で厄介だな。
広い場所に移動しようと《ナーガレの森》の奥へと進む。










森を奥へ進むと海が見える崖に出る、眼前に広がる海は奥に行けば行くほど黒雲が立ち込めたびたび雷が落ちているのが見える。
《ナーガレの森》西方はここで行き止まりになっており、この先は別エリア《サゲッシュ雷海》なのだが、
崖からは飛び降りないと進めない、クライミングを楽しむわけでもなければ迂回するのが安全だ。
そもそも推奨レベルが65に跳ね上がるので今のろくに準備していない状態ではいくらレベル差があっても数に押され、デバフを蓄積され、罠に嵌り。
トッププレイヤーでも難易度が低いダンジョンで簡単に帰らぬ人となるので満足に準備ができていない今の状態では近づきたくもない。


あくまでもマップを埋める初心者のごとく辺りをキョロキョロと見渡しながら、
追跡者の気配を探るが一定の距離を保ち動く気は無いらしい。



俺はゆっくりと森の中へ引き返そう海に背を向け歩き出す。
あちらさんはこちらが動き出しても移動する気配はないので仕掛ける気なのだろうか?
どちらにしろ想定通りに進んでる時こそ用心しなければならない、こちらが有利でも不利でも一手で簡単に立場が逆転してしまう可能性がある。

そのまま彼らが隠れている大木の真横を通り過ぎようと足を進めようとするが
進行を妨げるかのように大斧を持った、大男がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら木の影から出てくる、
巨体の上に、木の幹から身体がはみ出してバレバレだったのでおそらく素人か、つまらない。

「まちな、新人さん」

急に声をかけられたかのように驚き身体を震わせる。

「え!?……え、えっと?僕になにか用ですか?」


慣れない役演じながら相手の目を見ながら横目で装備を盗み見る。

大男の武器はおそらく中堅クラスの量産型の《両手斧》、防具は皮の軽装備か、
淡い光が武具から漏れ出てるから何かしらの祝福を受けていることがわかる。
近接プレイヤーが受ける祝福だステータスの強化か生存に関係するスキルだろう。

それと両腕に着けたガントレット、これも祝福付きかパワー型のテンプレ装備だな、

見たことはあるが装備の名前が思い出せない、
その時点で大した装備ではない…が、
この世界での装備は低レア装備でもスキルと使い手によっては化ける可能性がある警戒を緩めるのはまだ早い。

後は装飾品枠だが、《首飾り》は皮鎧に隠れているのでわからない……《指輪》は右手にSTR上昇、幸運、
左手に防御、強靭、着けているのはどれもステータス上昇系か10本中4つ。
《指輪装着枠増加》のレベルが2か、あまり指輪の重要性を分かっていないのか。もしくは買う金がないのか……どちらにしろ最低でも中堅クラスの実力か。
だが対人戦で読み合いなる装備品が見せびらかすように付けられている……こいつは……

「この森はな俺らの縄張りなんだ、通りたければアイテムを置いて行ってもらおうか?」

「えっ!?だって入るとき何も言われませんでしたよ!?」

怯えたように演技しながらも予定より早く目標と遭遇できたことを幸運に思う。

「あの時は、他のプレイヤーと話していてな。お前には気が付かなかったんだ。
《ナーガレの森》は俺ら《スノーヘッド》が管理してるんだ。
管理されているダンジョンやフィールドがあってな、このギャウリディアではそういった所を利用する場合は管理している団体に利用料を払わなくちゃならないルールがあるんだ」

《スノーヘッド》……聞いたことはないがこの大男が言っていることは全て嘘ではない。
実際にダンジョンやフィールドを管理している団体はある。
だが出口が複数ルートがある迷宮やダンジョンは管理してはいけない暗黙のルールが存在する。
《ナーガレの森》は《ルーベル鉱山》《名無しの森》《サゲッシュ雷海》と3つの出口がありその中の《ルーベル鉱山》は初心者チュートリアルの対象にもなっている。
初心者のためにも毎回通るたびに金を払うのは成長を妨げる行為として過去の上位プレイヤーの集会でも苦情として発言されプレイヤー間で共有されていると思ってはいたが……

「でもでも、僕ここに来るときにアイテム、いっぱい買っちゃったのでこの世界のお金のルーニー?全然持ってないですよ!」

「ん?本来なら5万ルーニー払って貰うつもりだったが、なら仕方ないな。代わりのアイテムで我慢してやるよ」

初心者が5万ルーニーなんて持ってるわけないだろ、最初に配布されても3000ルーニーだぞ、桁を考えろ桁を。

思わず頭を抱えそうになってしまうが我慢する。

「えっ!?5万ですかっ!?僕っ、良いアイテムもドロップしませんでしたし、
何も分けられるものは持ってないです?だから勘弁してくださ─────」

大男が俺の肩を掴み逃げられないように拘束する。見た目通りSTR型か力が強い


「違うぜ、”ブーストドリンク”をもらいてえんだよ。お前持ってるだろ?」








《ブーストドリンク》通称《初心者ドリンク》や《BD》と呼ばれるアイテムで
飲めば経験値獲得量、ルーニー獲得量、ドロップ率、レアモンスター遭遇率、アイテムドロップ確率上昇のバフが1時間付与できる飲料系アイテムだ。
このゲームのチュートリアルと初めて3日間で計3つのみ配布される、
それ以外はドロップも配布も無く使用期限も7日以内と貴重なアイテムの一つだ。

正直安直な名前だと思うけどそこを気にしたら負けだな……


「それなら2つ持ってますが、ど、どうやって渡せば?」

持っているという言葉を聞いて大男の口角が上がる、
当たりを引いたって顔だな。
まあチュートリアルの仮想アバターの動作確認クエストと3日ログインでの合計4つしか手に入らないのに序盤からガンガン使えって教えられるからな……
教えられたとおりに最初から使い、合計の効果時間が4時間程度しかないのもあり。
あまり手に入らない貴重な消費アイテムを終盤まで持っている通称《ラストエリクサー症候群》や情報を鵜呑みにしないプレイヤーが持っている可能性かどうかで、現在の存在数はかなり少ないそのため市場にでると1つ数千万ルーニーもしくは億越えとかなり値が付く。
出たところでそういったものは金に力を言わせたプレイヤーの《軍団レギオン》やら《集団ギルド》の連中が買っていって一般プレイヤーには到底手が出せないんだけどな。

アイテムを渡す方法を3つ存在する、
1つ目は《贈り物》、渡す側と受け取る側がフレンド登録し、その後《贈り物》コマンドから対象アイテムをストレージから出せばアイテムを渡すことができるが、ブーストドリンクは譲渡不可なのでこの方法は使えない。

2つ目は《取引》による売買だ、《贈り物》と違うのは金銭が発生するようになるくらいで大して変わらない。ブーストドリンクは譲渡不可

そして3つ目、このゲームの仕様、
そのプレイヤーがこの世界から消滅する時、持っている装備、アイテムを全てその場所ドロップするというシステムがある。
その場合譲渡不可アイテムは基本的には所持プレイヤーが世界から消えた場合に消滅するのだが、ブーストドリンクだけは譲渡不可とアイテム説明では書かれているのに消えずに地面にばら撒かれ、さらに譲渡できてしまう不具合が存在する。一時期はバグ報告として運営に届けられていたが、一向に修正される気配がないのでプレイヤー側の認識としてはゲームの仕様ということになっている。


このシステムがせいでレアアイテムを持ったプレイヤーやNPCが襲われる事件が度々発生している。
《ブーストドリンク》はアイテムの保有期限が7日と短くそしてこの理由もあり表に出る機会は少ない、出回るとしたら序盤でモンスターに殺されたかプレイヤーに殺された、PKされた時くらいだろう。


「大人しくやられてくれたらすぐに終わるからよっ!」


思考を邪魔するように、鋼の刃を輝かせながら斧が振り下ろされたので横に素早く半歩移動し回避する。
俺の体スレスレを通り過ぎ、振り下ろされた斧は大地に突き刺さり地面を抉る。さすがSTR重視の一撃、スキルでもなくただの攻撃でもすごい威力だ、初心者が当たれば8割HPが消し飛ぶ。
この大男なら一撃で終わらすことができるだろうがわざわざスキルも使わず通常攻撃を選んだ理由はまあ考えなくていいだろう、どうせろくな事じゃない。



「ちょっと力を込めすぎて狙いがずれちまったな。つぎは外さないぜ、そんな初期装備のボロっちいローブで俺の攻撃から逃げられると思うな」



《両手斧》は火力が高いが攻撃モーションが遅く、ものによっては重量もある扱いずらい武器だ、
斧のサイズが大きくなればなるほど火力の増加と破壊力、重量は増加し使い勝手は変化する。
《装備》するために必要なSTRステータス要求値は高い、条件を満たさなければどの武器種も武器を十分に活かせない他、移動が遅くなるデバフやモンスターやプレイヤーに気が付かれやすくなる《騒音》も発生する。
少なくともデバフが発生している様子はなく軽々と振り回しているのだからSTRは十分に振っているのだろう。

再び振り下ろされた一撃を、後ろに飛び跳ね、弓を構える。

「あひゃひゃはっ!おいおい……よりにもよって選んだ武器が臆病者の《弓》かよ……
序盤の《レンジャー》は火力不足で泥人形相手にも苦戦するんだぜ?さっきみたいに《短剣》を使えば俺に勝てるかもしれないぜ?」

大男は今にも崩れてしまいそうなほど笑っている。

少なくとも"初心者の演技"を辞めた俺の動きに気が付かない程には頭の中身がこれから奪うアイテムで埋まっているらしい。







─────んな事は知っている、チュートリアルで選ばされる初期戦闘職業、
《片手剣》《斧》《槍》が器用に扱える《剣士》、《杖》《魔導書》の《魔法使い》、そして《短剣》《弓》の《レンジャー》、
そして始めた時最初に選べる職業の内、1番脆く火力が出ず、瞬間火力も低く継続力も無い、初期戦闘職業の中で決定打に欠けるのが《レンジャー》だ。



短剣は初期状態では《片手剣》の3分の1程度の火力しか通常時に出ず、
弓も初期状態では1回1回立ち止まり矢を番えなければならない。

それとゲームの使用上初期装備枠は一つだ、
後々スキルで武器装備枠を増やせる《武器装備枠増加》スキルを取れば現状最大4つまで同時に装備する事ができるのだが、他にも有用スキルがあるので重要度は低く、
強化しなければ少ない上限重量内でやりくりをしなければならないので
メインウェポン、サブウェポンの2つを装備し強化するプレイヤーがほとんどだろう。

なので《レンジャー》は初心者が始める上で最悪と言っていいほど相性が悪い職業なのは間違いない。
それなら体力と攻撃力に秀でた《戦士》や火を手に生み出し相手にぶつける《火球》と少しの溜め時間でHPを回復する《癒しの風》を使える《魔法使い》の方が良い。




だが序盤の火力不足さえ乗り切れればレンジャーは《索敵範囲増加》や《罠作成》《スタミナ増加》などの補助スキルがかなり充実しており、装備も整って来ているレベル20になったら《職業替えクラスチェンジ》の候補に入れてもいいと言う情報は知れ渡っている。





ちなみに俺は初めにレンジャーを選んだ、やはり頭に当てれば大ダメージを与えれる《弓》はロマン。

武器選択画面で弓に【旅人はその身を矢に込めて放った、放った矢はすべてを破壊し。後には身一つ残らなかった】
とかいう不吉な文章が書いてあったし、初期装備の名が《壊れかけの弓》
いかにも直ぐに壊れそうな名前だったし、耐久値は5割しかなかった記憶がある。
速攻で《納品クエスト》の1つ《ブウラ鹿の角》を3つ納品するクエストを達成し《狩人の硬弓》に変更した記憶がある、拠点のアイテム保管庫に耐久値2割ほど残っていたのをこの依頼の為に引っ張ってきたが、作りが甘く弓弦が寄れ過ぎていてどう見ても強そうに見えない、最初に選ぶ候補に入れんなよ、とも思うが手入れをせず長期間放置すると耐久値が減り見た目も変わるのでその影響下。


耐久値が不安な《壊れかけの弓》に矢に番え大男の方に向け放つ、番えてから放つまで約0.3秒どの弓でも基本の動作は構えて番え、放つなので慣れたものだ。
続いて2射目を放つ。

「──は?」

男は急な攻撃に驚いた表情を浮かべる、

1本目の矢は男の身体を大きく逸れ森の中に消えて行き、2本目放たれた矢は狙い通り眉間を撃ち抜くと思っていたが顔の頬を掠めて木に当たり地面へと落ちた。

やはり手入れを怠ったり、耐久値が減りすぎると狙いが狂うな。たとえ当たったとしてもあの一発ではHPは削り切れなかっただろうし仕込みは決まった。あとは番狂わせが起きないように一歩一歩確実に逃げれないように相手をじわじわと追い詰めていけばどうにかなる。

「はあ、はあ……なんだこれ身体が……」

言葉とともに油断させるためにふらふらとその場で歩くように大地を踏む。

「《スタミナ切れ》の症状さ。顔に当たると思って少し驚いたが……最後に知れてよかったな、冥途の土産だっ!」



大斧の刃が正確に俺の脳天に狙いを定め振り降ろされる、
男は勝ち誇ったような顔をしていた。


つまらない、相手のことを観察する気もないナマケモノ。相手のことを観察するだけでどれだけ自分に有利な情報を割り出せると思っているのか知らないのか?戦い方がなっていない。
俺が短剣ではなく弓を装備もせず取り出した時点で《武器装備枠》が1つではない、《武器装備枠増加》を強化レベル20以上と気が付くべきだ。それにしてもプレイヤーを舐めすぎだ《スキル》も使わず大振りの振り下ろし攻撃だけ。こちらの反撃を誘っているのかもしくは、今まで相手したプレイヤーの動きがよほどおぼつかなかった。
所詮通り魔か、めんどくさい、演技をするのはもう飽きた。



俺を頭を斧が勝ち割る直後、俺は両手斧を白刃取りし勢いを止める、目の前には-2の表記と視界が黄色く染まる。

「なんだとっ!?くそっ!」

男は力任せに押し叩きつけようとしてくるがSTRは俺の方が上らしいのでビクともしない。
ようやくアイテムで埋まった頭に俺という脅威が入る隙間ができたらしい。

片手で抑えながら拮抗しながらも急に力を弱め、左へと攻撃をずらす。
抵抗する力がなくなりそのまま前に倒れてくる大男の胴体を懐から抜いた《旅人の短剣》で切り裂くように刃を滑らすと大男のアバターから鮮やかな赤いエフェクトが血のように飛び出す。

大男はそのまま地面に一瞬倒れるが態勢を立て直そうと瞬時に飛び上がり俺から距離を取った
……がすぐに傷口を抑え片膝を付く。

「お前、何をした?」



絞り出すような小さな声でそう言う

大男のHPは徐々に減り1割以下の《危険域レッドゾーン》へと突入した。今頃強烈に身体を蝕む何かのフィードバックが彼を襲っているであろう。

「最初の矢で毒耐性低下のデバフ、次の短剣に混ぜた数種類の毒、下手に血を流すと死ぬよ?」


「アニキ…アニキ…」

男は誰かを呼ぶように手を前に出し言葉を発するが誰も出てくる気配はない。

「さっき矢放った時、後ろで見張ってたやつを射抜くために放ったから……その人がアニキ?かな?」



「お前ナニモンだ?」


大男の目に恐怖が浮かんでいる、自分がこれからどうなるのかを悟ったからこその恐怖だろうか。
彼は何人の同じ目をした旅人を襲い、私腹を肥やしなおも続けているのか、まあどうでもいい俺は依頼を遂行するだけだ。

「どうだっていいだろ?それよりもお前らだな?最近初心者狩りしてブーストドリンクを強奪して売り捌いてるって小悪党は?」

「だったらなんだ?」

「言わなくてもわかるだろ?盗ったものを持ち主に返すんだ。そうした命は助ける」

《アイテムストレージ》から大男にかかっている《猛毒》の《解毒薬》が入った瓶を持ち見せる。



「ぺっ、渡すかよ、へへっ」

最後まで強情なやつだ……

こちらに唾を吐きながら、も最後まで小悪党として生きる彼に敬意を示す。

せめてもの情けとして俺は無言で短剣を胸に突き刺す、
赤いエフェクトと共に男は所持していたアイテムを撒き散らし、赤黒い塵となってこの世界から退場した。


1度だけの世界だってのに悪事に手を染めるなんてな、いや一度きりの世界だからこそか、
人は愉悦を求めるものとは偉い人は言ったがこれはどうなんだろうか?



撒き散らしたアイテムの中から奪ったであろうブーストドリンクと換金できそうなアイテム類をストレージにしまう。
ざっと計算しても3,4人は狩られている。自分の為に他人の未来を奪う。
第2の人生なのになぜ悪人が生まれるのか、元々悪に染まっていたから、そうするしかなかったのか、リアルに影響がないからこそ悪事に手を染めたのか。データであろうと死人に口なし彼のギディアでの人生を俺は知ることができない。


さてと


そして木のそばで必死に息を殺し必死に《隠密》スキルを発動し気配を消している奴に近づく、
俺の足音を聞いて遠ざかろうと逃げているが《索敵》スキルの練度が違う、簡単に位置は割り出せる。


「ひっ!?なんでわかるんだ、来るな!?」


腕を振りこっちに来るなアピールをする金髪の跳ね毛。

まともに喋れてるってことは解毒アイテム使ったのか相手のHPバーは紫色から通常の緑に変化し徐々にHPが回復している。
元々短剣にセットした《猛毒》はHPを0にして相手を倒す用ではなく1だけ残して"おしゃべり"する用だ解毒されたところでこちらにはさほど問題はない。
あるとすれば《解毒薬》を餌に交渉できないくらいか。



「《探知》スキルをある程度強化してるから、ただの《隠密》スキルじゃ簡単に看破できる、
常識だろ?」



地面に倒れている男の顔の横に短剣を突き立てる。



「貴方は素直に渡してくれますよね?」


にっこりと笑顔で交渉すると、
男はこくこくと頷き、操作を始める。

ふむ──────

その時音もなく飛んできた矢を左手で掴む。



「ひっ!?」



矢は男の眼前刺さる寸前で止まる、
俺が掴まなければ男のHPは0になっていただろう。



素早く矢を|《鑑定》《アナライズ》で解析する、6種類の毒、その内5種類は知っている物だが一種類は《???》になっていて分からない。
おそらく調合素材から推測すると発症すればレベル3相当の《猛毒》となるだろう。

戦闘中に毒が蓄積し発症した場合継続的にHPが減少していく。

毒のレベルによってHPが減少する速度は変わり、
現状最大値のレベル5の毒は何もしなければ20秒ほどでHPを削り尽くしてしまう。

戦闘中は解毒アイテムを使う隙はパーティで動いてなければ使い時はほぼなく、物凄い勢いでHPが減少していく中恐怖を感じながら戦わなければならない、毒が凶悪なデバフと認識されている原因の1つだ。



状態異常回復のアイテムは一度使うと一定時間は使っても効果がないものと効果が半減するものがある《毒》の場合は前者だ、
再使用できるまでの《CT経過時間》はアイテムによって異なる。

俺が《毒》を使ったと判断した上での長距離射撃、厄介だな。
確実にこの金髪くせ毛の息の根を止めようとしていた。

そして俺が最初に放った1射目の矢はレベル2の毒がセットされている、
多くは所持できないのが難点だがデバフ対策していなければ1回でも皮膚に当たれば《毒》を発症する。《毒》の蓄積値が高い素材を使った《特注品プレイヤーメイド
《調合》での自作なので素材さえあればいくらでも作れる。

矢が飛んできた方向を睨む。

索敵範囲外からの攻撃、索敵有効範囲半径300m以内に俺とこいつ以外のプレイヤーの存在は感知できていない、俺が感知できない程《隠密》の熟練度が高いプレイヤーか。
レンジャーからの派生職業ガンナーで取れる《精密狙撃》スキルを持つプレイヤーか……
確率的には《精密狙撃》の方が高いだろうな。


《精密狙撃》は《パッシブ常時発動》スキルだ、
効果は《防御力大幅低下》《スタミナ回復速度低下》と耐久面で圧倒的不利になる代わりに《最大射程距離増加》と《遠距離威力減衰量低下》のバフを一定時間獲得できる。

《最大射程距離増加》はその名の通りだが《遠距離威力減衰量低下》は《弓》や《銃》などから射出された物が対象までの距離や空気抵抗によって威力が下がってしまうのを緩やかにしてくれる遠距離職なら必須と言ってもいいスキルだ。
遠距離から《弓》や《銃》の攻撃し近距離のプレイヤーは何も手が出せない。遠距離武器一強にさせないための運営側のシステム調整だろう。



俺の予想だと相手は《狙撃》の熟練度はかなり高い、そこまでのプレイヤーを使ってまで、
こいつを始末したいって事は関わってるのは……まさかな、《スノーヘッド》、少し探りを入れる必要があるな。

2射目を警戒しながら、
矢をアイテムのストレージに収納し短剣を喉元に突きつける。



「待って、待ってくれ!助けてくれっ俺はまだこの世界で生きたいんだ!」


男は泣きながら懇願する。

まだ遊びたいその気持ちはわからないでもない、
こいつも最初から悪人でなかったとしたらこの世界で今まで頑張って生きてきたのだろう、
悪事に加担した理由は金に目が眩んだとかだろうが、このまま見逃して再び事件を起こさないとも思えない。

「お前らはこのブーストドリンクをどうしようとしていたんだ?」


見逃す、見逃さないを考えるにしても得れる情報は引き出しておかないとな。


「《ゲヂュラット》 ……地下街の闇市で……売却しようと……」

やはり金か……

《ゲヂュラット》ここから東にずっと進み砂漠地帯の中に存在するかつては街だったであろう事が推測される廃墟ばかりの場所だ。



瓦礫やら廃墟やらに覆われていているうえ広く出てくるモンスターも強い割に貰えるものがしょぼいと行く価値はあまり無い。
あくまで地上は通り道、《ゲヂュラット》のメインは地下に広がる入り組んだ迷路のような迷宮だ。



かつて周辺を統べていた残虐な王から隠れ住む為に隠れ道として広げられていたが、
今ではゾンビやスケルトン、などのアンデット系モンスターの巣窟になっていると付近に存在する村の酒場の老人から聞ける。

かつての名残として迷路のような地形と隠し扉のようなものが数多くあるせいで、
今や盗賊や賞金首、罪人などのやましい事がある存在が隠れるためにはうってつけの場所となっている。
そして噂では迷宮の中には表に出せない物を売買する闇市が存在するらしい。
稀にレアアイテムや高レベルの装備が出回ったりと需要と供給が成り立ってしまっているので。
特に大きな問題が起こらない限りは《ゲヂュラット》を忌嫌っている奴も簡単には手を出せない。
中には大レギオンやギルドのプレイヤーが利用しているので、下手に襲撃すればそれらと敵対関係になる可能性もある。

ギャウリディアの闇の一つだな。


地面に並べられていく略奪品に目を通す、こいつも数人襲っているな。

このゲームはレベルが上がれば上がるほど……正確には10ごとだが、
必要経験値量が急激に加速する。
このゲームでブーストドリンクは誰にとっても垂涎の品だろうな。

だから初心者狩りをする輩が現れる、一応騎士団や警備が手を回していてくれているみたいだがゲーム内の人口は日に日に増え続けているので人手が足りていない

「これでよろしいでしょうかっ!?」


男は地面にブーストアイテムを置く。
6本とこいつもかなりの数だな、あきれて言葉がでないが、話を進めなければどうしようもないか。


「二度と冒険者からアイテムを奪わないこと、それと俺の前に今後姿を見せないなら今回は見逃そう」

「ありがとうございます!!」


男は大袈裟に土下座を繰り返し地面から火が出そうなほど額をこすりつけている、
かなり見ると異常な光景だ。

「すいませんでしたっ!」


と言いながら男の体が光に包まれて薄くなって消える。



テレポートで消えたか……これ見よがしにレアアイテム使いやがって……
彼が自身も状況は理解していれば……まあもって数日か、狙撃手が簡単に諦めるはずがない。
まああいつがどの立場かだけどどうせ末端の下っ端だろうな……負ったところでトカゲの尻尾切りになる労力に見合う結果は帰ってこないだろう。

やれやれ


狙撃手を警戒しながら森の中を進みひっそりと建てられた小屋《モンスター侵入不可エリア》
通称《安全圏》で使用できる。《帰還》コマンドを選択すると身体が光に包まれる。



体が光に包まれ気が付けば風景は森から街並みに変化した、特に苦戦することはなく帰ってこれたことに安心する。

《帰還》は最後に立ち寄った街か1番近くの街に瞬間移動できるコマンドだ、
《安全圏》でしか使えないので使い勝手は悪いが、アイテムが無くなった時などの緊急時に《安全圏》を見つけられれば命の心配はほぼ無くなる。

モンスターが出没するフィールドでもあの金髪のように《帰還》ができるようになるアイテムもあるが極稀のレアドロップか高額かのどちらかだ、ちなみに俺は1つも持っていない。虚しい、欲しい……



旅人の始まりの地《オリナル》の大地と帰ってこれた実感を踏みしめながら俺は待ち合わせ場所の噴水広場に向かう。





【それでは聞いてください、Violet Bullet!】

街の一角に設営された仮設会場のようなスペースで1人のプレイヤーがマイクを持ち、観客に囲まれパフォーマンスをしていた。

見たことない子だな……新人か?

少し前に《アイドル偶像》という《職業》がアップデートにより追加されたおかげで夢見るたくさんの人たちが《クラスチェンジ》したが、その内容は一言で表すと”過酷”らしい。

アイドルという《職業》をマスターしたのは現状1人だけらしい。
現実でもレッスンやらなんやらかなり大変って聞くからリアルさが売りのこのゲームでも反映されているのだろう。

まあたまにマイナーな職業も追加するからそれに比べたら雲泥か、
この前追加された《玉拾水士ボールダイバー》……いやどんな職業か知らんがな!!
調べたら実際にあったけどっ!!
この世界でもわざわざ池や海に落ちたボール拾うために《クラスチェンジ》するか?

やろうと思えばどの職業でも……ステータス的にも、相当荒い海とかじゃなければ生産職選んでるプレイヤーでも水の中のボールは取れるぞ……《水中移動速度上昇》と《酸素ゲージ消費量低下》のスキルはそこそこ使えそうだけどわざわざ《玉拾水士ボールダイバー》取るほどでもないし……
どんな仕事でも誇りを持って就いている人がいるから失礼か、もうこのゲームがどこを目指しているのかわからないよ……これ以上は考えないようにしよう……


俺はそう決めた。


暫く道なりに歩いていると噴水広場に初期装備のローブを着た二人組が座り込んでいるのが見えるた今回の依頼主だ。

前に立った俺の顔を見上げ視線を合わせたので軽く頭を下げる。

「取り返してきてやったぜお二人さん」

奴らが奪い、俺が奪ったために譲渡不可が解除されている《ブーストドリンク》をアイテムストレージから6本実体化させ、彼らに渡す。

「あっありがとうございます!えっでもあれ?僕らが盗られたのは4本ですよ?」

「先輩からの選別だと思ってくれ、思ったより悪党だったみたいでね。使いきれない量余った」

ストレージにはまだ期限切れが近い《ブーストドリンク》が9本存在する。後で適当にその辺のモンスターの討伐にでも出かけよう、変に配ったり売ったりして変な噂が流れても困る。

「わかりました、ありがたく受け取りますありがとうございます!」
「……ありがとうございます」

二人から感謝を受け取ったので背を向け歩き出す。

「待ってください!」

声を掛けられ足を止めたと同時に目の前にウインドウが開き
【3500ルーニを受け取りますか?】と表示されたのをキャンセルする。

「え?」

困惑した声が背後から聞こえる、そりゃあ普通の思考回路だったらそうなるわな

「俺が勝手に困っているお二人さんを見てお節介しただけだから気持ちだけ貰っておく、
もしなにかしたいって言うなら、お前らが出世したらおいしいご飯でも奢ってくれ、それか普通に俺に依頼を頼んでくれ、依頼料は内容によって要相談だがな」


序盤での3500ルーニはかなりの痛手だ、初期に配布される3000とフィールドでモンスターを倒して得ていたとしても2人の所持金のほぼ全額近いだろう。

「もう少し遊んでこの世界が気に入ってくれたら少しでも早く、頑張ってくれや」


ギャディアをプレイし始めてリアルで半年、こっちではもう数年経ったけれど
俺も最初の頃は頑張って、仲間に頼って、騙されてといろいろ経験した。
経験したからこそ、この世界の魅力に嵌った。だからこそ先人としてギャウリディアの世界を好きになってほしい一心で初心者には優しく接する。

「本当にありがとうございますっ!」

「二度目はないからな、もしソロとか友人だけとかこだわりがないのなら
ギルド集団》や《レギオン軍団》に入るのも考えて置いた方がいいぞ、
1人前になるまで面倒見てくれるから、
その後はそのまま残って貢献するかどうするかは君ら次第だ。

所属するなら俺のオススメは《青龍騎士団》かな、少し前まで所属してたし、
訓練は厳しいけど、その分自分が成長したって実感出来るタイミングが来るだろうからよ。
もし入るなら俺の名前をすんなり出せば入団させてくれるだろうよ……んじゃな」

俺は手を振りながらその場を後にしようとする。

「あのえっと……お名前は……」

「あれ依頼受けた時に言ってなかったっけ?」

俺とした事が失敗した、この業界で生きて行くには第一印象が重要だ、
その次に信用、そして実力だ。初歩的な自己紹介を忘れるなんてまだ寝ぼけていたのだろうか?


「──俺の名はリク……《傭兵》で《弓兵》の"リク"だ……」



その時強い風が吹きローブを撫でながら被っていたフードが脱げた。


これから起こるであろう様々な困難を、
時に血を流し、時に仲間と共に楽しみ、時に狂気に陥り、
ギャウリディアと言う理想の世界で自分が何であるか、自分がやるべきことは何か、"まだ"生きている理由を探し出すために1歩を……夕日に向けて歩みを進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

呪われた装備品との、正しい? つきあい方。

月白ヤトヒコ
ファンタジー
呪われた装備品。 それは、様々な事情といわくに拠り、通常の装備として扱うことが困難な武具、防具のこと。 そんな危険極まりない呪いの装備品だが、やはりある程度の有用性は認められるだろう。 呪いのリスクをコントロールできれば、装備品として効果的に運用することが可能になる。 今回は、そんな呪われた品々とのつきあい方を記した本を紹介しようと思う。 時間に余裕があり、心身共に強靭で頑健であるなら、試してみるのもいいだろう。 ※試してみてなんらかの事故や不幸が振り掛かっても、当方は一切の責任を負わないが。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...