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1章 1節 仲間と成長の時間 《ディスペア編》

第33話 ふける濃夜

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住んでいた村の事、友人のこと、その友人と一緒に近くの森を探検したこと、遅くまで遊んで怒られた事。新しい川を作ってみたくて毎日泥だらけになって怒られた事。泣いて笑って怒られて、こんな僕を受け入れてくれていた村の皆のことをルナちゃんに話した。

時折笑ったりしながらど色々聞いてくる姿を見て僕はわらう。

お父さんが仕事から帰ってくると何してきたのか、どんなすごい人とあったのかしつこいくらいに聞いたな……
あの時の僕もこんなだったのかな?……と思って恥ずかしくもあり嬉しくもあった。

自然と僕の両親の話になり、
大好きな二人の話、お母さんは村一番の薬師でお父さんは世界を駆ける冒険家と話した。

あの日の事は話さない、聞いて楽しい話でもないだろうから。



「ふわああああ……」


ルナちゃんは大きなあくびをする。


「明日に備えてそろそろ寝よっか?」

「やっぱりここで寝ないとダメ?」


眠そうな目をこすりながら聞いてくる
さすがに夜の森で寝たことはなかったけど意外と怖い、そんなの居ないってわかっているけどおばけとか出てきそうな感じがする。
薄赤い月に照らされ風で揺らされている木がおばけの手と足に見える……気がする。
僕がもっと小さい時にお母さんに夜遅くまでおきているとおばけに連れ去られるって怖がらせられた、今はもう信じてはいないけど怖いな。
今はおばけより影の魔物の方が危険だけどね……

「うん、火から離れるのはまだ危ないと思う」

もう夜は深まっている、鬱蒼と茂った木によって赤い月からの月明かりは背の高い木に遮られ殆ど届いていない、訓練所の方向も分からずに夜に行動するのは危険すぎる。
夜行性の獣はともかく、また影に襲われたら今度こそ何もできず食べられるだけだ。


「ベットがないのは辛いね……地面にそのまま寝るくらいならまだ宿舎の硬いベットの方が楽、訓練期間が終わって早く家のベットで寝たいな……
まさか宿舎のベットより酷いところで寝るなんて思わなかったわ」

確かに訓練所のベットは握りこぶしぐらいの高さの四角い床に布を二枚引いただけの簡単なもので床で寝るよりは良いってくらいだけど、今回みたいに床に直接寝るよりは酷いって言えるのかな?
問題はしっかり寝れるかどうかだよね、訓練場に来て始めて寝たときは硬かったのと枕が変わったのもあって寝て起きた次の日あまり寝た気はしなかった。
僕はもう少し起きてないといけないけどルナちゃんとリュピィには明日やってほしいことがあるから体を休めてほしい、どうしよっか……?一枚地面との間に挟む布があれば眠れる……かな?

上着を1枚脱ぎ、ルナちゃんに差し出す。


「布1枚だけど地面にそのまま寝るよりはかたくないと思う良かったら使って」

「ハイルくんは?」

「僕はもう少ししてから寝るよ、まだ見張りは続けないと行けないだろうし、ルナちゃんはしっかり寝て欲しいな、明日はルナちゃんとリュピィに頼るようになると思うから」


森の中から抜け出すにはリュピィに空から訓練所の方向を確認してもらうのが早い、教官たちが探しに来ているなら帰るのは楽になると思うけど、
ここで安心して寝て明日2人とも二度と目が覚めないってなったら笑い話にもならない。
そのためにも最低限火の見張りはしたほうがいいと思う。

「……ありがとう」


そう言ってルナちゃんは服を受け取って地面に敷き寝転がった。

僕は静かに焚き火が燃える音を聞き揺らめく炎を見ていた。
明るくなるまで持たない……かな、どこかのタイミングで燃やせそうな枝見つけないと……


「ねえ、ハイルくん」

小声で話しかけてくる。

「何?」

「寒くないの?」

寒くないわけが無い、真夜中の森気温は下がり肌寒い、それに焚き火が近くにあるとは行っても上は肌着1枚だけ。
でもかしちゃったから、かえしてっていうのもどうかと思う……


「……焚き火のそばにいるから大丈夫」

「私の服使う?」

「身体を冷えさせて風邪をひかれる方が困るかな、明日には訓練場に戻りたいから」

僕がルナちゃんに服を貸して、ルナちゃんが僕に服を貸したらもう、何が何だか分からなくなっちゃう。

「かぜ?何それ」

「そっか、魔族は風邪ひかないのか……
前にお母さんに教えてもらったんだけどね、えっと風邪って言うのは身体を冷やしすぎるとなる病気?で咳が出たり鼻水が出たり、身体が熱くなったりする病気かな?」

「よく分からないけど大変な病気?なんだね……」

そして会話は終わり静かになる、聞こえるのは焚火の音と遠くの獣の唸り声だけ
赤い夜の時間は少しずつ流れている。
焚火はもうすぐ燃やせるものがなくなりそうだ、そろそろ集めに行きたいけどルナちゃんの方からはまだ小さな呼吸が聞こえてくる。

「寝るのが、悪夢を見るのが怖い?」

「うん怖い、でも悪夢を見たらハイルくんが守ってくれるんでしょ?」

「えっ?夢の……うん頑張る」


夢の中も?と聞こうとして何とかギリギリで言葉を押さえ込んだ。
危ない危ない、今ルナちゃんが不安にさせるような事を言ってどうする。


夢の中にどうやって行くのか分からないけど頑張ろう、
お父さんも諦めなければできないことは無いって良く言ってた。

とりあえずお願いしよう。

ひたすら願う、どうかルナちゃんが悪夢を見ませんように、見たとしたら僕が夢の中に行けますように。
悪夢を消し去ってしまうくらいに頑張れますように……


うううううううううんん。


そしてまた無言の時間が流れた、暫くするとルナちゃんの体が小刻みに動いていた。
僕の方には背中を向けているので何かをしているんだとしたら分からない、
ねぞう……かな?寝たのかな……?

呼吸を確かめようと耳を澄ませる。

「ハイルくんの匂いがする」

ぽつりと小さな呟き声が聞こえた。

「ごめん、汗臭かった?」

「えっ!?聞こえってた!?────だっ大丈夫、優しい匂いがする……」

これは僕のせいで寝るの遅くなっちゃうかな?聞いていないふりをすればよかったと少し反省する。

「優しい匂いってどんな匂い?」

単純な興味で聞いてみる、でも返事は無く小さな寝息の呼吸が聞こえてきた。

寝た……かな……?
優しい匂いって何だろうか……?お父さんやお母さん、村の空気の匂いとかなのかな……?
考えてもよくわからないのであきらめる。

さてと、起こさないようにしないと。
僕は立ち上がり周辺を見渡す。焚き火の光に目が慣れてしまったせいでしっかりとは見えないが確かに周囲に影の気配はする。焚き火の火は揺れに揺れもうすぐ消えちゃうね急がないと。
周りの使えるものは全て使い切った、夜明けまでは持たない……

消えてしまえば最後、暗闇は奴らの独擅場、逃げることもできない。

ルナちゃんが何も反応しない事を確かめて
覚悟を決めそっと焚き火から離れ1歩暗闇へと足を踏み出す、火に焚べる材料を見つけるために。


そんな少年の周囲に黒い靄は覆っていた。
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