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1章 1節 仲間と成長の時間 《ディスペア編》

第5話 入学

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「ここは?」

ガタゴトと音が聞こえ小刻みに体が揺れる、
どうやらここは馬車の中のようだ

「起きたかハイル。」

対面で壁に背を預けて座っているガルディオスさん、
あの襲撃を受けてから既に2日経っていた、
昨晩の記憶が蘇る。


目覚めたら少女が隣で僕の手を握っていた、

「ハイル起きたの!?」

僕に飛びつく少女の名はアイーシャ、

シュケルで唯一宿泊で来る《ミレーラの願い》の看板娘であり、僕の友人の1人だ。

《ミレーラの願い》という名前はアイーシャの曾祖母のミレーラさんがこの街シュケルに宿泊施設がないことを気にし、旅人や観光客のためにも、宿泊施設を作ろうと提案わがまました事で名ずけられたらしい。

オレンジのツインテールを左右に揺らし、
布団の上で泣くアイーシャ

僕は普段強気な彼女の頭に手を置く、

「おはよう、アイーシャ」

朝の挨拶をすると、彼女は不思議な物を見るような目で僕を見る。

「うん、おはようって…そうじゃないでしょ!!怪我は!?痛くないの?」

と心配した風に噛まれた左腕を持ち上げる。

「うーん、ちょっと痛むけど大丈夫かな、
噛みちぎられ無かったのが良かったのかな?」

そう言いながら手を閉じて開いたり、関節で曲げたりする。
多少の痛みはあるが普段通りに生活する分には何も問題はなかった。

「そうなの?でも運び込まれた時は包帯を真っ赤に染めるほど出血してたのよ?」


左腕には真っ白で清潔な包帯が巻かれている。

(運び込まれた時…ああガルディオスさんが巻いてくれたのかな?)

「体を治すために使ったのか魔力が消耗してて、
少し体が重い感じだけど、動く分には大丈夫かな?」

僕は少し笑いながら彼女に行った。

「でも弱虫ハイルがあんな大怪我するなんて心配するに決まってるでしょ?」

腰に手を当てて怒るアイーシャ、どうやらよっぽど心配させてしまったようだ。

弱虫ハイル…その言葉が頭の中で反響する。

今よりまだ幼かった頃、僕は弱虫で幼馴染の後を着いて回っていた、何をするにも後を着いていき、
ひょんな事で泣き出してしまう、そんな泣き虫だった、
その頃から何かあればアイーシャには弱虫ハイルと呼ばれている、今もあまり変わってないと思うけどね。


「…そういえばガルディオスさんは?」

ここに運んでくれた恩人の事を聞く。


「あの人なら今下で、パパと喋ってるわ、呼んできましょうか?」

「うん、お願い」


パタパタと部屋を出ていき階段で下に降りる音が聞こえる。

ふと立ち上がり窓を開け外を眺めると、相変わらず赤い月が魔界を、この村シュケルを照らしていた。


「もう大丈夫なのか?」


急に室内から声と何者かが現れる。

「はい、ガルディオスさんのおかげです」

後ろを向くと灰色の短い髪に黒のタンクトップ、
その下には多くの戦闘をこなしてきたであろう傷だらけの筋肉…

ガルディオスさんが宿屋の壁に背を預け目の瞑りながら僕の方を向いていた。


「ガルディオスさん、お父さんとお母さんは!!」

2人が心配で声が大きくなってしまう。

じっとガルディオスさんを見ながら問いかけるが、首を横に振る。

「お前をここに寝かせた後俺も現場に行ったが、酷い有様だった。
建物はほぼ原型を留めていない、
辺りの木は引き裂かれたように倒れ、破片を巻き散らし、
大きなクレーターが複数。
それと巨大な何かが通ったような跡が一直線に伸びていた、山まで抉れる始末だ、
生半可な戦闘じゃなかったのが伺える。」

聴くだけで激戦があそこ僕たちの家で行われていたことが想像できた。

「崩れかけていたがまだ壊れていなかった暖炉の上にこれが置かれていた」


そう言いながらガルディオスさんは紙を僕の目の前に差し出し、
それを受け取る。


『ハイル無事に村にたどり着けたか?
俺達は大丈夫だ、心配しなくていい 、ヤツの正体は分からなかったが…

まあそれはいい、
俺達宛に緊急な仕事が入った、暫く家を開けることになると思う、
まあ既に風通しが良くなって空いている様なものだが…

とりあえずお前はディスペアに行き訓練を積め、あとはオヤジと魔王の嬢ちゃんが面倒見てくれるはずだ。

なに、本来の予定より1年くらい早くなっただけだ、
お前なら心配なく、大した問題もなく成長できるだろうよ、期待してるぜ、なんせ俺の…俺達の息子だからな。

自分の信じる道を行けお前にとっても"あの少女"にとってもそれが最善だろう、
お前が強くなった頃か仕事が終わった頃にまた会おう』

少年は手紙を握り潰した

「手紙に書いている通り、彼等は無事だろうな、
あんな惨状の中、手紙だけが汚れていなかった、
戦闘が終わり落ち着いた頃に書いたんだろうよ」

(なんで、なんで直接言わずに手紙なんだよ、大丈夫なら直接会いに来て言ってよ、お父さんお母さん、どうしてどうして、でもお仕事で突然いなくなるなんて)

今までお父さんは僕が心配しないように、寂しくならないように仕事などで数日出かける時は毎回少年に伝えていた、
今回のように手紙で、しかも行先も書いていないことは初めてだった。



少年の目からは涙がこぼれ落ちている、
だが同時に「期待している」と言う言葉に答えなければならないと言う気持ちも湧いてくる。


「おい、大丈夫か?」

目の前で僕を見ていたガルディオスさんが心配そうに声をかけてきた、
ずっと下を向いて考え込んでいたので何か勘違いされたかな?

「…なんですか?」

「その手紙に書いている通りこれからディスペアに向かうが大丈夫か?」

「そうですねでも家、が大切な思い出が雨などに濡れるのは嫌です」

「ああそれなら大丈夫だ、もう一通。
俺たち宛ての手紙があってな、家の修理と、
家具の再配置場所が事細かに書いていた、
全くあいつは俺と仲間を大工とでも思ってんのか?全く」


そして僕はアイーシャとその両親に別れを告げ、
ディスペア行きの場所に乗り込む。




「…おい、ハイル聞いてるのか?」


「え?聞いてます!」

「ならいいんだが、もうすぐ着くから少し話しておこうと思ってな。」

「ディスペアの事ですか?」

「そうだ、一度しか言わないからよく聞け、
簡単にだがお前にはディスペアの訓練生になってもらう。
3年間基礎の訓練をした後、魔都クローヴィアで正式な魔王軍の入団試験があるが…
まずはディスペアで頑張って生き抜け、入団試験の情報はその後でもいいだろう、
ディスペアで生き抜けるなら、入団試験くらいチョロいだろうよ」


ここまではお父さんに聞かされていた事と一緒だった、
ちょとろいかどうかは分からないけど。

「それと……後で聞かされると思うが、話しておくか。
ディスペアには主に2つの施設が存在している、
1つは魔王軍の兵士を育成する訓練所。
もう1つはあそこの地下は罪人を閉じ込める牢獄になっている」

「訓練施設と牢獄ですか」

牢獄と言うと恐ろしい魔族を投獄し管理すると言うあの牢獄?

「そう固くなるな、牢獄の方に関わる事は基本的にはない、地上と地下で場所も離れているし扉も厳重だ。
あそこは普通のやつらとは違い、より凶暴で凶悪な奴らの巣窟だが、
お前が危険な状況になることはまず起こりえないだろう。
今の所長は魔界で魔王を抜いたら5本指の中に入る実力者で切れ者だ、
そのうち合うことにはなるだろう真面目なやつだが…」

見た目はアレだけどな、とガルディオスさんは笑いながら言う。

見た目がアレ?もしかしてものすごい怖い顔とか…
僕はすごい形相をした服がはち切れんばかりのムキムキの男を想像して、少し体が震える。


「お前は訓練施設の方で約3年間訓練して強くなり、順調に行けば魔王軍の新兵として魔王軍に入ることになるだろう」

「はい」


(…今は言われた事をやろう、自分の信じる道を進む、
今はまだ自分自身が何をしたいのか分かっていない。
何時までも友達やお父さんと遊んで、
家で修行してばっかじゃダメなんだ。
今までやって来た事を活かせるために、
強くなるために、
またお父さんとお母さんに会うために、大切な人を守るために)

少年は決意を決めた。


「その目…」

ガルディオスさんは珍しいものを見るかのように僕の顔を眺めるがすぐに窓の外に視線を移す


「さすが親子、その顔似てるぜ、まっ頑張れや」

「ありがとうございます」

似てると言われ少し恥ずかしくなり顔を逸らしながら感謝を伝える。






「そろそろ見えてくるはずだが……おいリザードマンどうだ!」

とガルディオスは馬車を操縦している竜人、リザードマンに言った

「セイモンガミエテキマシタ」

「そうか、外を見てみろ。」

ガルディオスさんに言われた通り窓から身を乗り出し前方を見ると、
周りが山に囲まれた森の中に灰色の分厚い石の壁で囲まれた大きい建物が見えてきた

「あれがディスペアだ」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ディスペア 正門にて



「こっちだ」

ガルディオスについていくと門の前に人が立っているのが見える

「やあガル、予定より早かったね。」

「まあ、遅くなるよりはいいだろ」

半袖の白いシャツ上からでもわかる鍛えられた筋肉、
そしてガルディオスさんと同じ半獣人が
ガルディオスさんと楽しそうに会話している



「それで後ろにいる少年が?」

「はっ、はいハイルです」

僕は元気よく挨拶をする、

「ハイル君かよろしく、僕はここで訓練長をしている《キーパー》だよ、よろしくね」

「キーパーお前また数人の罪人確保したらしいな、しかも数人は《名持ち》って聞いたぜ?」

「そんな情報どこから仕入れたんだい?そんなこと言ったらガルの方が多く戦ってるじゃないか?」

「けっお前と違って実力者とやる機会は少ないんだ、
表舞台に出ることは少ないからな、
そろそろお前も名付けて貰ったらどうだ?」

「力を持った連中が秩序を乱したがるからね、
名はまだいいかな、有名になっても困るし」

「まっ、お前がくたばんなきゃなんでもいいさ、
キーパー後は任せたぞ、俺はまだ後始末がある、
ハイルもなんかあったら直ぐにこいつに聞け」

「今度一緒に飲みに行こうよガル」

「暇があったら考えといてやるよ」

ガルディオスさんが部下の人達以外であんなに喋っているのは初めて見たかもしれない。



ガルディオスさんが馬車に乗って出発するのを2人で見送る。

「それじゃあハイル君、ようこそディスペアへ」

「はい、これからよろしくお願いします」

「それじゃあ案内するからついてきて」

僕はキーパーさんに連れられ刑務所内を少し歩きある部屋の前で立ち止まる。

「ここで話そうか入って」

入ると中は机と椅子、それと少しの家具がおいてある部屋だった。

「あいにく応接室は改装中でね、ここは職員の休憩室なんだけど、気にせずそこに座って」

僕は言われた通りに座りその対面にキーパーさんは座る。

「それじゃあここの説明をしようか、ガルにはどこまで聞かされたかな?」

「僕は3年間訓練生として訓練して強くなって、
いずれ魔王軍に入るための試験があるって言われました」

「うん、一応最低限の説明はしてくれたみたいだね、
ほんとうに最低限…
それじゃあもっと詳しい所を話していこうか!」
v。
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