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《序章》最後の始まり

第1話 14の誕生日に…

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始まりは突然だった、その日自分の無力さを実感した。
そもそもそれまで強さなんて求めていなかった

1年に1回の大切な人、幸せな日が生涯忘れられない日になった、
大切な人を守れる強さが欲しいと嘆いた日だった。

二度と同じ思いをしないために、させないために。

──────────────────────────────────────────



【魔界】の南部に位置する人口30程の魔族達が住む小さな村《シュケル》に僕は住んでいた。


「またな!明日は森まで冒険しに行こうぜ!」

背が高くて体格の良い茶髪の友人は大きく手振りながら少年を見送り。

「またですか?そろそろこの辺りは探索し尽くしますよ?」

黒髪の友人は周辺の地図を広げ次はどこに行こうかと考え込んでいる。

「もう、オトコノコってばすぐに冒険、探検って!たまには大人しく出来ないの?」

橙色のツインテールを揺らす友人は腰に手を当て、友人2人を少し冷めたような目で見ている。


「まあまあ、何するかは次遊ぶ時に決めようよ!またあしたねっ!」


友人たちに別れの挨拶を言い家までの帰り道を進む。


「~~♪」

まるで背中に羽が生えてるかのように浮き足立ちながら鼻歌を歌いながら村の正門に置かれた獣対策用の柵の間を通り、
村から少し離れた場所にある森の中に入っていく。


跳ねながら歩く度に少年の白い髪が、ふわりふわりと持ち上がり、頭上で輝く赤い月の光を受け、キラキラと輝いている。


少年の名は《ハイル》
今日は彼が14になる誕生日だ。


魔族は14になると個人差はあるが将来の事……今後の事を考え始める年齢になる。

ある魔族は家業を手伝い、
ある魔族は力を付けるために魔界を旅し、
ある魔族は魔族を統べる王《魔王》に忠誠を誓い魔界をより良く尽くすために訓練を積み始める。


つまりこれからの生き方を決断する重要な日、節目になる日、それが14の誕生日だ。


だが少年はそんな事など全く気にもせず浮き足立ち、
森の中にある小道をズンズンと進んでいく。

今頃少年の頭の中は、これから家に帰ったら起きる事を考えるのでいっぱいなのだろう。

14と言ってもまだまだ遊びたい、
甘えたい盛りの子供なのだ。

そのまま森の中を暫く進むと少し開けた場所にひっそりと建っている少年の家が現れる。


少年が家に近づくにつれ美味しそうな香りが家から漂う。


立て付けが悪く少し軋む木の扉を手にかけゆっくりと開く。


「ただいまー」

「おかえりハイル。早かったな」

少年が家に入ると少年の父親は手入れをしていた剣を鞘に収め少年へ近づき頭を撫でた。


「お父さん!今日は誕生日だから少し早く帰って来ちゃったっ」

「そうかそうか、もうすぐで母さんが料理を作り終わるからもう少し待ってな」

そう言いながら少年を抱きしめる。

「お父さんくすぐったいよ~」

父親の無精髭が少年の頬を刺し、逃れようと身体を動かしている


「おう、すまんな」



「ねえお父さん聞いて!今日ね────



少年は今日あった出来事を父親に話していると少年の母親が2人の楽しそうな声を聞き料理をしている手を止め顔を覗かせる。


「あらっ?帰って来ていたの?」

「うん!楽しみで早く帰って来ちゃった」

「あらあら、じゃあ少し早めにご飯にしましょうか?」

「賛成!」

少年が元気に言うと母親は素早く準備を終わらせ、料理を次々と運びテーブルの上にはあっという間にご馳走が並んだ。

「じゃあ席について?食べましょう?」

「はーい」

「それじゃあ」


「「「いただきます!」」」

少年はまず目の前に取り分けられた大きな肉の塊をナイフで1口大に切り、口の中へと運ぶ、何も考えず食べたいものから手をつけていた。


噛んだ瞬間じゅわぁっと肉汁が口内に溢れ出る、
その後は噛んでもでいないのに徐々に肉が溶けていくような感覚が少年を襲う。


「うわ、なにこれ!凄く美味しいよ!?」

「よかった♪それはグリフォンのお肉よ」

「グリフォンってあの?」

「そうよ」

グリフォンは魔界の山々に生息する体長10m程の怪鳥だ、
大きい爪とクチバシが特徴の魔物で素早く、獰猛で捕まえるのが難しい上、個体数が少なく、その肉は高値で取引されている。

少年の家は裕福か貧乏かで言えば、
貧乏な方だ、その家で高級食材のグリフォンが出ることはかなり奮発した事が容易に想像できる。

「グリフォン高くなかったの?」

「驚くなよ?この日のために俺が狩って来たんだ!」

「そうね、お母さんびっくりしちゃったわ」

買うのでは無く狩るのであればこの辺りではお金は必要ない。

自分のためにこんなご馳走を……と少年は嬉しくなり涙を流した。

「ありがとうお母さんお父さん!」

「こらこら誕生日に主役が泣くな」

「ハイル、笑顔よ笑顔っ」

「うん!」

ご馳走と大切な時間はまだまだ続く、
見慣れない食べ物の数々に少年は目を輝かせながら食べ。
両親はそんな様子の少年を見て笑いあっていた。

「そういえば!」

突如少年の父親が何を思い出したように手を叩いた。

「?」

首を傾げる少年。

「父さん達からのプレゼントだ」

そう言って父親はガサゴソと戸棚の上にある皮袋の中に手を入れその中から長方形の箱を取り出す。


「じゃじゃん、誕生日プレゼントだ」

箱を受け取った少年は嬉しさのあまり固まってしまう。

「ねえ、開けていい!?」


「もちろん、開けなければ中身もわからないだろ?」

少年がワクワクしながら箱を開けると中には光の反射によって水色に輝くリングのような物が入っていた。

「うわぁこれ!きれい!!あの時のそらみたいっ!!」

少年は数年前に父の仕事に着いて行った時に見た《昼》という時間に頭上に現れる《青空》のようにキラキラと眩しく輝いていた。

「大切にするねっ!」

「気に入ったか?」

「うん、ありがとう!お父さんお母さん!」

「そんなに喜んでくれるのなら用意したかいがあったな、ちょっと貸して貰うぞ」

父親は少年の手から受け取ると皮袋から紐を取り出しリングに通し紐を結ぶ。

「本当は腕に付けるブレスレットだが、ハイルの腕はまだ細いから、首にかけれる用にしておいたぞ」

そう言われ少年はその腕輪を首にかけて見る。

「どうっ!?似合ってる?」

「あなたったら……まったく調整しないと紐が長いわよ」

母親が言った通り少年が首から下げるには紐が長くリングが少年のお腹の辺りまで来ていた。

「調整するわね、ちょっと後ろ向きなさい」

そう言われて母親に背を向けると後ろを向くと腕が首に回ってくる。

首元に母親の手と紐が当たりくすぐったく感じていた。

「お母さんかゆいよ」

「もうちょっとの我慢よ……よしできた!あら、やっぱり似合ってるわよ」

「そうだな、悪くない」

2人の言葉に少年は恥ずかしくなり顔を背けてしまう。

「まあまぁ、とりあえずそれは置いといて、
お料理食べちゃいましょ、早くしないとせっかくのご飯が冷めちゃうわ」

「そうだな、まだまだパーティはこれからだぞ」

それから色々なことを話をしながら楽しい時間は流れて行く。



「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

「それじゃあデザートをいただきましょうか」

「えっ!デザートあるの?」

「ええ、持って来るわね───






そうして少年の母親は席をから離れる、
その瞬間少年はなにか怖いものを感じた。
同時に父親も先程までの優しい表情とは変わり何かを睨みつけるような怖い表情を浮かべている。

「ハイル、伏せろ───」


父親が叫ぶように放った言葉と同時に少年の身体は後ろへ引っ張られるように倒れる、同時に轟音を響かせながら屋根や壁が吹き飛ぶ。

そのまま床に倒れるが目の前では母親が少年を抱きしめるように衝撃から守ってくれていた。

しかし木の破片が頬を掠め、傷口から血が流れる、
少年は何が起きたか理解できなかった、すぐ横を料理が載っていた机が吹き飛び、音を立てながら壊れる。

瞬時に理解はできず夢のようにも感じたがズキズキと感じる頬の痛みが、燃えるような熱さが"これは現実だ"と傷として刻みつけるように教えてくれていた。
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