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本編

僕の愛し子

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『おはようございます、精霊様。今日もここにいさせてください』

その子は白いクロッカスの花がよく似合う儚く消えそうな女の子。

毎日の昼、たまに朝、決まった花をいくつか持って僕に話しかけてくる。

しかし声を聞けるのはその時だけで、それ以降は黙って僕の祠に数分寄り添ったあと、名残惜しそうな顔でお辞儀をして去っていっていく。

僕は最初戸惑った。僕に力や称号でなく、ただ側にいることを願ってきたのは、彼女が初めてだったから。

しかし彼女は、ミウは、いつまで経っても精霊に力を望まない。それどころか毎日僕の祠の周りを片付け、休みの日ですら必ず挨拶に来て、時々縋るように僕を抱きすくめた。

いつからか僕はおかしくなってしまった。

今まで自分以外の存在なんてどうでもよかったのに、寧々が悲しい顔をしていると胸が締め付けられるし、ミウが少しでも笑えばもっと見たいと思う。

ミウの体にあざがあるのを見た時は、やった奴を見つけ出して見せしめに殺してやろうと思った。

でもミウはそれを望まなかったんだ。少しでも復讐や仕返しを望む心が彼女にあったら、僕は国だって滅ぼせたのに。

彼女の美しい黒い瞳はいつも救いを求めている。憎しみに濁ることはあれど、それに支配されることはない。

ミウの背中はいつも寂しかった。
寂しくて、頼りなくて、小さかった。

人間なんかに執着するなんて馬鹿だと古い知り合いは笑っていた。ミウに会う前の俺も、今の俺をみたら同じことを言うだろう。

僕たち精霊と人間とでは寿命も、体も、力も、何もかも違いすぎる。

それでも俺はミウの側にいる為、100年ぶりにこの姿となりミウと契約した。

ミウはお人好しだ。

ミウを馬鹿にして、貶して、踏みつけた馬鹿な連中を、命を張って助けようとした。

弱いのに、震えているのに、寧々は諦めることではなく立ち向かうことを選んだ。あの姿を見て僕は思ったんだ。

「なんて愛おしい子なんだ」って。

ミウは「私なんか」って言うけど、僕はミウが好きなのであって他の有象無象なんてどうでもいい。まあそんな自信のないところも好きなんだけどね。

契約を迫る僕をおどおどした表情で見上げてくるミウは可愛い。

僕が祠の精霊だって知って泣き出した時、「私でよければ」と笑ってくれた時は、ついくらくらしてしまった。

ねえ、ミウ、ミウは何を望む?

世界平和?もしくは征服?
それともこの国のクズたちの処刑かな。

ミウのお願いはなんでも叶えてあげるよ。

だからずっと一緒にいようね。

僕の愛し子
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