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本編
5.襲撃
しおりを挟む「え……先生結界破れたって言ってたよね」
「俺たちここにいて大丈夫なの?」
「大丈夫に決まっているでしょう?私たちには聖女様がついているんだから!」
生徒たちは不安そうにしていたが、誰かが藤岡さんの名前を出した途端、安心したように表情を緩めた。
見張りもないのに授業をする気はないのか、皆一様にふざけだしたり談笑を始める。
私はそんな友達もいないので、手持ち無沙汰に防御魔法の展開と解除を繰り返していた。
私の魔法属性は、一応藤岡さんと同じ光だ。
しかしまともに扱えないので、ほとんどないと同じである。
光属性の防御魔法はいくつかあるが、1番簡単なのは光のベールで攻撃を無効化する魔法だ。
教師がこの場を去って10分ほど経った頃だろうか。
急に背筋に電撃が走ったような気分に襲われ、私は咄嗟に背後を振り返った。
……何もない。
他の生徒も気づいた様子はない。
しかし知らない世界で無力に生き延びてきて身についた謎の勘が、『今から危険なことが起きる』と言っている。
暗い森の奥を見つめながら、1歩、2歩と後ずさったその時。
その瞬間は突然やってきた。
──グギャァァァァァァッッッ!
「きゃあ!何!?」
「何の音!!?」
「……っなんだこの揺れは!地震が!?」
獣の咆哮のような重低音と共に、地面がけたたましい音を立て揺れ始めた。
周りの生徒たちは地鳴りか何かだと勘違いしているようだが、恐らくそれは違う。
これは……
「……魔物の、声」
そんな馬鹿な、確かに学院の東は大森林に面しているが、結界が消えてからたかだか数分で魔物が現れるなんてありえない。ましてや人がたくさんいるこの学院へなんて……
しかしあれは紛れもなく魔物の声だった。ここに来た時、危険な状況になれば力が目覚めるかもと魔物の前に引き摺り出され、その時の咆哮がずっと耳に残っていたからわかる。
逃げなくてはと踵を返そうとしたが、遅かった。
「ひっひいいいいい!」
「ま、魔物だ!!!」
「来ないで!来ないでぇ!」
西の方角から、見上げるほど大きい3つ目の黒い魔物が、私たちの目の前に現れた。
私からは10メートルほど離れた場所だったので息を飲むにとどめたが、近くにいた生徒たちは腰を抜かしガタガタと震えている。
その中には、なんと藤岡さんもいた。
「い、嫌ぁ…!殺さないで……っ」
血の気の引いた真っ青な顔に涙を浮かべ、震える声で命乞いをしている。
魔物は口から涎をたらし、藤岡さんの方に向かって恐ろしく尖った爪を振り上げた。
──今思えば、彼女たちを囮にして、ここで見捨てて逃げる選択肢もあったはずだ。
しかしその時の私は、そんなこと頭の片隅にも浮かばなかった。
気がつくと私は、彼女たちの前に滑り出て、防御魔法を展開していた。
「《光よ》…!」
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